ヴァランシエンヌさんのBlogで、「オペラ歌手と年齢」()という非常に興味深い記事を拝読しました。
そのことで、私もいろいろ思い出したり、考え込んだりすることがありました。私の思い出話をも交えながら、だらだらと書いてみたいと思います。ヴァランシエンヌさんやえうりでぃちぇさんのようにしっかりした記事にすることはできませんが、お気軽に目を通していただければ幸いです。

以前私は、三年ほどの間でしたか、大学の合唱サークルに所属していたことがあります。
そこでは三人のヴォイス・トレーニングの先生をお呼びしていて(いずれもプロの声楽家でした)、先生方は交代でほぼ毎週いらしては団員ひとりひとりの声を鍛えて下さっていました。私も先生たちには本当にお世話になりました。
その先生方のひとりが、ある時このようにおっしゃいました。
「オペラ歌手を目指している若い人がね、声の安定しきっていない二十代にヴェルディやヴァーグナーといった大きな曲を歌うと、声を磨り減らして、壊してしまうことがあるのよ。声ってものは本当にデリケートなものだから」
そして次のようにも。
「だからごく若い歌手は、まずモーツァルトなどから手をつけていくことが多いの。そして自分の声が固まってきたら、その声質に応じて、ヴェルディなりヴァーグナーなりモーツァルトなり自分のレパートリーを広げてゆくのよ」
なるほどそういうものなのか、と当時の私は素直に納得しました。確かにヴェルディのドラマティックな役柄――ソプラノならばアイーダ、テノールならばオテロなど――や、ヴァーグナーものの諸役などは、重厚なオーケストラの大音量を越えて長い旋律を聴かせなければならない。声ができあがっていく前に大声ばかりあげていては、声はおかしくなってしまうだろう。実際、自分のドラ声が先生方の指導を受けてゆっくりではあるものの少しはまっとうな歌声に変わりつつあるのを実感していた頃だったので、ますます納得がいったというのもありました。声は地道な訓練で少しずつ育ってゆくものなのだという実感が、私にも少しはあったのです。
#余談ですが、二年目くらいでしょうか、その先生に「今までは基礎の発声練習ばかりしてきたけれど、次に来る時は曲を用意してきてね」と言われた時、私が「オペラのアリアを歌いたいのですが、どういうのを持ってくればいいでしょうか?」と聞くと、先生は「あなたの声にはオペラ・アリアはまだ早いし、重過ぎるわ。フォーレの歌曲かドイツ・リートを持っていらっしゃい」とおっしゃいました。その後、「あなたもそろそろオペラのアリアを歌ってみてもいいんじゃない?」と言われた時は飛び上がるほど嬉しかったのですが、ちょうどその頃に退団することになってしまいました。とほほ……。

そんなわけで、私は、「歌手にとって、若いうち(二十代から三十代前半)にヴェルディやヴァーグナーをレパートリーに入れて歌いまくるのは良いことではない、声にとっては絶対に危険なことだ」と数年間信じてきました。今でもある程度でそう思っています。が、以前のように固く信じきる、というほどではありません。例外もあるのだ、と気づいたというべきかもしれません。
確信が揺らいだのは二年ほど前、私が以前に比べていよいよヴァーグナーにはまるようになってきた頃です。

続きます……。