Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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マッサオ
息も絶え絶えに、3階までの階段を上った。

4月26日午後1時47分、杉並の建設会社のドアを体をぶつけるようにして開けた。
その私の姿を見た事務の男性が、「どうしたんですか? Mさん、顔が真っ青じゃないですか」と言った。

シュレックじゃねえよ!

「・・・あのぉ・・・・・すみません、Mさん。シュレックは青ではなくて緑なんですけど」

あ・・・・・・たしかに。
私としたことが・・・・・。

武蔵野のおんぼろアパートから自転車で、杉並高井戸の建設会社に行く途中で、持病の不整脈の発作が出た。
しかし、約束の時間に到着しなければ、どんな嵐が吹き荒れるかわからないので、脈が不規則に飛ぶのも構わずにペダルを漕ぎ続けたら、極度の酸欠状態に陥ってしまったのだ。

申し訳ありませんが、わたくしにギミ・ゥワラ。

「ワラですか。ワラは最近使いませんねえ」

いえ、ゥワラですって。
ルック! マイ・リップ!
リッスン・トゥ・ザ・プラナンシエイション。

「ああ、くちびる、真っ青じゃないですか!」

シュレックじゃねえよ!

「いや、ですから、シュレックは緑なんで」
(チープなコントですな)

あのぉ・・・とにかく、水をくだされ。
申し訳ないですが、2杯ほど、お願いいたします。

「ああ、ウォーターのことですね。水道水でいいんですか」

トーキョーノ水ハオイシイデスカラ。

2杯立て続けに飲んで、少し落ち着いた。
あー、生き返った!

「でも、まだクチビル真っ青ですけどね」


草刈マッサオじゃねえよ!


微妙な沈黙。

いま事務所にいるのは、20代の男の事務員2人と40代の女性事務員1人だけだ。

彼らは、草刈マッサオ氏を知らない世代なのかもしれない。

やっちまったな・・・と思ったとき、激しい汗っかきの男性事務員が、「ああ、それって、真田幸村のお父さんのことですか」と言った。

いや、それは時代が違いますね。
真田幸村は戦国時代の人。
草刈マッサオさんは、現代の人ですから。
現代の人が戦国時代のお父さんなんて、ありえないですよ。

「Mさん、それ、冗談ですか、本気ですか?
Mさんのいうことは、どこまでが本当でどこまでが冗談かわからないからなあ」

それは、私を知る方の96パーセントから頻繁に言われるコトバ。

あなたが冗談に聞こえたら、それは冗談。
本当に聞こえたら、それは本当。

私はいつもそう答えているのだが、相手は馬鹿にされたと思うらしく、私がそう言うと必ず不機嫌になる。

このときも40代の女性事務員から「言っていること、全然わかりません」と拒絶された。

しかし、真田幸村の父親が草刈マッサオ氏と言われる方が「俺にはサッパリ」なんですけど・・・。
どう考えたって、時代が違うじゃないですか。
タイムマシーンがあったとしても、それは説明がつかないんじゃないですか。

「いや、ドラマの話ですから。NHKのドラマですよ。Mさん、知らないんですか? サナダマル?」

サナダムシ? ムサシマル? アケボノ? アサショーリュー?

「相撲じゃなくてドラマですから」

日本放送協会は、私の銀行口座から「受信料」なるものを定期的に闇の世界から抜き取っているので嫌いです。
民放の地上波は無料なのに。
だから、関心を持たないようにしているんです。

しかし、草刈マッサオ氏が、真田幸村の父上役をなさっていることは初めて聞きました。
そうですか、あのイケメンモデルだった草刈氏が、お父上役をなさるとは、時代も変わりましたな。

「え? クサカリマサオは、モデルだったんですか?」

ご存知なかったのですか?
(あ、また、脈が2拍飛んだ。おやぁ、今度は7拍の連打)

「まだ顔が青いですね。
大丈夫ですか?」


宮崎あおいじゃねえよ!


またしても微妙な沈黙。
なぜ「真っ青」と言わなかった?

やけくそでトーンを変えて、また、草刈マッサオじゃねえよ! と叫んだとき、顔デカ社長が帰ってきた。
約束の時間より、8分の遅刻である。

遅刻するなら、あらかじめ言って欲しいですね。
酸欠になるほどペダルを懸命に漕いだ私がバカみたいではないですか。

「なんだぁ! 俺がクサカリマサオだって?」
と言ったあとで、「遅れて悪かったが、着替える時間を3分くれねえか」と右手で敬礼をしながら、更衣室に消えた。

そのあと、4人でヒソヒソ話。

「Mさんのおかげで、2年くらい前から社長の眉間のシワが浅くなったんで、助かってますよ」
「ホントですよ」

毎回思っていたんですが、こちらの社長、俳優の高橋英樹さんを遠心分離機にかけて、両目を離れさせ、鼻を広げたような顔をしてますよね。

「ああ、そう言われれば!」
「凄い! 例えがジャストミートですよ!」

というような会話をしたあとに、社員たちは一斉に持ち場に戻った。
体に危機意識が染み付いているせいか、社長の気配は肌でわかるようなのだ。
彼らが持ち場に戻った2秒後に、顔デカ社長が更衣室から出てきた。

そして、ドッスンドスドスという音を立てながら、応接セットのソファに腰を下ろした。

「あんた、顔色が悪いな。
ああ、だから、『草刈マッサオじゃねえよ!』って叫んでたのか」

驚いた。
ビックリした。
サプライズだった。

「顔色が真っ青」を「草刈マッサオ」にかけたことをわかったことも意外だし、社長の声の調子が、ハリセンボンの近藤春菜さんに似ていたからだ。
しかも、オバさんっぽい笑顔まで作るというクオリティの高さを見せたのだ。

社員一同、唖然として社長の顔を見守った。
しかし、何ごともなかったかのように、顔デカ社長は、気持ち悪いほど優しい表情をして言ったのである。
「あんた、具合が悪いのなら、打ち合わせは伸ばそうか。
1週間くらい遅れても、俺の方は構わないぜ。
うちの若いのに、家まで送らせるからよお」

いえ、5分間ほどお時間をいただいて、休んでいれば復活します。
申し訳ありませんが、私に5分の猶予をいただければ、と切にお願いいたします。

「おお、30分くらい休んだほうが、いいんじゃないか。
5分ぽっちじゃ、あんたの年じゃ回復せんよ。
横になったらどうだい? 毛布もあるぜ」

「あ! それともショック療法ってのはどうだい?
午前中に業者が俺の機嫌を取るために、『森伊蔵』を置いていったんだよ。
そいつを飲んでみるってのもありじゃねえか。
あんたには、休息よりも酒の方が効くかもしれねえからな」

森伊蔵は、顔デカ社長の大好物の焼酎である。
「幻の」とまで言われている焼酎だ。
聞くところによると5万円以上するレアなものもあるという。

生意気にも、顔デカ社長は、森伊蔵しか飲まないらしい。
そして、私は昔その森伊蔵さんを社長からいただいたことがあった。
しかも、そんな高価なものだと知らずに、二日間で飲みきってしまったのである。

知っていたら、百年かけて飲んだものを。

では、恐れ多くも森伊蔵さんをトゥー・フィンガーで、お願いできたらと。

「おお、わかった」と言って出された森伊蔵さんは、トゥー・フィンガーを遥かに超える量だった。
しかし、ありがたく頂戴した。

逆効果になって、ぶっ倒れるかもしれないが、森伊蔵さんと心中できるのなら本望だ。

味は、正直なところわからない。
ワインやウィスキーの違いだってわからないのだから、飲みなれない焼酎の良さがわかるわけがない。

ただ、飲む前は、1月の青森駅に降り立ったときのように冷えていた体が、飲んで2分2秒後には、初夏の飛騨高山「さんまち」を歩いているような程よい温もりを感じるようになった。

それは、見た目にもわかったらしく、顔デカ社長が「少し血色が戻ったな」と、嬉しそうに自分の両膝を叩いた。

森伊蔵さんのおかげで、無事に打ち合わせを終えることができました。
(ただ、このようなことは真似をなさらない方がいいと思います・・・誰もしないでしょうが)


帰りは、会社の軽トラックの荷台に自転車を積んで、武蔵野のおんぼろアパートまで送っていただいた。

自転車を荷台から下ろしているときに、顔デカ社長に言われた。
「あんた、一人で仕事しているから仕方ないのかもしれねえが、もう少し仕事を選んだほうがいいんじゃねえか。
どさくさに紛れるようで気が引けるんだが、俺んところの専属になれば、そんなに無理する必要はないからよ。
もう一度、真面目に考えてくんねえかな」

そして、私の両肩を叩いたあとでニヤリと笑って、「タカハシヒデキじゃねえよ!」と言った。

我々のヒソヒソ話が聞こえていたようだ。


いましばらく、それなりの間、相当な長い時間をいただければ、もう一度考えてみたいと思います。


「言ってること、よくわからねえが、まあ、頼んだぜ」

顔デカ社長は、軽トラックに颯爽と乗り込み、「タカハシヒデキじゃねえよ!」と叫びながら、去っていった。
意外と気に入っているようだ。


おや?
私の右手が、見たことのない紙袋を掴んでいて、その中には何故か森伊蔵さんがいらっしゃった。

きっと、不整脈の発作が起きたらまた飲みなさい、と神様が持たせてくれたに違いない。



おそらく、遠心分離機にかけた神様だと思うが。



2016/04/30 AM 06:25:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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