Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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陽はまた昇る
熊本出身の知り合いは、大学時代の同級生・ニシムラだけだった。

ニシムラはいま神奈川小田原に在住しているので、被災は免れた。
ただ、ニシムラの兄が住んでいる熊本市のご実家は、倒壊の危険があるという。

大学のときからニシムラと親しかったオオクボは、「俺ができる最大限のことは何だろうかといま考えているところだ」と、思いつめたような目でカネコと私の顔を交互に見た。
オオクボは東京南新宿で、コンサルタント会社を経営していた。

オオクボが生意気にも私を呼び出したので、出向いてやった。


黙祷をしておこうか。

3人で立ち上がった。

1分ではなく、3分にしよう。
「なぜ?」

3分で俺たちの祈りが熊本に届くわけがないが、1分よりは近づける。

3人で祈った。

「東日本大震災を思い出したな」と言ったのは、芋洗坂係長そっくりのカネコだった。
カネコは、当時、千葉市に支部のある会社の支部長をしていた。

そこで、液状化現象を目の当たりにしたというのだ。
「体がすくむって、ああいうことを言うんだな。頭では何が起きているかわかっているのに、体が動かないんだよ。液状化も知識としては知っているんだが、目の前で見ると恐怖しか感じなかった」

「俺の会社が入っているこのビルは免震構造になっているから、極端に大きな揺れというのはなかったが、揺れている時間が長くて社員も右往左往していたな」とオオクボが固い表情で言った。

そして、「マツは?」と聞かれたので、俺は生きていることに感謝した、と答えた。

私の答えに、少し座が白けたのを感じたのか、カネコが不自然なほど明るい声で、「オオクボ先輩、本当に助かりましたよ。俺を拾ってくれて」とオオクボに媚びを売った。

カネコは、30年以上勤めていた会社を今年の2月で辞め、4月から大学時代の友人ノナカが経営するミニパソコン塾の塾長になった。
その他に、オオクボの会社の相談役にも就くという世渡りの上手さを見せた。

誰にでも媚びを売れるデブは得だ。
売れる媚びを独立と同時に捨てたガイコツは、一人で生き抜くしかない。

「普通は相談役ってのは名誉職みたいなものだが、カネコには俺の相棒として働いてもらうつもりだ」とオオクボ。

そういえば、もうひとりの「相棒」は元気か?

「サトウのことか? おかげさまで、存分に働いてもらっているよ。俺の会社は、サトウでもっているようなもんだ」

サトウさんは、オオクボより10歳以上年下の社員だ。
6年ほど前だったと思うが、サトウさんが突然理由も言わずに「会社を辞めたい」と言い出して、オオクボは慌てた。

サトウさんの事務処理能力の高さを買っていたオオクボは、慌てふためき、何を勘違いしたか、一番役に立たない私に愚痴をこぼした。

「あいつは俺の片腕なんだよ。あいつがいないと俺の会社は機能しない。片腕なんてもんじゃない。両腕を失うようなもんだ。どうしたらいい?」

四角い顔から血の気をなくしたオオクボに、私はいつものように、いい加減な答えを返した。

おまえ、そんなに大事に思っているのに、なんでサトウさんは「片腕」なんだ。
おまえは、サトウさんを「片腕」としか思っていないのか?
俺がサトウさんなら、それは嫌だな。

「しかし、年下だぜ。部下だぜ。それ以外なにがある? なにができる?」

俺だったら、年下だろうが部下だろうが、自分にとって大事な人なら「相棒」として接するけどな。
「片腕」なんて失礼な言い方は絶対にしない。

日本語としての「片腕」の意味は、信頼できる腹心だから、おまえは正確な日本語を使っているつもりだろうが、俺からすると対等じゃないんだよ。
俺には「片腕」が「手下」にしか聞こえないな。

「第三者が勝手なことを言うんじゃねえよ!」
オオクボは四角い顔を真っ赤にして怒ったが、サトウさんは、その後辞表を撤回したという。

オオクボが、どんなマジックを使ったかは知らない。
私は、オオクボの会社には興味がないからだ。

成功者に媚びを売る卑屈な芋洗坂係長と高級なスーツを着た偉そうな成功者が前に座っている。
テーブルをひっくり返して帰りたくなった。

だが、そのとき「銀のさら」の店員が、極上ちらし2つと助六1つを運んできた。
オオクボが昼メシを奢ってくれるというので、助六さんをお願いしたのだ。

私は高級なものを食うと腹を下す可愛い体質をしているので、助六さんしか選択肢がなかった。
昼メシはワンコイン以下と決めているから、私にとって「648円」の助六さんはご馳走である。
極上ちらしには興味がないので、値段は知らない。

「美味しいですよ、オオクボ先輩!
寿司は、日本人のソウルフードですね。
元気が出ます!」

芋洗坂の媚びは、とどまることを知らない。
太鼓を持たせたら、さぞ似合うに違いない。

そんな風に、助六さんを食いながら、太鼓持ちの太鼓腹を冷ややかに見ていたら、ケツのiPhoneが震えた。
ディスプレイを見たら、吉祥寺の馴染みの居酒屋で店長代理をしていた片エクボさんからだった。
片エクボさんは、結婚出産のために昨年末で居酒屋をやめていた。

出た。

「白髪の旦那、産まれたよ!
今朝だよ!
男の子だよ!」

それは、めでたい。
ご苦労様でした。

旦那様は、喜んでくれたかい?

「それがね、札幌に出張中で、明日帰ってくるんだよね。
だから、赤ちゃんとの対面はまだ」

予定より2週間早く産まれたというのだ。
旦那様も立ち会えなくて悔しかっただろうと思われる。

「それでね・・・言いにくいんだけど、白髪の旦那に来て欲しいんだけどな」

まさか、旦那様の代わり?
いいのだろうか?
旦那、あとで知って怒らないかな?

「大丈夫。説明すればわかるやつだから」

ようするに、旦那の代わりに褒めてほしいっていうことだよね。

「親と友だちには褒めてもらったんだけど、それだけじゃ足りないんだよね。
だから、褒めて、褒めて!」

わかった、札幌ドームいっぱいの褒め言葉を用意して行くよ。

「札幌ドームじゃなくて、東京ドームの方がいいんだけど」

俺は、東京ドームが大嫌いなんだ!

「ハハ、相変わらず大人気ないね。
じゃ、待ってるから」


会話を聞いていたオオクボが、ゲスな仕草で小指を立てて聞いた。
「これか?」

いや、こっちだ。
親指を立てた。

「おまえ、いつから、そっちの趣味に変わったんだ?」

何をおっしゃっているの?
大学時代からよン。

オオクボが、健康のために毎日飲んでいる「ヘルシア緑茶」を吹き出した。
しかし、リアクションが素人だった。
私だったら、芋洗坂の顔の真ん中に吹き出していただろう。

そんなんじゃダメだ。
もう一度やり直せ。
カネコめがけて吹くんだ。

ホラっ!

「おまえは、そうやって、いつも俺を・・・・・」

「オオクボ先輩。
こいつは、ただ非常識でバカなだけです。
惑わされてはいけません。
これが、こいつの手なんです!
まともに受け取ったらダメです!
我慢してください」


2歳下の生意気なカネコが、珍しく正しいことを言ったので、私はカネコに向かって立ち上がって拍手をした。
スタンディングオベーションだ。

それを見たカネコは、オオクボの肩に手を置いて「オオクボ先輩、これって、俺を完全にバカにしてるんですよね」と半泣きの顔で訴えた。

「あのなあ、カネコ。
まともに受け取るなって言ったのは、おまえだろうが。
惑わされるな!」

正しいことを言ったオオクボに対しても私はスタンディングオベーションを送った。

すると、同じようにオオクボも立ち上がって、私に向けて拍手をした。
太鼓持ちのカネコもオオクボにならって、私に向けて拍手をした。

つまり、二人で生意気にも「スタンディングオベーションがえし」をしてきたのである。


飽きた私は、自分のバッグを開けて、中から特大サイズのオニギリを取り出して食うことにした。
まさかケチなオオクボが奢ってくれるとは思わずに、どこかの公園のベンチで食う予定で特大オニギリを持ってきたのだ。

具は、豚カルビの甘辛煮だ。
海苔好きな私は、二重に海苔を巻いて真っ黒い砲丸のようなフォルムのオニギリにした。

銀のさらの助六さんも美味かったが、砲丸オニギリはもっと美味かった。

一口食って、その砲丸オニギリをオオクボたちに投げるフリをしたら、二人とも本気でよけやがった。

こんな風に、バカを相手にするひとときが、私に至福の時間を与えてくれるのでございます(私が一番バカですけどね)。



ご実家が被災した友人ニシムラ。

(ここにいないノナカも含めて)俺たち4人で出来ることは限られるかもしれないけれど、立ち上がるお手伝いはしたいと思っている。

俺たちは、肥の国・熊本の人たちが持つ大きな力が、ガレキの下から復興の陽を燃え上がらせることを信じている。


陽はまた昇る。


微力ながら、いま一度、陽がキラキラと昇るお手伝いができたら、と思っている。


2016/04/23 AM 06:22:01 | Comment(1) | TrackBack(0) | [日記]



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