Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ゼットユーアールユー(ZURU)
社長を辞めた男に会いに行った。

場所は世田谷羽根木だ。
私の感覚では、豪邸あるいは御殿と言っていい物件である。

その広い家に、長谷川は一人でいた。
長谷川の奥さんは、二つの病院の勤務医をしているので、その日はいなかった。
息子二人は、すでに6年前に家を出ていたから、長谷川は無駄に広い家を持て余していた。

長谷川は社員400人規模の会社の社長様だったが、奥さんを医者として復活させるために、社長を辞めて奥さんをサポートする道を選んだ。

しかし、会社の株式の半分以上を持っている男が無役では困るというので、便宜的に取締役として会社に籍は残してあるようだ。
とはいっても、社内に長谷川の部屋はなく机もない立場だから、会議に出たとしても発言するつもりはないし、報酬も受け取らないのだという。

要するに、自由人。

今の長谷川の仕事は、犬4頭の散歩と猫一匹の世話、家の掃除、洗濯、庭の手入れと奥さんの送り迎えだ。

料理だけは苦手なので、朝晩の2回、ケータリングを頼んでいるという。
昼メシはカップラーメンだ。

それまでカップヌードル、カレーヌードルしか知らなかった長谷川は、自由人になって3ヶ月で、30種類以上のカップラーメン、カップ焼きそばの味を覚えた。
人は短期間に、簡単に変われるものだ。

その日の昼メシは、カップラーメンではなく、ブリのしゃぶしゃぶだった。
私がブリをさばいて、呆れるほど広いダイニングのテーブルに並べた。
ブリの他は、薄くスライスした大根と人参だけだ。

それをM家特製のゆずポン酢につけて食う。
メシは玄米だ。

「マツは器用でいいよな。料理はうまいし、絵もうまいし、パソコンも自由自在だ。羨ましいよ」

おまえは、間違っている。
料理と絵とパソコンは、不器用なやつのほうが上手いんだよ。
工夫をするからな。

器用なやつは、工夫をしないから下手なんだ。

「でも、おまえは誰よりも早くパソコンに手を付けて、すぐにできるようになったじゃないか。
俺なんかリタイヤしてから本格的に始めたから、情けないことに、おまえと較べると30年は遅れている。
キーボードを打つたびに指が震えるんだ。俺のほうが不器用だ」

不器用自慢をしたら、キリがない。
どっちにしたって、料理が苦手でも絵が下手でもパソコンができなくても、人は生きていける。
俺は、食うためにパソコンを手なずけなければいけないが、食う手段を他に持っているやつは、そちらを極めればいい。

ブリしゃぶ3人前を平らげた長谷川が、血色のいい顔を綻ばせて言った。
「おまえにとって、法律ってのは何だったんだろうな。全然役に立っていないようだが」

飾りだな。
それを言うなら、おまえこそ、会社を継ぐのだったら、法学部ではなくて経営学部だったんじゃないのか。

長谷川が、遠くを見るような目をして、私の肩の後ろ側を見つめた。
「いや、俺は、会社を継ぐつもりはなかったからな」

そうだった。

長谷川の父親は、世襲を嫌っていたのだ。
会社は社長のものではなく、「社員や顧客、社会のためのもの」という考えの人だった。

だから、自分が退任するときは、息子ではなく有能な部下に譲るつもりでいたらしい。
長谷川は父親の会社には入ったが、帝王学を身につけることをせず、会社の本業とは違う「社員教育」や「自己啓発」のセクションを社内に作って、好き勝手にやっていたのである。

だが、そのセクションを独立させて、新しい会社組織にした37歳のとき、父親から「会社を継いでくれ」と頼まれた。
それに対して、長谷川は「それでは話が違う」と2年間拒否し続けたが、父親が重い病に罹ったことを知って、押し切られるように継ぐことを決意した。

そのとき、病院の勤務医をしていた奥さんが、医者を辞めて長谷川のサポートに回ることになった。

長谷川は、それをずっと負い目に感じていたという。

「だって、そうだろ。
俺は誰一人救うことができないのに、俺の妻は、これから先、何百人何千人以上の人を救うことができるはずだったんだ。
どっちが、人として必要とされていると思う?
俺じゃないのは、わかりきったことじゃないか」

「それに、俺はズルをして社長になった男だ。
100メートル走で、みんなはゼロメートル地点からスタートしてるのに、俺は50メートル先からスタートしたんだよ。
それって、確実にズルだよな」

それは、考えすぎだな。

「何を言っているんだ、おまえ!
俺が社長を引き受けるって決心したとき、そう言ったのは、おまえだろうが。
忘れたのか。
おまえは50メートル先から走る、というズルをして社長になるんだから、ゼロメートル地点にいる人たちの気持ちを忘れるなよ、って言ったのはマツだったよな。
俺は、その言葉を忘れたことはないぞ」

いや・・・・・それは、きっとおまえが羨ましかったからだな。
順調に人生の階段を上っているおまえに嫉妬して、腹立ちまぎれに言ったんだろう。

俺は、嫉妬深いんだ。
そんなこと、真に受ける方が悪い。

「そうか。
ついでに言うとな。
俺は政治家の世襲も嫌いなんだ。
最初から半分近い票を手にしたお坊っちゃま、お嬢ちゃまと限りなくゼロに近い票しか持たない候補者が戦うなんて、不公平すぎるだろ。
あれも俺には、『ズル』に思えるんだよ。
ズルをして社長になった俺が言うのはおかしいが、今はリタイアした身だからな、言う権利くらいはあるだろう」

優等生だった長谷川が、随分過激なことを言うようになったものだ。

だがな、長谷川。
ズルをしても、ズルで偉くなっても、そのズルが人の役に立っているのなら、ズルも悪くないんじゃないか。

俺も会社や政治、国家を世襲にして、我がもの顔でいる人は、「ズルの極み」「ゲスの極み」だと思う。
世の中には「ズル」が溢れていると思う。

しかし、おまえはズルをして社長になったが、ズルをしたおまえを支えてくれた人は沢山いたはずだ。
その人たちにとって、おまえの「ズル」は、必要なズルだったんじゃないのか。

俺は世襲を断ち切ったおまえの決断力には頭が下がるよ。
大したものだ、と思う。

「APR」と褒めてやろう。

「なんだ? エーピーアールって?」


日本語では、「アッパレ」と言う。


??????


ちなみに、ゼットユーアールユー(ZURU)は、何の意味か知っているか?

「知らん!」


ゼッタイに ウソをつくのは ロクでもないやつの方が ウマい


「そんな言い方をするタレントがいたな。
たしか、相当な美人女優と結婚した男だ」

ああ、DANGOだろ。

「ダンゴか・・・・・ちょっと違うような気がするが」

ディーエーエヌジーオーは、何の略かわかるか?

「わからん!」


特別に教えてやろう。


ダレもが アカるい時間に ノミ食いすれば ゴキゲンに オドリだす


「で・・・・・そのあと、『なんちって』って続くんだろ?」

なんだ、おまえ、なぜ、わかった?

「だって、おまえの大学時代からの口癖じゃないか。俺は何万回も聞かされたぞ」


おまえ、エヌディー(ND)だな。


「エヌディー?」



「なんちって泥棒」だ・・・・・・・・・なんちって(RADWIMPS)



2016/04/02 AM 06:27:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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