Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ニコラスの旅
友人カネコの娘、ショウコの夫・マサが道端で外人を拾ったらしい。

それを聞いた私は、交番には届けたのかとショウコに聞いた。

すると、ショウコは、「持って帰った」と答えた。
それは、ネコババではないのか。

「ネコババではなくて、ニコラスだったよ」

ショウコとの会話は、いつもskypeのビデオ電話だった。
電話やメールでは駄目だというのだ。

「だって、サトルさんの日々老けていく顔を見るのが楽しみなんだから!」
ということで「skype以外NG」なのである。

・・・で、ニコラスは名前からするとイギリス人のようだが、フィッシュ&チップスは食わせたのか。
それさえ食わせておけば、イギリス人は暴れることはない(偏見)。

しかし、さすがに私の影響を色濃く受けているひねくれもの・ショウコは、外国人に媚びるような食い物を食わせたりはしなかった。
ニシンの甘露煮と菜の花の辛子和え、舞茸と茄子のソテー、鶏団子の吸い物を食わせたというのである。
しかも辛子和えは、通常の2倍以上の辛さにしたという。

だが、ニコラスは、すべてを美味しいと言いながら箸を進め、満足の笑みを浮かべて完食したらしい。
(イギリス人の味覚がおかしいのは本当だったようだ)

とは言っても、ニコラスは、菜の花の辛子和えを食いに日本に来たわけではなかろう。
まさか、日本のTOYOTAに轢かれるために道路に寝そべっていたとか?

「ヒッチハイクだよ。当たり前すぎて、ひねりも何もない話だけどね」
その日の夜、困ったことに、ショウコの夫のマサもショウコも英語が得意だったから、彼の「ヒッチハイク武勇伝」を延々と聞かされることになった。

イギリス人・ニコラス33歳は、大学時代に小型飛行機の操縦免許を取得し、27歳でヘリコプターの免許も取得した。
そして、大学を卒業すると同時に、遊覧飛行会社を立ち上げた。
ただ、ニコラスは、操縦免許は持っていたが、実際に会社で小型飛行機とヘリコプターを操縦したのは、キャリアを積んだエキスパートだった。

つまり、彼は経営に専念したということだ。
それは成功して、会社を立ち上げたときに負った借金をほぼ3年で返済するほどニコラスの事業は順調に推移した。

事業は成功、その間に、ニコラスいわくスカーレット・ヨハンソン似の女性と結婚し、子ども3人を得た。
住まいは、ロンドン市内のプール付きの豪邸(賃貸)。
住み込みのメイドとベビーシッターが1人ずつ。

しかし、そんな成功者が、なんでヒッチハイクなんかを。
それが金持ちの道楽だとしたら、鼻持ちならないな。

「会社を立ち上げて10年。成功はしたけど、ずっと他人事に感じていたんだって。
目が覚めたら、実は夢だったっていう恐怖心を、この10年間、ずっと持ち続けていたらしいよ。
自分が、こんな幸運な人生のパスポートを得られるなんて信じられないってずっと思ってた。
それが、怖くて逃げ出したくなった結果のヒッチハイクらしいよ」

ヒッチハイクをすると決めたニコラスは、会社の経営権を人に譲って、身軽になった。
そして、奥さんもニコラスの無謀な挑戦を止めることはなかった。
(会社を売って得た金が、奥さんにとって満足のいくものだったからだろう)

それが、昨年の2月のことだったという。
つまり、ヒッチハイクを始めてから既に1年以上が経っていた。

ロンドンからシンガポールまで飛行機で行き、そこからヒッチハイク・スタート。
タイ、マレーシア、ベトナム、香港、台湾、韓国、そして日本。
日本の富士山が最終目的地だという。

日本に到着したニコラスは、BBC放送で見た「釜石の奇跡」(児童・生徒、震災生存率99.8%!)を目に焼き付けようと岩手県釜石に向かった。
そのあと、新幹線で仙台まで戻り、ヒッチハイクをスタートさせた。

日本海側を通って広島まで行き、大阪、京都を経て東京。

そして、3月8日。
河口湖に行く途中に、マサに拾われ、マサの家に泊まることになった。
本人は河口湖まで絶対に行くと言っていたが、車内でくしゃみを連発していたので、マサが「無理しない方が」とお節介な親切心を発動したらしい。

症状からすると、ただの花粉症だったようだが、英語が通じる相手がいたという安心感もあって、ニコラスはマサの好意を受けた。
ショウコのガキ二人は、突然の外人の出現に最初はビビっていたらしいが、すぐに打ち解けて、八王子のスーパー銭湯で裸の付き合いをしたときは、ニコラスの両腕にぶら下がってはしゃいだ。

ニコラスは、脱いだら凄かったらしい。
ムキムキのマッチョだったというのだ。

ヒッチハイクをするにあたって、ニコラスが恐れたのは、犯罪に巻き込まれることだった。
だから、たとえ巻き込まれたとしても、自分で苦境を打破できるように、彼は自分を鍛えることにした。

空手道場に通い、キックボクシングのジムにも通った。
さらに、護身用の特殊警棒の扱い方も専門家に学んだ。

10ヶ月近い訓練の結果、ニコラスはマッチョになった。
東南アジアでは、何度も危ない目にあったが、特殊警棒を出して威嚇すれば、相手は戦意を喪失した。

ただ、それほど用意周到なニコラスのヒッチハイクだったが、本当のヒッチハイカーからは邪道だと責められることが度々あったという。
基本は野宿だが、身に危険を感じたとき、ニコラスは迷うことなくセキュリティのしっかりした一流ホテルに泊まった。
さらに、危ないと思った地域は、飛行機で素通りをした。

ニコラスは、金には困っていないのだ。
彼は、アジア旅行の一つの手段としてヒッチハイクをしているに過ぎない。
目的は旅行であってヒッチハイクではない。

そんなニコラスだから、同じヒッチハイカーから行く先々で批判にさらされた。
時には、彼を乗せてくれた親切なドライバーからも批判されたという。
乗せてくれたのに、途中で「あんた、降りてくれ」と言われたこともあったらしい。

「俺たちは人々のギリギリの善意に支えられて、危険と背中合わせで旅をしている。
しかし、おまえからは観光気分の匂いしかしない。
そんな旅をして、『俺は世界をヒッチハイクした』と言われたら、俺たちの立場がない。
おまえは、すぐにヒッチハイクをやめて、大手旅行代理店が計画したツアーに参加すべきだ。
そして、俺の前に二度と姿を見せるな。クソ野郎が!」

ショウコも私も本当のヒッチハイカーを知らない。
一年以上も異国で不安定な旅を続けるニコラスは、「立派なヒッチハイカー」のように我々には思える。

大金持ちニコラスだって、同じようにギリギリの善意に支えられて旅をしているのではないか。
金持ちには金持ちのヒッチハイクの方法があると思う。
ニコラスは今まで彼が積み重ねてきた努力で得たもので、旅の危険をすり抜けているだけである。

最低限の金しかないヒッチハイクは崇高なドラマを持つが、金で危険を回避するヒッチハイクにだって、同じようなドラマはあるはずだ。
ニコラスは「ニコラスの旅」をすることで、確実にドラマを作っていると私は思う。

ニコラスのヒッチハイクが、どんなものであれ、彼は間違いなく人々の善意を受けている。
そして、ニコラスはそのことをとても感謝している。
それで、いいのだ、バカボンのパパなのだ!

大金を持っていることは、決して「クソ」ではない。

あ、ごめん!
本当にクソがしたくなってきた。


「そんなオチかよ」とショウコ。


クソのあとで、またskypeを再開した。

「ところでさ・・・・・サトルさんがもっと若かったら、絶対にヒッチハイクをしていただろうね。
でも、サトルさんの若い頃は、飛行機も車も電車もなかったから、できなかったんだよね」

そうそう。
俺の若い頃は、馬が主流だったね。
金があれば、籠にも乗ることができたが、総楊枝(ふさようじ)を作る内職では、食っていくのが精一杯で籠なんて夢のまた夢さ。
暗い行灯の光で総楊枝を作るのは大変なんだよ。
当時は眼鏡も庶民には買えない時代でねえ・・・・・。

「おい!
ここは、ノリツッコミをするところだろうが!
延々と時代劇に入り込んだら、いつまでたっても話が終わらないぞ」

そういえば、昔は高い建物がなかったから、お江戸からも富士山が間近に見えてねぇ。
雪をかぶった富士山は、拝みたくなるくらい綺麗だったよ。
ありがたや、ありがたや・・・・・。

「おい!
ニコラスから泊めたお礼にもらった特殊警棒を持って、これから白髪の雪をかぶった脳天を可愛がりに行こうか」


(何事もなかったように)さて、ニコラスは、最終目的地の富士山には、行けそうなのかな。
彼には、ぜひ無事に富士山まで到達して欲しいものだ。
ニコラスには、彼が決して「クソ野郎」ではないことを証明してもらいたい。
私は、それを切に願う。

「でもね・・・・・ニコラスは勘違いしていたんだよね。
富士登山はいつでもできると思っていたみたい。
私たちが、富士の山開きは7月だよって言ったら、ものすごい落ち込んでた」

「ただね・・・さすがに金持ちは立ち直るのが早かった。
インターネットで、ヘリコプターで富士山クルーズができるのを知ったの。
そうしたらね・・・イギリスから家族を呼び寄せて、空の上から富士山を見ることにするって言うんだ。
金持ちがやることは、スケールが違うよね」


そうか。
チェッ! とんだ「クソ野郎」だな、ニコラスは。

ヘリコプターで富士山を見るなんて、クソにしか思いつか・・・・・。

あ、ゴメン、またクソが・・・・・。



「結局、そんなオチか〜い!」



2016/03/12 AM 06:25:16 | Comment(14) | TrackBack(0) | [日記]



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