Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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自由人のウソ
大学時代の友人・カネコからランチの誘いがあったので、吉祥寺の焼肉屋に潜入した。

芋洗坂係長と見間違うほどのデブは、肉が大好きだった。
大学時代は、175センチ、60キロの痩せ型で、180センチ、64キロの私より華奢に見えた。

しかし、今は・・・・・私は当時と比べてマイナス7キロだが、カネコはプラス40キロに華麗に変身した。
35年間、肉を食い続けたら誰でも確実にこうなる、という見本だ。

40キロの肉を体に貯蓄するには、どれだけの牛、豚、鶏、羊、猪、ワニ、恐竜を食わなければいけないのだろうか。
そんな計算ができるアプリがあれば、購入してもいいのだが。

ただ、カネコの場合、肉ばかり食っているわけではない。
それと同じ量の野菜も摂取しているのである。

カネコは、「なんで焼肉屋に来て野菜を食わなきゃいけないんだよ。バッカじゃねえの」などという白痴的なことは絶対に言わない。
彼は、バランスのいい賢いデブなのだ。
そこは認めてもいい。


バランスデブ、カネコが肉を頬張りながら言った。
「伝えたいことは2つ。まず、簡単なことから済ませよう」
そう言って、テーブル越しに賄賂を渡してきた。

袋を開けてみると、リボンの付いた賄賂だった。
開けると、箱の中で大きな財布が自己主張していた。
色は明るいブルー。
箱にはブランドっぽい名前が印刷されていた。

私は、ブランドは「しまむら」と「ユニクロ」しか知らないので、それは、その他大勢のブランドということになる。
だから、値段はわからない。

「ショウコがな、5月に会ったとき、おまえの財布があまりにもボロっちかったので、いたく心を痛めたらしいんだな。だから、誕生日には財布を恵んでやろうと半年間考えていたんだとよ」

ショウコというのは、カネコの子どもで、26歳、ふたりの子持ち、夫あり、職業は翻訳家。
ショウコが6歳のときから、私たちは友だちづきあいをしていた。

一緒に風呂に入ったこともあるのだ(人妻になる前の9歳ごろだったから、全然セクシーではなかった。いまもセクシーではないが)。

「俺も半分出したから、これは俺とショウコからのプレゼントということになるな」

じゃあ、半分に切ろうか。
俺は、ショウコのだけでいい。

「冗談だろ?」

俺は、冗談が嫌いだ。
だから、これは嘘だ。

「そういうところなんだよな。俺が、おまえを羨ましいと思うのは。
馬鹿なことを平気で言えるのは才能の一つだって、この間、オオクボ先輩と話をしたんだ」

カネコは、新宿でコンサルタント会社を経営しているバッファロー・オオクボのことを「先輩」と呼ぶ。
なぜなら、大学で2学年上だったからだ。

しかし、同じ2学年上の私のことは、「おまえ」である。

後輩思いの私が大昔に宣言した、先輩後輩を忘れて、友だちとして付き合おうぜ、という言葉をカネコは真っ正直に受け止めた。
さすがに、20代半ばまではカネコにも可愛らしい遠慮があったが、私が「あっち向いてホイ」を5回連続で負けたときから、タメ口をきくようになった。

あれから私は、「あっち向いてホイ」をしていない。


「ここからが重要な話なんだが」と芋洗坂が居住まいを正した。
デブは得である。
どんなブサイクな男でも、背筋をピンと伸ばせば、威厳が生まれる。

私が、そんなことをしても、ガイコツが標本らしい格好をしているとしか思われない。

「俺、会社やめることにしたんだ。
これは、女房にも伝えたし、ショウコにも言ってある。反対の声はなかった」

あっ、そう。

「反応が薄いな」

だって、もうショウコから聞いているし、オオクボからも聞いた。
ついでに、ノナカからも聞いた。
ノナカが東京で展開する高齢者向けミニパソコン塾を、おまえが全面的に引き受けるって話だよな。

カネコは大学卒業後、自己啓発セミナーや、ビジネス書、ビジネス手帳を出版する、いかがわしい会社に勤めた。
その会社は、今では人材派遣業を主流にしていて、カネコは千葉支部長にまで上り詰めていた。
つまり、ちょっとした成功者だったのだ。

今より確実に年収が減るのに、なぜ転職をしたいと思ったのか私には理解できないが、どっちみち他人の人生だから、私は干渉はしない。

だから、あっ、そう、としか言い様がない。


ただ、あっ、そう、だけでは字数が少ないので、ついでに、おまえの人生だ、と私はカネコに言ってやった。
さらに字数を増やすために、好きにすればいいさ、も付け加えた。


「そう、俺の人生だ。
俺は、おまえみたいに自由に生きる」

俺みたいに?
俺が自由に見えるのか、おまえには?

「ああ、オオクボ先輩やノナカ先輩とも話したんだが、結局、おまえが一番羨ましい生き方をしているんじゃないかって」

俺が羨ましい?
低収入で、持ち家もなくおんぼろアパート暮らし。低スキルで心と血の貧しい俺が羨ましいだって?
おまえ、俺に喧嘩売ってんのか?

顔をペロペロしてやろうか!

「ほら、そういうところだよ。
俺たちが、羨ましいと思うところは。
俺たちは、絶対にペロペロなんて言えないからな」

簡単だろうが。
舌を出して、それを上下左右に動かせばいいだけだ。
生後101日のワンちゃんにだってできる。

「・・・・・・・・・・」

(随分、沈黙が長いな。その間にトイレにでも行っておこうか)

トイレから帰ってくると、カネコが「8種の肉盛りあわせ」を追加して、肉と同化しているところだった。
どっちが食われているか、わからない光景だった。

肉を頬張りながら、カネコが言った。

「とにかく俺たちは、おまえが羨ましいんだよ。
だから、少しだけでも近づきたいと思って、俺は会社を辞めることにした。
俺は、自由になりたいんだ」

まあ、自由になるのは自由だが、自由になりたいのなら、もう少し痩せることだな。
デブは、四方八方どの角度から見ても、幸せにしか見えない。

俺みたいに痩せ細っていたら、人は「ああ、可哀想だな。でも、こいつとは関わりたくないから、こいつはこのまま放牧しておこうか」と考えて、柵を取り外してくれるんだ。

おまえ・・・今のようにデブのままだと、飼い慣らしたほうが得だと思って、一生柵から出してもらえないぞ。
美味しそうな姿は、自由には似合わない。
利用されるだけだ。

だから、痩せろ。

「本当か?」



嘘だ!



自由人は、焼肉を奢ってもらうためなら、平気で嘘をつく人種なんだ。



実は、それも嘘だが・・・・・。


2015/11/07 AM 06:26:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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