Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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腕あげた?
唐突だが、本物のプロフェッショナルとはどんな人か?

たとえば、誰もが知っているわかりやすいプロフェッショナルと言えば、メジャーリーグ時代の松井秀喜氏をあげることができる。

日本では長距離バッターだったと思うが、松井氏がメジャーリーグ入りした頃は、ホームランを量産する筋肉改造人間がリーグに少なからずいた。
そんな改造人間には敵わないとすぐに悟った松井氏は、方向転換をし、ホームランを捨てて走者を返す打撃に切り替えた。

打点を多く稼ぐことにより、松井氏は首脳陣やフアンの信頼を得て、数少ない日本人野手の成功者として、メジャーリーグの歴史に名を刻むことになった。

素人考えだが、松井氏がもしホームランを捨てなかったら、彼は多くの日本人野手のように、「ただメジャーに行っただけの人」で終わっていたかもしれない。

本当のプロフェッショナルは、己の力量を第三者の目で見ることができる人だ。
その意味で、松井秀樹氏は、己を見極める確かな目を持った正真正銘のプロフェショナルだったと言っていい。


たとえば、私の身近には、プロフェッショナルの意味を勘違いしている人が大勢いる。

大学2年の娘の高校時代のお友だち5〜6人が、いまだに我が家にメシを食いに来る。
餃子パーティが多いが、ハンバーグやビーフシチュー、パエリア、オムライス、ほうれん草とベーコンのキッシュなどの洋食を出すこともある。

その都度、彼女らは「パピィー(私のこと)の作るものは、いつも美味しいよね」とお世辞を言ってくれる。
「また腕を上げたんじゃないの。店を出したほうがいいよ」と言ってくれる子もいる。
だが、私の素直な感想を言わせてもらうと、申し訳ない表現だが、それは「無知」ということになる。
あるいは、お世辞の使い方を知らない。

素人の私が化学反応を楽しんでいる料理を食って、それがたまたま好みだったからといって、その料理が不特定多数の人が満足できるほどの完成度があることにはならない。

先日、腐りかけの肉料理を極道コピーライターのススキダに振舞ったら、「おまえ、また腕を上げたな」と言われた。
そんなに何回も腕を上げると肩が疲れるので、私は腕を下げたまま、「馬鹿こぐでねえ!」と罵ってやった。

我が家に来る娘のお友だちもそうだし、普段は偉そうにグルメを気取っているススキダもそうだが、彼らは本当のプロフェッショナルの味を知らない。
少ない経験値でものを言っているだけだ。

それは、たとえば、男性アイドルグループのフアンが、「Aって歌も上手いし、ダンスも上手だし、演技もすごいわよね!」と言っているのと同じことだ。

本当のプロフェッショナルの技術を知らないから、標準値を「上手い」「お上手」「すごい」と贔屓の目だけが肥えて、次元の低いショー・ビジネスで満足している。

マイケル・ジャクソン氏の生前のメイキングなどを見ていると、スタジオに降り立ったときから、マイケル氏は些細な動きでさえ、その動きに意味を持たせて、自分の感情のすべてを体で表現する技術を最小単位で体現していたことがわかる。

マイケル・ジャクソン氏は、ショー・ビジネスの世界で、何十年もエベレストのような存在として君臨していた。
そこまでの域に到達する人は、もう出てこないとは思うが、彼が頂上に向かうまでに残した足跡をたどることは、何人かの選ばれた人には出来るかもしれない。

おそらく日本人でも、その足跡をたどることは可能だと思う。

贔屓の目だけが肥えた、ファンからの引き倒し的な「お上手」の掛け声さえなければ。


毎回の回りくどい前振りで何を言いたかったかというと、私の身近にも「本物のプロフェッショナル」がいたことに気づいたからだ。

ヤナギさんは、いま東京蒲田で奥さんの経営するおにぎり屋さんを手伝っている。
彼の本職は東京新宿の高級料亭の板前さんだったが、体を壊したため立ち仕事が難しくなり、板前さんを休業せざるをえなくなった。

そこで、4年前、おにぎり屋さんを営んでいた奥さんのサポートをするため、自宅の駐車場を改造して、おにぎりだけではなく惣菜もメニューに加えた店を出すことにした。
おにぎりは奥さん、惣菜はヤナギさんが担当するというシステムだ。
ご夫婦とも年は40歳前後だろうか。

そのとき、店の改造を請け負ったのが、杉並の建設会社の顔デカ社長だった。
顔デカ社長は、生意気にもヤナギさんの勤める神楽坂の料亭の常連さんだったのだ。

その縁で自宅を改造し、さらに縁がつながって、私に店のリニューアルチラシの仕事が回ってきたのである。

はじめての打ち合わせのとき、ヤナギさんが、昼メシを振舞ってくれた。
「カツ丼作りますけど、食べてくれますか?」

私はカツ丼食いではないので、普段だったら断るところだったが、高級料亭の元板前さんの目に見えない圧力に押されて、お願いします、と即座に答えてしまった。

そのとき、私は、カツがタレでシナシナになるのが嫌なので、カツだけ別の皿でお願いします、とプロフェッショナルの機嫌を損ねるようなことをお願いした。

行列のできる偉そうなカツ丼屋さんの店主だったら、きっと怒ったに違いないが、ヤナギさんは「ああ、要するに玉子丼とトンカツでよろしいんですね」と快く注文を聞いてくれた。
本当のプロフェッショナルは、客の注文を素直に聞いてくれるのだ。

「ソースはいりますか」と聞かれたが、いりません、できれば岩塩をいただきたいのですが、と答えた。
「シチリア産の岩塩しかないですけど」と言われたので、グラッツィエ、と頭を下げた。

33分待って出されたトンカツは、衣がサックサクで私好みだった。
肉は、完璧に中に水分(旨み)を閉じ込めて、素材を生かした適度な歯ごたえもあった。
噛むたびに肉を意識できる濃厚な味がした。
シチリア産の岩塩との相性は、長年連れ添ったヤナギ夫妻のように合っていた。

そして、玉子丼は、醤油を使わず昆布ダシで卵をとじただけだったから、卵の味がはっきりと感じられた。
さらに、昆布ダシが熱々のご飯ひと粒ひと粒に絡んで、玉子とご飯の旨さを引き立たせていた。

「こんなのただの『まかない』ですけどね」とヤナギさんは謙遜したが、間違いなくゼニの取れる完成品だった。

そのおにぎり屋さんは、季節ごとにチラシを作ったから、年に最低4回はお邪魔して、美味しいものを食わせてもらった。

カレーが出てくることもあった。
鶏がらと長ネギ、にんにく、生姜などを5〜6時間煮込んだものを冷まして小分けにし、冷凍したスープをベースとして使った。
その鶏がらスープがスパイスを引き立てる役割を担って、カレーに一段上の旨みを与えていた。

鶏がらスープをメインにした塩ラーメンも、隠し味にシチリア産の塩を焼いたものと煮干と貝類を煮込んだスープを加えることで、麺に絡む塩気がサッパリしたものに感じられて、食べたあとの口の中には塩辛さが残らず、爽快感だけが残った。

今週の水曜日に行ったときは、マーボー豆腐丼を作ってくれた。
甜麺醤と豆板醤、仙台味噌を鶏がらスープ、紹興酒で煮込み、豆腐と花椒を入れて少し煮込む。
そして、片栗粉でトロミをつける。

ひき肉は使わない。
油揚げを細かく切ってオイスターソースで炒めたものをドライフードメーカーで乾燥させ、肉がわりにしたというのだ。
マーボー豆腐を丼に盛り付けたあとに、その油揚げを散らし、白髪ネギを乗せたら完成の精進料理的なマーボー豆腐丼だった。

一口食ってみて、豆腐が主役だということがわかった。
レンゲで豆腐を掬うたびに、素材を大事にしたプロフェッショナルの技を感じた。
マーボー豆腐は、辛いから美味いのではなく、豆腐の旨みに適度に辛味を加えたから美味いのである。

辛さが主役ではなく、豆腐が主役。

辛さで誤魔化す料理は、所詮は、キワモノだ。
ヤナギさんはカツ丼もカレーも塩ラーメンも誰が主役なのかを舌でわからせてくれる。
そんなプロフェッショナルの技術は、そう簡単に真似できるものではない。

ヤナギさんは、間違いなくプロフェッショナルだ。
尊敬する。

その尊敬するヤナギさんが、「マーボー豆腐作りすぎたので、持って帰りますか」と言った。
「店やってると、つい癖で作りすぎちゃうんですよねえ」

お言葉に甘えて、密閉容器に入れて持ち帰った。


掟破りだとは思ったが、ヤナギさんからもらったことは言わずに、家族に食わせた。

「また、腕あげたんじゃない?」と、みんなから賞賛された。

私は、即座に右手を上げた。
次に娘が右手を上げた。
そして、息子。
(まさか、この展開は!)

最後に、ヨメが控えめに手を上げた。

3人が、どうぞ、どうぞ。
(本物のプロフェッショナル、ダチョウ倶楽部師匠の鉄板ネタを違うシチュエーションで演じてみました)




まあ・・・要するに・・・プロフェッショナルの食卓と素人の食卓の違いは、こんなものだ、という結論でよろしいかと。


2015/10/31 AM 06:27:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | [料理]



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