Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ものすごく有名な偉人
歩いていると、ジーパンがずれ落ちてくる。
脱げそうになる。

安心してください。
はいてますよ。

怖くてずっと逃げていたのだが、3ヶ月ぶりに、むろんOMRONの体重体組成計に乗った。
体重57キロが54キロに。
体脂肪率10.1が9パーセントに下がっていた。

1日のカロリーは、最低2100キロカロリーは摂っているはずだ。
デスクワークが主な中年のオッサンには、十分なカロリーだ。
痩せる意味がわからない。

オー・マイ・ガッド!
そう叫んだら、吉祥寺の馴染みの居酒屋で、人類史上最も馬に激似の男「お馬さん」が、「Mさん、病気なんじゃないですか」と心配してくれた。

安心してください。
病気ですよ。
血が、すこぶる貧しいんです。
それが何か?

「じゃあ、たくさん栄養のあるものを食べてください。
今夜は俺がMさんの分、払いますから」

以前から薄々気付いていたのだが、馬というのは、優しさと思いやりのある生物のようだ。
「奢る」と言わないで「払う」という言い方に心を動かされた。

串焼きの盛り合わせと馬刺しを頼もうとした。

「え? 馬刺し?」
お馬さんの顔から血の気が引いていた。

安心してください。
この店に、馬刺しはありませんから。
ホッケを追加で、いただきましょうか。

「よかった」
血の気が戻ったようである。

「はい、お待ちーっ!」

威勢のいい声とともに運ばれてきたホッケ。
なかなかルックスのいい肉付きのいいナイスバディのホッケだった。

そのナイスバディをテーブルに置いたとき、居酒屋の店長代理・片エクボさんが、私に思わせぶりな目を向け、さらに目を細め、「ちょっと白髪の旦那を借りますから」と同業者たちに宣言した。

え? え? え? という煩わしい好奇の目を背中に感じながら、貧血オヤジは、店の一番奥の2人席のテーブルまで拉致された。

真向かいには、推定年齢24歳から28.5歳の片エクボさんが、いつもより多い瞬きを繰り返しながら座った。

緊張で便意を催しそうになったが、我慢した。

間近で見る片エクボさんは、色が浅黒いのは好みが分かれるところだろうが、水泳で千メートルを泳いだ後のようなマーメイドっぽい色っぽさがあった(ちょっと伝わりづらい表現)。
要するに、世の男性の誰もが憧れる童話の人魚的な艶めかしさがあったということ(伝わったかな?)。

そのとき、居酒屋の店長代理・片エクボさん・本名シモコーベさん・ミドルネーム・マーメイドさんが、彼氏にプロポーズされたことを7月のこのブログで載せた記憶が、私の皺だらけの脳みそに蘇ってきた。

きっと、その答案用紙を私に見せたいのだと思う。

百点か零点か。
いや、50点ということもアリエルか。

片エクボさんが大きく息を吸った。
54キロの体が吸い寄せられたような気がした。
あと4キロ体重を増やさないと、このままでは吸い込まれてしまうかもしれない。
早くホッケを食って太らなければ。

「仕事中だから、簡単に言うね。
プロポーズは保留しました。
待たせるのは彼に悪いと思ったから、もしだらだら続くのが嫌だったら会うのはやめましょうって言ったの。
そうしたら、待つって言ってくれて、でも、いいのかなあ、私の一方的な都合で待たせても、と悩んでいるところ」

50点でした。

厨房が気にかかるせいか、厨房を振り返りながらの話だから、語尾がフェイドアウトして聞きづらかった。
ただ、相当彼氏に悪いと思っていることだけは、はっきりした形の困り眉から伝わってきた。

人の結婚など、どうでもいいのだが、何かを言わなければ納得しないだろう。
だから、私はこう言った。

ものすごく有名な偉人が、こんなことを言っていたんだ。
恋愛や結婚の形式は、人類の数ほどある。
決まったルールなどはない。

だから、「待ちたい」と彼氏が言って、シモコーベさんが、「待たせてやる」という形式があっても不思議ではない。
彼氏がどれくらい待てるかはわからないけど、飼い主の指示で犬がエサを待つ時間よりは長いだろうから、待たせてやってもいいのではないだろうか。

「ちょっとぉ! 『待たせてやる』なんて言ってないんだけどぉ!」
逆八の字眉で睨まれた。
呪いのマーメイド顔。

彼氏にもこんな怖い顔をするのだろうか。
もしこの顔を見てビビらないとしたら、私は彼を尊敬する。
結婚する価値はある男だと思う。

「まあ、いいわ! ところで、その『ものすごく有名な偉人』ってのは、誰?」

あなたの目の前にいます。

シモコーベさんの上半身が、崩れるようにテーブルに突っ伏し、両手がテーブルを勢いよく叩いた。
ドン! ドン!

そして、高速で上体を起こし、息を大きく吸った。
また吸い込まれそうになった。

「久しぶりに、グーで人を殴りたくなったわぁ〜」
本当に左手でグーを作りやがった。
(シモコーベさんは、サウスポー)

「神の左」から逃れるために、私は飛ぶように、お馬さんの隣席に着地した。

ヒッヒ〜〜〜ン?

着地の勢いでジーパンが脱げそうになったが、安心してください。はいてますよ。

早く太らないと、若い子に脅かされるたびに、ジーパンが脱げそうになることを繰り返すだろう。
食わねば。

串焼き盛り合わせ。
ホッケ。
揚げギョーザ。
サイコロステーキ。
焼きおにぎり2個。
焼き鳥・ぼんじり。

逆ダイエット、逆ダイエット・・・・・とつぶやきながら、一心不乱に食い物にかぶりつく白髪のガイコツ。

同業者の呆れ顔に囲まれながら、ガイコツは42分間立て続けに食い物を口に入れることを繰り返した。
呆れたのは、同業者だけではなかった。
片エクボさんも厨房入口から小走りにやってきて、私の顔を覗き込んだ。

逆ダイエット、逆ダイエット・・・・・。

食い終わった私が、追加注文をしようとメニューに手を伸ばしたら、全員にすごい勢いで手を押さえられた。

有名なスターか全国指名手配の極悪人ならいざ知らず、一般のガイコツがこれほど多くの人から手を押さえられることなど、一生に一度あるかないかだろう。

私は、貴重な体験をしたのかもしれない。

わかりましたよ。
わかりましたから、手をお離しくださいませ。

同業者の手が離れ、最後に片エクボさんの手が残った。
そのとき、初めて気づいたのだが、片エクボさんの爪は短くて、マニュキュアも塗っていなかった。
料理をするから、仕事中はマニュキュアを塗らないのか、と思った。

私が、爪を見つめているのに気づいた片エクボさんが、浅黒い顔を赤く染めながら、「彼がマニキュアが嫌いだから」と聞いてもいない、どうでもいい情報を誇らしげに私に告げた。

そうですか。
では、いいことを教えて差し上げましょう。
ものすごく有名な偉人が、こう言いました。
「マニュキュアが嫌いな男は、待つのが下手な最低な男だ」と。

突然、左足の指たちに激痛が走った。
何か重いものが落ちてきたのだと思う。

いたっ!

「いた?」
お馬さんが、長い顔をかしげ、熱い鼻息を撒き散らした。

いた、板垣死すとも、自由は死せず!

「はあ? なんですか、それ?」

あのね、君たち。
いい年のオッサンが、板垣退助の岐阜遭難事件を知らぬのか。
自由民権運動を知らぬのか。
たった133年前のことなのに。

「はぁ〜? ぎふそうなん〜〜〜じけん〜? じゆう〜〜〜?」

明治は、そんなに遠くなったのか。
じゃあ、いいわ。

さて、次、何たのもうかな。

メニューを取ろうとしたら、また押さえ付けられた。


面白いから、このコントを続けようとまたメニューを取ったら、誰も相手をしてくれなかった。
すこぶる寂しかった。


安心してください。
泣いてますよ。



2015/09/26 AM 06:38:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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