Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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不意打ちされた日
去年までの3年間、夏は忙しかった。

では、今年は忙しくないのか、と言えば、ありがたいことに今年も忙しいのである。

なんでか、と思った。
その答えは、簡単なことだった。

イベント会社の仕事が増えたからだ。

4年前は、イベント会社との付き合いは、静岡と東京神田、埼玉桶川の3つしかなかった。
それが、一年のうちに、うまい具合に配分され、仕事が重なることは稀だった。

しかし、4年前からは、8、9、10月のイベントが増え、今その下準備が7月8月に集中している。
だから、忙しくなったのだ。

そのことに初めて気づいた愚かな私をお笑いください。

いま、得意先のイベント会社は、神田に2つ、新宿御苑に1つ、横浜元町に1つ、静岡に1つある。
その他に、イベント会社ではないが、浦和のドラッグストアから月に3回のチラシ。
テクニカルイラストの達人、アホのイナバからの怪しげな同人誌。
極道コピーライター、ススキダの知り合いの輸入ファンシーショップのポップ、杉並の建設会社の仕事が入る。

イベント会社の企画は、当地の祭りやら大学の学園祭、大学のオープンカレッジ、中古車の販売促進セール、その他その地域独自のイベントが入るから、その種類は多岐にわたる。

つまり、大変、忙しい夏を過ごさせていただいておるということでございます。
ただ、それで我が家の懐が潤っているかといえば、そうではないのでございます。

「重度の貧血」を抱えた私は、検査にかかる費用、治療及び薬にかかる費用が予想をはるかに超えて、「貧血貧乏」の状態になっております。

我が家は、これがなければ、家族4人で世界一周「(トム?)クルーズツアー」を満喫していたはずだが、その計画は泡のごとく冥王星の山々の中に消え、家族はアベノミクスを毎朝毎晩呪いながら、日々の貧しい暮らしの中で、喜びを見つけ合う努力をしているのが現実だ。


話は飛躍するが、イベント会社、といえば、京橋のウチダ氏である。

彼は私より5歳年下であるが、東京の一等地・中央区京橋で一人でイベント会社を切り盛りし、「デキる男」「イケてる男」の勲章を欲しいままに背負いながら日々暮らしている男だ。

京橋のウチダ氏は、かつて私の得意先に勤めていた男だった。
私は、彼の勤める会社に卑屈に頭を下げ、仕事を頂いていた。
そのときの担当が、ウチダ氏だった。

だが、その会社は、まもなく倒産し、ウチダ氏は京橋で独立することになった。
ウチダ氏が会社勤めをしていた頃は、たまに私に仕事が回ってきたが、ウチダ氏が独立すると、ウチダ氏は6年間で2回しか仕事を出さない冷淡な男になった。

「俺は、本当に仕事のできる人にしか仕事を出さないんですよね」

そんなことを言われてワクワクした私は、5歳年下ではあるが、ウチダ氏のことを尊敬するようになった。

私は、まるで当然のように合鍵を預かったウチダ氏の京橋の事務所に密かに潜入し、冷蔵庫のスーパードライやクリアアサヒをソファにくつろぎながら盗み、至福の時間を過ごしたのが昨年の7月までのことだった。

しかし、ある日突然酒が飲めなくなった私に、ウチダ氏の事務所は無意味な空間になりかけていた。

だが、ウチダ氏は、彼の事務所の冷蔵庫を私の大好物の「龍馬1865」というノンアルコールビールで満たし、「いつでも泥棒しに来てくださいよ」と大人の対応をするのだ。

お言葉に甘えて、今年も1回潜入した。


ウチダ氏、53歳。
私より5歳年下のイケメンの男は、実は大学の後輩だった。
しかし、そのことをウチダ氏は、ずっと伏せていた。

なんで? と私が聞くと、「だって俺、Mさんのこと、先輩って呼びたくなかったんだもん!」と無邪気に答えるのだ。


そんな愛すべきウチダ氏と、友人尾崎がオーナーの中野の立ち飲みバーに行ってみた。

カウンターにいつもいるのは、尾崎の妻・恵実の弟だった。

尾崎の義弟は、私に気を使って、アルコール抜きのクォリティの高いドリンクをいつも作って無料で飲ましてくれる義理堅い男だ。
ジョニー・デップ様を気取ったヒゲが気に障るが、タダで飲み物を飲ませてくれる男に、ヒゲごときで文句を言うほど、私は器の小さな男ではない。

しかし、似合ってないな。

壁の5分の1を占めるマイルス・デイヴィスのポスターが、タイムスリップしたような重厚な雰囲気を醸し出して、店の空気はジャズを充満しながら、確実に時を止めていた。
その「時の停止」は、ジャズファンには天国だろうが、ジャズファンではないウチダ氏には苦痛だったかもしれない。


ウチダ氏が言う。
「ジャズって、自己満足ですよね」


実は、俺もそう思っていたんだよ。
ジャズは、間違いなく自己満足の音楽だ。

でも、芸術って、そのほとんどが自己満足だよね。
その芸術家の自己満足を受け入れるかどうかで、好き嫌いが分かれるんじゃないかな。

私がそう言うと、ウチダ氏は、「ああ……」と頷いてくれた。


そして、マンハッタン・ジャズ・クインテットの「モーニン」が終わって、唐突に流れたのが、ZARDの「夏を待つセイル(帆)のように」だった。

尾崎の義弟のバーには、年に3回くらい訪れた。
その度に、この曲が流れるというわけではない。

だが、予測がつかない状態で流れるのがこの曲だった。
ジャズしか流さない店が、たった一曲、ZARDの曲を流すのだ。

歌詞を理解すれば、泣くほどのものではない。
歌詞を載せるのは権利の関係でできないが、歌詞を読んでも「泣かせる歌」ではないことがわかると思う。

だが、私は、この曲は亡き坂井泉水氏が、私の娘のために書いてくれたのではないか、と絶えず思っていた。
絶対に、坂井泉水氏は私の娘のために書いたはずだ。
絶対に、そうだそうだ、と私は確信していた。

だから、この曲を聞くと涙が止まらない。
イントロを聞いただけで、私は必ず泣くのだ。

それを面白がって、尾崎の義理の弟は、まるで意表を突くように、2年に1回程度この曲を流すことがあった。


それは、1年半ぶりの不意打ちだった。
不意打ちだからこそ、涙は止まらない。


そんな私の姿を見て、京橋のウチダ氏が呆れた。
だが、呆れながらもウチダ氏の眼にも水が溜まっているのが見えた。
そういったところも、私がウチダ氏を尊敬する理由の一つである。

「Mさん………夏帆ちゃんは幸せものですよね」

ウチダ氏のその言葉に、尾崎の義弟も無表情に眼に水を溜めた。


その曲は不意打ちだったが、3人の心に確実に「共有できる」何かを残してくれたと思う。


その「共有できる」何かは、「友」の証だと私は思っているのだが、残念ながら、ウチダ氏や尾崎の義弟が、そう思っているかどうかの自信が、「重度の貧血」に冒された私にはない。



2015/07/26 AM 08:52:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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