Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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武蔵境の妖怪
仕事の打ち合わせが終わって、東京駅から中央線の下りに乗った。

午後2時半頃だったせいか、車内はすいていた。
目の前に、筋肉の塊のような白人が座っていた。
ただ、顔は、ムキムキの体には不釣り合いなベイマックス顔だった。

申し訳ないが、ちょっと笑った。

新宿駅で、20歳前後の男が二人乗ってきて、私の左隣に座った。
そのとき、アナウンスがあった。

「武蔵境駅でバッグが挟まった影響で、下りの電車に遅れが出ています。お急ぎのところ、申し訳ありません」

新宿駅をやや遅れて発車。
中央線は、事故が多い路線だが、バッグが挟まった程度なら軽いものだ。
遅れたとしても、3分程度だろう。

たいしたことはなかろう、と首をゴキゴキと鳴らした。

そのとき、隣のふたりの会話が耳に入ってきた。
「なんだよ! また人身事故かよ! 武蔵境なら、どうせ亜細亜大の学生が飛び込んだんだろうよ。ツイートしてやろ」
「ああ、やってやれよ!」

顔は見えないが、左隣の男がスマートフォンを取り出して、指を動かし始めた気配を感じた。

なかなか、面白い想像力を持った若者だ。
バッグが挟まって電車が遅れるというアナウンスが、「人身事故」「亜細亜大生飛び込み」に変換できる頭脳というのは、相当変換能力が秀でているか、相当悪意を持ったバカか、どちらかだろう。

そのツイッターを見た人は、もちろん、その文章を真に受けて、「武蔵境駅で人身事故」と思い込むに違いない。
受け取る側は、ツイートした人間の頭脳の優劣をいちいち想像しない。

だから、彼らの中では、それが事実になる。

ツイッターというのは、本当に面白い道具だ。
こんなふうに、アカウント主のバカが、平然と空気中を浮遊できるのだ。

こんなツイートをしていたら、毎日が楽しいだろうな、とも思う。
彼らには、真実を伝える気はさらさらないのだから、何でもありだ。
羨ましくて仕方がない。

偶然隣りに座り、私と同じ武蔵境駅で降りた、名前も顔も知らない、妖怪さん。
その想像力溢れた頭脳で、これからも世界を歪ませてください。
期待しています。


電車は、2分遅れで武蔵境駅に着いた。
そして、私は、猛烈に腹が減っていた。
朝メシは、フルーツグラノーラを食っただけで、そのあとは、何も食っていない。

家に帰れば、カップラーメンが待っていてくれるが、今日は、カップラーメン君には申し訳ないが、待ちぼうけを食らわせようかと思う。
それほど、腹が減っていた。

今すぐ食えるものは何か、と考えたら、「すき家」が思いうかんだ。
牛丼は誰もが食っているだろうから、ポークカレーがいい。

武蔵境駅北口のスキップ通りを抜けた斜め前の「すき家」に入ろうとした。

しかし、店の手前2メートルほどのところで、声をかけられた。

「M先生じゃないですかあ!」

その声の主に思い当たった私は、違います、人違いですと答えた。
そして、相手の顔も見ずに、店に入ろうとした。

すると、「ちょと待てちょと待て」と、首から下3センチのところを這うナメクジのようなジメっとした声で、左肩から18センチ下の二の腕をつかまれた。

その20代後半の男の顔と声は覚えていたが、名前は忘れた。
ただ、住所とメールアドレス、携帯電話の番号は知っていた。

なぜなら、2か月前に、「Mac出張講習」で、家にお伺いしたからだ。
西東京市の8階建て高級マンションの4階のどこかの部屋で、私はその男にMacを教えた。

「Macは、以前結構やっていたんですけど、気が変わってWindowsに変えたんですけど、Windowsはもう大体把握したんですけど、Macをもう一度やり直そうと思っているんですけど・・・・・」

言ってることが、わからないんですけど。

とは言いながらも、教えて欲しいという申し出を拒む選択は、私には許されていないので、1日3時間を2日続きで教える約束をした。

しかし、信じられないことだが、初日の講習が終わったあとに、男が「大変勉強になりました。だけど、講習料、千円まけて欲しいんですけど」と言ったのである。
そのとき、私は右手でグーを作った。
さらに、「来週の土曜日、彼女とデートなんで、少し現金を残しておきたいんですけど」と言われたときは、左手もグーになった。

だが、暴力は犯罪である、ということを1才の頃から祖母に教え込まれた私は、すぐにグーをパーに変えて、約束は約束。たとえば、あなたは小田急センチュリーホテル・レストラン・トライベックスでフィレステーキを食ったあとに、レジで「負けてくれ」と言えますか、と冷静に訪ねた。

「いや、それとこれとは違うんですけど」

メールでやり取りしたときに、こちらの金額を提示しましたよね。
それに対して、あなたは、わかりました、と返事をした。
そこで、契約は成立しているんですよ。
それは、レストランのメニューを見て注文したのと同じことです。

わかりますか? 違わないんですよ、ちっとも。

すると、男がアッサリと言った。
「ああ、じゃあ、明日はもう来なくていいです。お金がもったいないんで」

家に帰って、メールアドレスの下に得意げに載せていた男のツイッターのアカウントを開いたら、「あんなケチ初めてだぜ」と褒めてくれた文章を見つけた。

私は「アンナ」という名前ではないのに「あんな」呼ばわりされた。

そんな男が「ちょと待てちょと待て」と言いながら、首から下3センチのところを這うナメクジのようなジメっとした声で、私の左肩から18センチ下の二の腕をつかむなんて、こんな悪夢があっていいわけがない。

2か月前の経緯を思い起こしたら、男の方が、バツが悪いはずだ。
それなのに、声をかけてくるなんて、天使の私には、「妖怪の所業」としか思えない。

妖怪嫌いの私は、あっ、やばい! ここに自転車を停めてはいけなかったんだぁ〜、と叫びながら、店の横に置いた自転車に颯爽と飛び乗り、すき家前から逃走した。


家に帰って、寿がきやのカップラーメンを食いながら、男のアカウントを開いたら、「シラガのおっさん必死の逃走(笑)」だってさ。


男の姓名と住所、電話番号、メールアドレス、ツイッターのアカウントをコピー&ペーストしたい衝動に駆られた。

しかし、日本国には個人情報保護法、というものがある。


助かりましたね、オカダさん(笑)。



2015/05/26 AM 06:25:06 | Comment(4) | TrackBack(0) | [日記]



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