Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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天使すぎる? でも悪魔
昨年の5月、我が家族が住む武蔵野のオンボロアパートのオーナーから、昨年中にアパートを解体して分譲地にする、と脅された。

それを聞いた私はパニックに陥り、熱海温泉に日帰りで行くという現実逃避をした。
意味のない現実逃避だったが、多少なりとも気分転換できたのだから、「よかよか」とポジティブに捉えた。

それで、アパート解体はどうなったか、というと今だにオンボロのまま存在していた。
なぜかというと、オーナーの長男が強行に反対したのと、オーナーが昨年の10月から体調を崩して、入退院を繰り返していたからだ。

オーナーの体調が気になった私は、お見舞いに行くことにした。
病院に見舞いに行くと堅苦しくなるので、退院して落ち着いたときに行こうと思った。

今週の月曜日、小さめの段ボール箱に有機野菜をたくさん詰めて、ご自宅に伺った。
長男さんから、最近では「有機野菜しか食べない」と聞いていたからだ。

8ヶ月ぶりに見るオーナーは痩せていた。
以前は、小太りの印象だったが、やつれたとは言わないまでも萎んだように見えた。

病名は聞かない。
聞くことに意味があるとは思えない。
病名を知ったからといって、私には何もできないからだ。

10畳ほどの和室に通された。
「嬉しいねえ。カミさん以外誰も見舞いに来ないから、世間から見捨てられたのかと思ったよ」と歓迎してくれた。

同居の奥様と長男さんは、デパートに買い物に出かけたという。
その方が、こちらも気が楽だ。

「Mさんは、お茶はダメなんだよね」と個人情報を開示しながら、ドリップコーヒーを振舞ってくれた。
かたじけのうございます。

「おからだは?」と聞こうとしたとき、和室の壁に「全国衛生労働週間」と書かれたポスターを見かけた。
私の記憶に間違いがなければ、一人で笑顔をふりまいている女の子は、「天使すぎるアイドル」と呼ばれた子だ。

誰かに頼まれて貼っているのだろうと推測した。
しかし、その推測は高速で覆された。

私の視線に気づいたオーナーが、「最近、この子に夢中でねえ。テレビで初めて見たとき、ビビッと来たんだよね。運命かもしれないね」と照れながら言ったのである。

入院していたときは、A4サイズの生写真をラミネート加工して、それを目の届く範囲に、いつも置いていたらしい。
さらには、アイドルをプリントしたマグカップも持っていったという。

こう言われて、どうリアクションをとったらいいか、悩んだ。
ハハハと笑うのは失礼だし、「お若いですね」と調子のいいことを言うのも嫌だ。
だから、スルーするのが無難かな、と結論づけた。

見舞いは、10分程度で帰るのが望ましい。
それ以上だと、相手の体にも負担がかかる。

ここは「ドロン(死語?)!」するのが、一番だ。

ドロン!
気配を消そうと黒装束に着替えようとしていたら、オーナーが大きな仕草で両手を叩いた。

オーナーは、立ち上がると、2冊の厚いスクラップブックを本棚から抜き出し、テーブルの上に置いて、満面の笑みを浮かべて説明し始めた。

60半ばのオッサンが、若いアイドルについて語ることに異議は唱えない。
私は、心の広い男だ。
だが、言っていることが、さっぱりわからない。

嬉しそうなオーナー。
アナログな人は、こんな風に雑誌などを切り抜くのが楽しいのだろうな、と思いつつも、私はそのあと言った自分の言葉を悔いることになる。

iPadを使って、iCloud経由で画像を保存すれば、いつでもどこでも彼女の写真が見られます。

私がそう言うとオーナーは、初めてサンスクリット語を聞いたトランスフォーマーのような顔で固まった。
オプティマスプライムほど格好良くはなかったが、今にもトラックに変身して、走りだしそうだった。
(映画トランスフォーマーを知らない人には、ナンノコッチャでしょうが)

だが、変身を諦めたオッサンは、風速4メートルの鼻息を吹き飛ばして、こう言ったのだ。
「そのアイパーとやらを買えば、カンナちゃんが俺のものになるのかな?」

俺のもの?
まあ、放っておこうか。

……と、また黒装束に着替えようとしたとき、「じゃあ、アイパー買いに行こう!」と猛烈な圧力で言われた。
そして、荻窪のソフトバンクまで拉致された。

その後、オーナーのご自宅に帰り、画像ダウンロードに時間を費やし、ファイリングしたり加工したりしたあとで、必要な操作だけを教えた。
そんなオーナー様のお姿を見て、人間というのは、自分が関心を持っていることには、一所懸命になる生き物だということを実感した。

お見舞いに伺ったのが午後1時過ぎ。
解放されたのが午後7時15分。

デパートからお帰りの奥様に、晩メシを食っていけと勧められたが、満腹でござる、とお断りした。


家に帰って、天津飯と野菜たっぷりのあんかけ春雨を食っているとき、オーナーから電話があった。
iPadの操作がわからないので、電話をしてきたのかと思った。

しかし、違った。

「あのね、さっき言い忘れたんだけどね。アパートを壊す件なんだけど、俺が元気になったら、潰すからね。転居先を考えといてね。悪いんだけどね」



「天使すぎるアイドル」が好きなオッサンは、実は「悪魔」だったというお話しでした。








2015/01/27 PM 04:12:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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