Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ハゲの息子
読書を愛する真面目な男がいる。

それは、私だ。
というのは嘘で、名前はハゲ、ニックネームをシバタという私の友人だ。
(逆かもしれない)

彼とは大学時代から仲良くさせてもらっていた。
真面目で正義感が強くて、友だち思いのハゲの性格は、私とは真逆なので、うまい具合に心のパズルがハマったのだと思う。

私のパズルは、足りないところだらけだが、ハゲが多くのピースを持ってくれていたおかげで、心の形は、いびつだが、私なりの人生パズルがいま出来上がりつつある。

ハゲは大企業に勤めていたが、彼の所属する部署とは関係ないところが赤字を出したのをきっかけに、会社は経営再建のため、早期退職者制度を施行することにした。

ハゲの部署は、それなりに業績を上げていたので、彼がその制度を利用するとは、誰もが思わなかった。
しかし、ハゲは、手を挙げた。

ハゲは、物事を判断するとき、アッパレなほど熟考を重ね、数パターンの結末を考えたのち、一瞬で決断を下すことが多い。
今回も、そうだったらしい。

そうやって下したハゲの決断を覆すことができる人は、おそらくいない。
だから、奥さんも「しゃーないわ」と笑うしかなかったという。

50過ぎに早期退職した彼は、行政書士の資格を持っていたので、行政書士事務所で見習いとして働いてのち、開業するプランを立てた。
そのプランは、すぐに実行に移されたが、見習いのとき、ハゲに突然の病魔が襲った。

喉頭がんだった。

手術をしてから4年が経つ。
再発はしていなかったが、みぞおちを掴まれるような再発の恐怖がハゲを襲ったとき、私のiPhoneが震えることがあった。

そのたびに、ハゲは私に聞くのだ。
「俺のやり残したことって、何だと思う?」

来年まで生きることだ。

「来年になったら?」

さらに次の年まで生きることだ。

「また一年が過ぎたら?」

もう1年。

無責任なことを言っているだけだが、この程度のことでも、ハゲの心は落ち着くのだ。
行事のようなものだと思えばいいのかもしれない。


ハゲは成功者なので、20年以上前からキャンピング・カーという大人の玩具を持っていた。
ハゲは、家族にも愛車のハンドルを渡さなかったが、体調を崩してからは、観念して息子に運転を任せることにした。

この日の運転手も息子だった。
ヘヴィメタル(ロック)をこよなく愛する大学4年の息子だ。

アマチュアのヘヴィメタル・バンドでヴォーカルをしているからと言って、奇抜なカッコウをしているわけではない。
今や多くの人々に認知されたピアスを左耳に3つ付けているのが目立ったくらいの真面目な男だ。
(今は来年の就職に備えて、ピアスは外していた)

東京大田区のオートキャンプ場で、デイキャンプ。
ハゲとハゲの息子、私という、男だけの気持ち悪いキャンプだった。

当たり前のように、バーベキューをした。
食いたくもない高級牛肉を食い、食いたくもない殻つきの牡蠣を食った。

「美味い」よりも「寒い」。
海からの風が冷たいのだ。

ハゲの息子が、寒さで狂ったのか、ヘヴィメタル風のデスヴォイスでシャウトしながら、焼きそばを作っていた。
ヘヴィメタ風のスパイスが利いたヘヴィメタ焼きそばは、塩気が絶妙で美味かった。

美味しいヘヴィメタ焼きソバを食っているとき、ハゲが唐突に、「最近読んだ本は何だ?」と聞いてきた。

今年になって読んだ本は、1冊だけだ。
村上春樹氏の「国境の南、太陽の西」がブックオフで108円で売られていたので、衝動買いした。
話の展開が、若干中途半端なような気がしたが、村上春樹氏らしい、個性的な日常の切り取り方をして、主人公の心の揺れを繊細に表現していたと思う。

そんな私の感想を聞き流して、「俺は今年2百冊読んだ」とハゲが言った。
得意げだったが、寂しい頭が、海風を受けて寒そうに見えた。

そして、寂しそうな頭のまま、「読めるときに、たくさん読んでおかないと後悔するからな」と言った。

そうすると、あと30年生きるとしたら、おまえは6千冊の本を読むことになるな。
うらやましい限りだ。

私が、そう言うと、ハゲが下を向いた。
下を向くと、余計に頭が寂しく見えた。

寒さが頭に滲みるのか、と優しい言葉をかけた。

寂しい頭を上げたハゲの目から、水っぽいものが流れていた。
そして、目をこすり、鼻をすすった。

「そうか。俺は、そんなにたくさんの本が、まだ読めるのか。それは嬉しいな。最高の贈り物だ」
両手を強く握って、空に向けて拳を突き上げた。

その姿を見て、私の目のポンプが動きそうになったので、焼きおにぎりを丸ごと口に入れて、動きを抑えた。
オニギリが熱すぎて、ポンプから水が出た。

風の冷たさが目にしみた。

目を赤くしたハゲが、突然思い出したように、私に薄い封筒を渡した。
「誕生日プレゼントだ。図書カードだけど」と言いながら、目をまたこすった。

1万円の図書カード。

頭を下げ、ありがたく受け取った。

まあ、このまま娘の手に渡ってしまうと思うが、と言ったら、「それは想定済みだ。気持ちだからな」と、寂しい頭を右手でさすった。

ドサクサにまぎれて、ハゲの息子がくれたのは、どくろマークが付いた黒の毛糸の帽子だった。
「本当は、オヤジの頭にかぶせたくて買ったんだけど、嫌がったもんで」

世間には、これが似合う顔と似合わない顔がある。
シバタには、似合わねえよな。

帽子をかぶり、ヘヴィメタ風に、右手の人差し指と小指を立てて、舌を出した。

自分で言うのもなんだが、いいオッサンが、これをやるのは寒い。
寒すぎたかな、とハゲの息子に聞いた。

ハゲの息子は、曖昧に「まあ、寒いと言えば寒い……かな」と、引き加減にうなずいた。


真面目なハゲが足踏みをしながら、体を縮こまらせ、唸った。
「ホントだ! 寒いよ。今日の風は、特別寒い!」


5時間の予定だったが、2時間半で撤収した。

帰りの車内で、ハゲの息子とガンズ&ローゼスの話題で盛り上がっているそばで、ハゲは深い眠りに落ちていた。

そのハゲしい寝姿を横目で見ながら、オヤジを大切にしてやってくれよな、とハゲの息子に言った。


「大丈夫ですよ。
 だんだん抜け落ちていく頭を見て育ったんですから。
 あれは、家族のために働いた証じゃないですか。
 勲章ですよ」



いい息子だ。




2014/11/22 AM 08:19:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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