Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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私が心配な男
ひと月おきに開催される同業者との飲み会をキャンセルした。

人からカラダのことを聞かれるのが、好きでないからだ。

私が嫌いなことの一番は、体の心配をされること。
聞く方は、本気で心配してくれているから申し訳ないのだが、どう答えていいかわからないという勝手な理由で、私はその話題を出されると、あからさまに不機嫌になる「人でなし」である。

細かい説明を望んでいないのがわかるから、聞かれたらテキトーに答える。
当たり前のことだが、絶対に伝わらない。

伝わらないなら伝わらないでいいから、根掘り葉掘り聞かないで欲しいのだが、人類を進歩させた性格の一つである「好奇心」という厄介なものが、人には備わっている。

「え? 重いの軽いの?」
「いつ治るの?」
「医者はなんて言ってるの?」

うるせえよ!

心配していただいているのに、私の心は「うるせえよ」で満たされてしまう。
人間としてクズだ。

自分がクズだというのは、24時間自覚しているが、さらにクズの上乗せをするのがイヤなのだ。

それなら、答えない方が、心は安らぐ。
だから、飲み会に行くのはやめた。


私は、祖母と母を尊敬しているのだが、母の性格で唯一受け入れられないのが、極度の心配性だというところだ。

子どもの頃、膝に直径5ミリほどの砂利が数個めり込んだという、たいしたことのない怪我でも、大騒ぎして「お医者さんに見てもらいましょう」と、母はうろたえた。
高熱が出ただけでも、「お医者さんに」と青ざめた。

その押し寄せてくる心配性の波が、子ども心に鬱陶しかったので、私は5歳から、「痛い」「つらい」という自己申告をしなくなった。

怪我をしても高熱が出ても人には隠した。
もちろん、子どもが具合が悪くなったら、大人に隠し通せるわけがないのだが、当時の私は、隠し通したと思っていた。

高校2年の秋、東京都の陸上大会に出るために、朝早く起きた。
仕事に出る前の母が、私の部屋に来て言った。

「熱になんか負けちゃダメよ」
私の機嫌を損ねないように遠慮がちに言った。

私が昨晩から熱を出していたのを知っていたのだ。
母の目の奥に、心配性の波が渦巻いていたのが、見えた。

その目を見て、心配されるのが嫌いな私の性格が、「子を心配する」という母親の役割の一つを奪っていたことに気づいた。
身勝手な自分を呪った。
私は母の手を取って、自分のおでこに当て、「熱にもレースにも負けない」と答えた。

フルタイムで働いていた母は、どんな行事があっても、子どものために弁当を作らなかった。
作る暇がなかった。

母は、私の手に千円札を握らせ、「熱い手だね」と淋しげに言って、家を出た。
母は、仕事の合間合間に、私の体のことを身をよじるほど心配したに違いない。

私が親だったら、こんな子どもはいらない。
罰当たりな息子だ。

親に心配してもらう権利を子は持っている。
私は、その権利は放棄したが、親の愛情を受ける権利を放棄したわけではなかった。

フルタイムで働いている、体の弱い心配性の母親に、余計な時間を与えたくなかっただけだよ、と当時の私は格好をつけた。
そして、今もカッコウをつけている。

それは、ちっとも格好いいことではないのだが、あまりにも長く続けていたせいで、私の性格のど真ん中に、その歪んだ心は居座って、今もまわりに迷惑をかけ続けている。


私のヨメは、そんな私の性格を熟知しているから、絶対に私の体を心配しない(言葉に出して心配しないという意味だが)。

その状態は、とても心地いい。

超気持ちいい〜!

熱があったって、体のどこかが痛くたって、仕事はしなくてはいけないのだから、「痛いアピール」「つらいアピール」をしたって、何の解決にもならない。
人から心配されても、解決しない。

サッサと仕事を終えて、休息を得れば、万全とはいえないまでも回復はする。
おそらく誰もが、それを繰り返して生きている。


そんな風なことをテクニカルイラストの達人、アホのイナバに話した。

場所は、新橋のオイスターバーだ。
イナバはアホだが、私が牡蠣が大好物だということは、覚えているのである。
だから、奢ってくれるというのだ。

牡蠣がただで食えるのなら、私はどこにだって着いていく。
「イスラム国」は真っ平ゴメンだが、東京都港区新橋の酔っぱらいが溢れた親父クサい場所でも文句は言わない。

贅沢にも「6種類の牡蠣のフルコース」を食い、富士山深層水を飲みながら、アホと戯れた。

イナバは、恐がりで痛がりである。
盛大に「痛いアピール」をする。

「寝違えて背中が痛いんですよ〜!」
「同じ姿勢でいるとつらいんですよ〜」
「車の運転が大変なんですよ〜」

寝違えて死んだやつはいない。
同じ姿勢でい続けて死んだやつはいるかもしれない。
車の運転をしなければいい。だから、君のベンツを俺にくれ。


「いや、そうじゃなくて〜、Mさんの先生、優香に似てるんでしょ。俺も診てもらおうかなっと」

そういう下心があったのか。
しかし、君の症状は外科か整形外科じゃないかな。

優香観音様は、循環器系だ。
専門が、まったく違うな。

それを聞いたイナバが、ブツブツと一人言のような呪文を唱えた。
「Mさん、ジュンカンキケイって何ですか? 『キケイ』って『変な形』って意味ですか? でも、そうすると、『ジュンカン』がわからないな。変な形がグルグル回っていることかな。えっ! それって重病じゃないですかァ!」


イナバくん。

俺には、君の頭の方が「心配」だよ。



2014/11/16 AM 08:25:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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