Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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老後幸福サドンデス
先週の木曜日のことだった。
ご老人が倒れていた。

オンボロアパートから百メートルほどの緩やかな傾斜の道。
坂の下だった。

左手にゴミ袋を持ったまま、右半身を下にして倒れていた。

大丈夫ですか、と声をかけた。

返事はなかったが、小さく頷くのが見えた。
名前は言えますか、と聞いた。

「シマノ」と細いかすれた声で答えた。
意識はあると見たので、家はどこですか、と聞いてみた。

老人は、小さく首を傾げた。
事態が飲み込めていないのかもしれない。

小太りのご老人だ。
おそらく70歳半ばから後半だろう。
手の皺で、そう判断した。

時刻は、8時10分過ぎ。
神田の得意先に行くために、家を出て2分ほどで、遭遇したのである。

私の場合、打ち合わせには余裕を持って出かけるようにしていた。
頻繁にダイヤが乱れる中央線だから、予定より30分以上早く行動する癖がついていた。

たとえ中央線が止まっていたとしても、武蔵野から神田までなら、自転車をハッスル(死語?)すれば1時間半で着く。
危機管理は万全だ。

だから、時間に余裕はある。
今朝は、中央線が遅れているという情報はなかったから、まだご老人に付き合っていられた。

だが、この事態をどう対処したらいいか、私は戸惑った。
私の横を20代半ばの若い女性、50歳前後のサラリーマン、自転車の後ろの荷台にネギを大量に積んだ70歳前後の男性が通り過ぎていったが、誰もが知らんぷりだった。

まったく期待していなかったので、落胆はしなかった。
だから、まるで看護師さんのように、ご老人の頸動脈に手を当てて脈を測る余計なお世話もできた。

脈は早かったが、しっかりしていた。
安心した。

安心したせいで、近くに医院があったのを思い出した。
ここから3百メートルも離れていないところに、内科を開業している医院があったのだ。

名前はわかっていたので、iPhoneで検索して、電話番号を探り当てた。
個人医院の診療の始まりは、たいていは9時過ぎだろうが、家が医院に隣接していれば、緊急のときのために自宅の電話に切り替わる可能性があった。
それに賭けた。

その推測は当たって、奥様らしき人が、4コールで出た。

事情を説明したら、力強い声で「すぐ行きます」と応えてくれた。
頼もしい声だった。

10分ほど待つと、普段着の奥様(?)と先生(?)らしき人が、大きなバッグを持って息を切らしてやってきた。

そして、ハモった。
「シマノのおじいちゃん!」

「シマノ」さんというのは、本当だったようだ。
つまり、お知り合いか患者さん、ということだろう。

よかった。
一件落着。
安堵&安堵。

あとはお願いします、と言って自転車に乗ろうとしたとき、医師(?)から、「おたくは?」と聞かれたので、名乗るほどのものでは、と答えようと思ったが、それほど格好いいシチュエーションでもなかったので、ただ名刺を渡して去ることにした。

それらのことは、中央線に乗っている間にキレイに忘れた。


夜7時過ぎ、iPhoneが震えた。
知らない電話番号。
………と一瞬思ったが、これって今朝電話をしたことがあったな、と思い直して、応答ボタンを押した。

思った通り、朝の医師からだった。
「助けてもらったのに知らんぷりは悪いと思って、報告だけしておこうと思いましてね」
外見は40歳くらいに見えたが、声は落ち着いていて、50過ぎの医師の役をする声優のような渋い声で医師が言った。

通りすがりのものですので、続編は期待していなかったのですが、と50過ぎの通りすがりの男の役をする声優を真似て答えたら、予期せぬ沈黙が返ってきた。

俺、何か変なこと言った?

変な男にかかわり合うのはよくないと考えたのか、相手の説明は簡潔だった。
おじいさんは、右足首の軽い捻挫と右膝の打撲で、全治2週間程度。
一人暮らしだから、しばらくは生活が不便でしょうね、ハァー、と言って、電話を切った。


察するに、ご老人は、ゴミ捨て場にゴミ袋を運ぶ最中に、何ものかにつまづき、転んだに違いない。
そして、足を捻挫した。

一人暮らしの怪我は大変だ。
買い物に行くのも不自由だろう。
ネットショップを利用していれば、多少は助けになるが、歩いて買い物に行く手段しか持っていなかったら、不便この上ない。

ヘルパーさんは、雇っているのかな、などと余計なことまで考えた。

人ごとではないからだ。

私も、いつか、ひとりで暮らす身分にならないとも限らない。

つい最近、世間話の中で、息子と娘が「結婚しても一緒に住もうよ」と言ってくれたのだが、そんなありがたい言葉が、永遠の有効期限を持っていると考えるほど、私は楽天家ではない。

だから、そのありがたい言葉は、鍵の壊れた金庫に仕舞って永遠に封印した。


独居老人。

その言葉が現実のものになる確率は、相当高いのではないかと私は思っている。

そのときのために、私は世間様に迷惑をかけないよう、日々足腰を鍛え、脳の機能を柔らかく保つ努力をしている。
今の私は、薬を2種類飲むという情けない状態であるが、いつか復活する意思は強く持っている。

もし年を積み重ねた末に、足腰が言うことを聞かず、脳が固まってしまったら、「元気なうちに勝手に心臓が止まって回りに迷惑をかけずに逝く」という私の人生のシナリオは、確実に狂ってしまう。

それは困る。


なので………応援を、そこんところヨロシクお願いいたします。
(誰に言っている?)


今のところは、頭の中で、たえず面白すぎる妄想が駆け巡っているから、頭の方は、おそらく大丈夫だろう。
太もも好きに ボケはなし というコトワザもあることだし(ない?)。

大学1年の娘からも「おまえがボケることは、1兆円の宝くじが当たる確率よりも低い」とお墨付きを貰っているのである。

でも、1兆円、当たったりして。


先週の金曜日、晩メシを作っているとき、ヨメに言われた。
「ねえ、パブロン買ってきてくれた?」

ありゃ!

娘に言われた。
「パワーポイントのマニュアル本見つかったか?」

ありゃ!

(おでんを食いながら)息子に言われた。
「今日の晩メシ、チーズ・フォンデュって言ってなかった?」

ありゃ?

メシを食ったあとで、仕事のデータをレーザープリンタで出力しようとした。
紙を切らしていた。

ありゃ?

iPhoneの留守番電話を聞いた。
「今日の朝10時のご予約でしたが、キャンセルのご連絡はいただいておりましたでしょうか」
病院からの電話だった。
10時に、検査の予定だったのだ。

ありゃ………ありゃりゃ!

こんなにも大量に忘れ物をするなんて!
私の頭の中身は、なんてお茶目な脳みそに変化してしまったんだろう!


この事態を重く見た私は、友人のテクニカルイラストの達人・アホのイナバにメールをした。


「貴殿の奥様が、将来建設を計画中の老人ホームの入所を今から予約致します。
 費用につきましては、お慈悲を賜れば幸せ至極に存じます。

 我願う 老後幸福サドンデス!」



アホからの返事は、まだない。



2014/11/04 AM 08:06:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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