Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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人でなしがシンクロ
もちろん、テレパシーなどというものは、信じない。

昨日、東京池袋に買い物に行った。
私が知る限り、その素材集は、その店にしか置いていなかったので、中央線と山手線を利用して池袋に行った。

目当てのものを買って店を出たとき、ピカッ! 突然頭の上にLED電球が閃いた。

そう言えば、ここから歩いて8分01秒程度のところに、友人が社長様をしている会社があったような気がした。
部下がクーデターを起こしていない限り、長谷川は、まだ、おそらく、たぶん、私の想像が当たっていれば、その会社の社長様をしているはずだ。

老けた坊っちゃん顔を拝みにいこうと思った。
しかし、世間では、社長様は忙しいという常識がある。

常識人である私は、「アポなし訪問」は非常識である、と常識的に考えた。
だから、頭に閃いたLED電球は右脳にしまって、軽やかな足取りで池袋駅までの道を歩き始めた。

そのとき、iPhoneが震えた。

ディスプレィを見ると、「長谷川」という名が、常識的に浮かび上がっていた。

これは………偶然………か?

なぜ長谷川から電話が、と3 . 4秒考えたのち、仕舞っていたLED電球を閃かせて、iPhoneの応答ボタンを押した。

いきなり、「カラダはどうだ?」と聞かれた。

首の下に付いている、と答えた。
いくらおまえが、偉い社長様だとしても、俺の首を切ることはできない。
残念だったな。

私の答えを無視して、長谷川が「いま、どこだ?」と聞いてきた。

まだ、人生の途中だ、と答えた。
だが、自分で途中だと思っていても、突然終わることもある。
それも、人生だ。

長谷川が、またも私の言葉を無視して、言った。

「まさか、池袋じゃないよな?」

「ドッキリ」か!
私は、隠しカメラを探した。
「大成功」の札も探した。
半径30メートル以内には、見当たらなかった。

つまり、長谷川には「千里眼」のSPECがあるということか。
中堅商社のイグゼクティブというSPECだけでなく、そんなものまで持っているなんて、なんて羨ましいやつなんだろう。

そんな私の感動さえ無視して、長谷川が言った。
「不思議なんだが、おまえが近くにいるような気がしたんだよな。気まぐれに窓を開けたら、ひねくれた風が入ってきたんだ。これは絶対に、マツが持ってきた空気だな、と確信したんだが、どうやら当たったようだ」

そうか。
つまり、それは俺もスゴいということだな。
そんなにもわかりやすい「ひねくれた風」を送ることができるなんて、相当高度なSPECがないとできないだろうから。

長谷川は、私のその言葉も無視した。
「午後のスケジュールがキャンセルになって、どうしようかと思っていたんだ。今すぐ、来いよ」

「ひねくれた風」は、素直に、社長様のお城に潜入することにした。

途中にあったファミリーマートで、スパークリング・ロゼワインを買って、手みやげにした。
私は常識人なので、人様の領域に入り込もうとする場合、必ず手みやげを持っていく習慣を持っていた。

手みやげを渡したとき、長谷川が、「もう酒を飲んでもいいのか?」と、聞いてきた。

俺は遠慮するが、おまえは飲むべきだ。
社長が昼間から酒を食らっても、誰も文句は言わないだろうからな。

「いいのか、俺だけ飲んで?」

俺は、酔っぱらいは好きではないが、酒飲みは嫌いじゃない。
酔っぱらって絡んできたら、不殺の剣・龍翔閃をお見舞いするだけだ。

…………………………………。

結局、秘書が淹れてくれたホットコーヒーを向かい合わせで飲むことになった。

私の顔を見て、「太ったな」と長谷川が言った。

私の場合、久しぶりに会う相手からは、99 . 8パーセント「痩せたな」と言われた。
しかし、今日の長谷川は、0 . 2パーセントの方だったようだ。

身長180センチ、体重58 . 1キロ、体脂肪率11 . 3パーセント、BMI は、17 . 9だ。
ナイスバディだろ〜〜。

また無視された。

そればかりか、長谷川は鋭いことを言ったのだ。
「普通は、酔っぱらわないと程度の低い冗談は言えないものだが、お前の場合は、酒を飲まなくても言えるんだな。要するに、おまえは、酒を飲まなくても酔えるってことだ。もともと酒を必要としていない男なんだな」

俺も、そう思う。

小さな沈黙のあと、長谷川が居住まいを正して頭を下げた。
頭髪が、やや薄くなって、頭皮が微かに見えた。
だが、社長様は頭皮が透けて見えても、それが威厳になることもある。

世の中は、不公平にできている、と思った。

「毎年、邦子の墓参りをしてくれているようだな」

今度は、私が無視をした。

邦子というのは、長谷川の一つ下の妹で、大学時代の私の友だちでもあった。
今は墓の中にいるが、友だちの墓参りにいくのは、人間として当然のことである。
礼を言われる筋合いはない。

4回目の墓参り。
馴れ過ぎて、涙も出ない。

どうでもいいことだが、最近では、私は身内を連続して亡くしていた。
姉と父。

姉の墓は、島根県出雲市にあった。
父の墓は、神奈川県川崎市。

私は薄情者である。
身内なのに、墓参りに行ったことがない。

島根県には、私の敵がたくさんいたが、一人だけ私を理解してくれている年下の大学准教授が、遠い親戚にいた。
彼に、姉の墓のことはお願いしていたから、姉の墓には絶えず花が手向けられていた。
父の祥月命日には、代行業者に頼んで、墓に季節の花を手向けてもらっていた。
今年の一周忌には、代行業者に、墓を盛大に花で飾って欲しい、とお願いをした。

つまり、すべてが他人まかせだ。

しかし、長谷川の妹の墓参りにだけは行く。

自分で、「人でなし」だと宣言しているようなものである。

そんな私の心が、長谷川とシンクロした。
長谷川が、ため息を吐きながら、ソファの背にもたれ、言った。

「俺は、人でなしだな」

人でなしが、ふたり。

いい大人が互いに「人でなし自慢」をするのは、みっともないので、私は「人でなしの看板」を降ろすことにした。


君は 天使じゃなく
俺だって 聖者じゃないんだぜ


天使ではなかったが、長谷川は、「苦悩する人でなし」だった。

長谷川は、東日本大震災後の仙台支社の後始末をすべて、妹の邦子に任せたことを一日たりとも後悔しないことはなかった。

「おまえにしか、こんな話はできないんだ」と言って、後悔の言葉を私のiPhoneにぶつけた。
3年半で、20回以上。
iPhoneも、きっと聞き飽きたことだろう。

社長という役割は、太陽に似ている。

太陽系の惑星や小惑星は、彼がいることで、その存在が成り立っている。
求心力が衰えたら、系列の星々は、行き場を失う。

暗黒になる。

光を絶やすな。
それが、おまえの唯一の役目だ。

社長になりたての頃、長谷川に、そんな話をしたことがあった。

陳腐なたとえだったが、長谷川は納得したようだった。
ただ、納得したとしても、企業の長である彼の悩みの種は尽きない。
何かしら理由を見つけて、私に愚痴をこぼすのだ。

最近の長谷川の愚痴は、「妹が俺を照らしてくれたから、俺は輝いていられたのに」というものだった。

違う。
太陽は照らされるものではない。
自分で輝くんだよ。

おまえを輝かせるものは、おまえしかいない。
太陽に、甘えは許されないんだ。

人間としての出来は、遥かに長谷川の方が上なのに、下等動物の私が説教をするのだ。

恥ずかしすぎて、電話を切ったあとは、いつも自己嫌悪に陥る。
ただ、1分程度で、すぐに立ち直るが。


長谷川が唐突に、「俺たちには、どれくらいの時間が残されているんだろうな」と言った。

おまえには、社員と社員の家族分だけ、時間が必要だ。
俺は、家族分だけだな。

「それって、うらやましいのか、うらやましくないのか?」

そんな問題ではないな。
責任の問題だ。
つまり、色々なものを背負ったおまえは、簡単に死ねないということだよ。

長谷川の苦笑い。

そして、ふたりの言葉がまたシンクロした。

「俺たちが、こんな話をするようになるなんてな」


そうだな。

人でなし………なのにな。





たまには、人でなしの、こんな愚痴も……………。



2014/10/23 AM 07:25:06 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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