Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ゴキブリの優しさ
ネット用語は、極力使いたくないのだが、最近、「寝落ち」することが増えた。

まったく眠るつもりはないのに、気がついたら、寝ていたということが多い。

先日は、ドトールコーヒーでジャーマンドックをひと齧りしたあと、自覚なく眠ってしまった。
55分も、右手に齧りかけのジャーマンドッグを持ったまま、眠りこけてしまったのである。

自分が、目を閉じたという記憶さえないのだ。

当たり前のことだが、ホットコーヒーは、一口も飲まないまま、冷めていた。
美味しくいただきましたが、ジャーマンドッグは、齧り口が乾燥して、妙な歯触りだった。

何の記憶もない自分が怖くなった。


その他に、小金井公園を10キロほどランニングしたあとで、恒例になったスーパー銭湯に入ったときのことだ。

1時間ほど、種々の風呂を楽しんだあとで、小腹が空いたので、帰りに、コンビニでおにぎりとクリアアサヒを買って、小金井公園のベンチで食おうと考えながら、スーパー銭湯のレストルームのリクライニングシートで横になった。

そのときも、目を閉じた意識はなかった。
しかし、深い眠りに突入してしまったのだ。

リクライニングに横になったのが、1時前。
目が覚めたときは、5時を過ぎていた。

やりしまた!(やってしまった、の略。おそらく誰も使わない)

今までは、急ぎの仕事があったときは、眠ったとしても心にブレーキがかかって、1時間程度で起きられたものだが、この日は急ぎの仕事があったにもかかわらず、爆睡してしまったのである。

体の中の何かが、狂っているのかもしれない。


こういうこともあった。
静岡の広告代理店に打ち合わせに行ったときのことだ。

東京駅から、新幹線に乗った。
そのとき、自由席で隣り合った40代前半と思える男性と話が弾んだ。

歌舞伎揚げを頂戴しながら、ホットコーヒーを飲んだ。
相手は、東京での出張が終わったせいか、ビールを飲んでいやがった。

しかし、私は、お客様の前で酒臭い息を吐くわけにいかないから、我慢した。
成長したものだ。

隣の人は、京都で降りると言っていた。
私は静岡。

そんなことを話しているうちに、私はまた、眠ってしまったのである。
話している最中に寝たものだから、相手はビックリしたろう。

しかし、彼は、私の眠りを妨げない紳士だった。
静岡駅寸前まで、そっと爆睡させてくれたあと、彼はマグニチュード6.6の震動で、私を揺さぶったのである。
それがなかったら、私は仕事をしくじるところだった。

にゃあ、ぢょうも、なりぎゃとうごだいまふ
(ああ、どうもありがとうございます)

丁寧なお礼を言って、私は、ふらつく足で静岡駅のホームに降り立った。
右手には、仕事用のバッグ。
そして、左手の親指と人指し指には、歌舞伎揚げ一粒をつまんだままだった。
きっと、彼が持たせてくれたに違いない。

それは、人の優しさが、身に滲みた瞬間だった。


そして、昨日だ。

極道コピーライター、ススキダの横浜大倉山の事務所で、打ち合わせをしたときのことだった。

そのときは、ススキダの奥さんとの打ち合わせだったので、ススキダはいなかった。

あの極道顔がいないというだけで、私の心は、梅雨空を忘れるほど晴れやかだった。
永遠にこの環境が続けば、世界は、どれだけ平和なことだろう。

sekai no owari は、永遠に来ない。

目の前にいるススキダの奥さんは、40代半ばとは思えないほど、可愛らしい雰囲気を出していた。
無理に若作りをしているわけではないのに、若々しいのだ(ほとんどスッピン)。

ススキダの奥さんの顔を見るたびに、私はススキダに対して殺意が芽生えるのだが、その理由は知らない。
絶対に嫉妬ではないと思う。
強いて言えば、「正義感」の方が近い。

可愛い奥さんの他に、BGMには、ウィントン・マルサリスのトランペット、そして、コーヒーはブルー・マウンテン。
打ち合わせが、和気あいあいと順調に進むのは、当然だった。

6回目の仕事だったので、打ち合わせは23分ほどで終わった。
短すぎて、物足りないくらいだ。

打ち合わせが終わったあとで、ススキダの奥さんが、「Mさん、少しだけお時間をいただけます?」と言った。

デートのお誘いですか?

「それは、またの機会に」

お互い赤面。

「20分ほど席を外しますが、帰らないでくださいね」

わかりました。
留守番は、お任せください。
私を、留守番太郎、と呼んでくださっても構いません。

「では太郎さん、少しの間、お願いします」


テーブルの上の皿には、私のために用意された、大量の柿ピーが山盛りになっていた。

その何個かを口に入れたところまでは覚えていた。

ゴキブリの夢を見た。
人相の悪いゴキブリが、私を食おうとしているところだった。

だが、私は、かなり前から、新聞紙たたきの奥義を究めていたので、ゴキブリを一叩きで仕留めることができた。

ゴキブリの顔が、誰かに似ていたような気がしたが、気にしないことにした。


突然の眠りから覚めたとき、仕留めたはずのゴキブリが目の前にいた。

新聞紙を探したが、見当たらないので、他の武器を探そうとした。
団扇があれば代用になったのに、団扇さえもなかった。
しょぼい事務所だ。

「おまえ、何時から眠っていたと思う」とススキダに聞かれたので、眠っていたのではない、落ちていたのだ、と胸を張った。

たいしたことは言わなかったはずだが、ススキダの奥さんが、手を叩いて喜んでくれた。
今のは、笑いを取ろうとしたわけではないのに。
本当に可愛い奥さんだこと。

落ちていたのは、20分。
奥さんとの約束が20分だったからな、と言ったとき、ピーナッツのカケラが、口から出た。
ピーナッツのカケラを口に入れたまま、落ちてしまったようだ。

危ないぞ!

「1時間半近く、落ちていましたよ」とススキダの奥さん。

そ、そうですか。
そんなに、落ち過ぎていましたか?

「はい、落ち過ぎていました」

「おまえら、下らねえ会話をするんじゃねえよ。用が済んだのなら、さっさと帰れ」と、ススキダがスゴんだあとで、私に大きな箱を渡した。
箱には、ラッピングが施されていた。

俺を、買収しようというのか。
この程度のもので、俺は買収されないぞ。

「バカ! カホちゃん(私の大学一年の娘)の誕生日プレゼントだ。レイコ(ススキダの奥さん)が、買ったんだ」

ああ、だから、席を外したのだな。
プレゼントを買いに行ってくれたのか。

それは、かたじけない。
私は、四方八方三十二方に頭を下げた。

「結構でかいものだから、電車じゃ無理だろ。だから、車で送ってやる」とゴキブリが言った。
今日のゴキブリは、いいゴキブリのようだ。

おお、送らせてやってもいいぜ、と胸を張ったら、またススキダの奥さんが、手を叩いて喜んだ。
この人の、笑いのツボが、わからない。


そして、エスティマの後部座席。

もうおわかりかと思いますが、私はまた落ちてしまったのである。

武蔵野のオンボロアパートにつくまで、頭が宇宙をさまよっていた。

着いたとき、ゴキブリが、マグニチュード6.8の揺さぶりで起こしてくれた。


にゃあ、ぢょうも、なりぎゃとうごだいまふ


降りるとき、ゴキブリが優しい声で「気をつけてな」と言った気もしたが、きっと空耳だろう。



プレゼントは、三面鏡の付いた豪華な化粧ボックスだった。
誕生日のメッセージカードもついていた。


「あなたが生まれたことを 喜ぶ人が あふれています
 僕たちは あなたの友だちだ いつまでも
 おめでとう」

(さすが、コピーライターだ)




ゴキブリと美女の優しさに、娘とふたり、涙した。




2014/07/05 AM 07:36:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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