Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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誕生日サプライズ
半年ぶりの中央区京橋。

ここには、友人のウチダ氏の事務所があった。
ウチダ氏は、イベント会社を個人で運営し、いつも忙しくベーエンベーを乗り回している男だ。

そして、私は何故か、その事務所の鍵を預けられていた。

だから、当たり前のように、侵入できた。

今回も侵入して、冷蔵庫に格納されたスーパードライを手に取った。
さらに、ウチダ氏の事務所には、40インチの亀山モデルがあった。

そこで、私は録画した「安堂ロイド」のブルーレイを観るのだ。
6話まで観たので今回は7話を観た。

柴咲コウ様、お美しや………(拝)。

本心を言えば最終回まで観たいのだが、この日は他にやらなければならないことがあった。

去年の11月25日。
私の誕生日に、ウチダ氏が、彼の事務所でサプライズを仕掛けてくれた。

そのお礼に、ウチダ氏の誕生日である4月28日に、サプライズを仕掛けようと思ったのだ。

ウチダ氏は、出来る男だ。
一人で何種類もの仕事をこなし、確実に仕上げることが出来る男を世間では「出来る男」という。
彼はまさしく、その典型だ。

ウチダ氏は、私より5歳年下だが、私は彼のことを尊敬している。

同じように「出来る男」に、極道コピーライターのススキダがいるが、私はあいつのことは1ミリも尊敬していない。
むしろ早くブタ箱に行ってくれないか、と思っている。

あんなやつを世の中に飼っておくのは、腐ったカルピスを2日続けて飲んだあとのような不快感しかない。
早く駆除して欲しいと思う。

その点、ウチダ氏は、イケメンで性格もいい。
ウチダ氏と福山雅治氏を比べたら、もちろん福山氏の方が総合力では勝るが、私が抱かれたいのは、ウチダ氏の方だ(ホ、ホモ?)。

しかし、ウチダ氏の最大の欠点は、私に仕事を回さないことだ。

以前、ウチダ氏が、こんなことを言っていた。
「ボクは、仕事のできる人にしか仕事を回さないんですよね」

直球過ぎるご意見に、私は、ハハハ、と笑うしかなかった。


そのウチダ氏の誕生日。

私は、あるサプライズを考えた。
だから、彼の事務所に侵入したのだ。

まず、冷蔵庫にあるクリアアサヒ16本とスーパードライ14本を取り出した。
そして、それをベランダに置いてあった大きいクーラーボックス2つの中に格納した。

このクーラーボックスは、おそらく釣り用のものだろう。
若干の生臭さが残っていたが、そんなことは、知ったこっちゃない。

ビールを格納した後、冷蔵庫にあった数種類のチーズをボックスにバラまいた。
そして、その上に、コンビニで買ってきた大量の氷をバラまいた。

これで、腐ることはないはずだ。

冷蔵庫が空になった。

それだけでは、たちの悪い嫌がらせになるので、その冷蔵庫に、私は、1967年産、1998年産、2001年産のワインを置いた(3万円近くの出費だった)。
ウチダ氏の奥さん、二人の子どもの誕生年のワインだ。
ウチダ氏の誕生年の1962年産のワインもあったのだが、高くて破産しそうになったので、これは断念した。

誕生日カードはないが、私からのプレゼントだということは、すぐにわかるだろう。
彼の事務所に侵入できるのは、私の他に、ウチダ氏の愛人50人だけだからだ。

そして、テーブルには、家から持参した空のクリアアサヒの缶(持ってくるのが大変だった)8個と今日飲んだスーパードライの缶2つを置いた。
私が飲んだのがわかるように………。


ウチダ氏は、毎日のルーティンとして、夜の6時から7時の間に事務所に戻るというのを以前聞いたことがあった。
出来る男のルーティンは変わらないはずだ。

しかし、余裕を持たせて、私は5時過ぎにウチダ氏の事務所をあとにすることにした。
そのとき、なぜかスーパードライの500缶2本がマイバッグに入っていることに気づいたのだが、それは気にしないことにした。


家に帰ったのが6時半過ぎ。
その4分後に、ウチダ氏から電話がかかってきた。

「プレゼント、ありがとうございます」と言ったあとで、「でも」とウチダ氏が言った。

「Mさん、幼稚すぎますよね。オレ10秒で、わかりましたよ」
ウチダ氏が得意げに言った。

「Mさんが、うちでビールを飲むとき、飲み終わったり食べ終わったものは、毎回必ず持ち帰りますよね。でも、今日は缶が10本残されていた。
Mさんなら、10本くらい飲めるでしょうけど、置き方が不自然でしたね。
だから、これはMさんが自宅から持ってきたものだと判断しました。
それなら、うちの冷蔵庫のビールはどこにいったのかと考えたとき、答えは簡単に出てきました。ベランダのクーラーボックス。それしか、ありませんもんね」

さすがだな。
名探偵コナン。
またの名を工藤新一。

見事だ。

「まあ、仕掛けは幼稚だけど、ワインは嬉しかったですよ。家内と味わって飲むことにします」

それは、何より。
お役に立って嬉しいですよ。

しかしね………と、私は心で呟いた。
実は、ウチダ氏が、今日の仕掛けを見破るのは簡単だと、私は想定していたのだ。

だから、もう一つの仕掛けを考えていた。

江戸川コナン君。
君も、そこまでは見抜けなかったであろう。
その仕掛けが、もうすぐ始まるはずだ。

そう思っていたら、TVドアフォンの音が受話器越しに聞こえた。

じゃあ、またな、と言って電話を切った。


6時50分に、ウチダ氏の事務所で仕事の打ち合わせをする、とススキダに伝えていたのだ。
打ち合わせの他に、その日は、ウチダ氏の誕生日なので、プレゼントを持ってこい、オレも持っていくから、とススキダに伝えてあった。

几帳面なススキダは、おそらく約束の時間10分前に来るであろう。
ウチダ氏が、その時間よりあとに帰ってくることも考えられたが、ここは賭けるしかないと思った。

その賭けは当たって、ウチダ氏は6時35分頃に帰り、ススキダは40分に訪問した。

事実を知って、ススキダは怒るだろうが、その辺は、ウチダ氏がうまくなだめてくれるに違いない。


夜8時過ぎ、ススキダから2回電話があったが、無視した。

2回目の電話のとき、留守電が吹き込まれていた。


「今度会ったときは、殺す!」



殺されるのは嫌なので、ススキダとは2度と会わない、と心に決めた。





2014/04/30 AM 06:31:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

ヒーローの苦笑い
前回、中野の写真館に行ったことを書いた。

その後、昼メシを食ったあとで、クロサワ夫妻と別れて、私は古い友人の尾崎のマンションを訪ねた。
友人は、中野駅近くのマンションに住んでいた。

尾崎が、警察に捕まりそうになったという電話が、3週間前の土曜日の夜、妻の恵実からかかってきたのを思い出したからだ。

尾崎は、死神のような顔をした陰気で貧相な男だが、喧嘩はめっぽう強かった。
「一度も負けた記憶がない」と豪語していた。

私は、過去に2度尾崎の武勇伝に遭遇したことがある。

1度は、15年ほど前、渋谷区宇田川町のバーで飲んだ帰り道だった。
20代半ばの柄の悪い連中に因縁をつけられたのだ。

おそらく「親父狩り」だったのだろう。
金を要求された。
相手は6人。

勝ち目がないと思った私は、最悪の場合は、尾崎を置き去りにして逃げようと、半身になって、逃げる体勢を取った。
逃げ足の速さには、自信があった。

しかし、その準備は不要だった。
尾崎が、5分も経たずに、相手を倒してしまったからだ。
6人のうちの5人が鼻血を出したり、口から血を流したりしていた。
残りの一人は、逃げ腰で、戦意喪失していた。

尾崎は、170センチ50キロ程度の細身である。
そして、格闘技の経験も、ほとんどないという。
運動を専門的にしたこともない。

だが、喧嘩は「度胸」なのだろう。
尾崎は、相手と向かい合うと、まったくためらうことなく、突進していくのである。

相手は、機先を制されて、完全に後手に回る。
人間のほとんどは、受け身に回ると弱い。
精神的に、追いつめられてしまうからだろう。

尾崎は、考える隙を与えずに、その相手を打ちのめすのだ。
容赦がない。
その姿は、死神というより「殺し屋」だ。


2度目は、中野の居酒屋だった。

尾崎が醸し出す怪しい空気は、チンピラのアンテナを刺激するらしく、よく絡まれることがあった。
そのときも、2人組のチンピラ風の男が、「おじさん、俺たち金がないんで、奢ってくれないかな」と絡んできた。

私はまた、逃げる体勢を取った。
椅子から少し腰を浮かせた。

すると、尾崎がすぐに立ち上がって、低い声で「どこの組のもんだ?」と睨んだのである。

コスメ・ショップ2店とスタンド・バーを経営している男の顔ではない。

その姿を間近に見て、チンピラは尾崎の迫力に飲まれたのだろう。
顔面を蒼白にして、口をパクパクと動かした。

尾崎が言う。
「俺を知っているか?」

チンピラ二人は、首を横に振ったまま、後ずさりし、5千円札をカウンターに放り投げて、逃げていった。

完全に気合い負けである。


その尾崎が、警察に捕まりそうになったという。

面白いではないか。

だから、後日談を聞こうと思った。

5歳の水穂と2歳の里穂が、出迎えてくれた。
50過ぎに出来た子ども。
尾崎の妻の恵実は、おそらく今年41歳になるはずだ。

尾崎には、先妻との間に24歳になる娘がいたが、複雑な家庭事情を書く趣味はないので、それはやめておく。

二人の子どもを膝の上に乗せながら、聞いた。
結局、捕まらなかったのか。

「捕まって欲しかったような言い方だな」
尾崎が苦笑いで答えた。

あれだけ喧嘩しといて、前科がないってのは奇跡だからな。
そろそろ、おまえにも天罰が下ってもいいんじゃないかって、思ったんだが。

ダッフィー、シェリーメイの刺繍が施されたエプロンをつけた恵実が、長い黒髪を妖艶になびかせながら、チーズの盛り合わせがのった皿を持ってきて言った。
「まわりの人が証言してくれて、お縄になるのは免れたんですよ」
古くさい表現で笑った。

「お縄になるって、な〜にぃ?」
水穂が、鼻歌を歌うような調子で聞いた。

大人の人に、お尻を叩かれるってことかな。
嫌だろ、お尻を叩かれるのは?

「叩かれたことがないから、わからな〜い」と水穂。

そうか、いい子なんだね。
じゃあ、これからも叩かれないようにしないとね。

尾崎は、苦笑いで、私たちの会話を聞いていた。
尾崎は、一生に何度苦笑いをするのだろうか。
もう普通の人がする苦笑いの数を何百倍も超えているはずだ。

しかし、尾崎ほど苦笑いの似合う男を私は知らない。

そして、その顔は悪くない。


尾崎に聞いても答えないだろうから、恵実にことの顛末を聞いた。

土曜の夜(4月5日)、井の頭公園に、花見に行ったとき、隣に4人組の若い男がいたらしい。
騒がしい男たちだったという。

要するに、たちの悪い酔っぱらい。
まわりの誰もが、眉をひそめていた。

そばを若い娘が通ると卑猥な言葉を投げかけ、気弱そうなサラリーマンが通ると、竹刀を振り回して威嚇したという。
日本酒の一升瓶をラッパ飲みして、まわりに吹きかけることもあったらしい。

つまり、犯罪者予備集団と言っていい。

軽薄で、人間として、完全にバカだ。

自分の子どもがそばにいるので、尾崎は、静かに酒を飲み、恵実の作った弁当を食っていた。
自分に火の粉が降りかからない限り、静観するつもりだったのだろう。

しかし、とうとう調子に乗った相手が、尾崎の領土を侵食しようとした。

「おじさん、なんか、暗い顔してるよね。つまらないんだったら、俺たちのところに来なよ。楽しくしてあげるからさ」
いきなり、尾崎の手を掴んだというのである。

尾崎は、目で恵実に合図を送り、子どもたちを遠ざけようとした。

しかし、男4人が、それを許さなかった。
恵実に、立ちふさがった。

バカも、ここまで来ると天然記念物だ。

恵実は、合気道の心得があった。
だから、子ども二人を抱え、バカの壁をいとも簡単に脱し、安全圏に逃げることが出来た。

あとは、尾崎である。
尾崎は、珍しく自分から仕掛けることをせずに、相手の動きを待った。

相手が酔っぱらいだから、真剣に対応しなくてもいい、と思ったのだろう。
相手の突進を足で払うだけにした。

転がる4人。

しかし、この4人は、思いもしないことをした。
携帯で警察を呼んだのだ。
「乱暴な酔っぱらいがいます!」

そして、すぐに近くをパトロール中の警官が来て、尾崎を連れて行こうとした。
だが、まわりの人が証言してくれて、逆に天然記念物4人が、お目玉を食らったらしい。

わかりやすいほど大人しくなった4人は、すぐに退散した。

そのあと、まわりの人が、尾崎に拍手を送った。

訳の分からない里穂も、奇声を上げて拍手をしていたという。


で………どうだった。
ヒーローになった気分は。


私が聞くと、尾崎は「俺は、恵実、水穂、里穂だけのヒーローでいい」と、苦笑いで答えた。



その尾崎の苦笑いを見たとき、尾崎は、俺にとってもヒーローなんだと思った。




2014/04/25 AM 06:35:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

現実逃避で熱海
現実逃避をした。

オンボロアパートのオーナーに呼ばれて、東京荻窪の事務所に伺った。
オーナーは、都内に美容院と理髪店を数店持っており、武蔵野のオンボロアパートの他に、おしゃれなアパートを所有していた。

要するに、お金持ち。

それだけで罵ってもいい類いの人種だが、今回は仕事をいただきにきたので、罵ることは控えた。
仕事は、美容院、理髪店の単価表を「価格プラス税」に改訂するというものだった。

とっくに増税は始まっているのに、なんとノンビリしたお方でしょう。

こんなことを言っては失礼になるが、たいした仕事ではない。
2時間もあればできる仕事なので、明日持ってきますから、と言ったら、「いやいや、そんなに急ぎませんよ。ボク明日から二日間ゴルフなんで、来週でもいいですよ」と、鼻毛を抜きながら言われた。

そして、このオーナー様は、鼻毛を抜きながら、衝撃的なことを言うオッサンだった。

「あのね、今度あなたのアパートを壊して、分譲地にしようと思っているんですよね」

ノドン並みのミサイルを落としてきたのである。

我が一家の住むアパートを潰してしまうという宣戦布告だ。
年内に潰すことを不動産屋と協議中で、来春に4区画の分譲地にするというのである。

え? 俺たちは、どうすればいいんでしょうか?

「もちろん、引っ越し代や、引っ越しに伴う敷金礼金は払うし、2ヶ月分の家賃もお支払いしますよ」

いや、しかし、今のように4つの部屋がついて、11万の家賃で済むというわけにはいきませんよね。

今の家はオンボロだが、我が家族は1階の2DKと2階の2DKをお借りして、変形メゾネットのような形で使わせていただいている。
「オンボロ」であるが、4つの部屋を快適に使い、そこそこ広い庭もついているのだ。
満足していた。

同じ条件で、武蔵野にアパートやらマンションあるいは一軒家を探すとしたら、おそらく20万近くかかるであろう。

そして、庭には、段ボールに勝手に住み着いた「セキトリ」という名の野良猫もいる。
彼を路頭に迷わせるわけにはいかない。

それに、高齢の母が、オンボロアパート近くのワンルームマンションに住んでいる。
それをどう対処したらいいか。

どうしよう。

そう言ったら、オーナーは「耐震の問題もあるから、あのアパート心配だったんですよね。いわば、来るべき大震災に備えてのものだからね。まあ、まだ時間があるんだから、ノンビリ考えれば」とノンビリとした口調で言うのである。


これは、仕事どころではない。

私は、ミスター・パニックになった。


だから、私は現実逃避をしたのだ。

そのまま東京駅まで行き、新幹線に飛び乗った。
そして、熱海で下車。

駅前の案内所で、日帰りできる温泉旅館を探してもらい、海沿いのホテルにゴーした。

チェックインして、すぐに浴衣に着替え、パノラマ温泉にゴー。
一風呂浴びてから部屋に帰って、窓の外に広がるパノラマの海を見ながら、豪華海鮮料理をいただいた。

25歳4ヶ月くらいのキビキビとした動きの仲居さんに、お世話を受けながら、昼メシを食った。
マグロの赤身、イカ、タコ、ハマチ、鯛の刺身は、濃厚な味わい、歯ごたえも充分で美味かったですぞ。
精進揚げ、蟹味噌グラタンは、当たり前の味だったが、風景がプラスされるので、箸が進んだ。

シジミの味噌汁も、素朴な薄味で美味かった。
ただ、おそらく何かのテリーヌだと思うが、気取ったつもりが強すぎて、前菜にも何もなっていなかったので、これはひと口で拒否。

白飯は、かなり美味。
鼻を通る香りが上品で、私が米を食うときに気にする歯触りも最適。
(私は、ベチャベチャのご飯を出されたらテーブルをひっくり返すという特技を持っている)
これは、当たりだった。

「これから、どちらに?」とキビキビした仲居さんに聞かれたのだが、もう一度風呂につかって、東京に帰ります、と言ったら、「あらあ、お忙しいんですね」と、軽い変顔とともに小さくのけぞられた。

その姿が可愛かった。

その仕草だけで私の中では、百点!

ノンビリ屋の我が息子のお嫁さんに最適なのではないかと、名前をチェックした。
息子のお嫁さんになってくれれば、毎日顔を見られるし(下心あり?)。

二度目の風呂上がりに、腰に手を当てて、瓶のキリンラガーをラッパ飲みしていたとき、iPhoneが震えた。
ディスプレイを見ると、ポニーテールさんからだった。

「あのさあ、キリンおやじ。結婚式、終わったよ」という、熱海の温泉にはふさわしくない電話だった。’

これには、多少の説明がいる。

ポニーテールさんというのは、一昨年、横浜根岸の森林公園で出会った女の子で、ランニングが縁で仲良くなり、奄美大島に住んでいる彼女のご両親に代わって、私が東京での親代わりを務めていたのだ。

そのポニーテールさんは、背の少し小さい横浜戸塚に住む男と昨年末婚約し、今年の4月半ばに結婚式をあげたのである。
最初は、私も招待されたのであるが、まったく意味不明の私のポジションを結婚式に列席される方が理解されることはあり得ないと考え、私は辞退したのだ。

おそらく、結婚式の報告だけはしておこうと、ポニーテールさんが電話をしてきたのだろう。

そのポニーテールさんが言う。

「キリンおやじ、前からの約束通り、キリンおやじだけのために結婚式をやるからさ。あさって、吉祥寺の第一ホテルの前に立っていてくれない? 旦那と車で迎えにいくから。普通の恰好で来てよね」

旦那?
なんか、生々しいな。
あのちっこい男が、旦那ですか。

まあ、性格がいいから、文句はありませんがね。


昨日12時、第1ホテルの前で立っていたら、ポニーテールさんがダッシュで現れて、ダイハツ・ムーブに拉致された。

結婚おめでとう、と豪華12,960円(税込み)のブーケ(ブリザーブド・フラワー)と「大人のチェキ」とフィルム5パックを渡したら、ポニーテールさんが泣き崩れた。

いや………、泣かすつもりはなかったんですけど。

旦那のクロサワも泣いていたが、私は男の涙には興味がないので、見ないふりをした。


連れて行かれたのは、中野の写真屋さん。

ここで、一緒に写真を撮るというのである。
ポニーテールさんは、薄いピンクのロングドレス。
クロサワは、モーニング。

そして、俺は………?

渋い茶のスーツだった。

思いがけなく体にフィット。
そう言えば、一ヶ月ほど前、「キリンおやじのサイズを教えてよ」という唐突な電話が、ポニーテールさんからかかってきた。

身長やら、肩幅やら、スリーサイズやら。
それを告げたとき、「おまえ、そんなにガリガリで、よく生きているなあ」と、おまえ呼ばわりされた。

そう言えば俺、ガリガリ君を一度も食ったことがないな、共食いだからな、と呟いたら、「それ、ちっとも面白くないよ」と全否定された。

そう言われて、一ヶ月間凹んでいたのだが、この日、スーツを着てみて、ああ、このことだったのかあ、と納得した。


三人でカメラに納まった。

ポニーテールさんとクロサワが前で、私はまるで、親のようなポジションで後ろで恰好をつけた。

ポニーテールさんは、155センチ。
クロサワは160センチそこそこ。

その後ろに、180センチの私が立つと、まるで「進撃の広島」のように見える。
(もちろん、広島ではないのだが、私はどんなシチュエーションでも、某大新聞社の所有する野球集団の名前を出したくないので、このような表現になった)


普段化粧をしないポニーテールさんは、平均的な顔だが、表情が生き生きしているので、8パーセント分くらいは、可愛い種類に分類していいか、という程度である。

だが、プロの方の手で、化粧を施されたポニーテールさんは、目鼻立ちくっきりの卒倒するほどの美人になって、私は化粧の怖さを実感した。

化け過ぎだろう。

しかし、そう思いながらも、まるで自分の娘の成長を見るようで、私は不覚にも泣いてしまったのである。

私が泣くとポニーテールさんも泣く。
さらに、鬱陶しいことに、旦那のクロサワも泣いた。


なんだ! この光景は!


そして、恐怖を感じながら、思った。

これが我が娘の結婚式だったら、俺はどうなってしまうのだろうか…と。




現実逃避をして、私はきっとまた、ひとりで熱海に行くに違いない。




2014/04/20 AM 06:59:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

ハグレもの
母から、感心された。

89歳になる高齢の母は、昨年まで一人で川崎新丸子に住んでいたが、昨年の初夏、体調を崩したこともあって、秋に東京武蔵野の我がオンボロアパート近くのワンルーム・マンションに越してきた。
バリアフリーの高齢者に優しいマンションだ。

そこで、週に4回ヘルパーさんに来ていただいて、穏やかに暮らしている。

メシは朝晩の分を、私が一週間分をまとめて作って冷凍しておく。
それを母が、食べたい時間にチンをして食べる。
(掃除洗濯は、週に2回ヨメが通ってしてくれている)

近くにいるのに、その程度のことしか出来なくて申し訳ない思いをしているのだが、母は、いつも感謝の言葉を述べた。

そして、こう言うのだ。
「あなたは、父親と姉が、『あんな風』だったのに、よく『まとも』に育ったわね。感心するわ」

これについては、説明がいる。

死んだ私の父は、一流会社に勤めていたが、稼ぎを一銭も家に入れない放蕩親父だった。
死んだ姉は、高校卒業後40年近く家に引きこもっていた、「元祖引きこもり」だった。
つまり、二人とも、「自分だけが可愛い」人種だった。

要するに、母は、世間の常識から大きく外れた人を比較の対象にしているのである。
あの二人と比べたら、どんな人でも『まとも』に見えるに違いない。

冷静な目で見たら、私など『ハグレもの』でしかない。
そして、絶えず人とは違うことをやろうとする人格破綻者だ。

ただ、世の中にはボランティア精神に溢れた人がいて、こんなハグレもの相手でも、誠実に付き合ってくれる人がいる。

大学時代の友人、長谷川もその一人だ。
長谷川は、いま中堅企業の社長様をしているが、もちろん大学時代は社長ではなかった。
社長のご子息様だった。

私は世間知らずなので、世間一般の社長のご子息はみな、「どうせ性格の悪い我がままな坊っちゃん」だろうという偏見を持っていた。

しかし、長谷川は、人間臭い男で、誰に対しても穏やかに接し、人を決して傷つけない男だった。
彼がいたことで、私の大学生活は、情緒的に豊かになり、人格破綻者にはふさわしくない有意義な大学生活を過ごすことが出来た。

社長様になった長谷川が、会社内で、どんな評価を受けているかは知らない。
ただ、年に一度会うか会わないかの関係ではあっても、私の目の前の長谷川は、大学時代と同じ雰囲気を醸し出して、人格破綻者の私を友人として扱ってくれるのだ。

それだけでも、ありがたいことだ。

その社長様である長谷川が、電話口で言った。
「邦子が死んで3年になるよな」

これに関しても説明がいる。

邦子というのは、長谷川の1歳違いの妹で、同じ大学に通っていた。
彼女は、私の友人たち全員のアイドル的存在で、大学内で、私も親しい付き合いをさせてもらっていた。

邦子は、大学卒業後、兄である長谷川の仕事を手伝い、仙台支社の責任者として過ごしていたとき、東日本大震災に遭遇した。
そして、その年の6月に、過労で死んだ。

私の感覚では、「唐突の死」としか思えなかった。
しかし、もっと打ち拉がれたのは、長谷川の両親であり、長谷川だったろう。

私は衝撃だけですんだが、長谷川たちは、自然の理不尽さを存分に感じて、枯れるほどの涙を流したに違いない。

長谷川の妹が死んだとき、「妹を殺したのは、俺だ」とまで、長谷川は言った。
「俺に社長の資格はあるのか? 俺に人間の資格はあるのか?」と長谷川は、心から叫んだ。
震災後の会社の処理を妹に任せっぱなしにしていた自分を責めたのだ。

温厚な長谷川が取り乱す姿を私は初めて見た。
あたり構わず、という表現があるが、本当に彼は、まわりをはばからず、すべての感情を絞り出すように泣いた。

そんな姿を見て、友人である私は、同じように泣くしかなかった。


「この3年間……」と言って、絶句する長谷川。

同じ悲しみを共有できるのが、友である。
お互いの沈黙の中に、静かな涙があった。

熱い涙は、あのとき流したから、もう出ない。
いまは、静かな涙だけだ。

「あと俺に出来ることは、なんだろうな」
何かを吐き出すように長谷川が言った。

その「何か」とは、きっと「後悔」だ。

その後悔も私は共有している。

だから、それを探すのが、俺たちの役目じゃないのか、と答えた。

「一生かかっても、できないかもな」

できなくても、邦子は怒らないだろうよ。
彼女の怒った顔を俺は見たことがない。
おまえのやることは、邦子は何でも笑って受け入れたはずだ。

「だから、死んじゃったんだけどな」

ひきずるなよ。
ひきずるのは、ロングドレスの裾だけでいい。

「何だそれ!」

真面目な長谷川は、ときに冗談が通じないときがある。
人の言葉を真に受けてしまうことが多い。

しかし、気持ちの転換が早いので、相手を不快にさせることはない。
それは、大きな才能だと思う。

「そう言えば、去年の七恵の成人式で、七恵がロングドレスを着ていたな。あれは綺麗だった。邦子に見せたかったな」

これも説明がいる。

未婚の邦子には、養女がいた。
それが仙台の大学に通う七恵だった。

遠い親類の子だったが、驚くほど邦子に容姿と性格が似ていた。
血の濃い薄いは、心の通い合った親子には関係ないのかもしれない。

その七恵は、今年大学4年になる。

「俺の会社に入りたいって言うんだ。そして、邦子と同じことがしたいと……」

まあ、当然だろうな。
七恵の夢を叶えてやるのが、おまえの役目じゃないのか。
悩んでいたら、邦子が怒るぞ。

「おまえも、そう思うか」

俺は思わないが、邦子は思うだろうな。

沈黙のあと、長谷川が「おまえってやつは、まともじゃねえな」とため息をついた。

おまえは社長だから、まともじゃないと社員を路頭に迷わせる。
しかし、俺は家族全員が、俺がまともじゃないことを知っているから、いいんだ。

小さな沈黙のあと、長谷川が「今年の命日は、どうする」と聞いてきた。
邦子の命日のことだ。

無駄なことを聞くなよ。
俺には、関係ないだろ。
弔うのは、親しい人だけでいい。
それが、常識じゃないのか。

「おまえの常識は、世間の非常識だけどな」

じぇじぇじぇ、今でしょ、おもてなし、フナッシー、と言ったら、「フナッシー以外は、去年の流行だな」と、珍しく長谷川がツッコミを入れた。

弔うのは、おまえの役目だ。
俺は、何もしない。

「あくまでも恰好つけるんだな」

カッコつけてるわけじゃない。
俺には、資格がないんだ。

「でも毎年、墓に花を手向けてくれているんだよな」

それは、きっと別人だろう。
俺に似たまともな誰かだ。

苦笑いを含んだ声で、長谷川が「法事をやる」と言った。
「来て欲しいが、無理強いはしない。気が向いたらでいい」

気が向くのは、リンゴを剥くより難しいな。

長谷川が、私の戯れ言を無視して、「七恵がな」と言った。
そして、絶妙な間のあと、「邦子に、ますます似てきたんだよ。話し方も仕草もな。血の繋がりは薄いのに、こんな奇跡ってあるんだな」と生な息づかいを含んだ声で言った。

「邦子の魂を感じるんだな。最近の七恵を見ていると。それが、俺は………嬉しい。そして、悲しい」
最後の方は涙を含んでいるように聞こえた。


その長谷川の言葉を聞いて、法事にいってみようか、という気になった。

だが、口では逆のことを言っていた。

俺は、行かないだろう。
うん………行かない。



こんなとき、自分のハグレものの血が、嫌になる。




2014/04/14 AM 06:39:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

どうでもいいこと
先週の火曜日、娘の大学入学式に行ってきた。

世間では、親が大学の入学式についていくなんて、なんて親バカなんだ、と非難する人が多い。

そのことに関しては、私も同意する。
だが、私は子どもが産まれたときから「バカ親」だったので、途中で「バカ親」を辞めるわけにはいかない。
だから、人から親バカと言われようが、「バカ親」の看板を下ろすつもりはない。

それに、一生に一度の娘の大学入学式に行かないなんて、俺は何のために彼女の親になったのかわからないではないか。
(朝、初めての化粧に1時間もかかった姿は、初々しかった)

まあー、クソつまらない入学式だったが、これがないと大学生活が始まらないのだから、我慢するしかない。

ところで、最近は、入学試験についていく親も多いと聞く。
それに対しても、親バカという批判があるが、別にいいのではないかと思う。

私は、子どもの入学試験についていったことはない。
(いや、嘘です。息子の高校受験のときは関東地方に大雪が降ったので、ノンビリ屋の息子が道に迷わないように、一度だけついていった)
ただ、親が行っても、何の助けにもならないと思うから、基本的についていかないというスタンスを取った。

だが、心配な親は、行っても構わないと思う。
親が、自分の子どもの役に立ちたいという思いまで批判するのは、ただのクレーマーだ。

そして、それは、どうでもいいことでもある。


どうでもいいこと………と言えば、こんな話を人とすることはないだろうか。

同業者との飲み会で、何度か「目玉焼きは醤油をかけるかソースか」という話題が出たことがある。
「醤油でしょう」
「いや、ソースですよ。ソースの方が味がしまります」

どうでもいい。

ただ、ちなみに私は、(小声で)塩ですけど………。


ラーメンは、何派? というのもある。
「王道は、味噌ですよ」
「いや、最近のとんこつの美味さは、神ですよ」
「醤油を忘れていませんか?」

どうでもいい。

ちなみに私は、(小声で)塩ラーメンが好きです。


どうでもいいと言えば、こんな話もある。

埼玉に住んでいた頃、お世話になった印刷会社の社長からよくカラオケに誘われた。
しかし、私はカラオケは家族としか行かない。
だから、いつも断っていた。

しかし、社長は言うのだ。
「カラオケに行かないなんて、人生の9割は損してるよ。もったいないなあ!」

いや、むしろ、あんたの歌なんか聞いたら、人生の10割は損するね、と心では思ったが、私は大人なので、「9割ですか、8割に負けてもらいませんか、ハハハ」と痛々しいジョークで、いつも逃げていた。


話変わって、昨日、新宿御苑そばの得意先に行って、仕事をいただいてきた。
日本に長く住んでいる各国の外人さんの滞在記をまとめた本を出すという企画で、本の装丁デザインを依頼されたのである。

装丁は、何度かしたことがあるが、はっきり言って苦手だ。
最高で14回やり直しを命じられたことがある。
だが、最後に褒められたとき、これだから、フリーランスは辞められないな、と感激した。

だから、今も続けていられる。

仕事をいただいた帰り道、喉が渇いたので、友人と一度だけ入ったことがある居酒屋に立ち寄った。

店内は、黒を基調とした壁や床で、カウンターと椅子は、焦げ茶の木だった。
その中に4つの観葉植物が配置されていた。
黒の背景と間接照明。
その中で、観葉植物が浮かび上がって見える様子は、シュールで良かった。

L時型の15席程度のスペースも丁度よかった。
壁にかかっていたお品書きの書体が踊るような個性的な字で、それもよかった。

以前来たときも、控えめにマーラーの曲がかかっていたが、今回もマーラーだった。
交響曲第2番 ハ短調「復活」。
店の黒の色調に、合っていると言えば言えた。

5時40分頃だったが、先客が二人いた。
サラリーマンではないように思えた。

おそらく、旅行者ではないだろうか。
言葉に、訛りがあった。
ただ、どこの出身の方かは、わからなかった。
年齢は、40代だろうか。

生ビールを頼んだ。
突き出しが出された。
ピーマンのおひたしだった。

ビールを飲むつもりで入ったので、食う方はどうでもよかったのだが、一応、ジャガイモの甘辛煮を頼んだ。
以前来たとき、素朴な味に心打たれ、何度も噛んで、その味を盗もうとしたことがあったからだ。
完全に盗めなかったので、今回再チャレンジをしようと思った。

数度噛んで思った。
これは、砂糖の種類が違うのではないか。
黒砂糖系を使っているのかもしれない。

どうでもいいことだが。

そんな風に味を噛み締めていたとき、客の二人が、「焼き鳥談義」を始めているのが耳に入った。
「焼き鳥は、なんこつだろ」「いや、レバーだ」「砂肝と皮もいいな」「最後は、ハツかささみだな」

この居酒屋のメニューを見ると、焼き鳥はない。
それなのに、焼き鳥の話題で盛り上がるなんて、羨ましいほど自由な客だな。
すぐ近くに、焼き鳥屋さんがあるのに………。

そして、二人が、厨房の大将に「大将は、どの焼き鳥が好き?」と聞いた。
大将は、そっけなく「俺、焼き鳥食べないんですよ」と答えた。

おそらく会話に入るのが、面倒くさかったのだろう。
下を向いて、口先だけで答えていた。

そのとき、二人が言ったフレーズ。

「えー! 焼き鳥を食べないなんて、人生の9割を損してるよ!」

その言葉に対して、大将は「でも、まだ1割残っていますよね。僕は、その1割を大切に使いますから」と答えた。

なかなかいい返し方だな、と思った。
私の苦し紛れのジョークより、41万倍いいと思った。

ハハハ、と笑った。

その笑い声を聞いて、二人が「おたくは、何が好き?」と話を振ってきた。

私は「おたく」という姓ではない「ヲタク」だが、急に話を振られて、うろたえた。
咄嗟に、いや、俺は、焼き鳥は食わないんですよ、苗字が「鳥」というもんで、鳥にはシンパシーを感じているんですよね、と答えた。
答えながら、自分でも何をバカなこと言ってるんだと思った。
誰が聞いても、嘘丸わかりの話ではないか。

しかし、二人は食いついてきたのである。
「え、『鳥』さんっていうの? 初めて聞いたよ。どこの人?」

エー……………………、親が代々、目黒の「大鳥神社」の宮司を務めていまして………(嘘丸わかりの苦しさ)。

「え! じゃあ、おたくも、そこで宮司をやるの?」

食いつきが、異常に早かった。

言うんじゃなかった、と反省した。
しかし、私の口は、勝手に出任せを放り出すのである。

いや、俺は10人兄弟の末っ子だから、神社を継ぐことはないんですけどね。

「えー! 10人兄弟!? 今どき珍しいよね!」

また、食いつかれてしまったぁ!

あーーーー、面倒くせえな、と思った私は、ジャガイモの甘辛煮を高速で食い終わりながら、ジョッキを飲み干し、大将に、お勘定を、とお願いした。

席に座って、17分しか経っていなかった。


逃げるように、居酒屋をあとにした。

何のために、居酒屋に入ったのやら………。

猛反省していたとき、声が聞こえた。

「『鳥』さ〜ん。忘れ物ですよー!」
振り返ると、大将が走ってくる姿が見えた。
右手には、大きな封筒を持っていた。

得意先から預けられた原稿が入った封筒だった。



危ないところだった。
原稿を忘れるなんて………。



「トリ」返しのつかないところだった。




2014/04/08 AM 08:41:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

さらけ出した日
テクニカル・イラストの達人、アホのイナバが持って来た同人誌の仕事が終わった。

極道コピーライター・ススキダからもらう、レギュラーの輸入雑貨店のPOPの仕事も一段落。

稲城市の同業者から来たトレースなどの大量の仕事も、今年大学1年になる娘のサポートがあったので、無事終わった。

とりあえずある手持ちの仕事は、浦和のドラッグストアの毎週の仕事だけとなった。

すこしだけ、力が抜けております。
小金井公園までランニングしようかな。
完全に春の陽気だし。

などと天使の時間を過ごそうとしていたとき、悪魔から電話があった。

WEBデザイナーのタカダ君(通称ダルマ)からだった。

「師匠! 大変なんで、フィニッシュをお願いします!」

何が大変なんだ、痔が悪化したのか? フィニッシュとは、つまり痔がフィニッシュしたんだな。

「子育てが大変で大変で、死にそうなんです!」

死んでもいいんだが。

「幼い子どもが二人いるんです! いま死ぬわけにはいきません」

じゃあ、頑張れ。

「だから、頑張るためにも、フィニッシュをお願いします。ホームページは7割方出来ているので、あとは師匠のお力で、俺に頑張る力を下さい!」

しかしなあ、俺が若い頃はディープな子育てをしながら満員電車に揺られて、フルに働き、Aカップの貧乳で二人の子どもを育て上げたのだぞ。泣き言を言うのは早すぎるだろう。

「師匠は、世間の常識から大きく外れていますから参考になりません」
「だって、この間、出産祝いを持ってきてくれたとき、ウィスキーを丸々1本飲んだあとで、1時間眠り、起きてすぐトモちゃん(ダルマの奥さん)が作ったカツ丼と揚げ出し豆腐を食べながら銀河高原ビールを飲んだじゃないですか。
年々バージョンアップしてますよね。トモちゃんが『超人』だって言ってましたよ」

それは、中途半端に残すとタカダ君に、残りのウィスキーを飲まれるのが嫌だったからだな。
それに、トモちゃんの作る料理は、プロ級だから食わなかったら悔いが残る。
さらに、目の前に大好物の銀河高原ビールを出されて飲まなかったら、俺は、どんな言い訳を銀河高原ビールにすればいいんだ?
失礼過ぎるだろう。

「まあ、無駄口は、それくらいにして」とダルマに完全にあしらわれ、急ぎのフィニッシュをすることを約束させられた。

「大変ですから、ギャラはほとんど差し上げますので」と言われて頬が緩んだが、残りの3割をしただけで全額のギャラをもらうわけにはいかない。
だから、3割プラス銀河高原ビール1ダースという提案をした。

「わかりました」とダルマが事務的に答えた。


最近の私は、あらゆる人から自分の性格を読まれ、完全に踊らされているような気がする。

「大変だから、これは頼めませんよね」というキラー・フレーズが相手の口から発せられたとき、私は反射的に、全然大変じゃないですよ、と答えてしまうのだ。

たとえば、アホのイナバに、「同人誌の仕事、毎回毎回代筆するなんて、大変でしょう? 今回は無理ですよね」と言われると、いやいや全然大変じゃないよう、と答えてしまうのだ。

稲城市の同業者に、「トレースが凄い量あるんですが、毎回毎回Mさんに頼むのは申し訳ないですよね。大変ですもんね」と言われたとき、いやいや俺は大変なんて思ったことはないよ、と毎回答えてしまう俺。

ススキダに、「これはボリュームのある仕事だから、おまえが忙しくて『大変』なら、仕事は他に回してもいいんだぞ」と言われた場合、殺人的に忙しくても、まあ……それくらいは、何とかなるかもな、と私は条件反射的に答えてしまうのだ。


今回のダルマも、おそらく私のそんな性格を読んで、大げさに「大変!」と言ったのだろう。

ただ、大変とは言っても、丸二日の猶予をいただければ、大抵の仕事は何とかなる。
初めての仕事をするわけではないのだ。

最終納期を確認しながら作業を始めた。
やりはじめて、真面目にやれば、これは10時間もかからずに終わる仕事だ、と判断した。

それなら、シャカリキになるほどではない。
だから、消費税が8パーセントに上がる前に、花小金井のスーパー銭湯に行く余裕があるのではないかと思った。
忙しくて、2週間行っていなかった。
スーパー銭湯に飢えていた。

「おふろの王様」の駐輪場に自転車を置き、小金井公園を10キロ走ったあとで、スーパー銭湯に潜入した。
4月1日からは、750円の入湯料が、800円に上がる。

行くなら………今でしょ!(古い?)

月曜日にスーパー銭湯に行くのは初めてだった。
大抵は、水・金のどれかだった。

多くの人は、自分のルーティンを持っているから、同じ曜日、同じ時間帯に銭湯に行くと、顔なじみに遭遇するというのは、道端でカレン、ジェシカ、アンジェリカに遭遇する確率よりも遥かに高い。

だから、水・金には、顔なじみがいた。
親しく話すことはないが、目が合うと目礼をすることはあった。

当然ながら、裸の人間は無防備である。
あるがままの姿で、全身をさらしたとき、虚勢など滑稽なだけだ。
気取っていても仕方がない。
裸のときは、心も裸にして、全身の力を抜いた方がいい。

まれに虚勢を張って、つま先立ちになりながら、肩を揺すって歩いている人がいるが、8億円を人様から借りて、熊手を買い、「これは陰謀だ」という人と同類にしか見えない。
憐れなものだ。

月曜日には、顔見知りはいなかった。
しかし、いてもいなくても、私は無防備だ。

全身をさらけ出して、湯に浸かり、サウナに入り、水風呂に入る。
そして、全身をさらけ出しながら、一旦脱衣場に戻り、日本人の99パーセントがやるように、腰に手を当てながら牛乳を飲んだ。

それから、戻って露天風呂を堪能し、ジェット風呂に身を委ねる。

一通りのルーティンを終えたら、駐輪場の一番片隅に停めた自転車の前かごから、保冷袋に入れたクリアアサヒの500缶を飲んだあとで、小金井公園で酔いを醒ますというのが習慣だったが、この日は、その習慣を破った。

食事処に入るという大それたことをしてしまったのだ。
3月の入金額が、いつもより多かったというのが、私の気を大きくしたのだと思う。

枝豆2皿、生ビール。

至福のとき。

何もかもを、さらけ出したあとのビールは最高だ。
これで、ダルマの仕事を頑張るパワーをもらった。

頑張りまっしょい!
と気合いを入れたとき、小学校高学年と思わしき女の子が、私の股間を凝視していることに気づいた。

嫌らしい目で見ているわけではない。
見てはいけないものを見てしまった目だ。
さらに、その延長線上に抗いがたい好奇心があった。

強烈な目で凝視された。

視線を我が股間に移した。

ジーパンのジッパーが全開だった。
(家ではパンツを履かないが、外では履く、という無駄な習慣を持っていてよかったと思った)



こんなところでも、さらけ出すなんて。


俺は、なんて無防備で、なんてお茶目なんだ!




2014/04/02 AM 08:37:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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