Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








58キロのアニキ
ラーメンは美味かったが、後味が悪かった。

静岡在住のチャーシュー・デブ社長のスガ君から、「久しぶりにラーメン同伴をしてください」というお誘いがあった。

デブと「ラーメン同伴」?
なんか、言葉の響きがイヤらしかったので、忙しかったが「2時間26分くらいなら、いいよ」とお誘いに乗ることにした。

いつもと同じように、年に5百杯はラーメンを食うというラーメン同伴デブが、店を探して、黒のベンツで私をエスコートしてくれた。
環七沿い、東京板橋のラーメン屋だった。

12時前に行ったのだが、行列はできていなかった。
スガ君に、ここ、人気があるの? と聞いたら、「コッテリ系の好きな人には、かなりあるみたいですよ」と言われた。

コッテリかあ……昨日の夜は、自家製串揚げを食って、食って、食って、死にそうになったからなあ。
ここで、コッテリ系ラーメンなんか食ったら、俺のポンポン大丈夫だろうか。

「大丈夫ですよ、Mさんの最後は俺が看取るって決めてますから」

いや、スガ君……それは、大げさでないかい?

「グハハハハハハハハハ」

笑って誤魔化された。


店内は、カウンター席よりもテーブル席の方が多いラーメン屋さん。
厨房を見ると、頭にハチマキ、眉間に皺。
意地でも笑わないと決めている、強面お兄さんが二人。

店員もハチマキ、黒の前掛け。
席に座るなり、「イラッシャイマセー!」と怒鳴られた。

スガ君が、しょう油豚骨を頼んだので、俺も同じもので、麺を固めにしてください、とお願いした。
すると、ハチマキ黒の前掛け兄さんに、「固め? うちは、麺は全部一緒ですよ。固めなんて、やっていませんから」と喧嘩を売られた。

そうですか、’他の店では、大抵は快く応じてくれるのだが、こちらは拒否ですか。
駅中の立ち食いそば屋でも、固めでお願いします、と言うと苦笑いしながら、オバちゃんが「いいわよー」と金歯を見せてくれるものだ。

何様だ。


以前、書いたことがあるが、私は柔らかい食い物は「病人食」と称して、忌み嫌っている。
ソバ、ラーメン、うどん、パスタ、ライスなど、すべて固くなくては、食う気がしない。
(カップラーメンなども指定時間の1分前に食うようにしている)

たとえば、肉や魚に関しても、固い方がいい。
よくグルメレポーターなどが、「この肉とろけるぅ〜」とか「大トロが口の中で溶けてなくなりました〜」と叫んでいるのを見るが、アホではないか、といつも思っている。

食い物は、歯と舌と喉で味わうものだ。
とろける食い物は、舌と喉では味わえても、歯で味わうことができない。

そんなもののどこがうまいんじゃい、と私は思っているのだ。

歯ごたえこそが、食の基本だ。

金払ってまで、病人食なんか食いたくないわい! というのが、私の見解だ。
(けっして病人食をバカにしているわけではございません。たったひとりの、オンリーワンの私個人の見解でございます)

ただ、そんな過激なことを怖そうなお顔の前で言えるわけもなく、しっかたねえか、と呟くしかなかった。

注文してから4分後、厨房の中で、派手な麺の湯切りパフォーマンスをしているところが見えたが、そんなときでも眉間に皺を寄せるのには、何か意味があるのか、とスガ君に問いかけた。

スガ君の答えは、明快だった。
「まあ、演出ですよ。自己満足です」

自己満足のラーメンが、ふたつ運ばれてきた。

食ってみて、味が悪いとは感じなかった。
スープは、確かにコッテリだが、口の中にいつまでも残るような重い濃厚感はなかった。
麺も柔らかすぎることはなく、かといって固くはないが、スープとのバランスは、悪くなかった。
麺が、スープと具材に、うまく絡んでいたと思う。

これなら、俺のポンポンも大丈夫そうだ。

予想外に良かったかもね、とスガ君に向かって呟いた。

スガ君は、汗だくになって完食し、水のお代わりを飲み干しているところだった。
そして、飲み干したあとで、「珍しいですね、Mさんが、そんなに素直に褒めるなんて」と笑った。

うまいものは、うまい。
だから、うまい棒はうまい。

「そうですよね。俺、うまい棒、大人買いして、大量にストックしてありますから。めんたい味とピザ味が、定番ですかね」

ラーメンだけでなく、うまい棒にまで手を広げるとは、さすがに金持ちは違う。

だから太るんだよ!
このチャーシュー・うまい棒デブめ!

私は、チャーシュー・うまい棒デブのように、スープを飲み干さない。
ラーメンに限らず、他の麺類のスープを飲み干したことが、おそらく一度もない。

塩辛いからだ。

我が家の場合、味噌汁は、自分で作っているから、塩加減を調節できる。
この程度なら、飲み干しても、他の料理の邪魔にならないな、ということを想定して作っている。

日高昆布とかつお節でダシをとって、絶えずキューブ状にして冷凍保存してある。
味噌も必ず減塩を使う。
それが汁のベースになるから、「味噌汁」というより味噌味の「出し汁」と言った方がいいかもしれない。
だから、口の中に塩辛さは、残らない。

しかし、金を出して食わされる汁物の多くは、飲み干すと塩辛さが口に残る。
それが、嫌だ。

だから、どんなに美味いラーメンのスープも、いい余韻で終わりたいために、必ず残す。

今回も残した。

食い終わって席を立ったあと、すぐ店員が器を片付けにきた。

そして、舌打ちをするように、小声で言ったのだ。
「残したのかよ〜〜〜〜何だよ〜〜」

麺を固めに、と言って断られたのも珍しい経験だったが、スープを残して舌打ちをされたのも初めてだった。

長年付き合っていて、私のこだわりを熟知しているスガ君は、このあとの私の行動が読めたのだと思う。
(自分で喧嘩を売ることはないが、売られた喧嘩は必ず買う)

だから、スガ君は、私の前でディフェンスをするように、でっかい体で私の自由を奪い、店員が片付けようとした器を横取りして、残りのスープを飲み干した。

そして、頭を低く下げ、ぶっとい腕で私を突っ張り、寄り切るように店の外に押し出したのである。
130キロ対58キロ。
一方的な負け相撲だった。

寒空の中で待つこと、4分55秒。

勘定を払うにしては、長過ぎるんでないかい。
そう思っていたら、スガ君が出てきた。

そして、あとから出てきた、頭ハチマキで眉間に皺を寄せた店長らしき人が、「今回は、ご迷惑をおかけしました」とスガ君に向けて、頭を下げた。
平身低頭、というのは、このことか、と思えるほどわかりやすい頭の下げ方だった。

きっとデブが、店長に対して、抗議したのだろう。
デブの貫禄と圧力は、半端じゃない。

私も、その暑苦しい圧力に、いつも真夏のオールドデリー(インド)にいるような鬱陶しさを感じていたのだ。
初めての人なら、なおさら、その圧力に恐怖を感じたであろう。

店長らしき人は、デブが背を向けても、頭を下げ続けていた。
私の方は、一度も見ない。
私など、眼中にないのかもしれない。

というより、130キロ対58キロ。
半分以下の私のことが、見えなかった可能性はある。


しばらく歩いて、スガ君に聞いた。

どんな風に、文句を言ったんだい。

「文句というより、店長を呼んでもらって、さっきの俺のアニキ分なんだけど、あのアニキが、ここのラーメンうまいって言ってましたよ。
スープは残しましたけど、アニキが褒めるのは珍しいんですよね、って言っただけですよ。
そうしたら、あの人、どんどん顔が青くなっていって、『お代は結構です』って言うもんだから、そんなことしたら、ア・ニ・キが怒るでしょうねって、笑いながらお金を払っただけです。
俺、なんか悪いことしましたか?」

スガ君は、そう言って、「じゃあ、家まで送りますんで、アニキ」と、私を黒のベンツへと誘った。


ベンツの後部座席に座って、スガ君に「アニキ、シートベルトを忘れないでください」と言われたとき、自分の眉間に、無駄に皺が寄っていることに気づいた。

眉間の皺を消そうとして、眉を動かしていたら、額が突っ張って、頭が痛くなった。
イテテテテテ………。



俺は、アニキにはなれないな、と思った。



2014/02/19 AM 08:42:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.