Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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二つのキャッシュカード
暗い話になることをお断りしておきます。


りそな銀行とゆうちょ銀行のカードがあった。

どちらも、死んだ父名義のものである。


電話で「葬式もまともにしなかったのか」「49日はどうした」「おまえは冷たいやつだな」「死んだ人間をまともに弔えないひどい男だな」と、数人のご老人から言われた。
父の生まれ故郷の方々である。

言われっぱなしは、母のためにも我慢できなかったので、その中の長老に、こんな話をした。


死んだ父は、家に帰ってこない人だった。
一流会社に勤めていたが、稼いだ金を家に一銭も入れない人だった。
自分のためだけに使った。

定年になって、嘱託という身分になったとき、稼ぎが激減したのを機会に家に帰ってきたが、そのとき私は結婚して家を出ていたので、父との接点はなかった。

私が子どものとき、家にサンタさんは来たが、そのサンタさんは男ではなく女だった。
フルタイムで働いていた母は、子どもの授業参観にも運動会にも三者面談にも来なかった。
いや、来られなかった。
そして、父は、「自分の意志で」来なかった。

そんな身勝手な男にも必ず「老後」は来る。
年金ももらう。
当たり前のことだが、父は自分の年金は、自分のためだけに使った。

ひとりで温泉に行ったり、馴染みの寿司屋に行ったり、スポーツジムに通ったりしていたようだ。

だが、誰もが病気になるように、父も77歳のとき、病気になった。
脳梗塞だった。
幸い、麻痺が軽微ですんだのをいいことに、若い頃からヘビースモーカーだった父は、医者からのアドバイスを拒否して今まで通りの喫煙生活を送った。

喫煙のせいかどうかは知らないが、父の状態は徐々に悪くなり、介護が必要になってきた。
しかし、母は、父の介護を拒否した。
そうだろうな、と私は納得した。
私は、その母の決断を支持した。

薄情な妻と息子を持った彼は、可哀想な男だ。

その結果、彼は老人ホームに入ることになった。
神奈川県川崎の老人ホームだ。

そのとき初めて、私は父の財産の管理をすることになった。
大層な年金をもらっていることに驚いたが、その年金すべてを使って、私は彼を立派な老人ホームに入所させることに決めた。

父の年金は、父のためだけに使うべきだ。
彼の生き様からして、それが一番ふさわしい。

薄情な妻と息子は、そう決断して、父を豪華な老人ホームに預けっぱなしにした。
その後、4、5年が過ぎたとき、老人ホームから連絡を受けた。

最初は、喫煙OKのホームであったが、時代の流れを受けて完全禁煙にするという。
しかし、お父様が禁煙を拒否しているので、なんとか説得してくれませんか、という電話だった。

説得するつもりはないので、喫煙できる違うホームを東京で探して、そこに移ることにした。
ホームを変えるとき、父に5年ぶりに会ったが「老けたな」としか思わなかった。
何か話しかけられたが、聞こえない振りをした。

そして、父は、今年の夏に死んだ。

母に、それを報告したとき、母は泣いたが、私は泣かなかった。
泣く理由がなかったからだ。


俺に父親はいたんですかねえ、と長老に問いかけた。

「どんな親でも、親は親だ」と、長老は私が予想した通りの答えを返した。

では、どんな息子でも、息子は息子ですか。
それなら、俺は薄情な息子をつらぬきますよ。

身勝手な父親には、薄情な息子がお似合いだ。
だから、放っておいてもらえませんか。

彼の残した貯金のすべてを使って、立派な墓を建てましたから。
少なくとも命日には、豪華な花を飾りますから。

もう俺たちを、放っておいてくれませんか。

「おまえは、どうしようもない男だな」
捨て台詞を残して、長老は電話を切った。

俺も、そう思う。


そのどうしようもない男に残された、父のキャッシュカードが2枚。
年金が振り込まれていたものとは、違うものだ。

年金が振り込まれていたカードは、私が管理していた。
だから、暗証番号は知っている。

私は、自分のカード類は、面倒くさいので全部同じ暗証番号にしている。
父も、そうしていた可能性が高い。

だから、残額を調べることは簡単にできるかもしれない。
相続税対策として、それは必要なことだ。

しかし、母が毅然として言ったのだ。

「切り刻んでくださいな」


切り刻んで捨てた。


これで、父に繋がるものは、墓しかなくなった。


父のことを思い出すことは、まったくない。

ただ、命日には必ず、たくさんの花で墓を埋め尽くすつもりだ。




代行業者に頼むかもしれないが。







(母は父の遺族年金を貰うことも拒否している)





2013/11/16 AM 06:07:02 | Comment(3) | TrackBack(0) | [日記]



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