Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ある小心者の一日
私は小心者の人見知りである。

しかし、誤解をしている方が、なぜか大勢いる。

「Mさんは、物怖じしないよね」と、よく言われるのだ。


30年来の付き合いの尾崎が、この間、こんなことを言った。
「おまえと恵実(尾崎の奥さん)の共通点は、慌てないところだな。俺は慌てない人間が一番苦手なんだが、逆に一番信頼できるんだ」

一番の親友の尾崎でさえ、このように私のことを誤解しているのである。


高校3年の娘からも「おまえさあ、なんで初対面のオレの友だちと冗談やバカ話ができるんだ。おまえには羞恥心がないのか。金がないのは知っているが、羞恥心がないのは、人間として一番最低のことだぞ。恥を知れ、恥を!」と、よく褒められる。


しかし、私ほど小心者で人見知りの慌て者はいない。

沸かしていない風呂に入ったり、パンツを後ろ前にはくのは日常茶飯事。
掃除機をかけると、毎回必ず自分の左足を吸ったりする。

昨日などは、打ち合わせの帰りに、昼メシを食おうと喫茶店に入ったのだが、ヒゲの店員に、ナポリタンと食後にコーヒーをお願いしますと言おうとしたところ、「ナポリタンと食後にカレーライスをお願いします」と言ってしまったから後で慌てた。
小心者なので、取り消すことができなかった。
もちろん、ナポリタンとカレーライスは、美味しくいただきましたけどね。

ハハハハハハ………。


ここに、泣く子も黙る強面の建設会社社長がいると思っていただきたい。

顔の面積がでかく、声もでかく、当然のことながら態度もでかい。
誰もが彼の前では、体を縮め畏まりながら、そのお言葉を聞く。

私も、皆さんと同様、何かをチビリそうになりながら、小さな心を恐怖心で満たし相手のご機嫌を損ねないよう、ほぼひれ伏すように接しているつもりだった。

だが、誰も私のそんな恐怖心に気づいてくれないのだ。

「Mさん、うちの社長と対等に話せるなんて、すごいですよ」
「この間なんか、下請けの壁紙会社の社長、怒鳴られて泣きそうな顔してましたからね。これ以上ないくらいの丁寧な言葉遣いで接しているのに、『俺をなめてんのか、こらー!』ですもんね。それに比べて、Mさんの言葉遣いは、ひどい。それなのに怒られないって、何なんですかぁ! すごすぎますよ」

ヒーロー扱いである。

その顔のでかい恐怖の社長から、「分譲住宅を9戸建てるつもりだが、土地は確保しているんで、早めにその土地に告知の看板を立てたい。できるよな!」と強烈な眼圧で言われた。

も、もちろん、できまする、とチビリながら答えた。

「じゃあ、今すぐ見積もりを出してくれ」と、また900ヘクトパスカルの眼圧で迫られた。

震えながら看板業者に電話をして、一般的な分譲告知の看板サイズを聞いた。
次に、印刷会社に電話をし、印刷代金を聞いた。
そして、もう一度看板会社に電話をして、納期、ラミネート代金と設置費用などを確認。

その間、私は顔でか社長の眼力に圧されて、ずっと震えていた。
震える手で何とか見積書を書いて、顔でか社長に提示した。

すると、「思ったより安いな。あんた、これで、儲けは出るのか。大丈夫か。無理すんなよ」という温かい言葉をかけていただいた。


その瞬間、事務所の時間が止まったような気がした。

40代の女性事務員は、「またかよ!」という顔をした(この方は、この社長が私に対してだけ態度が変わることに、常々異常なほど強い嫉妬感情を抱いていたのである)。
他の社員は、顔を見合わせていた。

その空気の変わり方は、尋常ではなかったようだ。
それはまるで、カラオケで普段演歌ばかり歌っているオッサンが、突然西野カナを歌いだしたくらいの変わりようだった(伝わりづらい?)。

普段は、無頓着な顔でか社長も、その異変に気づいた。


「え? おい! どうした! 何だ! 何かあったのか!? ど、どうしたんだ! おい! 何だ、おまえらの顔は! どうした! おい!」


立ち上がって、叫んだのである。

その慌てぶりは、とても可愛かった。
顔が異常にでかいだけに、そのギャップある姿は、とても可愛く見えた。

その慌て顏は、社員の心を確実に和ませたようだ。
みんなが笑顔になった。

しかし、その緊張感のない空気を気に食わなかった社長は、おそらく私が今まで経験したことのないほどのでかい声で怒鳴った。


「おまえらぁ〜! 気が緩んでるんじゃねえのか! ピリっとしろ! ピリっと! 社是を唱えろ! 今すぐだ! 早くしろ! もたもたすんなぁ〜〜!」


全員が、直立不動で立ち尽くし、社是を大声で怒鳴った。

私もつられて、直立不動になった。
小心者の私としては、同じ態度を取らなければ失礼に当たると思ったからだ。


しかし、社長に、穏やかな声で言われた。
「あんたは、いいんだ。あんたは、社員じゃねえんだからな」


社是は、威勢よく続けられた。

社是を怒鳴った後は、顔でか社長もご機嫌だった。


しかし、ご機嫌じゃない人たちがいた。

打ち合わせを終わって、「お邪魔しました」の声を社員の皆様方にかけたとき、誰も応えてくれなかった。

完全なアウェー状態。

小心者で人見知りの私は、深い傷心を抱えて、会社を後にした。


俺の何が悪かったのだろう?

俺は、普通だった。
間違いなく、普通だった。

どこが、いけなかったのだろう。


小心者で気の弱い私は、普段3本しか飲めないクリアアサヒを、撮り溜めしておいた「安堂ロイド第2話」を見ながら3本飲んだあとで、柴咲コウさんの美しいお顔の余韻に浸ったまま、12時15分に深い眠りについた。

朝4時40分に目覚めたとき、深い傷心はまだ存在したが、家族の朝メシと弁当を作っている間に、それは完全に消滅した。



今でも、俺は、悪くない………と思っている。



2013/11/06 AM 06:18:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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