Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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誕生日にヒツジの夢
今年もあと、ひと月と少し。

家族4人が食っていけるだけの仕事を与えてくださった方々に、ただ感謝。
忙しい、などと言ったら罰が当たる。


しかし、いっそがしいなあ。


3件、締め切りが重なったら、眠れませんよ。
1件でも、締め切りをずらしてくれたら……などと言ったら、罰が当たりますよね。

締め切り……遅らせてくれないかな。

そんなことを思っていたら、「締め切り、一日早めたいんだけど」と言われた。

はい、喜んで!

徹夜をさせていただいた。
寝不足だから、化粧のノリが悪いですわ。


11月25日。
そんな嵐の三日間が過ぎ去って、久しぶりのオフ。

「最近、ビール泥棒が来ないんですけど」という中央区京橋のイベント会社社長・ウチダ氏からのメールに導かれて、京橋のウチダ氏の事務所に潜入することにした。

忙しかったので、足が遠ざかっていた。
7ヶ月ぶりだ。

カードキーを預かっているので、いつでも潜入は可能だ。

東京都中央区京橋の裏通り。
20畳はあろうかという広い事務所には、デスクが一つと壁に書棚、あとは40インチの液晶テレビ、応接セットだけ。

そして、簡単なキッチンスペースの奥には、600リットルの冷蔵庫。
その中には、クリアアサヒとスーパードライがギッシリ!
他に、チーズが各種!
さらに、なぜかキャビアの缶詰!

数万円はするだろうといわれるキャビアの缶詰は大変魅力的だが、私のアンテナが、これは何かの罠だろうという危険なシグナルを感知したので、一度だけしか泥棒はしていない(キャビアのどこが美味いんだ? しょっぱいだけじゃないか)。
普段は、カマンベールチーズか、ときどきブルーチーズを泥棒するだけだ。

いつも忙しくベーエムヴェーというタケコプターで飛び回っているウチダ氏は、ほとんど事務所にいない。
だから、事務所の家賃が無駄だろう、とビンボー人らしい意見を述べたとき、ウチダ氏はイケメン顔で、「事務所があるなしで、信用が全然違うんですよ。特に中央区辺りに事務所を持っていた場合の信用度は絶大ですね」と言った。

それは、わかる。

ただ、うらやましすぎて、泥棒をしたくなるだけだ。


応接セットに横になって、靴下を脱いだ。
私の場合、靴下を脱がないと心の底からくつろぐことができないのである。
これは、子どもの頃から変わらない私の習慣だ。

付き合い初めの頃、ヨメから「なんですぐ靴下を脱ぐの?」と聞かれたことがある。

だって、いきなりパンツを脱ぐわけにいかないだろ。

「ああ、それもそうねえ」とヨメは、すぐに納得してくれた。
それ以来、ヨメから靴下に関してのクレームはない。

応接セットのテーブルに、まずはカマンベールチーズとスーパードライ。
そして、家から持ってきた「安堂ロイド」のブルーレイ。
2話までは見たが、3話から先を見ていなかった。

折角、大画面のTVがあるのだから、見ないわけにはいかない。
オフには、安堂ロイドだ!

我が家にメシを食いにやってくる高校3年の娘の友だちに、「安堂ロイドって面白いの? 私は1話の15分くらい見て、展開についていけなくてリタイアしちゃったんだけど」と言われた。

柴咲コウ様が出ているから面白い!
他に何が必要だ!

そう言ったら、娘のお友だちは「ギャフン!」と言って黙った。
完全勝利である。

他のドラマだったら、この睡眠不足状態なら、完全に爆睡しているところだが、柴咲コウ様が出ているドラマを見て、眠るわけにはいかない。
3話、4話を見終わって、5話目に突入。

そのとき、ピンポーン。

来客だ。
しかし、私はただの泥棒だから、テレビドアフォンに出るわけにはいかない。
応答してしまったら、泥棒だということがバレる。

警察に通報される。

それは、避けたい。

しかし、出てしまったのである。

このビルのセキュリティは、しっかりしている。
高級マンションによく使われているようなオートロックシステムだ。

ビル内に入ると、ドアを開けるための装置がある。
それに、暗証番号を打ち込むかカードキーをかざすか、指紋認証させないとドアが開かない。
そして、室内に入るためには、カードキーを読み込ませないと入れない。

暗証番号とカードキーで、完全セキュリティ。

だから、泥棒さんは、私以外は入れない。

その泥棒が、来客に応対をした。
来客は20歳半ばと思われる女性が二人。

おそらくウチダ氏の愛人だろう。

「明日がお約束の日でしたが、一日早くイベント・コンパニオンのリストが揃いましたので、お持ちしました」

何人のイベント・コンパニオンを愛人にしようというのだ。
元気過ぎるだろう。

モニターの解像度が高いので、二人の女性の顔がハッキリとわかった。
まあまあ……だな。

コートを着ているので太ももが見えない。
10点満点の3点。

申し訳ないが、私はウチダ社長ではない、と言った。

「ああ、社員の方ですか?」

社員というより、僕(しもべ)ですね。

「ああ、シモベさんですか。ウチダ社長様は、いつお戻りでしょうか」

名前だと思ったようだ。

ウチダ社長は、大変忙しい人なので、アポイントメントなしの面会は無理です。
今日は両国国技館、明日はニューヨーク・ヤンキース、明後日はマンチェスター・ユナイテッドというように、世界を飛び回っています。
アポを取ってから、また起こしください。

私がそう言うと、「この人、なんか変よ、気味が悪いわ」という声が聞こえて、画面が真っ暗になった。


気味が悪い人は、安堂ロイド第5話を、もう一度最初から見直しはじめた。
すると、13分後にiPhone 5sが震えた。

「Mさん、ビールとチーズ泥棒はいいけど、俺の信用を落とすことだけはやめてくれませんか!」
ウチダ社長様からだった。

それは、シモベさんのことを言っているのか?
彼は、もう帰った。

「まったくなあ! 困った人だよ。通報しますよ」

大丈夫だ。
指紋は消していくし、食い散らかしたものは持って帰る。
ドアフォンの通話履歴も消していく。
何の痕跡も残さないよ。
俺は、プロだから。

「でも、この通話は記録していますよ」

本当か?

「嘘です」

だよね。

「ただ、防犯カメラには記録が残るでしょうね」

壁天井を見回してみた。
防犯カメラはなかった。

「わかりやすいところに防犯カメラを置くわけないでしょ。
本棚の真ん中当たりに、ヒツジのぬいぐるみがあるの、わかります?
あの目に仕掛けてあるんですよ」

本当か?

「嘘です」

というような会話を交わしていたら、突然ドアが開いて、ウチダ氏が姿を見せた。
その後ろには、さきほどの女性が二人。

すぐそばに、いらっしゃったようだ。

ソファに横たわり、靴下を脱ぎ上着も脱いで、くつろいだ姿の私を指さして、ウチダ氏が言った。

「ああ、シモベさんは、お帰りになられたようだ。
ここにいるのは、私の大学の先輩で頭脳明晰な大先生です(照れまんがな)。
顔は貧相で酒臭い男ですが、私は大変尊敬しています(酒臭くてゴメン)。
今日、この方に会うことができた、あなた方はとてもラッキーなひとだ。
さあ、では、MARUZENのカフェで、お話を伺いましょうか」

そう言って体をターンさせたウチダ氏であったが、顔だけを戻して「ああ、Mさん、ハッピー・バースデー!」と敬礼をした。

そして、3人は手品のように、いなくなった。


ひとり残された間抜けな泥棒は、安堂ロイド第5話を見るのをやめて、帰り支度を始めた。

食い散らかしたものをレジ袋に格納し、指紋をすべて消し、ドアフォンの通話履歴も消した。
そして、信じられないことに、冷蔵庫のスーパードライが、4本勝手にバッグの中に入ってきた。

防犯カメラは、ないはずだ。

しかし、一応念のためにヒツジちゃんのぬいぐるみを確かめてみた。
手に取ってみると、頭のあたりに固い感触があった。
さらに指で形を確かめてみると、レンズっぽい感触が。

慌てた泥棒は、ヒツジちゃんの向きを壁側に向けた。

そこには、HAPPY BIRTHDAY SATORU のカードが!

同時に、ヒツジのぬいぐるみが、なぜかバースデイソングを奏でた。



昨日の朝、何万匹ものヒツジが私を祝福している夢を見た。



すばらしい誕生日を演出してくれたウチダ氏に感謝。




(ちなみに、同じく11月25日が誕生日なのは、椎名林檎様。畏れ多いことでございます)





2013/11/27 AM 06:09:59 | Comment(2) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

キリンの骨とクロサワ
長い間、秘密にしていたことがある。
私は、熟女よりも若い子の方が好きだということを。
(要するに、ただのヘンタイ)


このブログで書いたことがあるが、昨年の夏に当時21才のポニーテールさんと横浜根岸森林公園で、ランニングが縁で知り合った。
(リンク外れがなければ、コチラ

お互い、人見知り。
しかし、人見知り同士が化学反応を起こすと、仲良くなることもある。

娘のような年の子と仲良くなって、今年の8月からは、毎月一回「居酒屋デート」のお呼びがかかる。

「キリンおやじ(私のことをこう呼ぶ 首が長いので) はなの舞 行こうぜ」というお誘いのメールが来る。
私が都合のいい日を返信すると「予算3千円」と返してくる。
奢ってもらう気は、全くないようだ。

もちろん、「居酒屋デート」と言っても、色っぽいものではない。
ポニーテールさんの話を聞いて、相づちを打つだけだ。
ときに、話の流れで、からかったりすると、張り手が飛んできたり首を絞められたりする。

年頃の娘が、親父に甘えているという図式だろうか。
ちなみに、ポニーテールさんのご両親は、奄美大島でご健在である。

先週、そのポニーテールさんから、「キリンおやじ はなの舞オーケーか」というメールが来た。
都合のいい日にちを返すと「ありがとね」という返事が来た。

いつもと違う、その文字を見て、嫌な予感がした。

嫌な予感のまま、19日に東京品川の「はなの舞」にいくと、ポニーテールさんの隣に彼氏がいて、私の姿を認めると急速に立ち上がった。

「キリンおやじさん、ご無沙汰をしております」
頭を下げられた。

しかし、私は「キリンおやじさん」という名前ではない。
ブラッド・ピットという正式な名前があるのだが、面倒なので、特定の人にだけ「キリンおやじさん」と呼ぶことを許している。

堅苦しい雰囲気が嫌いな私は、とにかくビール、ビールがなければ人生じゃない、と言って3人分の生ジョッキを注文した。

まあ、乾杯といこうぜ。
ほら、足を崩して。
ああ、掘りごたつだから、崩せないかあ。
おや、ナツミちゃん(ポニーテールさん)は、顔を崩しちゃったかあ。

いつもなら張り手が飛んでくるところだったが、距離が遠かったからなのか、緊張からなのか、私の頬に異変は起こらなかった。
だが、とりあえず、空気を和らげるために言ってみた。

俺の方は、足も崩すし、顔も崩すし、ついでに一万円も崩しちゃおうかなぁ。

「・・・・・・・・・・」

墓穴を掘ったか。

堅苦しい空気のまま、「キリンおやじさん」と言われた。
「ナツミさんに、プロポーズをしたところ、キリンおやじさんのご意見を伺ってからと言われまして」

なんだよ。
かしこまりやがって。

俺の一番苦手な展開じゃないか。


職業は介護用品の営業。
27歳の背の小さな男。
顔はエラが張っていて、鼻は鷲鼻。
いい男の範囲からは、大きくずれていた。
しかし、その目は清く澄んでいた。

ご実家が、横浜戸塚でアパートを2軒経営している長男。
だから、経済的な部分で言えば、いい物件だ。

しかし、彼は性格が「嫌なやつ」なのである。

普通、自分の彼女が、得体の知れないオッサンと仲良くしていたら、うさん臭く思うのではないだろうか。
だが、彼は初対面のときから、私に対して雑念を感じさせない、程よい礼儀を持って接してくれたのである。

こんな嫌なやつが、世の中にいるだろうか。

その嫌なやつが、私がほとんど冗談で言った「東京でのナツミちゃんの親代わり」という「おとぎ話」を信じて私に筋を通そうとしているのだ。

乾杯のあと、私の顔を泣きそうな顔で見つめているポニーテールさん。

その顔を見て、感じた鼻の奥の痛覚。

もしかしたら、今夜の試合、俺は完投は無理かもしれない。
セットアッパーとクローザーを用意してくれないと、俺は持たないかもしれないと思った。

しかし、親代わりの威厳を持って、ポニーテールさんに、私はこんなことを聞いた。

ナツミちゃんが彼のことを好きなのは当たり前として、もう一つ、彼のいいところを俺に教えてくれ。
何でもいいから。

ポニーテールさんが、ほとんど間を置かずに言った。
「彼が、キリンおやじの存在を変に思わなかったことかな。
普通だったら、どこのキリンの骨(!!)とも思えないオッサンを連れてきたら、ゼッタイ変に思うはずだよね。
でも、彼は、普通に受け止めてくれた。
それが一番だったね」

こいつ、俺を泣かせようとしているな。
でも、その程度のことでは、俺は泣かないからな。

鼻の奥が、つーーん。

横を向いて、ジョッキを飲み干した。

私がお代わりを頼む前に、彼氏が、私のジョッキを掲げて、店員にお代わりを頼んだ。

気を使いやがって。
本当に、嫌なやつだな。
まったく気に食わないやつだ。


気には食わないが、俺は賛成するぞ、と答えた。


すると、二人が立ち上がって、頭を下げた。
さらに、二人が抱きつかんばかりに喜びを表現するのを見て、私はイカの漁師焼きを食うことに専念した。

食いながら思った。

なんなんだ、この「おとぎ話」は。
俺は「キリンの骨」だぞ。
君たちとは、何の関係もないではないか。

「キリンの骨」に、なぜ筋を通す?

こんなことで、ポニーテールさんのご両親の理解を得られるのか。

しかし、事態は、高速で進んでいく。
ポニーテールさんが、言った。

「キリンおやじは、私たちの結婚式に出るのは嫌だよねえ」

それは、そうだ。
私のポジションを理解してくれるのが新郎新婦だけ、という状況に私は耐えられない。
そんな拷問は、受けたくない。

「だからさ。結婚式の前に、キリンおやじのための結婚式をしようと思うの」

俺のための結婚式を?
本当に「おとぎ話」だな。
結婚式前に、無駄な時間を使うなよ。

「無駄じゃないよ。二人で決めたんだ。まだ具体的には何も考えてないけど、絶対にやるからな」
キラキラした4つの目が私を見た後で、頭がふたつ深く下がった。

鼻の奥が、つーーーん。


そうか。
こんな手もあったのか。
この展開は、予想外だった。

鼻の奥が、つーーーん。
汚い涙オヤジになった私は、こう呟いた。


俺に完投は、もう無理だ。
クローザーを・・・・・・・クローザーを呼んでくれ。


そう私が呟いたとき、「はい、なんでしょう」と言ったのは、ナツミちゃんの彼だった。

ん?

「クロサワは………黒沢は、僕ですけど」




いや、そんなオチは、いらないから。




2013/11/21 AM 06:08:01 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]

二つのキャッシュカード
暗い話になることをお断りしておきます。


りそな銀行とゆうちょ銀行のカードがあった。

どちらも、死んだ父名義のものである。


電話で「葬式もまともにしなかったのか」「49日はどうした」「おまえは冷たいやつだな」「死んだ人間をまともに弔えないひどい男だな」と、数人のご老人から言われた。
父の生まれ故郷の方々である。

言われっぱなしは、母のためにも我慢できなかったので、その中の長老に、こんな話をした。


死んだ父は、家に帰ってこない人だった。
一流会社に勤めていたが、稼いだ金を家に一銭も入れない人だった。
自分のためだけに使った。

定年になって、嘱託という身分になったとき、稼ぎが激減したのを機会に家に帰ってきたが、そのとき私は結婚して家を出ていたので、父との接点はなかった。

私が子どものとき、家にサンタさんは来たが、そのサンタさんは男ではなく女だった。
フルタイムで働いていた母は、子どもの授業参観にも運動会にも三者面談にも来なかった。
いや、来られなかった。
そして、父は、「自分の意志で」来なかった。

そんな身勝手な男にも必ず「老後」は来る。
年金ももらう。
当たり前のことだが、父は自分の年金は、自分のためだけに使った。

ひとりで温泉に行ったり、馴染みの寿司屋に行ったり、スポーツジムに通ったりしていたようだ。

だが、誰もが病気になるように、父も77歳のとき、病気になった。
脳梗塞だった。
幸い、麻痺が軽微ですんだのをいいことに、若い頃からヘビースモーカーだった父は、医者からのアドバイスを拒否して今まで通りの喫煙生活を送った。

喫煙のせいかどうかは知らないが、父の状態は徐々に悪くなり、介護が必要になってきた。
しかし、母は、父の介護を拒否した。
そうだろうな、と私は納得した。
私は、その母の決断を支持した。

薄情な妻と息子を持った彼は、可哀想な男だ。

その結果、彼は老人ホームに入ることになった。
神奈川県川崎の老人ホームだ。

そのとき初めて、私は父の財産の管理をすることになった。
大層な年金をもらっていることに驚いたが、その年金すべてを使って、私は彼を立派な老人ホームに入所させることに決めた。

父の年金は、父のためだけに使うべきだ。
彼の生き様からして、それが一番ふさわしい。

薄情な妻と息子は、そう決断して、父を豪華な老人ホームに預けっぱなしにした。
その後、4、5年が過ぎたとき、老人ホームから連絡を受けた。

最初は、喫煙OKのホームであったが、時代の流れを受けて完全禁煙にするという。
しかし、お父様が禁煙を拒否しているので、なんとか説得してくれませんか、という電話だった。

説得するつもりはないので、喫煙できる違うホームを東京で探して、そこに移ることにした。
ホームを変えるとき、父に5年ぶりに会ったが「老けたな」としか思わなかった。
何か話しかけられたが、聞こえない振りをした。

そして、父は、今年の夏に死んだ。

母に、それを報告したとき、母は泣いたが、私は泣かなかった。
泣く理由がなかったからだ。


俺に父親はいたんですかねえ、と長老に問いかけた。

「どんな親でも、親は親だ」と、長老は私が予想した通りの答えを返した。

では、どんな息子でも、息子は息子ですか。
それなら、俺は薄情な息子をつらぬきますよ。

身勝手な父親には、薄情な息子がお似合いだ。
だから、放っておいてもらえませんか。

彼の残した貯金のすべてを使って、立派な墓を建てましたから。
少なくとも命日には、豪華な花を飾りますから。

もう俺たちを、放っておいてくれませんか。

「おまえは、どうしようもない男だな」
捨て台詞を残して、長老は電話を切った。

俺も、そう思う。


そのどうしようもない男に残された、父のキャッシュカードが2枚。
年金が振り込まれていたものとは、違うものだ。

年金が振り込まれていたカードは、私が管理していた。
だから、暗証番号は知っている。

私は、自分のカード類は、面倒くさいので全部同じ暗証番号にしている。
父も、そうしていた可能性が高い。

だから、残額を調べることは簡単にできるかもしれない。
相続税対策として、それは必要なことだ。

しかし、母が毅然として言ったのだ。

「切り刻んでくださいな」


切り刻んで捨てた。


これで、父に繋がるものは、墓しかなくなった。


父のことを思い出すことは、まったくない。

ただ、命日には必ず、たくさんの花で墓を埋め尽くすつもりだ。




代行業者に頼むかもしれないが。







(母は父の遺族年金を貰うことも拒否している)





2013/11/16 AM 06:07:02 | Comment(3) | TrackBack(0) | [日記]

美男美女の夫婦
遅ればせながら、東北楽天ゴールデンイーグルス、日本一おめでとうございます。


とは書いたものの、私は試合をまったく見ていない。
ネットの見出しで勝敗だけはチェックしたが、最後はどうせ「日本球界の予定調和」でジャイアンツが勝つんだろ、と思っていたから、関心率は限りなくゼロに近かった。

だから、私にとって、楽天日本一はかなり意外な結末だった。
ただ、メジャーリーグでは、今年テロに遭った地域のチームが優勝し、日本では、大震災で被害を受けた地域のチームが優勝したのは、嬉しい偶然と言えば言えた。


友人に、仙台在住のデザイナー・イトウ君というのがいる。

彼は、スキー及びスポーツジムのインストラクターからデザイナーになったという特別品種である。

彼と初めて会ったのは、8年前、家族旅行で行った先の宮城蔵王白石スキー場でだった。

「インストラクターにイケメンがいるらしいわよ!」という、どうでもいい情報を拾ってきたヨメが、「習わないと、習わないと!」と強烈なアピールをしたので、私以外の3人がスキーを習うことにした。

イケメン、とは言うが、ゴーグルをしているから、さっぱりわからないじゃねえか。
透視術のSPECを持った人だったら、わかるだろうが。

と思って、遠くから見ていたら、この男、たまにゴーグルをとって、イケメンをアピールするイヤなやつだった。
その姿を見て、ゼロコンマ2秒で、この男が嫌いになった。

ケッ!
と後ろ足で雪を蹴飛ばしたあとで、嫉妬の塊になった私は、ゲレンデをジグザグに暴れ回った。

夕方ペンションに戻って、嫉妬の塊が溶けないまま夕飯を食い、風呂に入ったあとで、ひとりカウンターバーで「嫉妬の塊」という名の酒を飲んでいた時、男が入ってきて、カウンターに座った。

男の方に目を向けたら、入ってきたのは、あのイヤなイケメンだった。

「こんばんは」と、爽やかに頭を下げられたので、こんばんみ〜、と返した。
そうしたら、「どうも、こんばんみ〜、はじめまして、ビビるイトウで〜す」とイケメンが、ビビる大木氏の真似を返してきた。
なんだ、いいやつじゃないか、と嫉妬の塊がすぐに溶けて、仲良くなった。

私が東京で、まったく売れないデザイナーをしていると言うと、イトウ君がその話に食いついてきた。
そのとき彼は、マックのマの字も知らないど素人だった。
しかし、イトウ君は、その後すぐにマックを手に入れて、独学でマックを勉強することになる。

なぜ、あのとき興味を持ったんだ、と後で聞いてみたら、「matsuさんから気負いが全然感じられなかったからですかねぇ。オレ、バリバリ働いていますってアピールする人が嫌いなんで」ということだった。

俺、バリバリ働いてますけど!
(嘘だが)

わからないことがあると、電話やメールで問い合わせをしてきたので、いつも教えすぎないように教えた。

それから一年後に、イトウ君はインストラクターの仕事を辞めて、デザイン事務所に職を得た。
30歳のときだった。

そして、どういうマジックを使ったのか、あるいは彼が特別なSPECの持ち主だったのか、就職してから一年も立たずに独立して仙台にデザイン事務所を構えた。

大丈夫なのか、と私が聞いたら、「matsuさんがやれるんだから、大丈夫でしょうよ」と答えたイトウ君。
君は、正しい。

東日本大震災のときは、2日間連絡が取れなくて慌てたが、家族全員無事と聞いて安堵した。
そして、震災を乗り越えて、結婚。

イトウ君が30歳半ばを過ぎたとき、君くらいのイケメンだと、ひとりの女性を選ぶのは大変だよね、だから結婚できないんだよな、と冗談半分で聞いたことがある。
すると、イトウ君は、大真面目に「まあ、一万人の候補者の中から一人を選ぶのは疲れますからね。福山雅治の気持ちがわかりますよ」と答えたのである。

それを聞いたとき、私は顔面制裁を加えようと右のコブシを握りしめたが、イトウ君が空手初段だということを思い出して、そのコブシをすぐに解いた。

イトウ君が結婚したのは、昨年の3月だった。
相手の写真を見せてもらったが、顔はソー・グッド! だった。

私は、地球上に美男美女のカップルというのは、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーしかいないものだと思っていたが、イトウ君夫婦もリストに入れることにした。

そして父になる。
父になったイトウ君は、先週の土曜日に奥さんと子どもを連れて、東京にやってきた。

「ずんだまんじゅう」という絶対に私が食わないと知っているお土産を得意げに持ってきたイトウ君は、奥さんと赤ちゃんを紹介してくれた。
美男美女の間に産まれたお子さんは………、ノーコメントということにしておこう。

イーグルス、優勝おめでとう、と私が言ったら、立ち上がって、「ありがとうございます!」と言ったのが、奥さんの方だった。
東京育ちだが、ご両親は宮城県のナントカいう市のナントカいう村の出身だという(聞き返すのが面倒なので確認していない)。

「だから、楽天をずーーっと応援してきたんですよ。嬉しくって、もう!」と、新宿のホテルのラウンジで立ち上がったまま喜びを表現する美形の奥様。
その姿を他の方が見ているのだが、美形というのは、人様から見られることに慣れている生き物らしく、まったく気にすることなく「嬉しくってぇ!」と全身で喜びを表現なさるのである。

イトウ君は、まるで幼稚園児が初めて水族館でイルカショーを見て興奮している姿を喜ぶ親のような顔で、そんな自分の妻を嬉しそうに眺めていた。

幸せそうだねえ、君たち、と私が言うと、イトウ君は「当たり前じゃないですか。matsuさんの一万倍、いや一億倍は幸せですよ」と言うものだから、また顔面制裁を加えるつもりでコブシを握りしめようとしたが、空手初段を思い出し、1杯600円のコーヒーに手を伸ばした。

「でも、matsuさん、あれはヒドいですよねえ」とイトウ君が、眉を寄せた。
何が、ヒドいんだ。
俺の顔か。

「まあ、それは置いといて(置いていかれたかぁ)、160球も投げた次の日に、また投げさせるなんて、あれは常識では考えられませんよ。星野監督は、どうせ今シーズンが日本最後だと思って、マー君を潰すつもりだったんじゃないですか!」

試合は見ていないが、ネットで、そのことは知っていた。
楽天田中160球完投初敗戦。
ネットの見出しの記事は、大変わかりやすかった。

そして、次の日。
楽天V 連投田中が胴上げ投手、という見出しもわかりやすかった。

つまり、「前の日に160球投げた投手が次の日も投げていいのか、それは、田中投手の選手生命を縮めるのではないのか、もし縮まったとしたら、誰が責任を取るのだ」というのがイトウ君の主張だ。

いいのではないだろうか。
プロは金をもらって投げているのだから、投げることに関してのすべての責任は自分にある。

もし、未成年のアマチュアがそれをやったら、監督の指導能力と良識を疑うが、プロが志願してやったことなら、その責任はすべて本人にある。
金をもらうとは、そういうことだ。
金をもらっていながら、責任を他人のせいにするのでは、その人は真のプロではない。

マー君は、プロ中のプロだろうから、そのプロである彼が下した判断を否定するのは、彼を否定することになる。
それは、とても失礼なことだ。

「でも、メジャーリーグでは、ありえないことですよ!」

もちろん、メジャーではあり得ないことだが、これは日本の話だ。
日本では日本の野球をし、メジャーではメジャーの野球をする。
それが、プロというものだ。

私がそう言うと、「そうですよねえ! マー君が決めたんだから、いいんですよねえ! ほらっ、私の勝ちィ!」と美形の妻が、また立ち上がって、喜びを表現した。

奥さん、ラウンジの客が見ているんですけど。

「しっかしなあ」と、まだ腑に落ちない顔のイトウ君。
そんな顔をしてもイケメンはイケメンだから、条件反射的に右のコブシを握ってしまうのだ。

だが、無邪気な美形に「マー君は大丈夫だってさ! ほらっ、勝った、勝ったぁ!」とアピールをされると、無意識にコブシを広げてしまうのは何故だろう。


しかし、そのあとで言ったイトウ君の言葉に、私は奈落の底に突き落とされることになる。

「俺、初めて、matsuさんに負けちまった。あーあ、屈辱だなあ!」


いや………、俺たちの間柄は………勝ったとか負けたとか、そういう………。

イトウ君のその言葉は、かなりの密度で、私の心にダメージを与えた。


俺のイトウ君に対するポジションって、そんなんだったっけ?


落ち込んでいたら、美形から「さすがですよねえ、うちの旦那が『俺の師匠』って呼ぶだけのことはありますよ、matsuさんって」と、右手を両手で優しく包まれた。



もちろん私は、すぐに復活した。



2013/11/11 AM 06:09:59 | Comment(2) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

ある小心者の一日
私は小心者の人見知りである。

しかし、誤解をしている方が、なぜか大勢いる。

「Mさんは、物怖じしないよね」と、よく言われるのだ。


30年来の付き合いの尾崎が、この間、こんなことを言った。
「おまえと恵実(尾崎の奥さん)の共通点は、慌てないところだな。俺は慌てない人間が一番苦手なんだが、逆に一番信頼できるんだ」

一番の親友の尾崎でさえ、このように私のことを誤解しているのである。


高校3年の娘からも「おまえさあ、なんで初対面のオレの友だちと冗談やバカ話ができるんだ。おまえには羞恥心がないのか。金がないのは知っているが、羞恥心がないのは、人間として一番最低のことだぞ。恥を知れ、恥を!」と、よく褒められる。


しかし、私ほど小心者で人見知りの慌て者はいない。

沸かしていない風呂に入ったり、パンツを後ろ前にはくのは日常茶飯事。
掃除機をかけると、毎回必ず自分の左足を吸ったりする。

昨日などは、打ち合わせの帰りに、昼メシを食おうと喫茶店に入ったのだが、ヒゲの店員に、ナポリタンと食後にコーヒーをお願いしますと言おうとしたところ、「ナポリタンと食後にカレーライスをお願いします」と言ってしまったから後で慌てた。
小心者なので、取り消すことができなかった。
もちろん、ナポリタンとカレーライスは、美味しくいただきましたけどね。

ハハハハハハ………。


ここに、泣く子も黙る強面の建設会社社長がいると思っていただきたい。

顔の面積がでかく、声もでかく、当然のことながら態度もでかい。
誰もが彼の前では、体を縮め畏まりながら、そのお言葉を聞く。

私も、皆さんと同様、何かをチビリそうになりながら、小さな心を恐怖心で満たし相手のご機嫌を損ねないよう、ほぼひれ伏すように接しているつもりだった。

だが、誰も私のそんな恐怖心に気づいてくれないのだ。

「Mさん、うちの社長と対等に話せるなんて、すごいですよ」
「この間なんか、下請けの壁紙会社の社長、怒鳴られて泣きそうな顔してましたからね。これ以上ないくらいの丁寧な言葉遣いで接しているのに、『俺をなめてんのか、こらー!』ですもんね。それに比べて、Mさんの言葉遣いは、ひどい。それなのに怒られないって、何なんですかぁ! すごすぎますよ」

ヒーロー扱いである。

その顔のでかい恐怖の社長から、「分譲住宅を9戸建てるつもりだが、土地は確保しているんで、早めにその土地に告知の看板を立てたい。できるよな!」と強烈な眼圧で言われた。

も、もちろん、できまする、とチビリながら答えた。

「じゃあ、今すぐ見積もりを出してくれ」と、また900ヘクトパスカルの眼圧で迫られた。

震えながら看板業者に電話をして、一般的な分譲告知の看板サイズを聞いた。
次に、印刷会社に電話をし、印刷代金を聞いた。
そして、もう一度看板会社に電話をして、納期、ラミネート代金と設置費用などを確認。

その間、私は顔でか社長の眼力に圧されて、ずっと震えていた。
震える手で何とか見積書を書いて、顔でか社長に提示した。

すると、「思ったより安いな。あんた、これで、儲けは出るのか。大丈夫か。無理すんなよ」という温かい言葉をかけていただいた。


その瞬間、事務所の時間が止まったような気がした。

40代の女性事務員は、「またかよ!」という顔をした(この方は、この社長が私に対してだけ態度が変わることに、常々異常なほど強い嫉妬感情を抱いていたのである)。
他の社員は、顔を見合わせていた。

その空気の変わり方は、尋常ではなかったようだ。
それはまるで、カラオケで普段演歌ばかり歌っているオッサンが、突然西野カナを歌いだしたくらいの変わりようだった(伝わりづらい?)。

普段は、無頓着な顔でか社長も、その異変に気づいた。


「え? おい! どうした! 何だ! 何かあったのか!? ど、どうしたんだ! おい! 何だ、おまえらの顔は! どうした! おい!」


立ち上がって、叫んだのである。

その慌てぶりは、とても可愛かった。
顔が異常にでかいだけに、そのギャップある姿は、とても可愛く見えた。

その慌て顏は、社員の心を確実に和ませたようだ。
みんなが笑顔になった。

しかし、その緊張感のない空気を気に食わなかった社長は、おそらく私が今まで経験したことのないほどのでかい声で怒鳴った。


「おまえらぁ〜! 気が緩んでるんじゃねえのか! ピリっとしろ! ピリっと! 社是を唱えろ! 今すぐだ! 早くしろ! もたもたすんなぁ〜〜!」


全員が、直立不動で立ち尽くし、社是を大声で怒鳴った。

私もつられて、直立不動になった。
小心者の私としては、同じ態度を取らなければ失礼に当たると思ったからだ。


しかし、社長に、穏やかな声で言われた。
「あんたは、いいんだ。あんたは、社員じゃねえんだからな」


社是は、威勢よく続けられた。

社是を怒鳴った後は、顔でか社長もご機嫌だった。


しかし、ご機嫌じゃない人たちがいた。

打ち合わせを終わって、「お邪魔しました」の声を社員の皆様方にかけたとき、誰も応えてくれなかった。

完全なアウェー状態。

小心者で人見知りの私は、深い傷心を抱えて、会社を後にした。


俺の何が悪かったのだろう?

俺は、普通だった。
間違いなく、普通だった。

どこが、いけなかったのだろう。


小心者で気の弱い私は、普段3本しか飲めないクリアアサヒを、撮り溜めしておいた「安堂ロイド第2話」を見ながら3本飲んだあとで、柴咲コウさんの美しいお顔の余韻に浸ったまま、12時15分に深い眠りについた。

朝4時40分に目覚めたとき、深い傷心はまだ存在したが、家族の朝メシと弁当を作っている間に、それは完全に消滅した。



今でも、俺は、悪くない………と思っている。



2013/11/06 AM 06:18:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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