Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ジャイアンツのバスタオル
今年の夏は、忙しかった。

ただ、忙しいとは言っても、去年のような目が眩むほどの忙しさではなかった。
4日だけ休んだ。

その休みは、高校3年の娘と大学巡りをすることに使った。

友だちと行けばいいのに、と私が言うと、「友だちとは進む大学の方向性が違う。志望大学が、全然かぶらないんだよ」と娘が言った。
仲がいい子と同じ大学に行きたい、とは思わないらしいのだ。

一人で見に行く、というのも意義深いと思うが。

「一人の目じゃ、主観的になりすぎるだろ。客観的な意見が欲しいんだよ。物事は複眼で見ろ、って言うだろ」

「フクガン」という高度なスペイン語まで出たら、同行しないわけにはいかない。


しかしなあ、俺の頃は、勝手に願書を買ってきて、試験受けて、受かったら親に「金くれ」で済んだんだけどな。
教師にも親にも、進路相談なんかしなかったぞ。

「寺子屋の時代とは、わけが違うのだ。現代の教育現場は、もっと複雑なのだぞ」

そうだな。
吉田松陰先生は、もう、おられないのだったな。


ということで、オープンキャンパスというのに行ってきた。

まずは、私の母校。
正門をくぐった途端、懐かしさがこみ上げてきたが、今回の本題とはそれるので、省略する。

キャンパス見学ツアーや模擬講義、学部紹介などに参加し、最後は無料の学食体験。
カツカレーを食いながら、思わず二人で同じことを呟いていた。

「よそゆき」の大学を見せられても、あまり参考にならないよな。

そこで、次回からはオープンキャンパスではなく、見学予約をして、普段着の大学を見ることにした。

夏休み期間だったので、オープンキャンパスと比べて、学生の数は10分の1以下だったが、飾らない大学の姿を見ることができた。
どこの大学の職員の応対も、丁寧で親切だった。

学食のメシがタダで食えないのは、残念だったが……。


4校目の大学見学が終わって、娘とサイゼリアに入った。

ピザ・マルゲリータを食いながら娘が言った。
「まあ、お前の母校に入れれば一番いいんだろうが、語学のレベルが高いからな。担任からはボーダーラインだって言われているから、微妙なところだ」


どこに入るかではなく、何を学びたいか、だ。
本当に何をやりたいかを、これから考えればいい。
そのサポートをするのが親の役目だ。
(オレ、珍しく、いいこと言った?)


私の愛ある言葉に感動しているかと思った娘だったが、違うテーブルに座った親子を凝視していた。

母親と4歳くらいの男の子が、スパゲッティを食っていた。
それは、極めてありきたりの光景に思われた。

しかし、その光景を見て、娘が感慨深げに言ったのだ。
「あの子が握りしめているタオル、ボロボロだよな。まるで、うちのバスタオルみたいに」

男の子の左手を見ると、確かに変色してボロボロになったタオルを握っていた。
おそらく、赤ちゃんの頃から使っていて、手放せないのだろう。

言われてみれば、我が家のバスタオルと似ていないこともない。

我が家のバスタオル。
それは、私の母が、娘が産まれたときに、同じ柄のものを5枚持ってきてくれたものだった。

ただ、そのバスタオルは、東京ジャイアンツのバスタオルだった。

よりによって、ジャイアンツかよ!

母は、私がアンチ・ジャイアンツだということを忘れていたらしい。

その忌まわしいジャイアンツのバスタオルは、5枚のうち4枚を友人のバカなジャイアンツファンに放り棄てた。
しかし、母が折角持ってきてくれたものだったので、1枚だけは残した。

そのバスタオルが、いまボロボロだった。

長年使っているから、無惨にも生地が裂けていた。
裂けた箇所は、6つ。

どれもが、大きな穴だ。
普通だったら、ゴミ箱行きである。

しかし、まだ使っている。

最初は、娘だけが使っていたが、今はみんなで使っていた。

なぜ、そんなにボロボロの状態なのに、使っているのか。

おそらく家族の誰もがそのバスタオルを使うことによって、、無意識のうちに、家族の「和」を感じ取っているのだと思う。

娘が産まれたときから使っているもの。
それが、知らず知らずのうちに、家族それぞれの思いを繋げるシンボルになっていたのかしれない。

見事なほどボロボロなのに、誰も「捨てよう」とは言わないし、「縫った方がいい」とも言わないバスタオル。

手を加えてしまったら、「何かが終わる」という、説明不能の恐怖を誰もが抱いているのかもしれない。


視線を子どものタオルに固定させながら、娘が言った。

「なあ……、うちのバスタオル、オレが嫁に行くときに持っていってもいいか。あれを見てると、落ち着くんだよな」


ヤバい展開になった。


お互い、親子の方向を見ているから、顔は見えない。

しかし、顔を少しでも動かせば、「何か」がこぼれてしまうだろう。

だから、顔を動かさずに、いいよ、と答えた。


「そうか」と言って、娘は、「ちょっと、トイレ」と席を立った。

そのすきに、紙ナプキンで目を拭いた。
痛いほどに、こすった。
4枚使った。

娘が戻ってきた。

娘の目を見ると、真っ赤だった。

ということは、私の目も……?

「目薬あるか?」と娘が聞いた。
目薬を渡した。

娘がさし、私がさした。


しばらくの沈黙の後、娘が呟いた。

「なんか、バカ親子だよな」


確かに。




2013/09/12 AM 07:07:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | [子育て]



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