Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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枯れ木も山のにぎわい
最近、サカナクションにハマっているんだよね、と私が言うと、「俺も最近は、肉よりもサカナの方がいいなあ」と答えた、テクニカルイラストの達人・アホのイナバ。

One ok Rockはクールだね、と私が言うと、「1時と言ったら、暑さがピークでしょ! ホットすぎる時間ですよ。俺はダメだな、暑さに弱いんで」と答えたアホのイナバ。

そして、一昨日、「近所の温泉に行きましょうよ」と、そんなイナバに誘われて、「近所の温泉」に拉致された。
イナバの愛車に乗せられて行ったのは、河口湖のリゾートマンションだった。

マンション内に、マウントフジが見えるパノラマ大浴場があったのだが、そこは温泉ではなかった。

「温泉じゃないじゃん!」というのも大人げないので、景色がサイコー、とはしゃいであげた。

しかし、東京日野市から河口湖までの乗用車2時間の距離がご近所とは、毎度のことながら、イナバの感性には感心させられる。
それなら、箱根だって鬼怒川だって、ご近所ということになる。

ちなみに、このリゾートマンションは、イナバの奥さん名義のものである。
石垣島の別荘も、奥さん名義だ。

他に海外にも別荘を持っているのだが、反感を持つ人がいるかもしれないので、詳しくは書かない。

アホのイナバも奥さんも、ピュアでいい人だ。
金持ち、と聞いただけで歪んだ感情を持つ人がいるが、イナバの奥さんは、確実に日本の税収を大きく支えている国民の一人である。

彼女の日本国への貢献度は、最貧民の私の貢献度の数十倍あるはずだ。

だから私はアホのイナバは尊敬しないが、イナバの奥さんのことを、日本国民として尊敬している。


帰りの車内で、クリアアサヒの350缶を飲んだ。
なぜか車内にクーラーボックスが置いてあって、その中にクリアアサヒが入っていたからだ。
(イナバは、私の胃が痒い病になっているのを知らない)

本当は医者から止められているのだが、わざわざ用意していただいたものを飲まないというのは、たいへん失礼な行為にあたるので、仕方なく飲んだ。
だから、私は悪くない。

クーラーボックスが、悪いのだ。

さけるチーズを食い、クリアアサヒをグビッと傾けながら、イナバに聞いた。
(本来なら、ここは柿の種なのだが、川崎守護職から柿の種禁止令が出たので、チーズを裂いたのだ)

用があるってのは、富士山をオレに見せることだったのか。
それは、世界遺産登録記念ということか。

「ハハハ」と笑いながら、アホのイナバが言った。
「富士山は世界の宝なんだから、大昔から世界遺産だよ。情報が古すぎるよ、Mさん!」

ああ………そうですかあ………それは、失礼いたしました。
(アホの思い込みには勝てないので、放っておこう)

「ああ、そうだ、忘れていた」とイナバ。
「いつもMさんに頼んでいる同人誌の原稿が来たんだけど、また執筆が間に合わない人が3人いるんで、Mさん、ねつ造をお願いしますよ」

あらら・・・ねつ造って、言い切っちゃったよ。
いいのだろうか、モラル的に。
せめて、代筆と………。

「まあ、名前も内容も変えて書いているんだし、今までに一度もクレームが来ていないらしいから、何の問題もないんじゃないかな。
それに、Mさんが原稿を書くときは、本人の許しを得てテーマをその人から聞いて、人格がその人に憑依して書いているわけだから、ねつ造とは言えないよね」

「ジンカク」と「ヒョウイ」という高度なヘブライ語が、アホのイナバの口から聞けるとは思わなかった。
イナバも成長したものだ。

イナバのことが、私は、ますます好きになった。
ただ、誤解しないでいただきたいのだが、私には、精神的にも肉体的にも男を愛する趣味はない。

私は、たとえ女に生まれ変わったとしても、男を愛さないと決めているアッパレな男なのである。
(ワタシノイッテイルコトオカシイデスカ)

2本目のクリアアサヒを開けた。
そのとき、私の胸に小さな罪悪感が芽生えたのだが、パッション屋良さん(ご存じない?)のように、胸を強く叩くことで罪悪感を追い出した。

罪悪感のなくなった心は、とても軽かった。

そんな風に、心も体重も軽さを実感していたとき、いちオクターブ高い声で、イナバが言った。
「ああ〜、富士山見たら、『ほうとう』が食べたくなったなあ! 富士山と言ったら、やっぱり『ほうとう』だよね、Mさん!」

アホに逆らうとヤケドをするので、ああ、そうだね、富士には『ほうとう』がよく似合う、と太宰治を真似て答えておいた。

「じゃあ、決まりだ。『ほうとう』を食べに行こうよ。美味しい店、俺、知ってるから」

そんなとき、カーFMから、サカナクションの「ミュージック」が流れた。
それを聴いて、私は言った。
ほら、これがサカナクションだよ。

「いや、Mさん、悪いけど、『ほうとう』にサカナは、あまり合わないと思うよ。『ほうとう』には、豚か猪豚だね」

はい! 申し訳ありませんでした。
確かに、『ほうとう』には、豚肉が合うと私も思います。

そんな風なコントを演じているうちに、東京あきる野市のほうとう屋さんに着いた。

私にとっては、初あきる野市だった。

店の入り口に、圧倒されるほど、でかい暖簾がかかっていた。
お昼どきを外れていたが、店内は半分ほど埋まっていた。
人気がある店なのかもしれない。
あるいは、祝日だったからか。

イナバは、猪豚入りほうとう、私は豆腐ほうとうを頼んだ。

クソ暑い中で食う、熱いほうとうは、クセになりそうなくらい美味かった。
コシのある麺は、長時間のドライブで固くなった私の腰を優しく解してくれた。
豆腐と野菜が、スープの中で上手に解け合って、私の疲労を解かしてくれた。

それは、至福の時間と言ってよかった。


ほうとうを食いながら、イナバが唐突に言った。
「Mさん、まあ……あれだよね。Mさんには、俺がついているからさ。俺がMさんの骨を拾うから、心配しないでよ」

アホのイナバには言わなかったが、7月2日のブログで書いた「私の親父さん」が、今月の12日に死んだ。

友人から「早く来てくれ」と言われて、親父さんの自宅に駆けつけた。
前回会ったときから覚悟はしていたが、実際にその時間が来ると、私はうろたえて、ただ心を震わせることしかできなかった。

親父さんの最期の時間を友人と一緒に、看取った。

腰が砕けそうになるのを懸命に我慢した。

友人が、踏ん張っているのを見たからだ。

血の繋がらない俺が、ここで取り乱すわけにはいかない。
それが、最低限の礼儀だと思った。

「葬儀は、身内だけでやってくれよ」
親父さんの遺言だった。

「おまえは、身内なんだから、拾ってくれよな」と友人から言われた。
そう言われたら、拒むわけにはいかない。

濃厚なお別れをした。

そして、俺は、泣かなかった。
(家に帰ってから、風呂場で30分泣いたが)

きっと親父さんは、それを喜んでくれたはずだ。

その日の夜、イナバから電話があった。
「大事な用があるんだけどな。あと……温泉もね」

イナバには、親父さんのことを何も教えていなかった。
しかし、ピュアなイナバは、何かを感じ取ったのかもしれない。
私が、打ちひしがれていることをイナバ独自のアンテナでキャッチしたのかもしれない。


ほうとうを食い終わったイナバが言った。
「俺、Mさんと出会わなかったら、つまらなかったと思うよ。
だから……俺にMさんの世話をさせてよ」

14歳年下のアホのイナバ。


俺ほど手間のかかる男はいないぞ。
覚悟はできているのか?

「大丈夫。
俺だけでは無理だけど、俺には、できすぎた女房と賢い子どもたちがいるから、分担で面倒を見るよ」

俺にも、できすぎた女房と賢い子どもたちがいるんだけどな。

「できすぎた女房と賢い子どもたちは、何人いてもいいだろ? なんだっけ? 『枯れ木も山のにぎわい』ってやつかな。俺たちは、枯れ木でかまわないからさ」

いや、どちらかというと、ルックス的には、俺の方が枯れ木だよな。


「確かに」


喜びを表現しようと、私がハイタッチをしようとしたら、アホのイナバは、グータッチをしようとしていた。

見事なすれ違い。



こんなやつを頼って本当にいいんだろうか、と思った俺だったが、心は確実に泣いていた。




2013/07/17 AM 05:53:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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