Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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馬ばなれした理論
我が家にやってくる娘のお友だち、女子高生6人にアンケートをとると、全員がタレントの剛力彩芽さんが嫌いだという。

理由は、と聞くと「だって、ゴリ押しでしょ」「テレビに出過ぎ」「可愛くもないのに!」と全員が答える。
どこかの、ごく一部の世界と理由が同じで、気味が悪い。

他に、佐々木希さん、多部未華子さん、芦田愛菜ちゃんが嫌いだという子も多かった。

理由を聞くと、「なんとなくイメージが好きじゃない」と答える。

まあ、好き嫌いというのはイメージがほとんどだから、その答えに関して異を唱えるつもりはない。

ちなみに、高校3年の娘と私は、佐々木希さんを除いて、他のお三方のことは気に入っている。
才能を持った人たちだと思っている。

佐々木希さんに関しては、綺麗すぎて現実感がない。
異次元のステージで暮らす生命体、と言ったら言い過ぎだろうか。
いずれにしても、私たちは、その種の人には関心を持たないようにしている。

だから、好きでも嫌いでもなく、関心がない。

娘と私がそう言うと、何人かの子から、「えー! あんなのちょっと可愛いだけだよ! 美人とはまったく違う。美人のオーラは、もっとスゴいよ!」と強烈に否定された。

驚いた。

美人、というのは、人類にとって共通の認識事項だと思っていたが、そうではないらしい。

好き嫌いは、個人で違って当たり前。
しかし、美しい、という感覚は、普遍のものではないのか。

それとも、娘と私の美意識が歪んでいるのか。
(その確率は高いかもしれない)


彼女が美人じゃない?
本当に、そう思っている?

「あれより美人、たくさんいるよ!」

まあ、それはいるだろうが、その美人の中に、佐々木希は絶対に入らないわけ?

「入る余地なし!」

ずいぶんキッパリと言われたものだ。
そこまでキッパリ断言されると、ご立派というかアッパレというか………。

こうなると、私たちが間違っておりました、と言うしかない状況だ。


そして、この話の流れで、私には思い出したことがあった。

3ヶ月ほど前の同業者との飲み会のときのことだった。
私以外の5人の「エロ同業者」が、「藤原紀香はいい女だよねえ」と意見が一致したのだ。

ところが私は、ジュラ紀の昔から、藤原紀香さんを「美人」だとも「いい女」だとも思ったことがなかったのである。
(これは、個人攻撃ではなく感想です)

簡単に言うと、関心がない。
きっと類いまれなスター性をお持ちなのだと思うが、その魅力が私の脳にまで届かない。

佐々木希さんに関しては、関心はなくても美人だと思っている。
しかし、藤原紀香さんは、関心がない上に美人だとは思わないのだ。

私がそう言うと、「嘘でしょ! Mさん!」「無理しなくていいんですよ、Mさん。誰が見たって、いい女じゃないですか」「こんなところで、カッコつけるのはやめましょうよ。素直に認めなさいよ」とエロ同業者のうるさいことウルサイコト。

それほど皆が言うのだから、藤原紀香さんは、最上レベルの美人なんだと思う。

だから、私は、わかった、と言った。
君たちが、美人だというのだから、美人なのだろう。

君たちのその美意識は認める。
そして、俺に美意識がないのも認める。

しかし、美人だと思わないものを美人だと言うのは、俺は嫌だ。
俺は、美意識が欠如した男で結構だ。

だから、もう放っといてくれ!


つまり、これは、前述の女子高生の発想と同じだということ。

「佐々木希なんか、綺麗だと思わない!」
「藤原紀香を美人だと思ったことがない!」

佐々木希さんが綺麗じゃない、というのは、世代間ギャップで説明できるかもしれない。
しかし、藤原紀香さんの場合は、世代間ギャップは当てはまらない。

私は、エロ同業者たちとほぼ同じ世代なのである。

これは、どうやったら説明がつくのだろうか。

私がそんなことを考えていたら、それまで黙っていた「お馬さん」(人類史上最も馬に激似の男)が、含み笑いで言ったのである。
(馬が含み笑いですよ。信じられますか?)

「Mさん、それは簡単に説明がつくよ。
Mさんは、俺が知っている限り、世界一のひねくれ者だから、人がいいというものを必ず拒絶する傾向にあるんだな。
つまり、みんなが藤原紀香が美人だというと、条件反射的に『美人じゃない』と思ってしまうんだよ。
子どもの頃からアンチ巨人、アンチ自民だった可愛げのないMさんの脳には、みんながいいと思うものには反発するプログラムが、脳の中にできあがってるんだな。
だから、みんなが美人だという藤原紀香を美人じゃないっていうのは、Mさんにとっては、普通のことなんだよ。
ねっ、簡単だろ!」

感動した!
ただの馬だと思っていたが、お馬さんは、人間に極めて近い馬だったのだ。

そして、お馬さんの言っていることは、おそらく当たっていると思う。
佐々木希さんに関していうと、好意的な意見が少なかったので、彼女のことを美人だと思ったのだろう。
もし彼女が、みんなから「美人だ」「綺麗だ」と、その容姿を賞賛されていたら、私は美人だとは思わなかったかもしれない。

完璧な「お馬さん理論」ではないか。


スゴいな、お馬さんって。

そのとき、得意げに鼻を膨らませたお馬さんを見て、鼻をひねって再起不能にしてやろうと思ったが、やらなくてよかった。
あぶないところだった。


その尊敬できる理論を述べたお馬さんに対して、ここで深く頭を下げたいと思う。


ヒヒ〜〜〜〜〜〜〜ン!!





なお、このブログは、藤原紀香さん、佐々木希さんを誹謗中傷するためのものではありません。しかし、ファンの方が感情を害されたのなら、お詫びいたします。
また、お馬さんに関しても、このブログは彼の馬ばなれした知能を賞賛するものであって、彼を貶めるつもりがないことをお断りいたします。
ただ、もし気分を害されたのなら、ニンジンと飼い葉を持って、お詫びに伺いたいと思います。



2013/07/27 AM 07:04:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

ベビーシッターおやじの妄想
週に1度、ベビーシッターもどきのことをしている、とブログに書いたことがある。

昨年の暮れ、訳あって、昼間だけノートパソコンを抱えて放浪生活をしていたとき、大学時代の友人・カネコの娘、ショウコから「私が大学院にいっている間、部屋使っていいよ。でも、その代わり、子どもの面倒を見させてあげるからさ」という、ありがたい上から目線のお言葉をいただいた。

そのとき私は、大人としての威厳を保ちつつ、おお! そんなに頼むのなら、気は進まないが、やってみてもいいぜ、と心の中で唱えながら、ぜひ、お願いします! と深く頭を下げた。

放浪生活をやめた後も、ショウコが泣いて頼むので、金曜日だけ「ベビーシッターおやじ」をさせていただいた。

ただ、最近は私の多忙と体調不良のため、ショウコが大学院に行くスケジュールと噛み合わず、2週間に1回程度しかベビーシッターおやじに変身できなくなった。

先週の金曜日、久しぶりにガキどものお世話をしてやった。

「しらがジイジ」とガキに呼ばれ、ガキのお相手で疲れ果てていたとき、ベビーシッターおやじ、あるいはホネホネ白髪おやじ、と私を呼んで、こき使う鬼のような女・ショウコが大学院から帰ってきた。

クリアアサヒを飲ませろ!

「死にたいのか、ホネホネベビーシッターおやじ!」

あらあら、呼び名が合体しちゃったよ。
しかし、まだ死にたくはないので、豆乳で我慢した。

美味しくいただきました。

そのあと、雑談タイム。
最近、ショウコの夫・マサが、何を思ったか、宝くじを買ってきたらしい。

そして、毎回晩メシどきの話題に、当選したときの妄想を繰り広げているというのだ。

「一戸建てを買いたい」
「海外に移住しようか」
「ホテルオークラのスイートに一ヶ月居続けるのはどう?」
「高校野球の大会期間中、甲子園に泊まり続けて、毎日応援に行くのも面白いな」

大丈夫か、マサ!

中学の英語教師という崇高な仕事に、飽きてしまったのか?
可愛い教え子を捨てるつもりか!

「教師も大変なんだよ。ストレスたまるんだろうね。逃げたくなるときもあるんじゃない?」
私に対するときと180度違って、ずいぶんと物わかりのいいショウコであった。

「サトルさんはどう? たとえば、一億円当たったとしたら」

俺は、全額寄付だな。

「あり得ない!」
ショウコが、鼻で笑った。

世界で一番貧しい家庭に、全額寄付する。
それが最も有意義な一億円の使い方だ。


世界で一番貧しい家庭……………それは、武蔵野市のMさんちのことだけどな。


頭に衝撃が走ったが、衝撃が激しすぎて、痛さを忘れた。
もしかしたら、夢だったかもしれない。

ところで、俺も妄想していることがあるんだけどな。

「どうせ、ヘンタイ的な妄想でしょ」

ほぼ当たり。

たとえば、俺の好きな人に、こんなことを言ってもらえたら、俺はいつ死んでも思い残すことはない、というフレーズ。

柴咲コウさんに「少しは休んだ方がいいよ。明日もあるんだから」と言われたら、俺は死んでもいい。

「そんなに頑張らなくてもいいから」は、ガッキーだな。

「おいしいごはん作って待ってるからね」は、菅野美穂さん。

「あんたは、もっとできる男だよ」は、天海祐希さん。

最初は、興味深く聞いていたショウコの顔が、途中から真夏に雪男を見たような目に変わってきた。
いつパンチが飛んでくるか、わからない。

だから、慌てて、こんなことも付け足した。

ショウコに言ってもらいたい言葉も妄想してみたんだ。

「はいはい、どうぞ、聞いてあげるから」
ガキを膝の上に乗せた母親の顔で、ショウコが無表情に笑った(不気味)。

怯えながら言葉を発した。

「私が悪うございました。人生の大先輩であるサトル様のことを大事にせず、暴力ばかり振るっておりました。これからは、心を入れ替えますので、未熟者ではありますが、色々とご指導ください」

ガキが膝の上に乗っているからといって、安心してはいけない。
「蹴り」という武器も持っている女なのだ。

全身で身構えた。

しかし、そのとき、ガキが天使のような笑顔で、私に言ったのである。
「ねえ、しらがジイジ。『じんしぇいのだいしぇんぱい』って、な〜に?」

すると、すかさずショウコが、「ウルトラバカってこと」。

「へ〜、シュゴいんだね。しらがジイジ!」
尊敬のまなざしで、私を見てくれた。
(ウルトラマンだと思ったのかもしれない)



はい、ありがとうございます。



小遣いをさし上げた。




ウルトラソウル! ハイッ!




2013/07/22 AM 07:10:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [子育て]

枯れ木も山のにぎわい
最近、サカナクションにハマっているんだよね、と私が言うと、「俺も最近は、肉よりもサカナの方がいいなあ」と答えた、テクニカルイラストの達人・アホのイナバ。

One ok Rockはクールだね、と私が言うと、「1時と言ったら、暑さがピークでしょ! ホットすぎる時間ですよ。俺はダメだな、暑さに弱いんで」と答えたアホのイナバ。

そして、一昨日、「近所の温泉に行きましょうよ」と、そんなイナバに誘われて、「近所の温泉」に拉致された。
イナバの愛車に乗せられて行ったのは、河口湖のリゾートマンションだった。

マンション内に、マウントフジが見えるパノラマ大浴場があったのだが、そこは温泉ではなかった。

「温泉じゃないじゃん!」というのも大人げないので、景色がサイコー、とはしゃいであげた。

しかし、東京日野市から河口湖までの乗用車2時間の距離がご近所とは、毎度のことながら、イナバの感性には感心させられる。
それなら、箱根だって鬼怒川だって、ご近所ということになる。

ちなみに、このリゾートマンションは、イナバの奥さん名義のものである。
石垣島の別荘も、奥さん名義だ。

他に海外にも別荘を持っているのだが、反感を持つ人がいるかもしれないので、詳しくは書かない。

アホのイナバも奥さんも、ピュアでいい人だ。
金持ち、と聞いただけで歪んだ感情を持つ人がいるが、イナバの奥さんは、確実に日本の税収を大きく支えている国民の一人である。

彼女の日本国への貢献度は、最貧民の私の貢献度の数十倍あるはずだ。

だから私はアホのイナバは尊敬しないが、イナバの奥さんのことを、日本国民として尊敬している。


帰りの車内で、クリアアサヒの350缶を飲んだ。
なぜか車内にクーラーボックスが置いてあって、その中にクリアアサヒが入っていたからだ。
(イナバは、私の胃が痒い病になっているのを知らない)

本当は医者から止められているのだが、わざわざ用意していただいたものを飲まないというのは、たいへん失礼な行為にあたるので、仕方なく飲んだ。
だから、私は悪くない。

クーラーボックスが、悪いのだ。

さけるチーズを食い、クリアアサヒをグビッと傾けながら、イナバに聞いた。
(本来なら、ここは柿の種なのだが、川崎守護職から柿の種禁止令が出たので、チーズを裂いたのだ)

用があるってのは、富士山をオレに見せることだったのか。
それは、世界遺産登録記念ということか。

「ハハハ」と笑いながら、アホのイナバが言った。
「富士山は世界の宝なんだから、大昔から世界遺産だよ。情報が古すぎるよ、Mさん!」

ああ………そうですかあ………それは、失礼いたしました。
(アホの思い込みには勝てないので、放っておこう)

「ああ、そうだ、忘れていた」とイナバ。
「いつもMさんに頼んでいる同人誌の原稿が来たんだけど、また執筆が間に合わない人が3人いるんで、Mさん、ねつ造をお願いしますよ」

あらら・・・ねつ造って、言い切っちゃったよ。
いいのだろうか、モラル的に。
せめて、代筆と………。

「まあ、名前も内容も変えて書いているんだし、今までに一度もクレームが来ていないらしいから、何の問題もないんじゃないかな。
それに、Mさんが原稿を書くときは、本人の許しを得てテーマをその人から聞いて、人格がその人に憑依して書いているわけだから、ねつ造とは言えないよね」

「ジンカク」と「ヒョウイ」という高度なヘブライ語が、アホのイナバの口から聞けるとは思わなかった。
イナバも成長したものだ。

イナバのことが、私は、ますます好きになった。
ただ、誤解しないでいただきたいのだが、私には、精神的にも肉体的にも男を愛する趣味はない。

私は、たとえ女に生まれ変わったとしても、男を愛さないと決めているアッパレな男なのである。
(ワタシノイッテイルコトオカシイデスカ)

2本目のクリアアサヒを開けた。
そのとき、私の胸に小さな罪悪感が芽生えたのだが、パッション屋良さん(ご存じない?)のように、胸を強く叩くことで罪悪感を追い出した。

罪悪感のなくなった心は、とても軽かった。

そんな風に、心も体重も軽さを実感していたとき、いちオクターブ高い声で、イナバが言った。
「ああ〜、富士山見たら、『ほうとう』が食べたくなったなあ! 富士山と言ったら、やっぱり『ほうとう』だよね、Mさん!」

アホに逆らうとヤケドをするので、ああ、そうだね、富士には『ほうとう』がよく似合う、と太宰治を真似て答えておいた。

「じゃあ、決まりだ。『ほうとう』を食べに行こうよ。美味しい店、俺、知ってるから」

そんなとき、カーFMから、サカナクションの「ミュージック」が流れた。
それを聴いて、私は言った。
ほら、これがサカナクションだよ。

「いや、Mさん、悪いけど、『ほうとう』にサカナは、あまり合わないと思うよ。『ほうとう』には、豚か猪豚だね」

はい! 申し訳ありませんでした。
確かに、『ほうとう』には、豚肉が合うと私も思います。

そんな風なコントを演じているうちに、東京あきる野市のほうとう屋さんに着いた。

私にとっては、初あきる野市だった。

店の入り口に、圧倒されるほど、でかい暖簾がかかっていた。
お昼どきを外れていたが、店内は半分ほど埋まっていた。
人気がある店なのかもしれない。
あるいは、祝日だったからか。

イナバは、猪豚入りほうとう、私は豆腐ほうとうを頼んだ。

クソ暑い中で食う、熱いほうとうは、クセになりそうなくらい美味かった。
コシのある麺は、長時間のドライブで固くなった私の腰を優しく解してくれた。
豆腐と野菜が、スープの中で上手に解け合って、私の疲労を解かしてくれた。

それは、至福の時間と言ってよかった。


ほうとうを食いながら、イナバが唐突に言った。
「Mさん、まあ……あれだよね。Mさんには、俺がついているからさ。俺がMさんの骨を拾うから、心配しないでよ」

アホのイナバには言わなかったが、7月2日のブログで書いた「私の親父さん」が、今月の12日に死んだ。

友人から「早く来てくれ」と言われて、親父さんの自宅に駆けつけた。
前回会ったときから覚悟はしていたが、実際にその時間が来ると、私はうろたえて、ただ心を震わせることしかできなかった。

親父さんの最期の時間を友人と一緒に、看取った。

腰が砕けそうになるのを懸命に我慢した。

友人が、踏ん張っているのを見たからだ。

血の繋がらない俺が、ここで取り乱すわけにはいかない。
それが、最低限の礼儀だと思った。

「葬儀は、身内だけでやってくれよ」
親父さんの遺言だった。

「おまえは、身内なんだから、拾ってくれよな」と友人から言われた。
そう言われたら、拒むわけにはいかない。

濃厚なお別れをした。

そして、俺は、泣かなかった。
(家に帰ってから、風呂場で30分泣いたが)

きっと親父さんは、それを喜んでくれたはずだ。

その日の夜、イナバから電話があった。
「大事な用があるんだけどな。あと……温泉もね」

イナバには、親父さんのことを何も教えていなかった。
しかし、ピュアなイナバは、何かを感じ取ったのかもしれない。
私が、打ちひしがれていることをイナバ独自のアンテナでキャッチしたのかもしれない。


ほうとうを食い終わったイナバが言った。
「俺、Mさんと出会わなかったら、つまらなかったと思うよ。
だから……俺にMさんの世話をさせてよ」

14歳年下のアホのイナバ。


俺ほど手間のかかる男はいないぞ。
覚悟はできているのか?

「大丈夫。
俺だけでは無理だけど、俺には、できすぎた女房と賢い子どもたちがいるから、分担で面倒を見るよ」

俺にも、できすぎた女房と賢い子どもたちがいるんだけどな。

「できすぎた女房と賢い子どもたちは、何人いてもいいだろ? なんだっけ? 『枯れ木も山のにぎわい』ってやつかな。俺たちは、枯れ木でかまわないからさ」

いや、どちらかというと、ルックス的には、俺の方が枯れ木だよな。


「確かに」


喜びを表現しようと、私がハイタッチをしようとしたら、アホのイナバは、グータッチをしようとしていた。

見事なすれ違い。



こんなやつを頼って本当にいいんだろうか、と思った俺だったが、心は確実に泣いていた。




2013/07/17 AM 05:53:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

「ワーイ」の2乗
人が健康を意識するときは、自分の身体が不調のときだ。


川崎の母親が、5月末に心不全で入院した。

88歳の高齢だから、医師から「他にご家族の方がいたら、覚悟するように伝えてください」と言われた。
まるで、しょっぱい梅干しを食った柳葉敏郎氏のような顔だった。

覚悟した。
なにしろ、私の母は、病気のデパートのような人なのだから。
(肺結核、再生不良性貧血、真菌症、気管支拡張症、不整脈)

だから、現実的に色々な準備をし始めた。

ICU(集中治療室)に入るほどではなかったが、肺の水が心臓を圧迫して、呼吸機能と心肺機能が低下するという緊急事態。
「付き添わなくてもいいですよ」と看護師さんには言われたが、「覚悟しろ」と脅されたのだから、付き添わないわけにはいかない。

病室にパソコンを持ち込んで仕事をした。
打ち合わせのときは、病院から出かけて、打ち合わせを終えたらすぐに戻った。
家族の世話をするために、週に2回オンボロアパートに帰った(順繰りに熱を出したので)。
たまに、同業者との飲み会に参加した(非常識?)

このとき、驚かされたのは、母の生命力の強さだった。
心肺機能が、肺の水を尿として排出することで徐々に回復。
日一日と顔色がよくなり、2週間程度で上体を起こせるようになった。
点滴が外れて、ミキサー色が食べられるようになった。

いま歩行リハビリの最中だが、来週の頭(7月第3週)には退院できるだろう、と柳葉敏郎氏から告げられた。
いいニュースなのに、顔は相変わらず、しょっぱいままだった。


だが、ここで異変が起こる。

私の身体のことだ。

私の心体は、室町時代のお公家様のように、華奢でデリケートにできている。
母の入院前、56キロあった体重が、2週間後には52.7キロにまで激減した。

オレ、ダイエットなんかしていないのに………。

今年の始めには、体重が53.8キロまで落ちたので、一日に5食とることで体重がやっと56キロに増加したばかりだった。
ちなみに私の身長は、180センチ。

普通に考えれば、痩せ過ぎですよね。
看護師さんからも「大丈夫ですか。お母様よりも病人の顔してますよ」と言われた。
得意先の人からも「ゼッタイ、どこか悪いでしょう」と心配された。


みぞおち横の胃の痛み。

それは、初めてのことだった。
もともと食い過ぎるということがない私は、胃の痛みを感じたことが、ほとんどなかった。

「この年になると、脂っこいものを食べると胃がもたれるよな」と同年代の友人たちが言う現象にも、ほとんど無縁だった。

胃がもたれるほど食べるなんて、バカじゃねえか! ケッ! 食い意地の張ったやつ! としか思っていなかった。

しかし、胃の痛みと胃のもたれが、お公家様の私を襲った。

6月の第2週。
幸いにも、そのとき私は病院で暮らしていたので、消化器科に行って診てもらうことにした。
すると、「明日、内視鏡のキャンセルが出たから、内視鏡とりましょうネエ。今晩9時以降は何も食べないでねェ」と、消化器科のオカマチックな医師から言われた。

翌朝、鼻から管を入れられて変な気分になり、過去の出来事が走馬灯のように蘇ったとき、「ああ、これは胃潰瘍かも〜〜」とオネエ言葉で言われた。
終わって、食生活に対する注意を受けたが、医師の口調が気になって、ほとんど内容が耳に入ってこなかった。

薬をいただけるというので、とりあえず、いただいた。


オレが、胃潰瘍だってさ………ひとり呟きながら母の病室に向かった。


廊下で、「検査の結果、どうでした?」と豪快な体型の看護師さんに聞かれた。

い〜〜〜かいいよ〜〜〜、とお腹を掻きながら答えたら、「はっ?」と言う顔でガン見された。
豪快な身体に、渾身のギャグを跳ね返されたマヌケな光景だった。

母から、「もういいから、家に帰って、ゆっくりと休みなさい」と言われたので、はい、お母様! 承知いたしました、と答えた。
それが、6月2週のことだった。


胃潰瘍には、刺激物とアルコールは禁物、ストレスもためちゃダメよォ、とオネエから言われた。

だから、我慢した。

ん? 我慢した?
なにを?

それに関しては、VTRを見てみないとわからないので、ここでは「保留」ということにしておく。

薬は、言いつけを守って、必ず飲んだ。

その他に、独自の療法を「自己責任」で行った。

根拠は全くないのだが、チーズをたくさん食った。

私は、初めて告白するのだが、チーズ(発酵性凝固乳製品)が、柴咲コウさん、ガッキーの次に好きだ。
だから、ほとんど毎日、チーズ料理を食卓に並べた。

高校3年の娘からは、「チーズ占拠率79パーセント」と笑われた。
「なんで、チーズばっかり?」とヨメに聞かれたので、ナイショ、と答えた。

その他に、ヨーグルトを3食摂取した。
「LG21」という高価なヨーグルトを身分不相応だとは思ったが、毎朝食った。

ヨーグルトメーカーなるものもAmazonで購入した。

ヨーグルトの他に、工夫をすればカッテージチーズ、クリームチーズができるので、それを料理に利用した。
なかなか優れもののマシンではないか。


で・・・・・クリアアサヒを飲んだかって?


それは、笑って誤魔化すことにする。

昨日、病院に行って、また内視鏡を鼻から食った。

映像を見て、「あらあ、けっこう治ってるじゃない。かなり節制したのネエ〜」と完全なオネエ言葉で言われた。

寒気がした。
これは、風邪ではないかと疑って、内科の診察を受けようとしたが、ロビーに戻ったら寒気が消えたので、風邪ではなかったかもしれない。

快方に向かっていると聞いて、嬉しかった。

ちなみに、書き忘れたが、医師は、オードリーの若林氏を無理矢理にデフォルメした女性である。
だから、正確には彼女が発する言葉は、「オネエ言葉」とは言えない。
普通の女性言葉だ。
ただ、容貌がオネエなので、オネエに聞こえてしまうのだ。

どうでもいい情報だが……。


家に帰って、体重計に乗った。
55.4キロ。

戻ってる。


それを見て、私は軽く飛び上がった。


ワーイ! ワーイ!


「ワーイ」の2乗だが、自分のことなので、この程度の喜び方でいいのではないかと………。




さて…………めでたいので…………クリアアサヒ…………?




2013/07/12 AM 05:47:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

「ワーイ」の100乗
極道コピーライター・ススキダから頼まれた輸入雑貨ショップの仕事が、10日前に終わった。

そして、中央線の特別快速並みの高速で、ギャランティが支払われていた。
しかし、こちらの請求額より少し多く入金されていたので、文句の電話をかけた。

「いや、それはだな……レイコ(ススキダの奥さん)が、仕事の打ち合わせをするのが初めてだったんで、おまえに迷惑をかけたんじゃないかと思ってな。
だから、それは迷惑料+レイコに対する教育料だと思ってくれ」

教育なんて、俺はしていないぞ。
教えたことと言えば、バレない不倫の仕方だけだ。

私がそう言うと、ススキダが「コロす!」と凄んだ。

だから、「殺さないでください」と、威厳を持って電話を切った。


レギュラーの浦和のドラッグストアの仕事をしていたとき、iPhoneが震えた。
ディスプレイを見ると、知らない電話番号だった。

「拒否」ボタンを押そうとしたら、左手の親指が私の意思に逆らって、「応答」ボタンを押してしまった。

「ユミコさんのご主人さまの携帯でよろしいでしょうか?」
聞き覚えのない声だ。

新しい手法の振り込め詐欺ではないかと思った。
私のヨメをダシにして、全財産の5兆円を私に振り込ませようというのか。

身構えた。

しかし、続けて聞こえて来たのは、まるで今すぐ漏らしそうなほど切羽詰まった女の声だった。
「待ち合わせの時間に、奥さんが来ないんです!」

12時半にランチの約束をしたのだが、1時10分になってもヨメが姿を見せないのだという。
それで、以前に、どういうわけか私の携帯の番号をヨメから教えられていたので、私のiPhoneに電話をかけてきたということらしい。

「何か、あったのでしょうか?」

電話はしましたか?

「しましたけど、出ないんです」

私は、ヨメの行動を熟知しているから、ヨメがなぜ電話に出ないのか、知っている。
自分のiPhone5を置いた場所を忘れたからだ。

いまヨメは、必死になって、iPhone5を探しているに違いない。
しかし、多くの人が経験あるように、探せば探すほど大事なものが見つからないというのは、天才アインシュタインをも悩ませた問題である。

ただ、私はヨメのiPhone5のある場所を知っていた。
私は、何でも知っているのだ。

朝早く、ヨメが台所で洗い物をしていたとき、シンクの横の引き出しに置き忘れたのが、そのiPhone5だった。
おそらくiPhone5は、その場所から動いていないものと思われる。

そして、ヨメが、そのことに気づくことは一生ないだろう。
まったく関係ない場所を懸命に探しまわっているに違いない。

だが、知っていて教えないとなると、夫婦関係に亀裂が入る恐れがあるので、親切な夫である私は、オンボロアパートの階下に降りて行って、ヨメにiPhone5の場所を教えた。

「えー! 誰が入れたの! こんなところに?」

そうヨメが言ったので、iPhoneも、たまには孤独になりたかったのさ……な〜んちって! と答えた。

白けた。

ヨメは、まるで怖いものから逃れるようにして、1時26分に家を出た。
(家を出たといっても、家出をしたわけではない)


その後に電話をしてきたのは、高校3年の娘だった。

「斉藤さんって、知ってるか?」

ああ、知っている。
今度始まる日本テレビのドラマだな。
観月ありさ主演の。

「バカか、おまえは! リアルな斉藤さんだよ!」

「斉藤さん」の原作はマンガだが、話はリアルだ。
他に、リアルな「斉藤さん」がいるのか?
俺は、知らないぞ。

「リアルにいるんだ。
篠原涼子を愛しさと切なさと心強くしたような感じの相当な美人だぞ。
心当たりはないのか?」

それは、お得意さんの斉藤さんだな。
色々な業種のプロデュースをしている会社のチーフ・プロデューサーだ。
最近、横浜元町の支社から新宿本社に移ってきたお方だ。

「やっぱり、知っとるのかい!
で、その斉藤さんが、なんでオレの顔と名前を知っているんだ?
いつもお父さんには、お世話になっていますって言われたぞ。
まさか……お世話をしているのか?」

iPhoneの中の家族写真を見せただけだ。
家族がいるということをアピールしておかないと、惚れられてヤケドをすることもある。
用心のためだ。

「おまえ、キモイな。鬼キモイな」

いや、鬼ではなく、神だと言ってくれ。
神キモイと。

「ケッ! 虫けらキモイわ!」

電話を切られた。
(虫けらキモイは、もちろん最上級の褒め言葉だと思うが)


その後、同業者のお馬さん(人類史上最も馬に激似の男)から電話があった。

二十歳で結婚した息子に子どもが生まれたのだが、2年で離婚。
その息子が、つい最近、子ども連れで実家に出戻ってきて、お馬さんがヒマなときは、孫の面倒を押し付けられているという。
(お馬さんは説明能力が3歳児なので、この程度の話を説明するのに、17分25秒の時間を要した)

お馬さん一世、お馬さん二世、そして、孫が三世。
埼玉のご自宅は、まるで厩舎ですな。

息子も奥さんも出かけていて、お馬さん三世(1歳2ヶ月)に、何を食わせたらいいかわからない。
だから教えてくれ、と嘶(いなな)かれた。

ニンジンを生で、と答えた。

「生で? そのままで? それじゃ、馬みたいじゃないですか」

だって、馬じゃないですか。

しかし、それではお馬さん三世が、あまりにも可哀想なので、事細かく教えてさし上げた。
とても感謝された。

ヒヒ〜〜〜〜〜〜〜ン!


トリを飾るのは、WEBデザイナーのタカダ君(通称ダルマ)。

晩メシを食い終わった午後8時36分に、ハイテンションで電話をかけてきやがった。

「師匠! 喜んでくださいよォ!」

わかった。
ワーイ! ワーイ! ワーイ! ワーイ! ワーイ!

これでいいか、と言って電話を切った。

しかし、それから6分待っても、ダルマから電話はかかってこなかった。
いつもなら、「師匠! 冗談はフェイスだけにしてくださいよぉ!」と間抜けな電話がかかってくるはずなのに………。

心配になって、こちらから電話をかけた。
さっきの電話のあと、顔面発作で苦しんでいるかもしれないからだ。

予想に反して、ダルマが普通に出た。

あれでよかったのか、と聞いた。

「はい、さすが師匠ですね。俺の言いたいことが、すぐわかったんだから」

(ダルマの言いたいこと?)
えーーーと、要するにぃ、二人目ができたってことだよな。

「ああ、やっぱり、わかっていたんですね。何も言わなくても通じるんですねえ! 師匠には!」
(タカダ君、悪いが、俺はテキトーに答えただけですよ)

いや、しかし………、タカダ君、俺は間違っていたかもしれない。
この場合は、「ワーイ」の5乗ではなく、「ワーイ」の100乗でなければいけなかったんだ。

95乗も少ないなんて、君に悪いことをした。
謝るよ。

だがね、タカダ君。
今の俺は、体力的に「ワーイ」の100乗は無理だ。
だから、95乗を「借り」にしておいてくれないだろうか。

私がそう言うと、ダルマは即答した。
「わかりました。『ワーイ』の95乗を俺の『貸し』にすればいいんですね」

悪いね。

「いや、大丈夫です。なんの問題ありませんよ」


(よかった。ダルマが、愛すべきアホで)


ワーイ!


(これで、「ワーイ」の94乗に減った)



タカダ君、トモちゃん(ダルマの奥さん)、おめでとうございます。


誕生予定日を聞くのを忘れたが、おそらく年内には生まれることだろう。

それまでに、「ワーイ」の94乗をお返しすることを、今回のマニフェストに追加しておこう。



2013/07/07 AM 08:07:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

逆に、親父さん、ありがとう
蒸し暑い一日だったが、心は寒かった。

そして、俺は怯えていた。


昨年4月のブログで、高校・大学時代の友人の父親が、世田谷区池尻で喫茶店を開いていることを書いた。
コチラを参照していただきたいが、ここのサーバーはリンクが外れるのが当たり前なので、期待しないでください)


「ちょっと話したいことがあるんだけどな」と、3日前に友人から電話があった。

日曜日に、一年ぶりに池尻に足を運んだ。

客はいない。
一年前と表情を変えていない明るい店内とサンルームの花たち。

だが、それよりも強く私の目に入って来たのは、私を困惑させる光景だった。

車いすに乗った「親父さん」。
一年前と比べて、頬がこけ、やつれが際立っていた。

頼みもしないのに、コーヒーとサンドイッチが出された。
親父さんではなく、友人が運んで来てくれた。

「まあ、一口飲んでから……だね」と親父さんが、力のない声で言った。

言われるままに、酸味の強いコーヒーをすすった。
それと同時に、友人が口を開いた。

「つい最近まで、おまえには教えるなって言われていたんだが……親父は…肺がんの末期……もう時間がないんだ」
途切れ途切れの言葉。
目を痙攣させながら友人が言うと、親父さんが、なぜかハハっと笑った。

「俺は、もう80歳だよ。10年前から人生の末期さ。覚悟はしていたよ」
そう言いながら、またハハハと笑った。
目には、親父さんらしいダンディで悪戯っぽい光があった。

「2週間前に、親父たちが新婚旅行で行った台湾の高雄を訪ねた。最後に行きたいところはって聞いたら、台湾だって言うから、家族みんなで行って来たんだ。それから……な、親父は思い残すことはないが、最後におまえに会いたいって突然言ったんだ。忙しいところを悪いが、今日は親父に付き合ってやってくれ」
友人が、深く頭を下げた。


実の父親との繋がりが薄かった私だが、幸いにも「父」と呼べる存在が二人いた。

実の父親の兄である「伯父さん」と友人の父である「親父さん」。
その親父さんが、なぜ私を可愛がってくれたのかは、いまだにわからない。

大昔の話だが、駆け落ちをした私たち夫婦は、結婚式を挙げていなかった。
ただ、友人たちが企画してくれた披露宴だけは催させてもらった。

私の方は、高校・大学時代の友人だけ。
ヨメの方は、勤め先の同僚だけというささやかなものだった。
お互いの親は、呼ばなかった。
(披露宴だから、こだわる必要はないのだが、ヨメの母親が宗教的なことにこだわったのだ)

その若者ばかりの披露宴に、唯一参加した大人が、親父さんだった。

「だって、俺はサトルの父親代わりみたいなもんだからさ」

そう言って、K大学応援団OBの親父さんは、K大学伝統の応援を披露して、列席者の度肝を抜いた。

私たち夫婦に子どもが生まれたときも、親父さんは産院に真っ先に駆けつけてくれた。
そして、生まれた子どもの顔を覗き込みながら、「孫の顔を見ることができて、俺は長生きができそうだよ」と笑った。

だから、親父さんは、私の「父親」だった。

その「父親」が、私の目を真正面から見つめながら、表情を変えずに言った。
「あと2週間くらいだろうな。お別れは早い方がいい」

酸味の強いコーヒーが、苦い味に変わった。

古いエアコンだから、普段は冷房の効きが悪い。
しかし、そのときは、空気が真冬のように冷たく感じられた。

体も頭も凍って、思考が止まった。
いや、時間が止まったと言ってもいい。

そんなとき、親父さんが、いつもの半分以下の声の強さで、しかし、笑いながら言ったのである。

「さて……今日は、どんな面白い話を聞かせてくれるのかな」

店に私が行くと、親父さんはいつも私に面白い話をリクエストするのである。
そして、その話が面白いと、コーヒー代をタダにしてくれたのだ。
(最初から一度もコーヒー代を請求されたことはないが)

ショッキングすぎる話と咄嗟のリクエストで、頭が回らないまま、私は話をし始めた。
面白い話になるか、自信はないのだが、親父さんのリクエストは絶対である。

もしかしたら、この話が最後に……………。


得意先での打ち合わせの帰りに、東横線に乗ったときのことだった。
午後1時過ぎの東横線は空いていた。

その空いていた東横線の同じ車両に乗り合わせたのが、40歳前後と思われる女性の2人組だった。
盛んに、K−POPや韓国のドラマ、映画の話をしていた。

二人のうちの一人の声がでかかった。
しかも早口だ。

申し訳ない言い方になるが、耳障りだった。
そして、さらに耳障りなのが、その女性が話の頭に必ず「逆に」をつけることだった。

「逆に、東方神起は5人の方がよかったわよ」
「逆に、韓国料理は、本場より日本の方が美味しいわよね。あっ、でも、逆に、冷麺は韓国ね」
「逆に、新大久保って、私たちにとっては聖地よね」
「逆に、グンちゃんの日本語ってイケルわよね」
「逆に、若い子って、ヨン様のことを知らなすぎね」

「逆に」の総攻撃。

他の車両に移ろうかとも思ったが、それでは敗北感だけが残るので、気を強く持って座り続けた。

こんなとき、私の幼稚な部分が出てしまうのは、私に堪え性がないからだろう。

電車が祐天寺駅に着いたとき、私は、ああ、『じんてうゆ』かあ、と独り言にしては、でかすぎる声で言った。
そして、あっ、間違えた! 『逆に』読んじまったぁ!

二人の会話が止まった。
そして、明らかな舌打ち。

怒らせてしまったようである。

しかし、変人の私は、その程度のことでは怯まない。

つぎは、『ろぐめかな』だな。
あっ、また『逆に』読んじまったぁ!

お二人様は、中目黒でお降りになった。
降りるとき、『逆に』の人に睨まれたが、そんなことは知ったこっちゃない。

『逆に』いい気分だった。
(我ながら幼稚で嫌なやつ。逆に、あとで自己嫌悪)


そんな話をしたら、親父さんは、大口を開けて笑ってくれた。

それを見た友人が、「やっぱり、バカ話はmatsuに任せた方がいいな。親父の嬉しそうに笑う顔を見たのは久しぶりだよ。顔色も少し良くなった気がする」と、私の肩を強く叩いた。

友人の目に涙が光っていたのは、見ない振りをして、やり過ごした。

「抱きしめてもいいかい」と親父さんに言われたので、車いすの親父さんのそばに行って、抱きしめられた。

骨格に抱きしめられたようなものだったが、体は熱かった。

「泣くなよ。俺も泣かないから」と親父さんに言われたので、涙を体の奥に押し込めた。



あの日から俺は、ずっと怯えている。

大切な人をなくす喪失感を味わう日は、できるだけ遠い方がいい。

だから、友人からの電話が来ないことを願って、怯えながら一秒一秒を生きている。



私はいま、心の中で、親父さん、ありがとう、を何度も繰り返している。


そう唱えれば、その日が永遠に来ない、と思っているからかもしれない。



2013/07/02 AM 05:51:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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