Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








ビール泥棒チーズ泥棒
家族の晩メシをほぼ作り終えた昨日午後7時7分前、大学時代の友人であり、コンサルタント会社の社長であるオオクボから電話があった。


「大丈夫か、おまえ」と突然言われた。

もちろん、俺はいつだって大丈夫じゃない男だ、気にするな、と答えた。

どう大丈夫じゃないかと言えばな・・・・オオクボ、俺はこの間、京橋のウチダ氏の事務所に行ったんだよ。
ウチダ氏は、例によって忙しかったから、不在だった。

だから、俺は当たり前のように合鍵で侵入して、冷蔵庫の中のクリアアサヒを飲み、身分不相応だとは思ったが、スーパードライも飲んでしまったんだな。


ウチダ氏は、このブログで何度も書いているが、イケメンである。
そして、仕事もできる。
さらに、決して人を不快にさせない卓越した話術も持ち合わせている。

つまり、人間として、とてもイヤな奴だ。

彼は、自分が不在のときに、五歳年上の貧相な白髪オヤジが来ることを想定して、絶えず事務所の冷蔵庫に、私の大好物であるクリアアサヒと各種のチーズを常備している奴なのである。

2日前、午後1時過ぎ、侵入に成功した私は、まずクリアアサヒの500缶を飲みながら、カマンベールチーズをかじった。
次もクリアアサヒの500缶。
そして、二つ目のカマンベールチーズ。

飲んで食ってだけでは飽きるので、自宅で撮りだめしておいたTVドラマ「ゴーイングホーム」を3話から観はじめた。

TVは、42インチの液晶。
レコーダーは、ブルーレイ。

成功者め!

私には、到底理解不能なのだが、世の中には、フジテレビの番組というだけで忌み嫌う人が、いらっしゃるようだ。
しかし、私は嫌う理由がまったくないので、ゆったりとした気分で、映像を堪能した。

このドラマは、BGMがないのと、会話の密度が薄いところが好きだ。
そして、物語の進行が緩やかで穏やかなところがいい。

つまり、監督と俳優の力量が如実に出る。

それぞれの俳優さんの表情、会話の間に感嘆しながら、今度はスーパードライの350缶を飲んだ。
つまみは、チェダーチーズだ。

そして、チェダーチーズをかじりながら、2本目のスーパードライ。

幸せ過ぎて、チーズ臭い屁が出た。
(下品でスイマセン)

さらに、スーパードライを飲んで、幸せ絶頂のとき、突然の眠気がやって来た。
「ゴーイングホーム」は、第5話が終わろうとしていた。

尻の居心地がいい、やや硬めのレザーのソファ。
まぶたを閉じる前に見たデジタル時計の数字は、15:57を示していた。


夢を見ているという感覚はあった。

突然、目の前に広大な竹やぶが広がったのだから、これは夢に決まっている。

漆黒の闇の中に、浮き上がって見える魍魎の巣のような竹やぶ。
鳥肌が立つくらい、おぞましい光景だ。

そこに足を踏み入れるのは勇気のいることだったが、私の足は勝手に動き出していた。
滑るように竹やぶに侵入し、アッという間に竹やぶの中心まで到達した。

その竹やぶの中心にいたのは、何故かピアノを弾いている宇多田ヒカルお嬢様だった。

その光景を見たとき、私は夢の中で、これは間違いなく夢だということを確信した。

ピアノの音に合わせて歌われる「誰かの願いが叶うころ」。

名曲だ。

聞き惚れた。

しかし、聞き惚れているときに別角度から唐突に聞こえてきた「We will rock you」。
QUEENの代表曲である。

まさか、この竹やぶには、QUEENもいらっしゃるのか。

まあ、夢だから、いてもおかしくはないが・・・・・。

しかし、その「We will rock you」は、夢にしては、妙に現実的な音だった。
無遠慮に私の左耳に侵入してくる。

これでは、宇多田ヒカルお嬢様の歌声が聴こえないではないか。

この無礼者が!

と叫ぼうとしたとき、夢の中の私は、これはiPhoneの着信音であることに気づいた。
得意先からの電話は、着信音をみな「We will rock you」にしてあったのだ。

夢の中で宇多田ヒカルお嬢様の歌声に心を囚われつつ、現実的な意識の中ではiPhoneの着信音を認識し、早く出なければ、と焦る俺。

意識は覚醒途中なのに、体は、まだ夢の中。

金縛りというほどではなかったが、焦って開けた私の目が最初に捉えたものは、暗い闇だけだった。

真っくろ〜〜〜〜〜〜〜い闇。

全身にトリハダ。

そのあと、突然口から発せられた「ギャーーーーーー!」という自分の声に驚いて、すぐに私の体は目覚めた。
そして、iPhoneの発信音が止んだ。

夢遊病者のような緩慢な動きで、iPhoneとビジネスバッグ、スーツの上着を拾って起き上がり、私は一直線にドアに向かった。
2回ドアに体当たりを食らわしたのは、覚えている。

体が完全に目覚めていなかったこともあって、距離感がつかめなかったのだと思う。

暗闇の中でドアノブを探って、震える手でドアを開けた。

廊下に出た。

廊下は、電灯がついているので明るい。
その明るさが、私を正気に戻してくれたと言っていい。

だから、事務所の鍵をかけることは忘れなかった。
そこは、褒めてくだされ。


ただ、一つだけ心残りがある。

私は、ウチダ氏の事務所で飲み食いしたあとは、いつも完璧に後片付けをしてから部屋を出ることにしていた。
ビール缶は薄く潰してレジ袋に入れ、食い終わったチーズの包み紙は、他のレジ袋に入れて、いつも持ち帰っていたのだ。
ビール泥棒、チーズ泥棒としては、それが最低限のマナーだと思っていたからだ。


な、わかるだろ・・・オオクボ。

だから、俺は大丈夫じゃなかったんだ。
ウチダ氏に迷惑をかけてしまった。
俺は・・・・・ちっとも大丈夫じゃないんだよ。


11秒の沈黙のあと、オオクボが、精神科医のように慈悲深い声で言った。

「俺が今晩、新宿御苑の馴染みの店で飲む約束をしたのは、お前だったような気がするんだが、違ったか?」

新宿御苑?
今晩?

今日は、何日だ?
12月18日?

約束?

記憶をたどってみた。

18日火曜日、午後6時半。
オオクボと約束。

思い出した!

「そうか、思い出したか。で・・・・・今は7時を回ったところなんだが、俺は、いったいどうしたらいい? このまま、お前を待ったほうがいいのか? それとも、帰ったほうがいいのか?」


オオクボさま!
行きます! 行きます!
すぐ行きます!


武蔵野のオンボロアパートから自転車を飛ばし、中央線の快速を飛ばし、メトロを飛ばし、地上の道を走って飛ばし、オオクボの馴染みの店に着いたのは7時54分だった。

確実に8時を過ぎると思っていたのだろう。
オオクボは、早すぎる私の到着に、「タクシーで来たにしても早すぎるな」と呆れた。

知らないのか? 俺は、自家用ヘリを持っているんだぜ。

「タケコプターの間違いじゃないのか」と、珍しくオオクボが冗談を言った。

タケコプターは、もう飽きちまったんだ。

(笑い)

そんな他愛もない話から始まった「旧友ひとり」との忘年会は、昨晩11時近くまで続いた。


会計のとき、約束を忘れていたし、遅刻までしたのだから、ここは俺が持つよ、と格好をつけた俺に、オオクボは「これ以上、お前が痩せていく姿を俺は見たくない」と言って、乱暴に私の腹をさすった。

そして、光り輝くカードで支払いを済ませた。


いつもなら、得をしたと思う私だったが、このときだけは、泣きたくなるくらい後悔の念が湧いて出た。

御苑の駅まで、私たちは無言で歩いた。

冗談を言う気にもならない。

申し訳ない、という気持ちしかない。

御苑の駅に着いたとき、オオクボが、「悪いな、本当ならタクシーで送っていってやりたいところだが、明日の朝から出張でな。早く帰って眠りたいんだ。本当に・・・・・悪いんだが、自分で帰ってくれるか」と、小さく頭を下げた。


それに対して、冗談で返すこともできず、頭を深く下げることもなく、ああ、としか言えなかった俺。


帰り道。
踏み出す足が、重い。


年末に、とてつもなく真っ黒い自己嫌悪に陥った俺だった。


2012/12/19 AM 06:02:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.