Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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居酒屋で「合格」
同業者との恒例の飲み会。

その席で、我々の共通の知り合いであるKさんが廃業したというのを聞かされた。

理由は、空き巣の被害にあって、商売道具をゴッソリ持っていかれたので、仕事に支障をきたしたからだと言う。
金融機関に融資を申し込んだが、軒並み断られて、廃業を余儀なくされたらしい。

それを聞いて、不愉快なことを思い出した。

私も、埼玉の賃貸団地に住んでいたときのことだが、9年前に空き巣被害にあったことがある。
ただ、私は、昔も今も一本スジの通った「潔い貧乏」なので、空き巣さんに同情したくなるくらい金目のものを持っていない。

だから、そのときの被害は、それほど大きくなかった。
和室とリビングは荒らされていたが、ちょうど通帳やカード類は、ヨメがバッグに入れて買い物に持っていったから無事だったし、後で知ったことだが、冷凍庫で凍らせた冷凍肉まんの袋に隠したヨメのヘソクリも無事だったらしい。

真珠のネックレスを取られて悔しがってはいたが、それはすぐ団地保険で補償されたので、ヨメが荒れ狂うことはなかった。
(むしろ新品をゲットしたので、狂喜乱舞したほどだ)
金銭的な被害は、娘の財布だけ。

あとは、私が愛用していたMac iBookが盗まれたのと、盗るものがないことに逆上した空き巣さんが、白黒のレーザープリンターとモニター、キャビネットに跳び蹴りを食らわせて破壊したことくらいだろうか。

それは、私にとって、かなりの痛手だったから34分ほど落ち込んだが、私の仕事が滞るということはなかった。

空き巣に入られまして・・・と言うと、ほとんどの人が同情してくれた。
「プリンターしばらく貸してやるぜえ〜」「モニター貸したるわい」というありがたい提案をしてくれた方が何人もいて、そのうちのお一人のお言葉に甘えさせてもらった。

しかし、その中で一人だけ、「嘘でしょ! 俺の周りで、空き巣に入られたやつなんかいないよ。駄目だよ、そんなすぐわかる嘘を言っちゃ」という人がいた。

最初から、私の話を嘘だと決めてかかって、まったく相手にしてもらえなかった。
同情してほしいとは思わないが、1ミリも心配してくれなかったので、正直な話、そのときは、かなり根に持った。

彼がなぜ私の話を嘘だと決め付けたのか、今も私には、その理由が、よくわかっていない。
単純に考えれば、彼が私のことを1ミリも信用していなかった、ということになるのだろう。
要するに、二人の間に信頼関係が、存在していなかった。

それ以来、彼との交流はない。
噂は聞こえたが、関心を持たないようにしていた。


その人が、今回、空き巣被害にあったKさんだったというのは、不思議と言えば不思議な偶然か。


9年も経てば、根の深いところに育てた感情も、怒りという肥料をあげるのが馬鹿馬鹿しくなって、根っ子ごと腐っていくのが普通だ。

だから、彼が廃業したというのを聞いても、私の心には、さざ波さえ立たなかった。
災難だったなあ、としか思わない。

ただ、同情する気も湧いてこないから、ああ、俺は小っちぇえ人間なんだな、とは思う。

これ以上、自分の器の小ささを確認しても落ち込むだけなので、私は、その話題に加わらずに、ジョッキを傾け、カキフライと串揚げを食うことに没頭した。


吉祥寺の居酒屋。

私は馴染みの店を持つことに対して臆病なので、飲み会をする場所は、毎回違うところを選ぶ。

しかし、外野はうるさい。

「前と同じところにしましょうよ。あの店の焼き鳥美味かったですよ」
「なんこつのから揚げも美味かったなあ」
「馬刺し、最高でしたよ」

おまえら、馬とニワトリなんだから、それじゃあ、共食いだろうが。
(さすがに、カピバラとテングザルの肉は置いてないようだが)

そんな苦情に対して、私が、いや、前回の店には可愛い店員がいなかった。可愛い店員がいる店を見つけたので、今度は、そこにしましょう、と言うと、聞き苦しい騒音は、確実に止んだ。

このスケベどもが!

「可愛い子なんて、いないじゃないですか!」というクレームには、休みなのかなあ、それとも辞めたのかなあ、ととぼける。

それに、俺が可愛い子のいる店を知っているわけがなかろう。
俺は、太ももしか見ていないんだから(究極の変態!)。

カキフライ、うまし!
椎茸の肉詰め串揚げ、旨し!
生ビール、神がかった美味さである!

これが、人の奢りだったら、最高なんだが・・・・・。

そう思いつつ、ジョッキをお代わり。
「おまちどおさま」という女性の声がして、ジョッキをテーブルに置く気配が。

女性の店員さんは、作務衣の上下だから、下は作務衣のパンツ。
当然のことながら、太ももは見えないのだが、究極の変態は、パンツの上から、想像力を働かせるんです。

0コンマ4秒の早業で、太もものフォルムを判断して、「合格」と呟く。
高校2年の娘にも、この早業は備わっているから、DNAというのは怖いものである。

カキフライと串揚げ、生ビールに囲まれて、幸せ絶頂の変態。

そんな変態の耳に、「でもねえ、どうやらKさんが空き巣に入られたというのは、嘘らしいんですよ」というテングザルの甲高い声が耳に届いた。

「えっ、そうなの?」という、野次馬根性丸出しの馬、ニワトリ、カピバラの分かりやすいリアクション。
(どうでもいいことですが、ちなみに、私はキリンです)


変態! カツラどうぶつ園。
(二人、カツラの方がいるので。でも、私は違いますよ)


カツラのテングザルが話を続ける。
「営業不振で倒産したっていうと格好が悪いんで、みんなには、空き巣に入られたって説明しているらしいんですよ。プライドの高い人ですからね」

同時に頷く、「カツラどうぶつ園」の馬、ニワトリ、カピバラたち。

危うくキリンも頷くところだったが、なぜか私の口からは、大きな舌打ちが出たのである。
その自分の舌打ちの音を聞いて、私の感情は、わけの分からない方向に暴走した。


本人が、空き巣に入られたって言うんだから、空き巣に入られたんだよ!
信じてやれよ!


自分でも驚くほど、でかい声だった。

呆気にとられる、「カツラどうぶつ園」の馬、ニワトリ、カツラのカピバラ、カツラのテングザルたち。


またまた、オレ・・・・・やっちまったぁ。

キリンは長い首を折って、うなだれた。


しかし、うなだれたキリンの目の端に映ったのは、食べ終わって帰ろうと立ち上がった、4本の太もも。
2メートル18センチ先のテーブルにいた若い女性のホットパンツの先に伸びた脚だった。

美脚。

キリンである私は、首を美脚のほうに伸ばして、右手の親指を立て、思わず合格ゥ! と叫んでいた。


「えっ? 合格? な、なに、何を突然・・・」

「カツラどうぶつ園」の馬、ニワトリ、カピバラ、テングザルどもの目が泳いでいた。


そして、6秒後、まるで変態のキリンを見るような目で、どうぶつたちに凝視された。



ああ、どうせ俺は、変態キリンだよ!
(キリンさんに、失礼かも・・・)




2012/10/31 AM 05:59:59 | Comment(3) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

偏差値55
若い子は、バカを見分ける能力を持った人が多いのではないか、と最近の私は思っている。


私の場合、同年代の人からは、とっつきにくいとか、すましているとか、怖そうだ、と言われることが多い。
だからなのか、最初から打ち解けることは、滅多にない。

数回会って、仲良くなる場合と、どんどん距離が離れていく場合の2パターンが多い。

だが、若い子の中で嗅覚の鋭い子は、私を見て、「こいつは取り澄ました顔をしているが、中身はバカに違いない。なんか自分と同じ匂いがするぞ」と思うらしく、最初からタメ口で話しかけてくるのがいる。

この野郎、随分と馴れ馴れしいな、礼儀を知らないな、と思うこともあるが、こちらも同じ匂いを感じるときがあるので、そんなときは、あまり不快になることはない。

目上の人なども、私を見て、「ああ、こいつはバカだから、自分がサポートしてあげないと、絶対に道を間違えるぞ」という危ういものを感じるらしく、私のことを親身になって心配してくれる人がいる。
これは、ありがたいことである。

大学時代の友人などは、私のことを、筋金入りの「ヒネクレ馬鹿」だと思っているから、「こいつは、放っておいたら、友だちが独りもいない寂しいただのバカで一生を終わるだろう。だから、俺たちが何とかしなければ」と、ボランティア精神あふれる気持ちで、私と接してくれている。
ありがたいことである。

だから、私は、そういった親切な方々がいるおかげで、かろうじて人間としての暮らしを続けていくことができる。

何度も言うが、ありがたいことである。


という、いつもながらの長い前置きのあとで、本題に入る。

極道コピーライター、ススキダからの仕事は、前日の夜に校了になったはずだったが、翌日の朝8時59分にススキダから、「シュッ修正、シュッ修正」という、壊れた蒸気機関車のような声の電話がかかってきた。

「悪いが、2箇所、シュッ修正が来た。直せるか? 直せるよな? 直せよな! オラオラァ!」

だから、壊れた極道機関車は嫌いなのだ。
人間として、最低限の礼儀を知らない。

極寒のシベリア鉄道にでも、行きやがれ!

などということは、怖くて言えるわけもなく、「はい、何でもお直しいたします。おっしゃるとおりにいたします。すぐに修正いたします。はい、すぐに!」と答え、震えながら41分で2箇所の修正を終えた。

極道は、ありがとう、も言わずに「じゃあ、データ、送っといてくれな」とだけ言い残して、電話をお切りになった。
(神奈川県警は、なぜあいつを逮捕しないのだろう? 賄賂でも、もらっているんじゃないだろか)

壊れた極道機関車のせいで、朝メシを食う暇がなくなった私は、慌しく一着しかない夏物スーツに着替え、愛車の自転車4号にまたがった。

向かう先は、杉並の建設会社。

10時半から2時間半を費やし、折り込みチラシの打ち合わせを行った。
この会社の社長は、機嫌のいいときは、昼メシを奢ってくれるが、この日は機嫌を自宅の冷凍庫の中に仕舞ってきたらしく、2時間半の間、寒気を催す笑顔は、その極めて面積の広い顔に、一度も浮かび上がってこなかった。

だから、昼メシは、ない。
コーヒーを出すついでに、茶菓子を出すという親切は、期待するだけ無駄と言うものだ。

腹・・・・・減った。

打ち合わせが終わったときは、脱力感で、めまいを感じるほどだった。

会社を出たあとで自転車にまたがったのだが、ペダルを漕ごうとしたら、吉田沙保里(ギネス認定おめでとうございます)が押さえているのではないかと思うほど、ペダルが重く感じられて、最初のひと漕ぎに全力を使い果たし、疲労困憊した。

123メートル離れたコンビニが、尖閣諸島よりも遠く感じられた。

時間はかかったが、幸いなことに、中国の漁船団にも潜水艦にも海上保安庁の船にも出くわさず、目的地に辿り着くことができた。

あまりコンビニで買い物をする機会がない私は、コンビニは高い、というイメージが強い。
だから、あれこれ迷わずに、塩むすび1個とミネラル・ウォーター1本を購入した。
迷ったら、余計なものまで購入しそうな気がするからだ。

買い終えると、わき目も振らずにコンビニの駐輪場まで行き、自転車にまたがったまま、塩むすびを貪った。
そして、水。

塩むすびを3分の2ほど食い、水を喉に流し込んでいたとき、「おにぎりを、そんなにガッついて食うやつ、初めて見たよ」という、笑いを含んだ声が聞こえた。

声のほうを振り返ると、中学生と思える男が二人、私の顔を真正面から遠慮なく見て、近づいてきた。
(学校はどうした? 中間テストの期間? だから帰りが早いのか?)

二人とも背は高いほうではない。
体格がいいかといえば、普通としか言いようがない体つきをしていた。

体からくる威圧感はなかったが、二人とも目に険しいものがあって、通常なら話すのも敬遠したいような雰囲気を持った中学生だった。
さらに偏見を言えば、偏差値40前後の知能しか持ち合わせていないのではないか、と感じさせる薄っぺらな表情をしていた。

ただ、もちろん、それは私が彼らに苦手意識を持っていたから、そう感じたのかもしれない。
心に余裕のある大人なら、そこまで否定的なものは感じなかっただろう。

そんな危うい空気を身につけた男が二人、笑いながら私に近づいてきた。

逃げ出す、という選択肢もあるだろうが、私は窮地に陥れば陥るほど「意地でも逃げない」という破滅的な性格を持っているので、臆病な心とは裏腹に、知らないのか、握り飯は、ガッつけばガッつくほど、うまいんだぜ、と強がった。

私の言葉に、顔を見合わせる二人。

そして、また笑いながら言ったのだ。
「なんかさぁ、自転車にまたがったまま、おにぎりを食う姿を見ていると、大人になるのが嫌になるぜ」
「そうそう、なんか顔も疲れきってるしよお。そんな大人にはなりたくねえな」

ああ、心配して言ってくれてるのか。
確かに俺は疲れきっているが、厄介なことに、俺は、そんな疲れきった俺も好きなんだよな。
ただ、普通の大人と違って、君たちに、こんな大人になれ、と強制することは俺はしないよ。
だから、安心してくれ。

そんな私の強がりに対して、少年たちは、「フン、バカ言ってら」と、言いながら、白い歯を見せた。

その白い歯を見たとき、何故かわからないが、ああ、こいつら、俺と同じ匂いをしているな、と私は思ったのだ。
その感覚を説明するのは、難しい。

私は、人間の本質は、目ではなく口元に現れると思っている。

下衆(げす)の心を持った人の口元は、下衆な形をしている。
これは、私の完全な思い込みかもしれないが、政治家の口元の多くは下衆な形をしている。
あらゆる種類の評論家の口元も、私には同じように下衆に見える。

だから、口元に下衆の匂いのない人を、私は単純に信頼する傾向がある。

少年たちの目は険しかったが、私は彼らの口元に下衆を感じなかった。
そうなると、私の口元にも、自然に笑いが出る。

最初は、硬い笑いだったと思うが、今度の笑いは、自分でもわかるくらい柔らかいものだった。

その笑い顔に向かって、少年の一人が、「忘れ物だよ、オッサン」と右手を差し出した。
少年が、右手に掴んでいるものは、SUIKAだった。

ス・イ・カ・・・・・。

落としたということか・・・・・。

そう言えば、スーツのポケットにしまった記憶がない。
SUIKAで払ったのは覚えているが、その後のことを覚えていない。

レジの近くで、落としたのだろうか。

「早くメシを食いたいのはわかるけどさ、もう少し注意したほうがいいんじゃないの」
「そうだよ、すぐに俺たちが拾ったからいいけどさ」

ああ、ありがとう、と言って、私はSUIKAを受け取った。
自転車に乗ったままでは失礼だと思ったので、自転車から降りて受け取った。

頭を下げた。

私は、現金貧乏だが、SUIKAには絶えず5千円以上をチャージしているSUIKA富豪である。

拾ってくれた以上、お礼をしなくてはならない。
現金貧乏の私は、現金でお礼をすることができないので、SUIKAでお礼をしようと思った。

たいしたことはできないが、SUIKAの範囲内で、何か欲しいものを一点ずつお礼がしたいのだが、何がいいだろうか。
そう聞いた。

しかし、鼻で笑われた。
「オッサンさあ、そんなものが欲しかったら、俺たち、それをそのままネコババすればいいんだからよぉ。空気読もうよ。子ども扱いはやめてくんないかな」

た・・・・・たしかに。
こ、これは・・・・・失礼いたした。

もう一度頭を下げたら、「おもしれえ」と笑われた。
二つの白い歯。

その口元を見て、こいつらは、絶対に、俺と同じ人種だ、ということを確信した。

では、ここは、オッサンが頭を下げるだけで、いいということだな。
なんか、悪いな。
オッサンだけ、得して。

少年の一人が、「じゃあ、こうしようか」と言った。

「俺たちが、ワールドカップかオリンピックで日本代表になったら、応援してくれよ。そのときは、マスコミに向かって、あの二人には、恩がありますって宣伝してくれてもいいぜ。人気が出るからな」

そうか、君たちは、サッカーをやっているのか。
わかった。
そのときは、応援させてもらう。

私がそう言うと、少年たちは笑いながら、「真に受けんなよ。嘘に決まってんだろ」と二人でハイタッチ。
無邪気な笑顔だった。

「こんな大人には、なりたかねえな」
「そうそう」
そう言いながら、二人はママチャリにまたがって、笑いながら北西の方向に走り去っていった。


私の心に、二つの白い歯だけが、残った。


偏差値40、というのは、訂正する。

彼らの心の偏差値は、55は超えていると思う。




2012/10/26 AM 06:09:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

君は、いつも楽しそうだね
私に感謝して欲しい、と2日前の晩メシのとき、家族の前で、私は言った。

昨日の夜、新宿駅の東口から西口に抜ける通路を家族4人で歩いていたんだ。
暗い通路でね。
他の人は、誰も通っていない。

生暖かい風が、前から吹いてきて、肌にまとわりつくような感じだった。
俺は、嫌な予感がしたよ。
そして、俺の鋭い勘は当たった。

そんな不気味な通路を半分くらい行ったときに、向こうに大きな熊がいるのが見えたんだ。
おそらく3メートル以上の大きさの熊だ。

地下通路だから、逃げ場はない。
俺は、とにかく君たちを安全な場所に逃がさなきゃ、と思って、自ら熊のほうに歩いていき、熊を威嚇した。

両手を大きく広げて、俺は唸りながら前進した。
しかし、熊も少しずつ近づいてくる。

牙をむき出しにし、凶暴さと圧倒的な威圧感で、人を恐怖のどん底に陥れる最強の野獣。
それを目の当たりにしたとき、俺は絶望感を味わった。

しかし、君たちだけは、逃さなければいけない。
だから俺は、仁王立ちになって、野獣に立ち向かったんだ。

その間に、君たちは、来た道を戻って、無事地下通路から逃げることができた。
それを確認してホッとしたとき、相手は猛烈な勢いで、俺に突進してきて、俺はもう駄目だと思った。

絶体絶命。

そのとき、俺は咄嗟に、指でピストルの形を作って、「バーン!」と熊の眉間を目掛けて撃ったんだ。
すると、驚いたことに、俺の右手の人差し指から弾が飛び出て、熊の眉間を撃ちぬいた。

熊は、その場に崩れ落ちたよ。

危ないところだった。
まさに、危機一髪だった。

そこで、目が覚めたんだが、俺は勇敢に熊に立ち向かって、君たちを守ったことだけは、紛れもない事実だ。

だから、俺に感謝してほしい。
心から感謝してほしい。

・・・・・と私は、ヨメ、息子、娘の顔を見回して、胸を張った。

それに対して、ヨメと息子は、鼻で笑うだけ。
高校2年の娘だけが、道端ジェシカに落ちているゴミを見るような目で、「おまえさあ、最近、加速度的に哀れになってきたな」と言った。

おお! あはれか!
それは、古語的に解釈すると、情緒豊かな、という意味の、あの「あはれ」だな。

褒めてくれて、どうもありがとう。

私が恭しく頭を下げると、娘は、道端アンジェリカで、地面に絵を描いている2歳児に語りかけるように、言ったのだ。

「君は、いつも楽しそうだねぇ」



一週間ほど前、大学時代の友人、カネコの娘、ショウコから電話があった。

「私を公園に連れてって」

マサ(ショウコの夫)と喧嘩したのか、それとも、育児放棄か。

「違うよ。マサが育児休暇をくれるって言ったんだ。一日育児を離れて、友だちに会ったり、好きなことをしてきたらどうかって。でも、友だちにはいつでも会えるし」と言った後で、声のトーンを少し変えてショウコが言った。

「買い物は面倒くせえし、人ごみに出るのも面倒くせえんだよね」(どうやら、私の声マネをしているらしい)
「だから、公園に連れて行け!」

よし、わかった。
小金井公園でいいな。

「駄目! 昭和記念公園。私にコスモスを見せろ。自転車に乗せろ。手作り弁当を持って来い!」

昭和記念公園は、広大で見所がたくさんあって好きなのだが、有料なんだよな。
しかし、それを言って抵抗したら、殴られるのが確実なので、わかりました、と答えた。

そこで、昨日、弁当を二人分作って、昭和記念公園に出かけてきた。

レンタサイクルを借りて、広い園内を走り回り、コスモス畑を見、秋の花々の匂いを全身に吸い込んで、心の洗濯をした。

そして、昼メシ。

私は、人と同じものを食うと下痢をする体質なので、ショウコと私の弁当の中身は、まったく違う。

ショウコは、肉食女子だから、豚肉の生姜焼きやアスパラの牛肉巻き、鶏のから揚げ、ブロッコリー中心のサラダと大き目の握り飯2つ。
私は、カキフライ男子なので、おかずはカキフライが8割、あとは人参のキンピラ、特大の握り飯ひとつ、クリアアサヒ。

二人目の子供を産んでから、まだ3ヶ月。
少しは、やつれているかと思ったが、肉に喰らいつく姿は、肉食動物そのもの。

元気そうで、何より。

「ねえ、若い子と公園デートなんて、嬉しすぎて、心臓麻痺を起こさないでよ」と、牛肉巻きを齧りながらショウコが言った。

若い子ったって、子持ちの24の人妻じゃないか。
全然、トキメかねえよ。

張り手が飛んでくるかと身構えたが、左手に弁当、右手に箸を持っていたので、そんな余裕はなかったようだ。
助かった。

で・・・大学院は、ちゃんと行っているのか。
子育てとの両立は難しいだろうが、自分の選んだ道なんだから、リタイアはするなよ。
偉そうに言ったので、殴られるかと身構えたが、無事だった。
(俺、ビクビクしてる?)

大学1年の6月に結婚し、3年で子供を産み、つい最近、大学院の2年目に二人目を産んだショウコ。
なぜ、そんなに目まぐるしい人生を生き急いでいるのか、と思うが、私には、そんなことを聞く趣味はないので、見守るだけにした。

「夏休みは子育てに専念。でも、今は休まずに行っているよ。『俺は学校休んだことないんだよ』って、サトルさんに、いつも自慢されているから、負けたくないんだ」

いや、自慢しているつもりはないんだが。

「学校が好きだからでしょ。わかってるよ」

そう。
勉強は嫌いだが、学校が好きだった。
だから、休んだことがなかった。

熱があっても学校に行った。
自分が休んでいる間に、何か楽しいことが起きていて、それを体験できないのが自分だけ、という状況になったら、私は絶対に、それを耐える自信がない。

だから、どんな状況でも学校に行った。

「学校が好きすぎて、教師になろうと思ったこともあったんだよね」

大学は法学部だったが、教職課程を取って、教育実習にも行った。

「でも、自分が教師に向かないという、重大な欠点があることに気づいたんだよね」

そうなのだ。
私は、人を叱ったり、怒ったりできないのである。

ただ、日常生活で、見ず知らずの人が、私に無礼を働いたり、公共の場で明らかなマナー違反を犯した場合は、もちろん注意するときがある。
相手の胸倉をつかむ寸前まで、いくこともある。
高速右フックをお見舞いしてやろうか、と思うこともある。

しかし、自分が少しでも知っている人間に対しては、叱れないのだ。

彼(あるいは彼女)にも、いいところがあるのを俺は知っているしなあ、こいつは、本当はいいやつなんだ・・・と思うと、叱れないのだ。

目に余るときは注意するが、叱ったり怒ったりはできない。

そんな私を見て、教育実習先の学校の学年主任が、私に言ったのだ。
「M君は、一番教師に向かない性格の人だよね。生徒を叱れない人は、教師になるべきじゃない。それは、生徒にとって、害でしかない」

私も、そう思う。

だから、断念した。

しかし、君のマサも、生徒を叱れないんじゃないかな。

ショウコの夫、マサは中学の英語の教師だが、見るからに温厚な男で、彼を見ていると、牧師のほうが似合っているんじゃないか、と思うことがある。
彼が、生徒を叱っている姿を、私は想像できない。

私がそう言うと、ショウコが87日ぶりに真面目な顔をして、言ったのだ。

「これは、真面目な話なんだけどさ」

わかっているさ。
俺は、いつだって人の話は、真面目に聞く準備はしている。
俺ほど真面目な人間は、この銀河系にはいない、という自信が俺にはある。
だから、遠慮しないで、話を続けてごらん。ホラッ、ホラッ。

昼メシを食い終わった後だから、ショウコの右手が開いていた。
パンチを出す用意をしたようなので、私は咄嗟に、右手で顔、左手で腹をガードした。

パンチは、飛んでこなかった。

一回、舌打ちをした後で、ショウコが話を続けた。

「高校3年の10月、高校の文化祭で、自分の中学の生徒を引率してきたマサに初めて会ったんだよね。そのとき、マサを見て、ああ、サトルさんがいるって思ったんだ。顔は似ていないんだけど、雰囲気がサトルさんだった。つい、見つめてしまったね。私は校内を案内する係だったから、引率してきた生徒を交えて、話が盛り上がってね。みんなとメール交換をした。マサともね・・・。それが、始まりだった」

それは、初耳だ。
私は、人のプライバシーを聞く趣味はないので、ショウコとマサの馴れ初めを聞いたことがなかった。
なかなか興味深い話ではないか。

しかし、私は、こんなときでも茶化してしまうのだ。

そうか、俺に似ていたのか。
それは、きっと、本当に俺だったんじゃないかな。
どうやら、俺は3人いるらしいんだ。
良いオレ、悪いオレ、普通のオレ。

そのとき君が見たオレは、きっと良いオレだったんだろうな。

ペットボトルのキャップが、高速で飛んできた。
おでこにヒット。

痛かったぞ!

しかし、ショウコは、泣きの私を無視して、話を続ける。

「大学進学が決まった春に、2回デートしたんだよね。そして、2回目のとき、真剣に付き合ってほしいって言われた」
なぜか、私の顔を睨むように見て、「断る理由なんか、なかったからね」と言いながら、私が右手に持ったキャップを強引に取り戻した。

そして、ショウコは、その年の6月に、人生を短距離で駆け抜けるように、マサと入籍したのだ。
まだ、18歳だった。

なぜ、そんなに急いだのか。

その答えは、すでに出ている。
相手が、マサだったから。

マサになら、自分のこれからの人生を預けてもいいと思ったからだ。

マサと結婚するなら、18歳でも、22歳でも、30歳でも同じ。
それなら、早くても、いいじゃないか。

ショウコらしい考え方だと思う。


ああ・・・・・しかしなあ、と私は言った。

勉強を教え、料理を教え、テニスを教え、人生の厳しさを教えた恩人に、何の相談もなく、いきなり入籍するというのは、人間として、どうなんだろうか。

まずは、結婚相手を恩人に紹介し、判断を仰ぐ。
もし恩人が反対したら、二人で泣いて土下座して頼む。
それでも、恩人が反対したら、男は頭を丸めて仏門に入り、女は尼寺に出家。

つらい修行を数十年続けながら、恩人の怒りが収まるのを待ち、ひたすら恩人に礼を尽くし、恩人の赦しを得るまで、純愛を貫くというストーリーは、思いつかなかったのかね。

これだから、最近の若い者は、まったく・・・・・。


また、ペットボトルのキャップが、高速で飛んできた。
しかし、二度同じ失敗を繰り返すほど、私は愚かではない。
左手で、いとも簡単に掴み、私は叫んだ。

「敗れたりぃ! まだまだ、おぬしは、修行が足りぬぞぃ!」
得意げに、胸を張った。

私の64センチ前に座っていたショウコは、道端カレンで、地面のアリを観察している2歳児に話しかけるように、ヒザ立ちになりながら、私の頭を撫でて言った。

「君は、いつも楽しそうだねぇ」




いや、別に、楽しくは・・・・・。




2012/10/22 AM 06:01:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | [子育て]

キリンおやじの予行演習
俺はさあ、君の父親でも何でもないんだからね。

そう言って、一度は断って相手も納得したのだが、「お願いだからさぁ、会ってよ! 第三者の冷静な目が欲しいんだよ!」と懇願された。

今年の7月に、横浜根岸森林公園で知り合った、ポニーテール・ランニング女性からの電話だった。

今年の5月から付き合い始めた彼氏に、会って欲しいというのだ。

しかし、たった2回しか会ったことがない、赤の他人である私が、君の知り合いとして彼に会うという図式は、彼氏に理解を得られるであろうか。
普通は、何だ、このオヤジ! どこから湧いてきたんだ、この蛆虫は! と思うのではないだろうか。

俺は、蛆虫に見られるのは、嫌だぞ。

「いや、蛆虫じゃなくて、キリンだって言ってあるから」

そうか、キリンか〜、良かった!

というわけに、いくかぁ!

見事なノリツッコミで逆襲したのだが、ポニーテールさんに、「だって、私の父親と母親、奄美(大島)だよ。簡単に会えると思うか。どうなんだ、キリンおやじ!」と言われて、私は冷静に考えた。

無理!

わかった、キリンとして会ってやる。

「さすが、キリンおやじ、大好きだぜえ!」

高校2年の娘にも久しく言われたことがないフレーズが飛び出し、それを聞いた私は、舞い上がった。

その最後のフレーズをもう一度!

「大好きだぜ!」

録音して残しておきたいほどだったが、娘以外に言われたら、普通は誤解されるので、それは諦めた。


という経緯があって、キリンおやじが、ポニーテールさんの彼氏に会ったぁ〜。


イケメンではない。
鼻が低い。エラが張っている。
背も高くない。
180センチの私より、10センチ以上低いと思う。

しかし、男の本質は、身長ではない。

背丈だ!

いや、間違えた。
財布の分厚さだ!

これは、一部分だが、かなりの密度で本質を突いていると思う。

「親がアパートを二軒持っていまして」

どこに?

「横浜の戸塚に」

ドヤ顔をするでもなく、まるでそこに当たり前のようにコスモスが咲いているのを見つけたときのような顔をして、男が言った。

26歳。
ハウスキーパー・サービスの会社に勤めているのだという。

本人曰く、勤めて丸3年、無遅刻無欠勤らしい。

(面白みのねえやつ)

酒は、飲みますか?

「日本酒が好きです。でも、2合以上飲まないようにしています」

(おまえ、そんなに自己規制して、何が面白いんだ。若いうちは、ハメを外せよ)

ご趣味は?

「地域のボランティア団体に所属していまして、休日は街の清掃やら老人ホームの訪問などをしています。でも、これって、趣味と言ったら失礼ですよね、ハハハハハ」

(優等生か! 俺は、そんな趣味は、考えたこともねえわ!)

人を見るときの目が柔らかくて、話す言葉に力んだところが、ほとんど感じられない。
私に対して、最大限の敬意と最低限の好奇心を表しているが、それが不快ではない。

私のグラスが空になると、すぐにビールを継ぎ足してくれる。
場所は神奈川県川崎の居酒屋だったのだが、店員に追加の注文をするときも、店員に対して敬意を払っている様子が、不自然ではなく身についていた。

(なんか、嫌な奴だな、こいつ)
(俺が26歳のときは、間違いなく返品確実の不良品だったぞ)
(熟練の修理人が何度直しても、すぐに接触不良や起動不良を起こして、返品を繰り返していたぞ)

私に気を配り、ポニーテールさんにも、目を配り気を配り、ティッシュを配る(?)姿は、好青年そのもの。

長い年月生きてきたホネホネ白髪オヤジの鋭い観察力からすると、その気配りは、付け焼刃的なものではなく、無理なく身に付いたものに思えた。


(こいつ、本当に、嫌なやつだな)


しかも、私が聞きもしないのに、「Sさんとは、これからも真面目にお付き合いをしていこうと思います。一時の浮ついた感情でお付き合いをしているわけではありません」と、背筋を伸ばし、両膝に手を置いて、私の目を真っ直ぐに見つめるではないか。

(惚れてまうやろ)

全身に鳥肌が立つほど嫌なやつだったが、私は、ご実家が横浜戸塚にアパートを所有している男に向かって、「この子を、よろしくお願いします」と頭を下げた。

(俺って、何者? 父親かよ!)

それに対して、「決して、ご心配をおかけすることは、しませんので」と、立ち上がって頭を下げられた。

(いや、俺、父親じゃねえし)

と思いながら、俺も立ち上がって「よろしく」と、頭を下げた。

(何だこれ? コントなのか、ドッキリなのか)

しかし、ポニーテールさんの嬉しそうな顔を見たら、コントでもドッキリでも、いいような気がしてきた。


これって、もしかしたら、将来の予行演習なのかな、と思ったら胸が詰まった。

ビールを一気飲みしようとしたら、むせて、戻しそうになった。
涙が出た。

「大丈夫かよ、キリンおやじ!」と、ポニーテールさんに、新しいおしぼりで、口元と目元を拭かれた。


「大丈夫ですか? キリンおやじさん」


おまえに、「キリンおやじ」と言われる筋合いは、ねえ!


(完全に、父親モード)





ところで、古い話だが、6月にツィッターのアカウントを取った。

しかし、まだ本格的につぶやいたことはない。

ブログの更新を8回告知しただけで、同業者にも、ツィッターを始めたことを知らせていないので、フォロワーは、綺麗にZEROだ。

つぶやくの面倒くさい。

何をつぶやいたらいいか、わからない。
つぶやいてる暇があったら、寝ていたい。


何となくリタイアしそうな予感。

宇多田ヒカルと吉高由里子のフォローをしただけで、終わりそうな予感が、50.01パーセント。



2012/10/18 AM 05:57:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

理解に苦しむ(男ローラ)
最近、驚いたこと。

高校2年の娘が、流通ジャーナリストの金子哲雄さんが亡くなった、と言ったときのことだ。

ただ、金子氏の突然の死は衝撃的だったが、今回は、そこではない。

「金子さん、死んじゃったみたいだよ」
え? 本当か? まだ若いだろうに。

娘とそんな会話をしていたとき、トイレから出てきたヨメが、「えっ、明日、雨なの? 嫌だわぁ〜」と言ったのだ。

「金子さん、死んじゃったみたいだよ」
え? 本当か? まだ若いだろうに。

この会話のどこに、天気の話が存在しただろうか?

理解に苦しむ。


テクニカルイラストの達人・アホのイナバからの電話。

「Mさん、『餃子の王将』の餃子って、美味しいのかな」

食ったことない。
だから、わからない。

「ああ、じゃあ、食べに行こうよ」

いつだ?

「今すぐ」

時刻は、朝の8時42分。
この時間に、店は開いているのか。

「Mさんちのそばの武蔵境駅前に、あったよね」

いや、だから、この時間に、やっているのか?

「24時間、やっているかもね。俺んち(日野市)の近くのガストは、24時間はやってないけど、朝の7時から、やっているよ」

それは、ガストの話だろ。
餃子の王将は、わからないじゃないか。

「ガストも王将も同じくらい有名だから、やってるんじゃないかな」

朝早くから、アホ! と叫びたい衝動に駆られるオレ。

武蔵野の中心で、アッホー! って叫んでやろうか。


なんで、そんなに餃子の王将の餃子が食いたいんだ?
しかも、こんなに朝早く。

「うちの奥さんが、昨日、餃子の王将の餃子を食べてきて、餃子の王将の餃子が美味い美味いって、寝るまで言っていたから〜」

なんか・・・・・会話が、面倒くさくなってきた。
(タレントのローラと会話したら、きっと、こんな感じなんだろうな)

ネットで調べると、開店時間は11時半となっている。
それをアホのイナバに告げると、「ああ、そんなに遅いんだぁ。じゃあ、いいや」とアッサリと諦めたあとで、「でも、餃子食いてえなあ」と、アホらしいほど気の抜けた声で、ため息をついた。

さらに、会話が面倒くさくなった私は、バーミヤンで餃子。10時から開店。安くてウマし。三鷹バーミヤン10時集合、と言った。

アホのイナバは、何も言わずに電話を切ったが、それはいつものことなので、私は10時6分前に自転車で三鷹駅まで行き、一人でバーミヤンの入口に立った。

10時1分前に、店員さんが、中に入れてくれた。

待つこと24分17秒。
これくらい待たされたら、待ち合わせは不調、ということになるのだろうが、私はイナバが来ることを確信していた。
たとえ遅くなっても、イナバは必ず来る。

イナバは、そういうやつだ。


アホのイナバが、やってきた。

「駐車場が近くにないんで、探すのに手間取っちまって」
と言いながら、私の目の前に置かれた「W焼餃子」を勝手につまんで、何もつけずに食い始めた。

そして、言った。
「ああ、本当に、餃子だぁ!」

餃子の形をした、どんな食い物だと思ったんだ?
コロッケだとでも、思ったか。
フォアグラだとでも、思ったか?

理解に苦しむ。


突然だが、アホのイナバは、いいやつである。
その心は、ピュアで、汚れがない。

しかし、褒めるところがたくさんあるとしても、面倒くさいので、ここでは褒めない。


アホのイナバは、「完全無欠のアホ」という定義で、これからも、このブログを書き進めたいと思う。

だって、こいつ、俺が褒めたって、褒められたことに気づかないんだもん!


W焼餃子を二人で食い散らかしながら、話は老後のことになった。

最初は、イナバの愛車である、某最高級外車の話から始まり、イナバが石垣島に持っている別荘の話に移り、イナバが2日前に拾ってきた猫の話、カイワレ大根とモヤシは偉大だという話、影法師の「ぼうし」って何という話から、老化防止の話に移り、老後の話になったのである。


「老後は、俺の別荘で、みんなで暮らそうよ」と、泣けるようなことを言う、アホのイナバ。

しかしね、イナバくん。
俺と君は、14も年が違うのだよ。

わかるかね。
俺の老後と君の老後は、時期が違うのだ。

「いやいや、俺もすぐに追いつくから」とアホのイナバ。

14歳をどうやって、追いつくんだ。

理解に苦しむ。


俺は、誰の迷惑もかけずに、老人ホームにでも入って、ひっそりと消えるからさ。

「ああ、じゃあ、俺も老人ホームにしようかな。一人じゃ、寂しいだろうから」

しかしね、イナバくん。
俺と君は、14も年が違うのだよ。
君が老人ホームに入る頃には、俺はもう死んでるよ。

「いや、大丈夫だから。俺、すぐに追いつくから」


まったく、理解に苦しむ。

(でも、ちょっと・・・泣いた)




2012/10/14 AM 07:09:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

檸檬、LEMON、レモン
突然ですが、強烈な眠気に襲われたとき、どうしていますか?

眠いときは眠る、という話は置いといて、それ以外に、どんな選択肢をお持ちだろうか。


何回か書いたが、今年の8月は、独立して以来、初めての忙しさを経験した。
9月の半ばくらいまで仕事が押していて、まとまった睡眠が取れない状態だった。


フリーランスにとって、仕事との戦いは、眠気との戦い。


一週間くらいの「仕事ラッシュ」は経験したことがあるが、ひと月半は、ない。

早く横になりたい。
目をつむりたい、と思っても、仕事がはかどらない限り、その希望は叶えられない。

では、眠らないために、俺は、どうしたらいい?

濃いコーヒーを飲む、という人がいると思う。
俺は、栄養ドリンクだな、という人。
あるいは、ガムを噛むという人もいるようだ。

私は、コーヒー好きだが、あまり飲み過ぎると持病の不整脈が顔を出す。
(おそらくカフェインが心臓に負担をかけるのだと思うが)

以前、油断をして、夜中に2杯、濃いコーヒーを飲んだら、苦しくなって救急車を呼ぼうか、というところまで悶絶したことがある。
だから、最近は、コーヒーのがぶ飲みは、やめている。

友人に「それなら、カフェインレス・コーヒーならどうだ」と言われたが、カフェインがなかったら、眠っちまうだろうが、このボケが! と力強く突っ込んだ。

「緑茶の濃いやつも効くぜ」

おまえ、頭、大丈夫か?
それは、カフェイン満タンだろうが!
俺を不整脈で、殺すつもりか!

そう突っ込んだら、「緑茶にカフェインがあるわけないだろ。葉っぱなんだからよ」と白痴的なことを言うので、頭をかじってやった。
(ハゲだから、かじりやすかった)


そんなハゲバカは、放っておいて、私は真剣に考えたのだ。
しかし、答えは見つからない。

そのとき、答えが見つからないまま、私は冷蔵庫を開け、偶然にも、そこに「美しいほどの気品を放つ食品」を見つけたのは、神のお導きだったのか。

それを見つけたとき、私は、気品・・・食品・・・ヒヒ〜ン、と嘶(いなな)いていた。
(嘘だが)


LEMON。


気品あるフォルムをしたレモンを手に取りながら、これを20秒以内に、かじり終わったら、俺の眠気は吹っ飛ぶのではないか。
そんな極めて庶民的な希望を私は抱いた。

残念ながら、一つのレモンをかじり終わるのに、24秒55かかってしまったが、かじり終わったあと、私の眠気は、確実に吹っ飛んだことだけは記しておきたい。

目が覚めた。
覚醒した。
眠眠打破した。

世の中に、こんなに眠気に効く食い物があったなんて。

そのことに気づいたとき、俺は眠気が覚めた気がした(?)。


それからは、眠気を感じるたびに、レモンをかじる日々。

その消費量と言ったら、半端ないですよ。

おそらく、一日に5〜6個消費していたはずだから、ひと月半で、250個前後。

そんなに消費している日本人は、東京都武蔵野市に、いますかね?
絶対に俺は、東京都武蔵野市で、一番レモンを消費している人だと思いますよ。

レモン生産者組合の方(そんなのあるかな?)、表彰してください。


「そんなにレモンが好きなら、庭にレモンの木を植えたら? そうすれば、お金はかからないでしょ」と、ヨメが言う。

???????

レモンの木を植えたとして、そのレモンの木は、実をつけるまで、どれくらいの季節を経ればいいのだろう。

あるいは、レモンの実つきの木を買ったとして、それは、檸檬250個分より安く済むだろうか。

そんな疑問が浮かんだが、ヨメは、おそらく好意で言っているだろうから、ハイ、そうだね、と答えておいた。



ここからは、少しシンミリとしたお話になる。

遠い昔。
私の小学校時代だが、絵を書くのが大好きな同級生がいた。

好きなだけではなく、とても絵が上手くて、賞を何度も取るほどの溢れる才能を、彼女は持っていた。

だが、彼女は生まれつき体が弱く、初めて私が彼女を見たとき、松葉杖をついていた。
小学校5年になると、車椅子。

だから、体育は、いつも見学だった。

ただ、前向きな子だったから、見学していても、見るだけではなく、うるさいくらい声を出して、みんなを激励した。

そして、的確なアドバイスをしてくれたのだ。

「マツ、脇を締めて走れ! 手を抜くなぁ!」

彼女は、走る私の絵を何枚もクロッキー(速写)で書いて、見せてくれた。

「マツはさあ、走っている姿が、一番カッコいいよね」

見せられた絵は、実物の私より、数倍カッコよかった。


いつも明るい女の子。
前向きな女の子。

その子が、6学年の1学期早々に体調を崩して入院した。

見舞いに行くと、想像を超えた痩せた姿で、彼女はベッドに横たわっていた。
しかし、顔はいつもの笑顔。

「マツ、頑張れよ。応援しているからさ」

見舞いに行った私が、逆に励まされた。

その痛々しい笑顔に接したとき、私の体の奥底から凶暴な「何か」が、湧き上がった。

見舞いの帰り。
目黒川の橋のほとりに捨てられた自転車を蹴ることで、私は爆発寸前の自分の感情を辛うじて制御することができた。

何度も何度も、蹴った。

足が痛くなるほどに。


一学期の終わり。

彼女が死んだことを担任に聞かされたとき、私は、生まれて初めて、足元から血の気が引いていく感覚を味わった。

これは、なんだ、と思った。

そして、こらえきれずに、その場にうずくまった。

すべての人の言葉、食事、水が、私の中に入ることを私は拒否した。

ただ、夢であって欲しい、とだけ祈った。
願った。


しかし、それは、夢ではなかった。


当時クラスの学級委員だった私は、クラスを代表して葬儀に参列した。

だが、現実を受け入れられなくて、すべての事象に目をつぶった。

そんな私の肩を担任の教師は抱いて、「目を開けなさい。おまえが目を開けなければ、あの子も自分の死を受け入れられないだろ」と言った。

体が震えるほど勇気を振り絞って、柩の中の彼女を見たとき、私の目に映ったのは、大量のレモンだった。

なぜ、レモン・・・・・が、と思った。

後で聞いたところによると、彼女の祖父が、淡路島でレモン農家をしていて、彼女は、一度も行ったことがない、そのレモン農家に憧れて、将来は、そのレモン農家を継ぎたいと思っていたと言うのだ。

だから、淡路のレモン農家から送られてくるレモンを、毎日数個、かじっていたのだという。

「愛しいレモンのために、私は絶対に病気に負けない。絶対に淡路島に行く」

病室でも、そう言っていたのだと聞いた。


顔のまわりに、大量に敷き詰められたレモン。

そのレモンの輝きは、彼女を間違いなく守っていたと思う。

彼女が、これから足を踏み出す、未知の世界を華やかに彩ったと思う。

出棺のとき、参列者が手に持った、レモン色の風船が、いくつも空に解き放たれた。

大量のレモンが空に舞い上がったとき、私はやっと、彼女の死を受け入れることができた気がした。


天国でも、レモンを・・・・・。


レモンをかじることなど、一生ないだろう、と思っていた私が、今回の辛い時期を乗り越えられた理由。


レモンが、俺を守ってくれたのではないか。


そんな青臭い私の妄想は、きっと天国の彼女を笑わせて、「マツ、相変わらずバカだよね」と笑いながらも、無様に老けた50男の顔をクロッキーしているかもしれない。



2012/10/10 AM 05:50:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

明確な温度差 〜 二つのビンタそして無視
おはようございます。
ホームレス・デザイナーのホネホネ白髪おやじです。


9月26日から5日間、遅い夏休みを取らせていただきました。

リフレッシュできた・・・・・と思う。


休み、とは言っても、起きるのは普段と同じ。
(ヨメに内緒で、夏休みを取ったので)

週に4日、朝早く花屋のパートに出かけるヨメの朝メシを作るため、午前4時25分に起き、ついでに高校2年の娘の昼の弁当を作る。

ヨメを5時45分に送り出したあと、娘にメシを食わせる。
娘は、6時25分頃、私と軽くコントをしながら出ていき、そのあと息子を起こす。
大学4年の息子が、就活情報を仕入れるため家を出るのが、午前9時10分頃。

息子がメシを食っている間に、掃除やら洗濯を済ませ、息子が出たら11時まで朝寝。

起きると、ヨメがパートから帰ってくる前に、普通の3倍の大きさのオムスビ一個を作って、バッグに格納し、営業に出る格好をして家を出る

行き先は、雨が降っていなければ小金井公園。
持っていくものは、レジャーシートとiPad2、iPhone用スピーカー、防災用毛布、クリアアサヒの500缶など。

幸い、私の休みを祝福してくれるかのように、天気は大きく崩れることもなく、小金井公園は秋の支度を緩やかに装いながら、私を受け入れてくれた。

12時過ぎ。
3畳敷きのレジャーシートを公園の片隅に大胆に広げ、また眠りに入る。

至福の時だ。

起きるのは、2時前後。
平日は、犬を散歩させる人が、ちらほらと見える程度だ。

こんな広い空間で、俺はひとりきりで、クリアアサヒを飲みながら握り飯を食っている。

なんて、贅沢なんだろう!

俺の貴重な時間を邪魔する奴は、誰もいない。

神は、私に、金で買うことができない最高の時を与えてくれた。

神に感謝。


ただ、その後のことに関しては、代わり映えがしないので、ご報告しても、つまらないと思う。

だから、書かない。

ただひたすら眠りに眠って、クリアアサヒを飲んだだけだから、書くこともない。

自分でも、面白みのない一日だったと思う。


夏休み期間に体験した変わったことといえば、大学時代の友人に会い、彼の死んだ妹の養女に会ったこと。

そして、今年の7月に根岸森林公園で出会ったポニーテール・ランニング女性と、横浜根岸森林公園でランニングをしたこと。

そのとき私は、自分の体力が信じられないほど落ちた事実に直面して、水深7メートルの沼に沈み込んだような落胆を覚えたものだ。


俺は、もうオシマイだ!

5.2キロ、真剣に走って、21歳の女性に負けるなんて・・・・・俺の今までの人生は、いったい何だったんだ!


落ち込んだ。


立ち直ることができないほど、俺は、落ち込んだ。

しかし、ポニーテールさんが作ってくれた弁当が、思いのほか美味しかったので、すぐに復活した。

特に、イタリアン風トマト風味の肉ジャガが、オリーブオイルと唐辛子、ハチミツ、トマトの配合が絶妙だったので、私は敗北の味を忘れた。

うめえぞ、これ!
120点の味だぞ!
濃厚で、品があって、センスを感じるぜぇ!

そう言ったら、「キリンおやじ(わたしのこと)、褒めすぎ! 下心、あるんじゃね!」と、肩を強く叩かれた。


下心はない。
金もない。
未来もない。
君に、女を感じない。


左から、強烈なビンタを食らった。

それなりに、本気のビンタ。
軽く首も絞められた。

オレ・・・・・君の父親より年上なのに。
年寄りを敬う気持ちは、ないのか・・・・・。


うまい手作り弁当を食して、復活した心が、いっぺんに萎えた。

俺・・・・・ヨメにも、ショウコにも、ポニーテールさんにも、完全に舐められているな。
軽く見られているな。


こんなに、誰よりも、一所懸命生きているのに。


そして、私は思った。

もし私が、スカンクなら、ここで強烈な屁をかまして、自分の身を守ることができるのに・・・・・と。


そんな切なる願いを全身で渇望していたら、本気の屁が出た。

ポニーテールさんに怒られた。

なにぃ! 信じられない!
レディの前で、そんなことするなんて!
とっとと、帰れぇ!


つい最近、二人目の子どもを産んだ、友人カネコの娘、ショウコの偉業をねぎらうために、ショウコの家を訪れたとき、不覚にも屁をこいた。

「バカ野郎! 毒だ、毒だ! 私の大切な子に、毒を振りまくな! 出入り禁止だぁ!」

ショウコに怒られた。
張り手を食らった。


ある日の我が家・・・・・。

ヨメの前で、屁をかました。

しかし、無視された。


この温度差は、いったい・・・・・・。




そんな悲惨な夏休みだった。



2012/10/05 AM 06:10:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

七期七会(ななごななえ)
織田フィールドの秋。

大学時代、毎週一回、当たり前のように、そこで汗をかいた場所。
ここは、私にとって、神聖な場所と言っていい。


長谷川七恵から電話があって、どこにしましょうか、と聞かれたとき、私は、織田フィールド、と答えていた。

約束の時間に行くと、そこには大学時代の同級生、長谷川も来ていて、年季の入った社長顔で笑っていた。

七恵は、長谷川の一歳年下の妹、邦子の養女だ。

しかし、養母である邦子はもう、この世にはいない。

七恵は、仙台の大学生。
二十歳だ。

長谷川が「元気だったか」と聞いてきたので、俺にここを走って欲しいのか、俺が走らないと元気かどうかわからないのか、と聞いた。

苦笑いの長谷川。

「マツ、思い出さないか。お前の走る姿をいつも撮っていた邦子の姿を」

もちろん思い出す。
だが、私は、そっけなく、写真部だから当たり前だろ、と答えた。

「いつも同じ場所、同じ角度から撮っていたよな」


(マツーッ! 飛ぶように走れぇー!)


私が何も言わないでいると、七恵の視線が強い力を持って、私の横顔を射てきた。
そして、両手でカメラを構えるポーズをし、「カシャッ」と言った。

俺は、左からの角度より右からの角度の方が若いって、みんなに言われるんだ。
左は、自信がない。

「わかりました。本当に持ってきたときは、そうします」と言ったあとで、七恵が舌を出した。


夕暮れの柔らかな風が吹いてきたとき、長谷川が「そういえば・・・な」と、古い思い出を無理やり引き出すような塩辛い表情をして言った。

「邦子が、なんで仙台に行ったか、知りたくないか」

私は、思わせぶりな会話が嫌いだ。
言葉の裏を考える能力が欠如しているからだ。

だから、人と駆け引きができない。

裏の意味なんて考えていたら、人付き合いなど出来ない、とも思っている。

だから、言った。

俺に、無駄な会話を振るなよ。
俺が、知りたくないって言っても、どうせお前は喋るんだろうが。
だったら、早く話せ。

またも苦笑いの長谷川。

そして、皮肉のつもりなのか、長谷川はこう言ったのだ。

「お前は、本当に短距離向きの男だよな。ゴールが見えている会話にしか興味がない。羨ましいよ」

お前に、羨ましがられても、俺は嬉しくない。
俺には、中堅企業の社長様のお前の方が、羨ましいよ。

「ハハハ」と笑われた。

そして、真顔になって、「邦子なんだが」と言った。

また、邦子か。

人は、歳を取ると思い出話が好きになるようだ。


もう、ここには、いないのに。


「なんで、仙台に行ったと思う。友だちも親類もいない土地に。仙台支社を作るとき、俺は、現地の人間に任せるつもりだったんだが、邦子が、自分から言い出したんだ。『私が行く』ってな。なぜだと思う」

鬱陶しいほど、妹思いの感情が詰まった長谷川の視線が、私に絡みついてきた。


まさか、大学時代、俺が「仙台はいいところだ。東京以外だったら、次に住むのは絶対に仙台だな」って言ったのを覚えていたなんてことはないよな。


「その、まさかだよ、マツ」と言って、長谷川が、私の腿を叩いた。

鬱陶しすぎて、このまま走って逃げたくなった。


陸上の全国大会で知り合って意気投合した男が、東北学院大学の学生だった。
「遊びに来いよ」と言われたので行ったら、家族全員で歓迎してくれた。

彼の父親に、「自分のうちだと思っていいぞ」と言われ、図々しく振舞って、6日間家に泊めてもらったら、先方の祖母から「孫がひとり増えたみたいで、ウキウキするわよ、また来てね〜」と抱きつかれた。

その一言で、仙台が好きになった。

仙台の人が好きで、街が好きで、食い物が好きになった。

そんなことを邦子に言った記憶がある。

そんなことを10回くらい言った記憶がある。


まさか・・・・・だよな。


「その、まさかなんだよ・・・マツ」
「邦子が行く必要なんて、少しもなかったんだ」
「頼みもしないのに、あいつは、一人で仙台に行ったんだよ。それは・・・なぜだろう」


牛タンが、好きだったからだろう。
あるいは、楽天ゴールデンイーグルス、ベガルタ仙台が好きだったんだろうな。

「その頃は、牛タンはまだ有名じゃなかったし、楽天、もなかった。ベガルタも・・・」

そんなことは、知っている。

もういい。
黙れ、長谷川。

お前の言いたいことは、わかった。

だから、お前は、もう黙るんだ。

企業の社長様である長谷川は、人から「黙れ」と言われたことなど、おそらくないに違いない。
揉み手をして近づいてくる人々だけが、彼を取り巻いて、彼は自分が命令されることなど、考えたこともない人生を生きているはずだ。

「おまえ」と言って、強く息を吸ったまま、長谷川はストップモーションになった。

そんな長谷川を、私は無視した。

そして、七恵に、目を向けた。


ナナエ、という名前を聞いて思い出した、俺の「童話」を聞きたくはないか。

「童話・・・・・ですか。私の名前の?」

そう、素敵な童話だ。

「聞かせてください」
それは、絡みつく視線だったが、なぜか長谷川ほどの鬱陶しさは、感じなかった。


一期一会(いちごいちえ)って、言葉があるだろ。
そのときだけにしか訪れないかもしれない出会いだから、一生に一度だと思って、精一杯おもてなしをしよう、という茶道の心得らしいんだが、俺は、その綺麗事っぽい表現が嫌いで、七期七会(ななごななえ)という話を作ったんだ。

七会、と言ったからって、それは、単純に七回という意味じゃない。
一週間に7回会う。
つまり、無限、という意味だ。

何度会っても、まるで最初に出会ったときのような気持ちで、人と接することができたら、どんなに幸せだろうか、という意味なんだよ。

そう考えたら、毎日会っていたとしても、新鮮な気持ちになれるだろ。

昨日、今日、明日。

いつ会っても、新鮮なんだ。

初めて出会ったときの気持ちを、ずっと持ち続けて、いつも新しい発見がある。

人と人の出会いで、そんな思いを持ち続けられたら、たとえ喧嘩したって、それさえも新鮮に感じられるんじゃないだろうか。

笑いたくなるほど青臭い童話だが、一人だけ感心して聞いてくれた人がいてね。
すごく嬉しかったことを、俺は覚えているよ。

「ななごななえ、ですか」
何かを探すように、顔を空の方に持ち上げて、七恵が言った。

「ななえ・・・・・」

そう、君の名前を聞いたとき、その話を思い出してね。

君を養女にする、と決めたとき、彼女の心の片隅に、もしかしたら、そんな童話が浮かんでいたかもしれない、と俺が勝手に思い込んでいたとしても・・・・・笑わないで欲しいんだが。


「ななごななえ」
七恵が、小さく呟いた。


その呟きは、織田フィールドの地面をヒラヒラと舞って、空に舞い上がっていったように見えたが、それも、きっと童話に違いない。

ただ、シャッター音の聞こえない織田フィールドは、もう童話からは遠い場所になったが。



「いい話じゃないか」と、鬱陶しく私の肩を叩く長谷川。


だろ! だろ!

今の話、社員の訓示に使ってもいいぞ。
きっと感動して、みんな泣き崩れるだろうな。

使っていいぞ、長谷川。

だから、俺様に、イタリアンをおごれ。

三ツ星のイタリアンだ。

さあ、行こう!


「おまえなあ、せっかくのいい話が・・・・・なんで、おまえっていつも」

そう言いながら、七恵の顔を見た長谷川が、強く唾を飲み込んだ。




俺は、そんな七恵の姿を視界に入れないことに懸命だったせいか、首にG(Gravity)がかかり過ぎて、今も首を339度しか回すことが出来ない。







2012/10/01 AM 07:28:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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