Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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生誕の瞬間
昨日は、ほとんど一日中、祝杯をあげ続けた。

今朝の私は、二日酔いではないが、気分がややハイである。
きっと支離滅裂なことを書くと思う(支離滅裂は、いつものことですが)。

だから、ゴメンナサイと先に謝っておきます。


インターネットの記事は、ヤホーやゴーのトップページの見出しだけをいつも見る。

記事を読んでいる暇はないので、見出しを読んで、瞬間的に内容を想像する(想像したことと事実が合っているかは不明)。

ただ、たまに何かの加減で、記事のページを開いてしまうこともある。
そういうときは、読むときもあるし、飛ばすこともある。

一昨日の朝は、前者だった。

米国で、人命救助した21歳のライフセーバーが、その行動を理由に会社から解雇を言い渡されたという記事だ。

ライフセーバーが、溺れた男性を助けたのだが、そこは市から請け負っている監視区域のエリア外だったため、その行為が契約違反と判断され、人命救助したのに、持ち場を離れたという理由で解雇されたというのである。

さすが契約社会、アメリカ。
見事なほど杓子定規だな、と感心した。

感心はしたが、私が興味を持ったのは、それとは違うところだった。
読み進んで一番下まで行くと、コメント欄がある。

そこに、こういうコメントがあったのだ。

「理由はともあれ人命優先! 日本の民主党みたいに冷酷な会社だな」

私は、関係ない出来事を何でも民主党に結びつける偏執狂的なコメントに同意する人が、あまりにも多いことに驚いたのだ。

記事の真意を読み取る能力がない。
あったとしても、興味の行き着く先が歪んでいるから、結論が固定観念でがんじがらめに縛られている。

このような人たちは、どのような日本語を書けば、理解できるのだろうか。

アメリカのライフセーバーが、人命救助をして解雇されましたが、そのアメリカの会社は日本の民主党の真似をしただけなので、本当に悪いのは日本の民主党です、と書けば納得するのだろうか。

また、大津のいじめ事件では、すべての事実が明らかにされたわけでもないのに、ヒステリックに魔女狩りを始めるという事態に陥っている。

試験で言えば、すべての問題文を読んだわけでもないのに、思い込みだけで答えを書いている状態だ。
(早とちりの元大統領夫人は、自分のことを正義の使者だと勘違いしているようだ)
(早とちりのマスメディア、ネット住民もスクープ合戦に血眼だ)

教育委員会と警察、検察、裁判官が当てにならない人種だということは、私も否定はしないが、だからと言って、プライバシーを尊重できない人が、無責任に、ひとを裁くことには賛成できない。

集団ヒステリーが、事実を正確に追求した試しが、はたして過去にあったか。

怒りにまかせて行動する人は、結局は加害者と同じ船に乗っていて、海に向かって、加害者同様、闇雲に弾を打ち込む人だと私は思っている。
そして、打ち込んだ弾が、何の罪もない人に当たったとしても、正義があれば許されると思っている人たち。

無能・保身の教師、教育委員会を弾劾するには、正確な情報だけが判断アイテムになる。
正確な情報で、教育委員会等関係者を追求するのは、大いに賛成だが、根拠のはっきりしない情報で正義を振りかざすのは、ただの「煽り」である。

集団ヒステリーが行き着く先は、正義を隠れ蓑にした「公開処刑」だ。

それでは、中世ヨーロッパの暗黒時代と変わらない。
(ただ、もちろんのことだが、中世ヨーロッパ・ルネッサンス期と今の時代を同一に扱っているわけではない。異端弾圧と今回の事件を同一視しているわけでもない。公開処刑と電波媒体による弾劾を比喩的に表現しているだけである)

犯した罪を償わせたいなら、正当な手続きが必要だ。
感情論で弾劾するだけでは、裁判が結審する頃には、人々は今までと同じように、熱が冷めたら事件の存在すら忘れてしまうに違いない。

そんなことになったら、亡くなった中学生の無念さ、親御さんのやりきれなさだけが、宙に浮く。


だから、ヒステリックに、今だけ騒ぐな。
人の意見に流されるな。
事件を忘れるな。


今も、新しい命が、親たちの愛情と期待をその全身に受けて、この世に誕生している。

その尊い命を守るためには、「いじめ」という「凶悪犯罪」を見過ごさないシステムを作ることこそが最優先課題だと、私は思っている。


というようにイラついていたら、iPhoneが震えた。

ショウコの夫、マサからだった。

「先輩! ショウコが、先輩に来て欲しいと言っています! お忙しいとは思いますが、来ていただけませんか」

なぜ、私が行かなければいけないのか。

それは、民主党が悪いからか?

「え? みんしゅとう〜〜〜!」

それとも、フジテレビが悪いからか?

「ふじてれびぃ〜〜〜?」
マサの声が裏返っていた。

自分以外は、クソでキモくて、終わっているからか?
(インターネットの世界では、クソ、キモい、終わっているというのが、他人を弾劾する常套句だということを、最近、高校二年の娘に教えられたばかりなので、使ってみた)

「いや、先輩、そうではなくて、ショウコが生まれるんです!」

ショウコは、すでに生まれているだろう。
生まれ変わるということか?

つまり、リインカーネーション。

「いや、カーネーションではなくて、ショウコです、先輩」

さっぱり、わからん。

が、生まれるらしいので、行くことにした。

車で迎えに行きましょうか、と聞かれたが、何が生まれるかわからないが、もし生まれるのなら君は持ち場を離れないほうがいい、八王子なら、ここから徒歩と電車で41分6秒で行けるから、と言って電話を切った。

産院に行ったら、まだ生まれていなかった。

で、何を生むんだ? とショウコの夫のマサに聞いた。
すると、マサが生真面目な顔をして、「ショウコが人間の赤ちゃんを産みます」と答えた。

(まあ、それしかないですわな)

で、オヤジのカネコは、どうしたんだ? と聞いた。

「お義父さんは、仕事が忙しくて、すぐには来られないそうです」

ショウコの父親のカネコは、大学時代の2年後輩だが、先輩の私のことを「おまえ」と呼ぶ、非常識で芋洗坂係長に激似の男である。

カネコとショウコの間には、血の繋がりはない。
カネコが結婚した相手に、6歳の子どもがいて、それがショウコだったのだ。

ショウコは、カネコが父親になった当初は、むしろ私の方に懐いていた。

6歳のショウコは、私に向かって、「ねえ、サトルさん、何でサトルさんがパパじゃなかったの?」と聞いて私を困らせたものだ。
それに対して、私は、君のお母さんの旦那はカネコだが、君のパパは俺だと思っていいんだよと、いい加減に答えた。

ショウコは「わかった」と答えた。

だから、ショウコは、私の娘同然である。

ショウコには、勉強を教えた。
宿題も手伝った。
一緒に風呂にも入った。
テニスを教えた。
旅行に連れて行ったこともある。

私の二人の子どもと同等の愛情を注いできたつもりである。

だから、ショウコが大学一年のとき、マサと結婚したというのを聞いて、私は完全に「花嫁の父」状態になった。

最初の報告は、カネコを通して受けたのだが、大宮駅のホームで、電話でそれを聞いたとき、私の体は、糸の切れたマリオネットのように、体が立つことを拒否し、近くのベンチに座ったまま、泣いた。

なんで、あらかじめ教えてくれなかったんだ、と後で聞くと、ショウコは「だって、事前に教えたら、サトルさん、ショックを受けて、みっともないくらいに泣くよね」と言われた。

いや、どっちにしたって、俺は泣いたさ、というと、「ヒャハハ、確かにィ!」と大声で笑われた。

それからのマサとショウコは、私の真似をして、結婚式は挙げずに、親しい人たちだけを呼んで、ささやかな披露宴を催した。
(俺は泣き顔を見られたくなかったので、披露宴の参加を拒否した)
そして、新婚旅行は、宮城の秋保温泉。

私たち夫婦の新婚旅行も秋保温泉だった。
ショウコは、「なんで、秋保温泉?」と聞いた。

あ、で始まるところに行ってみたかったんだ。
日本では、あ、が始まりだからね(英語でも爍甅瓩始まりだが)。
なんでも始まりは、縁起のいいもんさ。

「じゃあ、アラスカでもアルゼンチンでもアゼルバイジャンでも、秋田でも青森でもよかったんじゃない?」

そうだね。
明石に本場の明石焼きを食いに行こう、という案を出したが、それは見事に却下された。

秋保温泉にした理由。
それは、おそらく誰も新婚旅行の行き先として秋保温泉を選ばないからかな。

「ハハハ、バカだね」と、ショウコ。

しかし、マサとショウコは、秋保温泉に二泊三日の新婚旅行に行き、毎年結婚記念日前後に、秋保温泉まで一泊の旅行に行くのだという。

つまり、バカは、うつるらしいのだ。


そんなショウコは、大学2年のときに、一人目の子どもを産み、大学院2年のいま、二人目を出産するという生き急いだ人生を疾走している。


白衣の女性に呼ばれて、マサが分娩室に消えた。
6分後に出てきたマサが、私にハイタッチを求めた。

つまりは、無事産まれた。

我ながら気持ち悪いと思ったが、マサと抱き合った。
マサの体が、異様に熱かった。

ゴツゴツした体の感触は思い出したくもないものだったが、その喜びは全身で感じ取ることができた。

「先輩、男でしたよ。男。ショウコそっくりのイケメンです」
そして、「先輩、ショウコが呼んでるんですけど・・・」

な、何で俺を呼ぶ?

「赤ちゃんを見て欲しいって、そして、褒めて欲しいって言うんです」

やだ!

それはマサとカネコ、ショウコの母親の役目だ。

自分の子どもの出産には、二回とも立ち会ったが、今回の俺には、資格がない。

オレは・・・・・・・ふさわしくない!

そう言ったら、マサが、「ショウコは、いつも言っているんですよ。私には、3人の父親がいる。実の父親と私を育ててくれたパパ、そして、色々なことを教えてくれたホネホネ白髪おやじだって」と言ったのだ。

こいつ、俺を泣かせるつもりだな。

私がよく使うフレーズの「ホネホネ白髪おやじ」は、ショウコが言い始めたことである。

だから、私は、この表現がとても気に入っている。
それは、娘だから許せる表現だと言っていい。

娘が呼んでいるのなら、行かないわけにはいかない。

大きく深呼吸をしてから、分娩室に入った。

ショウコは、すぐに私の存在を認めて、「ああ! ホームレスのホネホネ白髪おやじだぁ!」と言った。

両手で、産まれたての赤ん坊を抱えていた。

紅潮した顔。
そして、これ以上ないほど、満足感を湛えた顔。

まるで、神が宿ったような神々しい顔をしたショウコ。

自分でも訳がわからない問いかけだと思うのだが、私は、いま何時だ? と聞いていたらしい。

「11時23分」というマサの声が聞こえた。

そして、何日だ? と聞いた。

マサが「7月20日ですけど・・・」と、声に戸惑いを浮かべて、私を凝視した。

オレ・・・・・混乱しているみたいだな。

「ほら! サトルさん、褒めて褒めて!」
ショウコの声が、掠れていた。

それは、死闘の後を物語る、尊い崇高な声だった。

私も声を掠れさせながら言った。

ショウコ、君はいま世界で一番強くて美しい女性だ。
ただ眩しすぎて、俺には君の姿がぼやけて見えるんだ。

そんな私の言葉に対して、ショウコは、「だって、サトルさん、顔、ひどいよ。涙でグシャグシャだよ」と、女神の顔で笑った。

申し訳ござらん、と思ったとき、芋洗坂係長に激似のカネコが到着した。

マサが「お義父さん、男でした、男でしたよ!」と、巨漢のカネコにぶつかって、気持ち悪い抱擁をした。
カネコは、出っ張った腹にマサを乗っけて、豚のダンスを始めた。

そして、「おとこー!」と叫んだ。

それを見て、俺の出番が終わったことを悟った私は、待合室に戻り、みっともないほど涙に濡れた自分の顔を両手でゴシゴシと拭いた。

しかし、涙は止まらなかった。




聖なる母の体内に、長い期間守られていた一つの命が、いま誕生した。

この子の命を守りたいと思った。

どんなことをしても、守りたいと思った。



俺の両手と俺の命は、そのためにあるのだと、俺は、自分に強く言い聞かせた。



2012/07/22 AM 06:21:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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