Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ノリ弁、ステーキ弁当、そして・・ウナ重
大学時代の知り合いに、オオクボという男がいる。

オオクボとは、大学時代は、それほど親密な関係ではなかった。
同じ陸上部に所属していたが、学部はオオクボが経営学部、私が法学部だったから、教養課程の授業で顔を合わす以外は、ほとんど接点がなかった。

それに、オオクボは生真面目で熱い男、それに対して、私はヒネクレ者で怠け者。
根本的な人間としての質が、天と地ほど違う二人だった。

以前にも書いたことがあるかもしれないが、当時私が所属していた大学の陸上部は、2年生が新入部員を教える習慣になっていた。

我々が2年になったとき、長距離が専門のオオクボは、中・長距離の選手の指導をした。
そして、私が短距離、幅跳び、障害物、投てきの選手の指導をした。

オオクボは、自分が練習の虫ということもあって、新入部員を練習漬けにする毎日だった。
それに対して、私は「疲れるためだけの練習はするべきではない」という方針を貫いたから、練習量は、オオクボたちのグループの半分以下だった。

そんなユルい練習だったから、手を抜く1年生もいたが、それは休養の一つだと思って、私は叱らなかった。
ただ練習の中で、昨日と何か違った「小さな進歩」を見つけたとき、私は、自分でもわざとらしいと思えるほど相手を褒めた。

しかし、オオクボは、手を抜いている部員を見たら、すぐに大声で怒鳴った。
ときに、突き飛ばすこともあった。

オオクボは、ユルい練習を許容する軟弱な私に対して「もっと親身になれよ!」「何で人と真剣に向き合わないんだ!」と怒鳴った。

先輩や2年生部員の間でも、オオクボの指導方法に対して肯定的な意見が多く、私の指導方法は「やる気がない」「あいつは指導者に向かない」という評価が、圧倒的に多かった。

そんな風に、私に対して逆風が吹き荒れる中、新人戦が始まった。

結果はと言えば、大久保が指導したグループは、練習で疲れきって、本番では本来の力を出すことができずに、6人全員が自己記録を大幅に下回る成績で惨敗。
それに対して、私が教えたグループ4人は、全員が自己記録を更新して上位入賞した。

だが、たった一度だけで、どちらの指導方法が正しいなどとは言えない。
おそらく、結果にかかわらず、オオクボの指導方法が正しいというのが、大方の意見だと思う(日本の風土の中では)。

だから、オオクボは、結果に対して責任を感じることはなかった。
気にすることはなかったのだ。

しかし、オオクボの自尊心は、そのことでかなりダメージを受け、オオクボは、その後練習に顔を出さなくなり、2年の終わりに陸上部をやめた。

それ以来、オオクボと私の間は、ギクシャクした。
キャンパスで顔を合わせても、オオクボの方が私を避け、卒業後1度羽田空港で偶然出くわしたときも、オオクボは、私に対して右手を上げただけで、逃げるように去っていったことがあった。

そんな変ないきさつのあった私たちだったが、仲間の仲介もあって、5年ほど前の飲み会の席で和解の儀式を執り行ったのち、我々は大学時代以上に接近した友だち関係を持つようになった。

オオクボが言う。
「部員や部下をいつも叱り飛ばしていた俺が、今では『仏のオオクボさんだよ』。それは、大学時代の軟弱なおまえに教わったことだ。怒鳴るだけじゃ人は動かないってことを、俺はおまえに教わったんだ」

それに対して私が言う。

人を怒るには、すごいエネルギーがいるだろ。
でも、俺はそんなことでエネルギーを使うのが嫌だったんだ。
ただ怒るのが面倒くさかっただけなんだよ、オオクボ。


そんなオオクボと私だが、接近した友だち関係と言っても、お互いが・・・特にオオクボが忙しいので、年に2、3回程度の交流を持つだけだった。


オオクボは、大学卒業後、大手のコンサルタント会社に19年勤めたあとで独立し、今は南新宿に事務所を持つ年商1億のコンサル会社の社長様に収まっている。

つまりは、成功者。

オオクボを見た11人のうち10人が、必ず彼のことを「社長様」だと判断するほど、彼は無理なく、その容貌に経営者の空気を身につけていた。

たえず成功者の空気を振りまく男、オオクボ。


いつものように、アポなしで南新宿のオオクボの会社を訪れた私は、オオクボの片腕と呼ばれる男に、毎回の儀式のように「事前にご連絡は?」と聞かれた。

していません。
突然、電話のかけ方を忘れてしまったのです。
だから、そのことをオオクボ社長様に相談したいのです。
困っているんです!
電話のかけ方を忘れてしまった私は、これからどうやって生きていけばいいのでしょうか。
ぜひ、オオクボ社長様にそのことを教えていただき、これからの私の人生の光を取り戻したいのです!

そんな茶番を演じていたら、事務所の奥の衝立で仕切られた部屋から「おい! そこのバカをここに連れてこい! 指南してやる」という声が聞こえた。

バカは、揉み手をしながら、卑屈に頭を下げ、社長室に入り、社長様が用意してくださったパイプ椅子に座った。

時刻は、12時15分前。
だから私は、「昼飯をおごれ」と、卑屈に顎を上に上げ、腕組みをしながら言った。

「またノリ弁か? そして、俺がステーキ弁当でいいんだな」

そうだ。
おまえは、学習能力がある。
さすが、経営指南の神様だ。

俺は、お前を尊敬する。

しかし、一つだけ間違っていることがある。

ノリ弁プラス「スーパードライ」だ。

「おまえはクリアアサヒ派だろ? ここでは、何でいつもスーパードライなんだ?」

ここでは成功者にあやかって、スーパードライを飲むと決めているんだ。
それが、俺の「ルーティン」だ。

苦笑いのオオクボ。

「じゃあ、お前も一緒にステーキ弁当を食えよ」

成功したら、食う。
それが俺の「ポリシー」だ。

今のお前と俺のグレードは、ちょうど「ステーキ弁当」と「ノリ弁」くらいの開きがあるからな。
そこだけは、キチンとしておきたい。

「面倒くせえ男だな」と、さらに苦笑いのオオクボ。

いつかお前のように、普通にステーキ弁当が食える人間になる。
それが、今の俺の最大の目標だ。

「本気かよ」とオオクボ。

本気だ。
自分でも呆れるほど本気だ(嘘だが)。

俺は、まだ人生を降りちゃいないからな。

そんな話をしながら、オオクボに遊んでもらっていたら、来客があった。

生真面目な声。
その容姿を想像できるイケメンな声だ。

「お邪魔します」
入ってきたのは、京橋でイベント会社を一人で切り盛りしているウチダ氏だ。

真面目なウチダ氏は、事前にアポを取っていたようだ。

そして、2人分の「ステーキ弁当」を持参。
俺の分は? と聞いたら、「そこまでの責任は、俺にはないですよ」とイケメン顔で言われた。

俳優の坂口憲二氏からワイルドさを消したイケメン。
私より5歳年下だが、私が「師匠」と崇めるほど完成された男である。

そして、成功者。

二人の成功者に挟まれて、いたたまれなくなった私は、こう聞いた。

オレ、もしかして、邪魔じゃねえか?

そう言ったら、「アポなしの客は、いつだって邪魔だ」とオオクボに言われた。

シュンと萎れるホネホネ白髪おやじ。

じゃあ、いい! スーパードライだけ飲ませろ。
俺は、それを飲んだら帰る。

スネるホネホネ白髪おやじ。

すると、オオクボの片腕がドアから顔を出し、「あのぉ、俺がノリ弁買ってきましょうか?」と助け舟を出してくれた。
そして、「俺も弁当を買いに行こうと思っていたので」。

ちなみに、あなたは何弁を? と聞いたら、「オレ、うな重ですけど・・・・・」。

それぞれ複雑な思いで、顔を見合わせるオオクボ、ウチダ氏、そして、オレ。

で、おいくらのを?

「8百円? 千円? くらいでしょうか」と片腕。

ウチダ氏に聞いてみた。
ステーキ弁当は、いかほど?

「580円だったか・・・・・」

俺のノリ弁は、確か290円。

ノリ弁とスーパードライ500缶を足すと、おそらく580円前後。

だから、俺たちはトータル金額では同等。

しかし、片腕は、弁当だけで8百円あるいは千円。

3人で同時に「ホォー!」。

つまり、社長2人とホネホネ白髪おやじが580円で、一般社員が8百円(千円?)ということ。

経営学の正しい原則として、この事実をどう受け止める? とオオクボに聞いてみた。

オオクボは、しばらく腕組みをしながら考えたあと、「ウチダさん、これは社員の生活水準が向上したことを経営者は純粋に喜ぶべきなんでしょうね。つまり・・・・・有能な経営者が存在するが故に、社員の高度な生活水準が維持できると・・・・・そう考えていいんでしょうか」とウチダ氏に、問いかけた。

それに対して、ウチダ氏は、大きく頷きながら、「もっともですよ。オオクボ社長。これはまさしく、健全な企業の形態と言えます。羨ましいですね」と生真面目に答えた。


てめえら、昼日中から、いい年をした経営者が、たかが弁当ごときで、遊んでいるんじゃねえ!

バ〜〜カじゃないか!


そう言ったら、「おまえに言われたくない!」とユニゾンで非難された。

ウチダ氏は、私より5歳年下なのに、私に向かって「おまえ」ですよ(泣)。



このバカバカしい話は、次回に続きます。


2012/07/07 AM 08:33:37 | Comment(2) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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