Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








仙人様との遭遇
その光景を見たとき、何が起こったのかと思った。

いや、目と感覚では何が起こったか理解していたが、頭の中でその現実が結びつかないでいた、と言ったほうがいいかもしれない。

夜の8時過ぎ、若い男が金属バットで、自転車を叩いていたのだ。
その中に、私の自転車もあった。
ただ、私の自転車は、直接叩かれたわけではなく、間接的な衝撃を受けただけだった。

それを見て、私の口から咄嗟に出た言葉が「OH! MY GOD!」だった。
さすが、ニューヨーク生まれだ(嘘だが)。

場所は、はじめて仕事をいただく、東京久我山にある会社のそばのマンションの駐輪場だった。
会社の前に自転車を置くと邪魔になるので、近くのマンションの駐輪場に停めたのである。

昨年武蔵野に来てはじめてできた友人の紹介で仕事をもらうことになった。
彼は、私にたまに原付バイクを貸してくれる親切な人でもある。

相手の仕事の進行上の都合で、打ち合わせ時間が夜7時という遅い時間になった。
打ち合わせを終えたのが、8時過ぎ。

さあ、帰ってクリアアサヒでも飲むか、と駐輪場まで歩いたら、冒頭の光景を目にしたのだ。
乱暴狼藉を働いていた男は、「何しとるんじゃい!」という私の怒声を受け、私を素早く見たが、私に危害を加えることなく、バットを右肩に抱えて逃げ出していった。

残されたのは、将棋倒しになった自転車たち。
15台程度あったかもしれない。

誰にも感謝されない虚しい作業ではあったが、一台ずつ自転車を起こしていった。
中には、スポークが折れているものが、数個あった。

では、私の自転車はといえば、お隣の自転車のスポークが後輪に刺さり、見事にパンクしていた。

この時間帯に、この場所でパンクかよ!

武蔵野のアパートまで、8キロ以上ある。
元気なときだったら、1時間15分程度で歩いて帰れる。

しかし、このときは極端な寝不足だった。

私の場合、寝不足には二つの原因がある。
一つは、仕事が押しているとき。
もう一つは、実の姉が何か事を起こしたときだ。

まず、珍しく仕事が忙しかった。
レギュラーのドラッグストアの仕事は、この時期B4が中心だが、今回は新規オープンの告知が重なったのでB3になった。
そして、友人のWEBデザイナーのタカダ君(通称ダルマ)が、全身に蕁麻疹ができるという、まるで人間がかかるような病気にかかったため、ホームページの更新を2件押し付けられた。

さらに、姉が意味不明なことをして、時間を取られた。
最近の私は、姉は、私を疲れさせることを喜びにしているのではないかと思うことがある。
私の思い過ごしだったら、いいのだが。

ということで、睡眠時間ゼロ。
だから、歩くのは、つらい。

自転車を直さなければならない。
だが、時刻は午後8時過ぎ。
自転車屋さんはコンビニとは違うから、24時間やっているわけではない。
遅くても、営業は午後6時くらいまでだろう。

どうする?
所持金は1060円。
アパートまで8キロの距離をタクシーで帰るには足りない金額だ。
バスを乗り継げば、何とかなりそうだが、私の唯一の足である自転車をこの場においていくのは、明日からのことを考えると痛い。

2秒間、そんな現実を噛みしめていたとき、ここに来る途中、自転車屋さんがあったのを思い出した。
この駐輪場から500メートル程度しか離れていなかったと思う。
絶対に閉まっているだろうが、行ってみて損はない。
シャッターは下りていても、まだ誰かが残っていることもありうる。

そう思って、パンクした自転車を引いて、自転車さんまで行ってみた。

思ったとおり、シャッターは下りていた。
閉じたシャッターに書かれた営業時間も10時から18時となっていた。

しかし、私は1パーセントの望みでも捨てない男である。
だから、非常識な行為だとは思ったが、切羽詰った状態を言い訳にして、シャッターを何度か叩いてみた。

すると、優しい声で「ああ、いま開けます」というのが、中から聞こえたではないか。
日ごろの行いのいい人間を神は見捨てることはない、ということか。
シャッターが、ゆっくりと開いた。

顎に仙人のような白ヒゲをはやした穏やかな表情の男の人が、姿を現した。
それは、神々しささえ感じさせるお姿だった。

この人だったら、事情を言えば、わかってくれる。
私は誠心誠意つくして、仙人に事情を説明した。

そして、仙人は神のような大きな慈悲の心を目に浮かべ、大きくうなずきながら、「わかりました。すぐ直しましょう」と言ってくれたのだ。
そして、「でも、2、30分くらい時間を見てくれるかな」と言われた。

30分くらい何でもございません。
待たせていただきます。

しかし、肝心なことを聞いておかねばならない。
修理代は、おいくらでしょうか。

仙人顔を少し傾けて、「普通だったら800円だけど、悪いけど時間外料金を入れさせてもらって、千円かな」。

千円。
オー! かろうじてセーフ!

お願いします。

「じゃあ、隅っこに椅子があるから、座って待ってて」

椅子かぁ、座ったら危ないな。
眠ってしまうかもしれない。
しかし、目をつぶらなければ、大丈夫か。
頑張ってみよう。


肩を揺すられた。

「お客さん、お客さん!」

目を開けた。

「修理終わったんだけどね・・・・・」

ああ、すみません。

眠ってしまったようだ。
壁のデジタル時計を見たら、21時41分が点滅していた。

咄嗟には理解できなかったが、6割方覚醒した頭で考えると、1時間半くらい眠ってしまったようだ。

すみません!

椅子を倒す勢いで立ち上がった私は、仙人に頭を下げた。

そんな私に、仙人は相変わらず穏やかな顔で「いやいや」と言った。
「あまりにも疲れた顔で眠っていたもんだから、起こすのが可哀想になってね」
そして、「ピクリともしないから、少し心配になって、たまに息をしているかどうか確かめたけどね」と笑った。

さらに、暖かい缶コーヒーを私に手渡して、「悪いね。もっと寝かせてあげたかったけど、10時に駅まで娘を迎えに行かないといけないんで」と右頬を掻いた。


返す返すも、申し訳ないことを、いたし申した。

本当に、申し訳ござらん!


仙人様に、頭を下げ続けたオレだった。



2011/02/28 AM 07:20:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.