Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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原付の旅 その2
前回からの続き。

荻窪の友人の家で、仮眠を取らせてもらった。
午後3時前に寝て、起きたのが、4時40分過ぎ。

朝、ネットカフェで3時間以上寝て、午後また1時間半以上寝る。
我ながら、よくここまで寝られるものだと、感心する。

眠れるのは、元気な証拠。
体と精神のバランスが悪いと眠れないか、眠りが浅いのだという。

つまり、俺は、健康だということになる。

ダルマの生まれたばかりの娘の頬にキスをして、5時過ぎに原付を発車させた。
キスをしたとき、ダルマが「キャー!」と奇声を上げたが、無視した。

ダルマの奥さんのトモちゃんには、投げキッスで別れを告げた。
すると、ダルマがまた「キャー!」

うるさいんだよ!
おまえは、乙女か!


次に向かったのは、練馬区の材木屋さんだった。
しかし、材木を買いに行ったわけではない。

ここの資材置き場にキャンピングカーを停めている男に、会いに行ったのである。
その男は、ハヤシさんと言った。

7年前に、私が名古屋に日帰りの出張に行ったとき、屋台のラーメン屋で偶然知り合った人だ。
その当時、ハヤシさんは54歳だった。
彼は、福井県美浜町出身の人で、キャンピングカーで日本一周をしている最中だった。

話をして意気投合した。

「これから、俺、賢島に行くんだよね」
そう言うハヤシさんに、尊敬の眼差しを向けた私は、いいなあ、賢島かあ、と呟いた。

その呟きを聞き逃さなかったハヤシさんは、「じゃあ、付いてくる?」。
名古屋へは日帰りの予定だったが、私はそのままハヤシさんに拉致されて、賢島で54歳のオッサンとともに二日間を過ごした。

3食カップラーメンかパンの耳という貧しい食事だったが、キャンプ生活は楽しかった。
それは、ハヤシさんの生き様が、楽しかったからだと思う。

憧れた。
そして、尊敬した。

それ以来会っていなかったが、メールとハガキのやり取りは、途切れずにしていた。

そのハヤシさんから、久しぶりにキャンピングカーで東京に立ち寄ったという連絡があったのが、昨年の12月末のことだった。
私はすぐにでも会いたかったのだが、ハヤシさんは、「バイトがあるんで、来年にしようよ」と言って、1月7日を指定してきたのである。

お互い抱き合って、喜びを表現した。

今年62歳になるハヤシさんは、もちろん、7年前と比べて、年齢を感じさせる容貌になっていた。

そのハヤシさんに、先に言われた。
「Mくん、老けたね」
激しく、ずっコケた。

笑うと目尻の皺が深くなって、当時はそれを味わい深く感じて憧れたものだったが、その味わいにさらに年輪が増したような気がした。
いい年の取り方をしていると思った。

資材置き場のそばに、夜になると、屋台のラーメン屋が通りかかるという。
「安くてうまいんだよね」と、目尻の皺を深くして笑う61才のオッサン。
そのオッサンと一緒に、400円のしょう油ラーメンを食った。

確かに、うまかった。
シンプルで、直球の味だ。
何の意気込みも感じさせないところがすごい。
ラーメンを食って、久しぶりに感動した。

力まずに、こんなラーメンが作れたら・・・・・本心から、そう思った。

充実したラーメンのあとは、スーパー銭湯。
志村坂上にあるスーパー銭湯に、原付で繰り出した(ハヤシさんも原付を持っていた)。

800円で、10種類以上の湯を満喫した。
男同士、裸の付き合いである。

私の裸を見て、ハヤシさんは「Mくん。脱ぐとすごいんだねえ。痩せてるだけかと思ったら、鋼の肉体だね」と褒めてくれた。

ハヤシさんの肉体は・・・・・、
お腹だけがポッコリ出た「残念な体型」だった。

裸の付き合いのあと、銭湯を出たところで、ハヤシさんが、「これ」と言って、一万円札を私の手に握らせようとした。

ん?

「7年前に、一万円貸してもらったのを、遅くなったけど、いま返すよ。悪かったね」

忘れていた。
たしか・・・そんなこともあったかもしれない。
どういう経緯で貸したのかは、まったく覚えていない。

それをいま返されても、なあ・・・・・。

しかし、受け取らないのも失礼に当たる、か。

じゃあ、こうしましょうか。

私たちは、資材置き場に帰る途中でドン・キホーテ練馬店に立ち寄り、5千円分のカップラーメン、レトルト食品を買いだめした。
それをハヤシさんにプレゼントし、残りの5千円は、私がいただいた。

「悪いね」
ハヤシさんの笑うとできる目尻の皺が、優しい光を放って、私の目に飛び込んできた。

また、いつか、会いましょう。

「はい。いつか・・・・ね」

握手を交わして、私は原付にまたがった。
格好よく、走り出そうとした。

しかし、湯上りの体に、真夜中零時の冷気は、凶器だった。

さっぶ〜〜!

結局、ハヤシさんのキャンピングカーで、武蔵野のアパートまで、送り届けてもらうことになった。

なんか俺、カッコ悪いですよね、と私が言うと、ハヤシさんは、「変にカッコつけるほうがカッコ悪いんだよ」と慰めてくれた。

また、握手をした。

今度の握手は、さっきのより強いものだった。

ハヤシさんが、言った。

「Mくん、頑張りすぎちゃダメだよ」


そう言うハヤシさんの目尻の皺が、カッコ良かった。




2011/01/10 AM 08:54:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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