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● イタかった忘年会 |
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「今年も不景気だったね」 「変わりばえのしない年だったよ」 「仕事、減ったなあ」
いや、私にとって、去年、今年は、激動の年だった。
まるで、突然、南極に連れて行かれ、その次に北極、ロシアのツンドラ、最後にオホーツクの流氷に投げ出されて、シロクマとご対面をしているような、世界の冒険家さえも、なし得ないような激動の時代を生きた思いがする。
少し早い同業者との忘年会の一場面。 場所は、吉祥寺の全国展開の居酒屋。 同じ店は大宮にもあるのだから、大宮でやればいいと思うのだが、みんなが私に気を使ってくれたのか。 あるいは、私がいつも冗談で言っている「吉祥寺には美女が溢れている」を真に受けたスケベ心からか。
出席したのは、一流デザイナのニシダ君。 最年長デザイナ・オオサワさん。 バツイチ・デザイナ・カマタさん。 名を出さないで、と頼まれた印刷ブローカーのSさん。 そして、私の5人が参加した。
他に、乱暴者のヘラクレス・タナカがいるが、アルバイトが忙しいので、この日は欠席。 印刷ブローカー・Sさんの弟も、いつもは出席率の高い人だが、階段を踏み外して、左手を骨折したので欠席。 テクニカルイラストの達人・アホのイナバも常連だが、おバカなので、日にちと時間を間違えて、欠席。
天才WEBデザイナのタカダ君(通称ダルマ)は、一度だけ出たことがあるが、ヘラクレス・タナカに技をかけられて泣いたことがトラウマになって、最近は出ていない。 痛みに極端に弱い男だから、ヘラクレス・タナカの存在がこの世にある限り、これからも参加しないだろう。 それに、今回は、第一子が生まれたばかりだから、それどころではない。
五人だけの忘年会。
時代を反映してか、仕事の愚痴や政治に関して憤慨する話題が多い。 おとなしいニシダ君までが、「民主党は〜」などと言って、飲めない酒を無理矢理飲み、顔を赤く染めて眉を吊り上げていた。
酒を飲むと、誰もが一流の評論家になったような気になる。 私も無責任に「おお、もっと言え、罵倒しろ!」などと煽り、みんなのグラスに、酒を注いで回った。
酔ってはいるが、みな決して心底から楽しんでいる顔ではない。 しかし、楽しむ振りをするだけで、楽しんだ気になれる。
人間とは、そういう生き物だ。
だが、ひと通り話題が回ると、あとはネタ切れ。
白けた空気が、座を支配し始めたとき、誰かが、エビゾウ事件の話題を振った。
まるで甘いものに群がる蟻のように、皆が、その話題に食いついた。 しかし、インターネットの見出ししか見ていない私は、その話題から距離を置いて、ビールを飲むことに専念した。 そして、イカ焼き2つを自分の前に占領確保し、箸でほじくりながら口に運んだ。
美味いぞ! イカ焼き。 イカ焼きは、一つ258kcalあるらしいが、そんなことは知ったこっちゃない。
ジョッキ、お代わり。 イカ焼き、ハフハフ! いいイカ、使っとるやないか〜い!
そして、エビゾウフライ、いや海老フライ(196kcl)を追加注文。 大好物のカキフライ(296kcl)も追加して、私の目の前は、ご馳走の玉手箱や〜!
ジョッキ、4杯目、お代わりィ!
と、私は賑やかに宴を楽しんでいたつもりだったが、向かいに座った最年長のオオサワさんに「Mさん、今日はおとなしいね」と言われた。
いや、飲むのと、食うのに専念しているだけですが・・・・・。
「この中で、一番社交性のあるMさんがおとなしいと、空気が沈むよね」とオオサワさんが言う。
私が社交性がある? ご冗談を。 私は、偏屈なだけですから。
「いや、だって、Mさんは、この中の誰とでも仲良く話せるでしょ。でも、みんなは、そうじゃないよ。派閥と言ったら変だけど、小さい中でグループを作って、その人としか、話さないからね」
確かに、今回も共通の話題で盛り上がってるようには見えても、話をする相手は固定されているようだ。 見ていると、結局2つのグループに分かれて、会話が成り立っていた。
私から見ると、オオサワさんの方が社交的だと思うが、オオサワさんは印刷ブローカーのSさんとしか話をしていない。 そして、ニシダ君は、カマタさんとしか話をしない。
それに比べると、確かに私は、みんなと等間隔で話をする。 だから、社交的だというのか。
それは、なんか、違うと思うが。
社交的?
「そう、Mさん、意外と社交的ですよ。外見とは少し違いますけどね・・・」
それは、昔、法律事務所に勤めていたとき、ボスにも言われたことがある。
「マツは、外見は取っ付きにくいけど、意外と社交的だよね。どの派閥に入ることもなく、みんなと同じ間隔で接しているからね。そこだけは、感心するよ」(つまり他に感心するところはない?)
11人の小さな事務所だったが、そんな小さな集合体でも、派閥はあった。 しかし、どんなときも少数派を選ぶひねくれ者の私は、派閥に身を寄せることなく、テキトーに真ん中を泳いでいた。
それが、人からは「社交的」に見えたのか。 だが、しつこく言うが、私は偏屈なだけだ。 ただ、派閥に入るのが嫌だから、みんなと距離を置いて話をしているに過ぎない。
さらに、「Mさんは、心が広いからね」とオオサワさんが言う。
嫌みか、と思った。 偏屈な人間に、心の広いやつはいない。 私の心は、おそらく鼠の脳ほどの広さしかない。
しかし、オオサワさんは、そんな私の気持ちとは関係なく話を続ける。 「Mさんのブログを読むと、娘さんが韓国人と結婚したいと言っているそうですが、私はよくわからないんですよね。自分に女の子がいないから、そう思うのかもしれませんが、よく平気だなあ、と」
他の3人もうなずいている。
雲行きが、怪しくなってきたぞ・・・・・。
それは、どういう意味か、と警戒心を心に宿しながら、カキフライを二つ頬張った。
「俺も、自分の娘が外人、ましてや韓国人と結婚するのは嫌だな」 「よく平気でいられますね。父親は、娘を手放したくないものでしょう・・・・・普通」 「風習のまったく違う外国人との結婚なんて、うまくいくわけありませんよ。俺だったら、付き合うのも認めませんね」
ほとんど総攻撃だ。 いや、口撃か。
みんなが言っていることは、わからなくはない。 娘を結婚させたくない、手元に置いておきたいという思いは、自慢ではないが、世界中の男親の誰よりも強い、と私は思っている。あるいは、強烈に自覚している。
人間は、みな平等だよ、と綺麗ごとを言うつもりもない。
世の中は、差別にあふれている。 人間は弱いものを見つけて、人を貶める生き物だ。 下等動物なのである。
マザー・テレサは、一人しかいないのだ。
私も、異人は怖い。 怖いから、彼らの悪いところを、心の顕微鏡で拡大して、相手のマイナス点だけを心に留める。 そして、それを「怖い」という感情を押し殺すための道具にする。
その一番手っ取り早い方法が、「差別」だ。
異文化の中で生きてきた異人さんは、私にとって、わけもなく怖い存在だ。
小学校4年の頃、同じクラスにコロンビア人の女の子がいた。 彼女は、肌が黒かったから、子どもたちは、お決まりのように、ある侮蔑の言葉、差別的用語を吐いた。 しかし、私は言わなかった。 多数派に入るのが嫌だということもあったが、「俺はおまえらとは違うんだよ」という、違う意味での「差別の心」もあったと思う。
私は、コロンビア人と親しく話をしたが、おそらく、クラスの中で一番彼女を怖がっていたのが私だ、ということも自覚していた。 私は、私がコロンビア人を怖がっている、ということをみんなに覚られるのが怖いから、平静を装って親しく話しかけた。 つまり、考えようによっては、クラスの中で、私が一番卑怯だったかもしれない。
同級生の反応の方が、人間的だったとも言える。
だから、こんな卑怯な男が、何の抵抗もなく娘の彼氏を認めるわけがない。 それは、相手が日本人でも、異人でも同じことだ。
だが・・・・・と思うのである。
私は、娘の夢を知っている。 通訳になること。
それは、韓国語の通訳でもいいし、英語でもいいらしい。
これは、娘が自分の特性を考えて、真面目に出した答えである。
「通訳ってすごいよな。違う国の人たちの会話を伝えて、コミュニケーションが取れるんだぜ。小さな誤解があって争いごとが起きたとき、通訳は、同時に相手の言い分を伝えて、仲を取り持つことができるんだ。すごいだろ! 魔法使いみたいなもんだろ。だから、オレ、通訳になりたいんだ」 (本当は、外国との仲を取り持つのは外交官の仕事なのだが、大きな間違いではないので、私は娘の言い分を尊重した)
でも、これから先、優秀な翻訳機ができて、通訳は要らなくなってしまうかもしれない。
「機械に、相手の表情が読めるかい? 心が読めるかい? 通訳は、心も伝えるんだよ。そんなこと、機械にはできない。通訳は、絶対に必要なんだ」
得意気な娘の顔。
そんな会話の中で出てきたのが、「オレ、韓国人と結婚する」だった。
そして、娘が言う。 「オレは、日本と日本人が一番好きだ。だけど・・・・・外国人や韓国人を嫌いになる理由もない」
名言だ。
だから、私は、異人がとても怖いが、心の奥底で震えながらも、娘を応援しているのである。
しかし、そんなことを酒の席で言っても、白けるだけだ。
それに、面倒くせえ。
私は、変人に徹することにして、得意の平泉成の物真似をしようと思い、立ち上がろうとした。 だが、なぜか私が座っていた場所だけ、天井が低くなっていて、私は勢いよく天井に頭をぶつけた。
私は、死んだ。
いま、後頭部にできたコブを冷やしているところである。
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2010/12/05 AM 07:45:07 |
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