Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ちょっとした現実逃避
三日間ほど、忙しい日々を過ごした。

いまは、二週間に一度だけ、仕事が集中することがある。

忙しかったときのことを言っても意味がないのはわかっているが、3、4年前までは、それなりに毎日忙しかった。
休むのは、稀だった。
それが、いまは二週間に三日程度の忙しさに落ち込んだ。

他にも仕事はあるが、それはささやかなもので、真剣に取り組めば2時間ほどで終わってしまう程度のものである。

我が家には、私が暇な時間を過ごすことに、過剰に反応する人間がいるので、それを避けるために、少ない仕事を分散させて、週5日働くことにしている。
ただ、仕事量自体は、頑張って仕事をすれば週休3日の生活が出来るほどのものだが。

二週間に一度だけでも、集中的に仕事が出来ることは、とてもありがたいことだと思うが、ありがたがるだけでは前に進めないので、週に一度は営業に出ることにしている。


東京が、今年最後の真夏日だった日。
以前から約束していた、稲城市に住む同業者の仕事場を訪ねた。

トレースの仕事があるというので、ヨダレを垂らしながら、行ってきた。
そして、36歳の同業者から、大量のトレースの仕事を貰った。

そのとき、初対面の同業者に「Mさん。ちょっとイメージと違いましたね」と言われた。

どのように違いました?

「もっと浮世離れしていると思いました」

まともな人間に見えたようである。
喜ばしいことだ。


浮世離れしていない男は、帰りに多摩川の河川敷で、憩いのひとときを持った。

バッグには、小さな保冷バッグの中に、さらに保冷剤で巻いたクリアアサヒが2本、総武線の満員電車のように窮屈そうに、身を寄せ合っていた。

そして、どういうわけか、バッグの中には一畳敷きのビニールシートも忍ばせてあった。
それを木陰に敷いて、四隅に適当な大きさの石を置いて固定した。

ネクタイを外し、ワイシャツを脱ぎ、ズボンを脱いだ(変態か?)。
しかし、私は変態ではなく、バッグに短パンとTシャツを入れて持ってきていた。
さらに、ビーチサンダルも持ってきていた。

自分で自分に「営業に行ったんじゃないのかよ」と、突っ込んだ。

だが、突っ込みは、暑い空気の中に、陽炎のように消えていった。

午後2時20分。
着替えて、横になる。
太陽が、元気だ。
まるで、フルマラソンの最後200メートルを全力疾走しているような頑張りである。

今年の夏の太陽は、自己最高記録を更新したに違いない。

からだを起こして、冷えたクリアアサヒを飲む。
そして、1本だけ持ってきた「チーかま」を齧る。
これが、私の昼食だ。

太陽は頑張っているが、木陰に侵入してくる風は、秋の気配を感じさせて、心地よい。
夏草越しに見える多摩川が、強い陽を照り返して、キラキラ光って綺麗だ。
遠くから下手くそなトランペットの音色が聞こえてきたので、一瞬眉をひそめたが、それも自然の中の音だと思えば、許せると思い直した。

自然は、人の心に余裕のすき間を開け、人を優しくする。

暑いからなのか、私の半径百メートル以内には、誰もいない。
犬を散歩させている人もいない。
草木と川の水以外、動いているものが、まったくない。

孤島にいるようなものかもしれない、と思った。

私の心が、どう動いたのか、自分でも判断できないのだが、2本目のクリアアサヒを飲んでいるときに「帰りたくない」と、つぶやいていた。

誰もいない。
何も邪魔するものがない。
誰にも束縛されない、最高の環境。

これこそ、俺が求めていたものなのかもしれない。

しかし、それはよく考えてみれば、たった半径百メートルほどの孤独な空間。

それじゃ、ちっぽけすぎるだろう、と自分を笑ってみる。

だが、居心地はいい。

こんなに居心地のいい空間を手にしたことは、久しくなかった。
開放的な気持ちと現実との距離感が、「帰りたくない」という言葉になったのかもしれない。

クリアアサヒが、心の襞とからだの細胞に染み込んでいく現実離れした時間が、緩やかに流れていった。

緑の芝が、何か異次元の世界へ続く絨毯のように感じられて、思わず裸足で歩いていた。
足の裏に夏の名残りの熱気を感じながら、飽きるまで歩いた。

汗をかいたので、Tシャツを脱いで、ビニールシートまで戻り、持ってきたタオルで汗を拭いた。
その間、5回ほど「帰りたくない」とつぶやいた。

だが、そんな私を現実に引き戻すように、5時を告げるチャイムが鳴った。

チャイムを聞きながら、ビニールシートを畳み、靴やワイシャツをバッグに詰めた。
帰り支度が整って、立ち上がったとき、数人の子どもたちの笑い声が聞こえた。

それを聞いて、確実に異次元から生還した。

自転車で稲城市、調布市、三鷹市を通って、アパートに帰った。


すぐに、晩飯の支度にかかった。

酢豚とあんかけ焼きソバとワンタン・ラー油スープ。

これは、うまかった。


うん。

本当に、現実的に、うまかった。




2010/09/25 AM 09:03:51 | Comment(5) | TrackBack(0) | [日記]



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