Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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俺は不死身なんかじゃないよ
頭が、熱を持っている。

慎重に白髪染めを使ったのだが、やはり頭皮が脹れた。
顔も歪んだ。膨らんだ。

顔の筋肉が動かしづらいから、無表情。
そして、ギョロ目。
まるで宇宙人・ハトヤマのような顔だ。

保冷剤を巻いたバスタオルで顔全体を冷やしている。

笑える。

髪を黒くするだけで、こんなに苦痛が伴うなんて・・・・・。
しかし、美の追求には、痛みが伴うのは当たり前。
我慢しなければ。

週末は、どこへも出かけないようにしよう。
娘は、修学旅行で関西方面に行ってるから、娘に醜い顔をさらさずに済んだことで、よしとしよう。

とはいっても、そもそも、この白髪染め計画は娘が言いはじめたことだ。
責任者、出て来い!

などとボヤキつつ、保冷剤を巻いたタオルを代えていたとき、電話がかかってきた。

小学校のときの同級生、クサカからである。

クサカとは、中学卒業以来会っていなかったが、昨年小学時代の同級生が死んだので、連絡のつく範囲で、そのことを何人かに報せた。
ただ、連絡がついたのは、目黒に今も住んでいるやつだけだった。
その中にクサカがいたのだ。

クサカは、青森の酪農家に入り婿をしたが、10年足らずで離婚し、13年前に目黒の住宅街でスナックを始めるという、それなりに波乱万丈の人生を過ごしていたようだ。

事前の約束をしないで、ゴールデンウィーク後に店を訪れたら、いきなり「マツだろ!」と抱きつかれた。
そして、「ぜ〜んぜん、おまえ、かわってないな」と少しも嬉しくないことを言われた。

俺ほど、品よく風格を身につけた大人を、俺は他に知らない。
おまえの目は、節穴か。

「ほら、そんなところが全然変わってないって言ってんだよ」


・・・・・・・・・確かに。


そのとき、ワイルドターキーのボトルを、ただでキープしてくれたクサカには、今も感謝している。
友情とは、美しいものである。

で、今日は何のようだ?

「久しぶりに、飲みに来いよ。最近、客足が落ちてきてな。少しでも金を落としてくれるやつを探してるんだ」

悪いな、他をあたってくれ。

「そんなことを言わずに、頼むからさ」

俺は今、病気と闘っているんだ。
そう言って、私は頭がかぶれ、顔が歪み、顔が宇宙人・ハトヤマになった経緯を語った。

すると、クサカは、無神経にも大爆笑しやがったのである。
25秒間の大爆笑。

そして、その後に、クサカがこう言った。

「不死身のマツが、白髪染めに負けるのかよ」

何だ? 不死身のマツって?

「覚えているか」と言って、クサカは、小学4年の時のある出来事を話し出した。

私たちが小学4年の時、クラスでは、切手収集が流行っていた。
クラスの子の10人ほどが、切手を集めることに夢中になっていたのである。

新しい切手が発売されるということを聞くと、皆が切手のシートを買い求めた。
ただ、切手の発売日は、平日の午前9時だったから、小学生の我々は、発売時間に切手を買うことはできなかった。
だから、一時間目と二時間目の間の10分の休み時間に、郵便局まで行って、切手を買うことにしていた。

しかし、小学校から郵便局までは500メートル近く離れていたから、時間的にはギリギリである。
そこで、足の速い私とクサカが代表して、毎回みんなの分を買いに行っていた。

その日も、私とクサカが短い休み時間に、郵便局まで走った。

ただ、遠い出来事なので、鮮明な記憶は、まったくない。
自分が、「血を吐いた」ことだけは何となく覚えていたが・・・・・・・。

今もそうだが、私は自分の体に関しては、かなり鈍感である。
ギリギリまで、自分の体調が悪いことに気づかないことが多い。
それで、ときにまわりに迷惑をかけることがある。

その日、おそらく私は体調が悪かったのだと思う。
切手シートを買って、学校まで走って帰る途中、一度横断歩道で、10円玉くらいの大きさの赤い痰を吐いた。

なんだ、これ? とは思ったが、休み時間中に帰らないといけないという義務感から、ペースを落とさずに走り続けた。
しかし、その後に、今度は血を吐いたのだ。
それも、二回。

けっこう大量の血を吐いたと思う。
一緒に走っていたクサカが、それに気づいて、蒼い顔をして私の顔を見たことは、記憶の中に残っている。

「だ、だ、だ、(大丈夫かよ?)」
狼狽して、私を覗き込むクサカの蒼ざめた顔。

今でもそうだが、相手が心配すると、私はむしろ冷静になる(ひねくれもの)。
だから、ペースを落とさずに、クサカを無視して、私は学校まで全力で走って帰った。

休み時間内に学校に戻ること。
切手シートを汚さないこと。
そして、洋服を血で汚さないことに気を使って、学校まで駆けた。

余裕で間に合い、切手シートも汚さず、洋服も汚れなかった。
ただ、血を拭った左手が赤く染まっていたので、それは、水飲み場で綺麗に洗い流した。

蒼ざめた顔で心配するクサカに、「誰にも言うな」と釘を刺して、私は何ごともなかったように、教室に入り、みんなに切手シートを配った。

授業が終わって、帰り際にクサカが、「医者に行けよ」と耳打ちしたことは、何となく記憶の片隅にある。

だが、私は医者には行かず、その後も普通の生活を続けた(と思う)。


あれ以来、私は血を吐いたことはない。


あれは、何だったのだ? という疑問はあるが、それも昔話である。
深く考えても、意味はない。


そのことを思い出して、クサカが「おまえは、不死身だよな。血を吐いても平気なんだから」と、電話口で言うのだ。
そして、「そんなおまえが、白髪染めに負けるなんて、人間はわからないもんだな」と、つまらない感心の仕方をする。

さらに、「顔を見てみたいから、写メで自撮りして、画像を送ってくれないか」
そんなリクエストもするのである。

自撮り。
メール、送信。

その画像を見て、クサカが深刻な声を作って言った。

「わかった。こいつはひどい。ある意味、血を吐くよりもひどいかもしれない」

「こいつは、悲劇だ」
そうつぶやきながら、クサカは、電話を切った。


ということなので、私はいま顔全体を冷やしているところである。





2010/09/11 AM 07:09:51 | Comment(2) | TrackBack(7) | [日記]



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