Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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セミ
夢は、続いているのか。


このブログに何度か書いてきたが、友人のチャーシューデブ・スガ君の「幸せなラーメン屋さん」プロジェクト。

スガ君と京橋のウチダ氏、コピーライターのススキダ、そして、私。
この4人が、同じ夢に向かって走り出してから9ヶ月。

立地条件のいい店舗を見つけ、内装デザインも決まって、夢が半分実現しかかったとき、地面が大きく揺らいだ。

春先から体調を崩していたスガ君の義父が、亡くなったのだ。
心不全だった。

ラーメン店のスポンサーになるべき人が、亡くなった。

電話口で「お義父さんが・・・」と絶句し、嗚咽するスガ君の声を、まるで宇宙の彼方から届いた信号のように聞きながら、私は両足を踏ん張った。

春先から入退院を何度も繰り返していたから、薄い恐怖の泡を頭の片隅に無理矢理押し込めるようにしながら、どこかで覚悟はしていた。
そんなことが、現実になるわけがない、と思いながらも、恐怖の泡は、頭の中で増殖した。

それが、現実になった。

鼻の奥を何かが刺激したが、懸命に堪えた。

俺たちには、やらなければならないことがある。


葬儀の日。
ススキダが運転する車で、静岡に向かった。

私の隣に、京橋のウチダ氏がいる。
強張った頬に、憔悴が見える。
時おり、彼の瞼が痙攣しているのを、私は見逃さなかった。

眠れなかったのかもしれないと思った。
それは、ススキダも私も、同じではあるが。

沈黙が、ずっと続いていた。
重いというのではないが、何かを念じるような沈黙だった。

その沈黙を破ったのが、ウチダ氏だった。

「こんなときに、仕事の話はしたくないんだが・・・・・」
ウチダ氏の痙攣した瞼が痛々しい。

「でも、これは俺たちの仕事だから・・・・・」
自分を納得させるように、ウチダ氏が声を絞り出した。


今のスガさんに、ラーメン屋の店主を勤めさせるのは、酷だ。
彼には、義父の仕事を引き継ぐ重要な役目がある。
だから、ここは、彼がいないことを前提に話を進めよう。
最悪の事態を想定して、自分は、一人の職人に話を通してある。
とりあえず、その職人に店を任せて、ラーメン屋をオープンさせよう。
そして、スガさんが、店主を勤められる状態になったそのときが、本当の「俺たちの開店日」だ。
それまでは、俺が責任を持つ。
失敗しても、それは全部俺の責任だ。
だから、予定通り、オープンさせよう。


ススキダは、無言だった。
肩の辺りに、硬い空気を滲ませて、ハンドルを握っていた。

しかし、私は車の振動に身を任せながら、苛立ちを抑えずに言った。

「カッコつけすぎだぞ! ウチダ。責任は、全員が持つ。俺たち4人は、そのために集まったんだからな」

少しの沈黙があった。
そして、そのあとにススキダが、硬い声で言った。

「いや、その助っ人の職人も含めて、5人だ。悪いが巻き込まれた以上、彼にも責任を持ってもらう。それが、チームってもんだ」

「ヒーローになりそこねたな」
ウチダ氏がそう言ってから、また車内は、目的地まで沈黙が支配した。


葬儀の席で、スガ君を前にして、一番最初に泣き出したのは、ウチダ氏だった。
スガ君の両手を握り、嗚咽し、哀しみを全身から発散した。

ススキダは、車を降りる前に、薄い色のサングラスを濃い色のサングラスに変えていた。
近くで見ると、肩が小刻みに震えているのがわかった。

俺は、と言えば・・・・・・・、
泣きそこねた。

スガ君から、「Mさん、おれ、何もしてないですよ。お義父さんに、何もしてあげてないですよぉ」と、巨体を預けられても、彼の大きな背中をさすることしかできなかった。

両足で踏ん張ることしか、できなかった。


出棺のとき、蝉が鳴いていた。

うるさいくらいに。


これから、蝉の声を聞くたびに、スガ君の義父を思い出すんだろうな。
あるいは、つい8ヶ月ほど前、スガ君の義父にカニをご馳走になった私は、カニを見たら、健啖家で豪快なスガ君の義父を思い浮かべるんだろうな。

いくつかの場面が、熱された空気の中で、陽炎のようにゆらめく。

私は、陽炎に包まれて出て行く黒い車に向かって、両足を踏ん張り、頭を下げ続けた。

私の心の中で、何かを詰め込んだ塊が、膨らんでいく。
それは、いつ破裂するのだろうか。

あるいは、俺は、それをずっと溜め込んでいくのか。


帰りの車内も、沈黙が支配しかけた。

しかし、ススキダが、その沈黙を破った。

「Mさんよぉ。後ろの席に、毛布があるだろ。それを被れば、何も聞こえないからな」



毛布を頭から被った私は、溜め込んでいたものを、全身を震わせながら、吐き出した。



蝉の声が消えた。



夢は、いまも続いているのか・・・・・・・。




2010/08/24 AM 08:06:54 | Comment(2) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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