Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ガジローという名の猫
数日前、多摩北部を突然の雨が襲った日。
雷鳴と稲光の中、自転車を漕いでいた。

午後6時前。
小金井市のスーパーで買い物をした帰りのことだ。

メカジキの切り身に半額シールが貼ってあったので、即座に買った。
今日はこれで、メカジキのムニエルを作るつもりだ。
これに、オクラとシメジをトマトソースで煮込んだものを添える。

スープは、ズッキーニを細かく切って素揚げした「素揚げズッキーニの冷製コンソメスープ」だ。
他に、大きいトマトの中をくり抜いて、擂った白身魚をマヨネーズと塩コショウで和えたものを詰め、パン粉と粉チーズを振りかけてオーブンで焼き、最後にパセリをまぶしたもの。
そして、炊飯ジャーで作る簡単パエリア。

頭の中でメニューを思い浮かべながら、ゴロピカの下を走る。
そんなとき、いつもは開いているはずのない美容室が開いているのに気づいた。

駅から遠い住宅街。
そして、所々に畑があり、ビニールハウスもある。
大通りに面しているわけでもない。

こんなところで美容室を開業しても、客は来ないだろう。
だから、つぶれたのではないか。
私は、その店の前を通るたびに、そう思っていた。

しかし、今日は明かりがついて、しかも客らしき人もいた。
つまり、つぶれたわけではなかったのだ。

そして、店の前の一台車が駐車できるスペースに、大胆に寝そべる「お客さん」もいた。

それは、毛の長い洋猫だった。
種類は、わからない。
毛が長くて、その毛は手入れされているようには見えなかったが、ノラ猫にも見えなかった。

美容室で飼っているのかもしれない。

体を大きく伸びをするようにして横になり、口を少しあけ、軽く舌を出して寝入るネコ。
その見事な寝入りっぷりに感心し、私は自転車を止め、寝入っているネコに「ガジロー」と声をかけた。

寝顔が、「男はつらいよ」に出てくる佐藤蛾次郎氏に似ていたからだ。

空では、ゴロゴロピカピカ。
だが、ネコは平然として寝入っている。

体に触れ、撫でてみたが、起きる気配はない。

ネコの図太さに呆れていると、美容室のドアが開いて、30代後半と思われる女性が微笑みながら出てきた。
「このネコをご存知ですか?」

いや、はじめて見るネコですが。

「名前を呼んでいたような気がしたので、てっきり、知り合いかと・・・・・」

私が「ガジロー」と呼んだ理由を告げると、女は、「ホホホ」と笑い、「確かに」と言った。
江角マキ子を、三日間寝不足にしたような顔をしていた。

お互いネコを撫でながらの会話。

美容室は、予約制で、予約の入ったときだけ、店を開けるという。
あまり繁盛していないので、店を開けるのは、週に2回程度。
しかし、5日前に、このネコが姿を現してからは、毎日予約が入るようになったと言う。

つまり、幸運を運ぶネコ、ということですか? と私が言うと、ネコの腹を撫でながら、女が大真面目にうなずいた。

「だって、いつもの夏なら、一週間くらい予約が入らないことは、当たり前ですから」

それが、毎日予約が入っているというのだから、それはこの美容室にとって、大事件と言っていいものだろう。

「だから、毎日一番高いキャットフードを出して、もてなしているんですよ」

しかし、ネコの素性がわからないから、不安だという。
毎日、午後4時過ぎから8時くらいまで、駐車場のスペースで寝るのがネコの日課らしいのだが、もしその日課が無くなってしまったら、また流行らない美容室に逆戻りしてしまうのではないか、と。

そして、ネコの顔を覗き込みながら「ノラ猫には、思えないんですけど」と、女は言う。

確かに、ノラ猫にしては、生まれも育ちも良さそうな、高貴な雰囲気を持っているネコだった。

それに、何と言っても、大物の雰囲気がある。
我々が体を撫で回し、空が光り、ゴロッという音が鳴っても、平然と寝入っているのである。

猫って、もっと神経質なものじゃなかったっけ?

今度は、一段と大きな稲光がした。
そして、数秒遅れて、ズンッ! という雷鳴。

しかし、ネコは起きない。

幸せそうな「ガジロー顔」で、寝ているのだ。

「この子の名まえ、ガジローにして、いいですか?」
そんな大物ネコを、どこか思いつめた目で見ながら、女が言った。

もちろん、いいですよ。
ご自由に。

これからも、幸運を運んでくれるといいですね。
私がそう言うと、女は「得体の知れないネコに頼るのも、どうかと思いますけどね」と苦笑い。

そんなとき、よりパワーアップした稲妻がピカッ! 数秒後に音がズズンッ!

それでも起きないガジロー。
大物なのか、ただ鈍いだけなのか。
羨ましいほどの豪胆さを持ったネコだった。

空を見上げると、黒い雲が一面を覆っていた。

そろそろゲリラ豪雨が来そうな気がする。

びしょ濡れにならないうちに、家に帰ろう。

ガジロー君を、よろしく、と言って、私は自転車にまたがった。

女が、「お気をつけて」と手を振ってくれた。

そして、アパートに帰ってすぐ、電話が鳴った。

取ると、横浜元町松雪泰子似の美女からの電話だった。

「お久しぶりです。また急ぎの仕事をお願いしたいんですが。この仕事は、納期が短くて、Mさんしかできない仕事です。ぜひお願いします」



その声を聞きながら、私の頭に、ついさっき見た、大胆に寝そべるネコの姿が思い浮かんだ。



ガジローは、おそらく幸運を運ぶネコ・・・・・だ。






2010/08/22 AM 08:05:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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