Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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東京のデザイナー
猛暑。
不快指数を上げる不愉快なクライアント話を再び。

仏頂面が目の前にある。

3年半ぶりに会った得意先の社長の顔を見て、暑さのせいもあったかもしれないが、私は吐き気を催した。
埼玉の得意先は、武蔵野に越す前に、勝手ながら、過去2年間で5万円以下の仕事しか出さなかった会社は、おつきあいをやめさせていただくことにしていた。

そのことを、それぞれの会社に宣言したわけではないが、交通費等諸経費を考えると、それは最高の選択であった、と私は自分の決断を誇らしく思っていた。

そんな油断が、私を奈落の底に突き落とす。

大宮にある企画会社のコバヤシ社長から、電話がかかってきた。
「まとまった仕事を出したいんだがね」
コバヤシ社長は、見事に身についた横柄な口調で、私を魔法にかけようとした。

まとまった仕事?
フリーランスにとって、その言葉は、どんな魔法よりも強い効き目を持ち、心地よさが全身を駆け巡ったが、「だが、待てよ」と、私は思った。

コバヤシ社長からは、この5年間に2回仕事をいただいたが、どれもディスカウントストアで、自転車が一台買える程度の仕事だった。

その人から、「まとまった仕事」と言われても、それは俄かには、信用しがたい。

それに、もう俺の中では、決まりごとを作ってしまっている。
コバヤシ社長の会社は、この2年間、ただの一度も私に仕事を回してくれなかった。

私の中では、ギルティ! である。

申し訳ありません。
いま、仕事が立て込んでおりまして、入る余地がないのですが。

それに対して、コバヤシ社長は、ブレることなく断定するのである。

「こちらが、まとまった仕事を出そうというのだから、どんなことをしても客の言うことを聞くのが、プロというものだろう。入る余地がない、というのは、プロとして怠慢である」

偉そうだ。
横柄だ。
強圧的である。

仏頂面が目に浮かぶ。

めんどくせえな。
断りの言葉を並べるにも労力がいる。
とりあえず、会うだけ会ってみるか。

話を聞いて、気に食わなければ、断ればいい。
私は、高をくくって、大宮まで出かけていった。

久しぶりに、相対してみると、まさに仏頂面。
絵に描いたような仏頂面。

おまえになんか、俺の感情のカケラも見せてやるもんか! と言わんばかりの不機嫌顔である(オザワイチロウ顔とも言う)。

仏頂面からこぼれ落ちる「俺は殿様」然とした、尊いお言葉の数々。

それらを吟味してみると、「まとまった仕事」は、確かにまとまった仕事ではあったが、請負代金は、とてもまとまったものではなかった。
家族で4回サイゼリアでメシを食ったら、見事に消えてしまう額だった。

この金額では、無理ですね。

私がそう言うと、仏頂面は、ほとんど表情を変えることなく、「仕事を貰えるだけでもありがたいと思って欲しい。今は誰もがそんな時期なんだ。誰もが我慢をしている」と私を見つめた。

そんなわかりきったことを言われても、私の心は動かない。

仏頂面でなければ動いたかもしれないが、人を食った仏頂面では、心の中で舌打ちするしかない。

無理ですね。
もう一度、言った。

そうしたら、言われた。

埼玉から夜逃げした人間には、仁義もないのか」と。

埼玉から夜逃げした?
なんだ、その言い草。

本当に怒ったとき、私は冷静になる。
仏頂面の目を真っ直ぐ見て、私は「それは名誉毀損ですね」と言った。

それに対して、仏頂面は、大きく張り出したおでこを前に突き出すようにして、私に向かって「夜逃げした負け犬、と噂になっている」とまた言った。
白目が充血して、今にも血管が切れそうなほど、小林社長の目には、力が入っていた。

その目を見ながら、さらに冷静になった私は、「確かに仁義はきっていなかったな」と、己の所業を振り返った。

ただ自分の都合だけで、武蔵野に引っ越した、と言われたら、返す言葉がない。

だが、ひとに悪し様に言われるほど、私は人の道に外れたことをしたとも思っていない。

それが、夜逃げした負け犬、だと?

ただ引っ越しただけで、夜逃げした負け犬、と言われるのか。

私は、コバヤシ社長と同じような仏頂面になって、両足を180度に開脚して、腕を組んだ。

仏頂面には、「スーパー仏頂面」を。

そして、また言った。

夜逃げというのは、何を根拠に?

そのまま仏頂面で、睨み続けるつもりだった。
だが、またすぐに考え直した。

彼は、仮にも仕事を出そうとしてくれた人なのだ。
それは、一つの好意と受け取っていいのではないだろうか。
その相手に、敵対行為をしかけるのは、それこそ、仁義にもとる。

私は、冷静に反論した。

申し訳ないですが、俺は、安い金額ではもう動かないんですよ。
だって、俺はいま夜逃げした負け犬ではなく、「東京のデザイナー」ですから。

仏頂面のまま、そう告げて、私は席を立った。

そんな私に、「安くたって、仕事は仕事だ」
仏頂面社長は、横を向いたまま、正論を吐き捨てた。

コバヤシ社長の言ったことは、間違っていない。
だが、儲けの出ない仕事は、私を消耗させる。
だから、私は賢い選択をしたと思う。

ただ、もしも恩義ある人から、同じような仕事を相談されたら、私は間違いなく受けただろうと思う。

その違いが、私の心を不安定にする。



帰りの埼京線で、自称・東京のデザイナーは、窓ガラスに映る自分に向かって仏頂面を作ってみた。



それは、歪んでいて、しかも、ブレていた。




2010/08/20 AM 08:27:42 | Comment(4) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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