Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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食べるラー油
食べるラー油」というのがブームになる少し前、同業者から沖縄産の「食べるラー油」の瓶詰めを二つ貰った。

「うまいんだよね、これ! 俺はこれだけで、メシ3杯はいけるよ!」

食べてみた。

不味くはなかったが、美味くもなかった。

俺には、メシ3杯どころか1杯も無理だ。
ただの、インパクトのないラー油じゃないか、と思った。

それを食べたヨメは、そのとき「なんか中途半端」と言って、興味を示すことは、しなかった。

だが、それから、ほどなくして食べるラー油が、ブームになった。
スーパーでは、売り切れ続出になるほどだったと言う。

流行。
それは、一人歩きするもの。
そして、他人の意見を、まるで自分の意見のように、誇らしげに言うもの。

「食べるラー油」食べないと、損するわよ。

売り切れ続出の中、近所のスーパーで桃屋の「食べるラー油」を手に入れたヨメは、おにぎりにそれを入れ、「サイコー!」と讃えた。

人間は、他人の舌が、自分の舌に同化することを不思議に思わない人種である。
ひとが「おいしい」と言えば、自分の舌も「おいしさ」を感じる。

「なんか中途半端」と感じた味が、「サイコー!」になるまでの間に、時間的な間隔は、ほとんどないのだが、人の味覚というのは、いとも簡単に変わるものらしい。

同業者から貰った二つのうちの一つは、友人のWEBデザイナーのタカダ君(通称ダルマ)に、ささやかなお歳暮としてあげた。
昨年の暮れのことだった。

ビンに張られたパッケージを見て、「なんですか、これ。師匠。ラー油は、食べるものではないでしょう」と、ダルマが鼻の穴を膨らませて言った。
そして、「こんなのC級品でしょ」とも言われた。

まあ、いいから、食べてみろよ。

(ひと口食べて)「やめてくださいよ。なんですかこの中途半端な味は。これは、何のためにあるんですか? 意味わかりませんね」

時は流れて、今年の春。
ダルマの事務所に行くと、銀河高原ビールとともに、桃屋の「食べるラー油」が出された。

「師匠。これ、おつまみにどうでしょう? けっこう、イケますよ」
「クラッカーの上にのせて食べると、また美味で。これもけっこう、イケます」

ついこの間、「中途半端」と言った口が、「けっこう、イケますよ」に変化する、その変わり身の早さに、私は驚嘆する。


そして、ラー油をくれた同業者の事務所。

出窓のど真ん中に、「せんとくん」のぬいぐるみ? が置いてあった。

たしか彼は、せんとくんが、平城遷都1300年祭のキャラクターになったとき、酷評していたと思ったが。

「なんだよ、あのふざけた顔。1300年の威厳も何も感じられないじゃないか! キモイ!

鼻の穴を膨らませたところは、ダルマと同じだった。

私の視線に気づいたのか、照れ笑いを一つして、同業者は言った。
「よく見ると、可愛いもんだよね。もともとぬいぐるみはキモイもんですよ。ミッキーだって、ドラえもんだって、よく見たら、キモイでしょ。せんとくんもキモイから、可愛いんですね」

同業者の「ぬいぐるみキモイがカワイイ説」を、しらけた気持ちで聞きながら事務所を見回すと、本棚にAKB48のメンバーらしき人の写真集が立てかけてあった。

41歳のバツ2デザイナーが、AKB?
まあ、自由ですがね(AKBフアンを敵に回したくないので)。

私の目線が、何か圧迫するような光を放っていたのかもしれない。
同業者が、少し卑屈な物腰で「Mさん、なまドーナツって知ってます? 美味しいですよ。流行みたいです。食べますか」と言った。

それは、ドーナツの形をした揚げていないスイーツらしい。

見た目は可愛らしく、ドーナツの形をしていたが、私には違和感があった。
だから、言った。

揚げてないものをドーナツと言うのは、それは詐欺みたいなものだ!

美女が窓辺で微笑んでいると思って、近づいてみたら、よくできたマネキンだった。
そのときの悔しさは、窓ガラスを叩き割りたいほどだ!

だから、そんなものは、ドーナツとは言わない!

私の予想外の剣幕に、同業者は、クマのプーさんのハンカチで額を拭いながら言う。
「ああ、そうですよねえ。これは、確かに、揚げてないしなあ・・・・・、ドーナツではない、と言われたら・・・・・」

汗が、同業者の額から顎を醜い軌跡を作って、流れていた。



結局、彼が「食べるラー油」を先取りしたのは、ただの偶然だったようだ。




2010/08/14 AM 08:13:27 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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