Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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可愛い嘘
有権者は、短気である。

たった10ヶ月で結果を求めたがる。

今回は、昨年、左に大きく触れた針が、右に少し戻っただけ。
その原動力が、選挙民の不満を磁石のように引きつけた、未知数の政党「みんなの党」だった。

お手並み拝見、「みんなの党」。


それとは関係なく、唐突に負けず嫌いの人の話。

私が、イラストレータ8で作業しているというと、同業者が、「俺は5.5だよ」という。
つまり、古いバージョンを使っているとアピールしているのだ(古いものを使っているほうが、偉いと思っているのか)。

私が、フォトショップ7を使っているというと、「俺は5だよ」。

フラッシュ5を使っている、というと、「俺は4だな」。

でも、4は、アクション・スクリプトが弱いでしょ。

「・・・・・・・・・・・(目が泳いでいる)」
そして、大きな声で、「俺、アクション・ストリップは使わないから」。

負けず嫌い、というより、可愛い嘘。


他に、同業者でカマタさんというのがいる。

彼は、私の顔を見るたびに、「Mさん、いま何キロ?」と聞く。
私の体があまりにも貧弱なのを見かねて、心配のまなざしを向けてくるのである。

56キロ、と答えると、両手を広げて首を横に何度も振る。
そして、言うのだ。
「死んじゃうよ」と。

そのあとも、毎回お決まりのセリフが、カマタさんの口から出る。
「カツ丼おごろうか」「うな重にしようか」「評判の焼き肉屋があるんだけど」「超コッテリした豚骨ラーメンなんか、どう?」
カマタさんは、いい人なのだ。

ありがとうございます。
でも、どれも私の食欲をそそらないものばかりで。

「じゃあ、何がいいの?」

枝豆と生ビール!

「だめだ、こりゃ!」

という会話が毎回続いていた。
しかし、武蔵野に越してからは、カマタさんとは縁遠くなった。
40キロの距離が、二人の仲を引き裂いたのである。

そのカマタさんが、「立川市の印刷会社に用があるから、ついでに」といって、武蔵境駅まで来てくれた。
午後1時ジャスト。
駅のロータリーでトヨタ・カリブから降り立ったカマタさんは、お決まりの「Mさん、いま何キロ?」を挨拶代わりに、私の肩を叩いた。

私が、56.5キロ、というと、大げさに手を広げ、「死んじゃうよぉ」と首を大きく横に振る。
カマタさんは、私より20センチ背が低いが、体重は20キロ以上多い。
彼は、「成人病のデパート」と、自分のことを呼んでいる。

「武蔵境は、何がおいしいの?」と聞かれたので、「枝豆と生ビール」と答えたら、手を叩いて喜んでくれた。

私は、あそこにしよう、ここにしようというのが面倒くさいタチなので、即座に「餃子の王将」に、カマタさんを連れて行った。
「とりあえず、餃子にしようか」と言われたので、「俺は、とりあえずビールで」と答えたら、また手を叩いて喜んでくれた。

最初にロータリーでカマタさんを見たときに思ったのだが、カマタさんの外見が目に見えて変わっていた。
以前のカマタさんは、夏は、シワシワの麻のジャケットとズボン、ワイシャツは、いつもストライプの長袖だった。
しかし、この日は、半そでの白いポロシャツと薄いブルーのスラックスだ。
清潔感のある服装と言っていい。

そして、何よりも変わっていたのが、欠けていた前歯3本が真っ白な差し歯になっていたことだ。
さらに、白い面積の多かった髪の毛が、黒く塗られている。
そして、ヘビースモーカーだった人が、煙草を吸わなくなった。

どうした? カマタさん。

彼女ができましたか? と聞いてみた。

すると、カマタさんは、こちらが驚くほどの慌てようで、「ワチャワチャワチャァ〜」と騒いだ。
店内の84パーセントの人が、こちらを見るほどの奇声だ。

カマタさんは、バツイチ。
他の同業者には隠していたが、「内緒だよ」と言って、私だけに告白してくれたことがある。

25歳で結婚し、3年後離婚したという。
原因は、カマタさんの一方的な暴言だった(暴力はなかったと強調していた)。

百万円以上かけたオーディオコンポで、クラッシックを聴くことを至上の喜びとしていたカマタさんは、夜、奥さんが台所で料理をする時にたてる音に、毎回キレていたという。
「うるさいよ! 大事なところが聴こえないだろ!」と言い、音楽を聴いているときは、料理を中断させるのだが、そのくせ後になってから「何だよ! まだ、料理できていないのかよ!」と理不尽な怒り方をした。

子どもが生まれてからも、赤ん坊が泣くと、音楽が聴こえないといって、毎日のようにキレた。

「3年間もよく我慢してくれたと思いますよ。俺だったら、一週間で相手を刺してますよ」と、カマタさんは、今では反省している。

それ以来、カマタさんは、独身を貫き通している。
街を歩く女の子に点数をつけるのを趣味にしているカマタさんではあるが、「俺なんかのところに来る嫁さんなんかいないよ」と、いつも諦めモードだった。

しかし、今日の外見のサッパリ感は、怪しすぎるほどに怪しい。
44歳で、また青春がよみがえったか?

いますよね? 彼女、と、もう一度念を押した。

「ウヒャヒャヒャヒャ」と、餃子を頬張りながら、顔を赤くするバツイチ男。
そして、「彼女なんていませんから」と、右手を大げさに左右に振るが、その顔がさらに赤くなる。

しかし、私は気づいたのである。
左手の薬指に、指輪の跡があることに。
それは、まるで、さっきまで指輪をしていたような、生々しい跡だった。

いるんでしょ、奥さん?
と、今度は質問を変えてみた。

私がカマタさんの指を見つめながら言うと、カマタさんは、鼻の穴を大きく広げ、首を大きく横に振った。
そして、「か、缶コーヒーのリングをはめてみたんだよ。あれ、きつくてねえ。跡が残って取れないんだ」と、また赤い顔。

プルリングは、そのぶっとい指には、入らないと思いますが。

「いや、俺の指は伸縮自在なんで」と言いながら自分の指をつまんで、伸び縮みさせている。

カマタさん、そんなに、必死にならなくても・・・・・。
認めれば、済むことなのに。

しかし、その後のカマタさんの反応に、私はビックリした。
顔が赤くなった後で、青くなり、急に体が震えだしたのである。

天津飯をレンゲですくったまま、蒼ざめるカマタさん。

「死んじゃうよぉ!」
今度は、店内の89パーセントの人が、険しい顔で、こちらを振り向いた。

嘘は、自分を追い込んで、体に悪影響を及ぼす。
だから、私は、パニック状態のカマタさんの目を見つめて、冷静に「み・と・め・な・さ・い」と、諭した。

カマタさんは、水を一気に飲み干して、「はい」と小さく何度もうなずいた。

それによって、カマタさんの震えは収まった。


嘘は、いけない。

嘘は、人間の体を壊す。

それが、たとえ「可愛い嘘」だったとしても。





だが、政治家は、「可愛い嘘」は、つけない。

なぜなら、彼らには、嘘が日常化していて、どれが「可愛い嘘」なのか、自分でもわからないから。



2010/07/13 AM 06:46:35 | Comment(4) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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