Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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風鈴殺人事件
スーパーに行く途中に、軒下に風鈴を下げている家がある。

最近見かけなくなった風鈴。
その家は、3種類の風鈴が下げてあって、それぞれが、涼やかな音を、いつも奏でていた。
昔はよかった、という話は好きではないが、風鈴が世の家の軒先から消えて、私は少し淋しい思いをしていた。
だから、ひそかに、私はその家の前を通るのを楽しみにしていた。

だが、昨日の昼、自転車で家の前を通ったとき、風鈴家の門の前で、小さな諍いの声を聞いた。。
風鈴の音が聞きたい欲望と野次馬根性で、自転車のスピードを落として、私は家に近づいた。
近づいてみると、それは諍いというほどではなく、控えめな抗議の声だった。

70代の男性と40代の女性が、30歳前後の風鈴家の女性に、低姿勢でお願いをしているところだった。
「風鈴の音が気になって、気分が落ち着かないって、おじいちゃんが言うの。ごめんなさいね」
その横で、赤ら顔の小柄なご老人が、「こんなこと、言いたくないんだけどねえ」と、両手を擦り合わせていた。

それに対して、安室奈美恵からオーラを取ったような美形の風鈴家の女性が、両手を頬に当てながら頭を下げ、「ごめんなさい。気がつかなくて」と、二人の顔を交互に見て、また大きく頭を下げた。

「いやいや、神経質だと思われるかもしれませんが、私はあれだけは、駄目でして」と、ご老人がさらに忙しなく両手を擦り合わせながら言った。

残念ながら、その後の会話はわからない。
自転車を停めて、彼らの会話を聞いたりしたら、確実に不審者に思われる。
だから、自然なスピードで、私は遠ざるしか方法がなかった。

買い物を終えた帰りに、風鈴家の前を通ったら、軒先から風鈴が消えていたから、おそらく、話は円満に収束したのだろう。

修羅場に、ならなくてよかった。
「風鈴殺人事件」に、ならなくてよかった。

ほっとした。



これからは、私の妄想。
不謹慎ではあるが、私の中に、一つの殺人事件がある。

主人公は、ルポルタージュを書くことを職業にしている、フリーライター。
歳は、30代半ば。独身。そして、彼は、日本で、いや世界で一番殺人事件に遭遇する確率の高い、ギネス級の探偵だった。
そして、彼には警察機構の上層部に兄がいて、都合のいいことに、行く先々で刑事でもないのに、警察に捜査の協力を頼まれたりするのだ。
彼は、都合のいい偶然に何回か遭遇し、都合よく美女と出会い、都合よく事件の核心を握る事象に突き当たり、都合のいい推理で犯罪者を作り上げる有能な探偵だった。

今回の舞台は、東京郊外の閑静な住宅地。
殺されたのは、風鈴の音が風情を誘う和風建築の家に住む、元教師・稲森いずみだった。
死因は、毒殺。

証拠が少ないため、迷宮入りの噂が立ち始めたとき、ある女が探偵の前に現れた。
蒼井優である。
蒼井優は、稲森いずみの、かつての教え子だった。
恩人である稲森先生の事件が迷宮入りすることを理不尽に感じ、都合よく名探偵を紹介されたのだった。

探偵は、最初は及び腰であったが、蒼井優の熱意に負けて、事件に首を突っ込むことになった。
まず探偵は、隣の家の老人・橋爪功が有名な考古学者であることを知る。
そして、警察官僚の兄の権威を都合よく使って、考古学者に、昔の浮気相手との間に子どもがいることを突き止めた。

それが、都合よく隣に住む、稲森いずみだったのだ。
しかし、彼女が自分の子どもであることは、事情があって、橋爪功は知らなかった。

ただ、実に都合のいいことであるが、橋爪功の長男の嫁である、同居の高島礼子は、そのことをなぜか知っていたのだ。
橋爪功は、溢れるほどの財産を持っている。
だが、子どもが一人増えたら、遺産の遺留分は確実に減る、と高島礼子は考えたのだろう。

そこで、高島礼子が稲森いずみを殺害したのではないかと、探偵は推理した。
しかし、どうやって、殺すことができたのか。
悩んだ探偵は、近所から、橋爪家と稲森家が、風鈴の音のことで揉めていたという話を聞く。

そんなとき、高島礼子が、都合のいい過去であるが、サーカス団にいたことを聞きつけた。
サーカス団にいたのなら、高い塀を乗り越えることなど、雑作のないことだ。
そして、高島礼子の夫が、都合よく毒物を入手しやすい総合病院の医師であることから、高島礼子が犯人であると、探偵は推理した。

つまり、高島礼子が、稲森いずみがいないときに、塀を乗り越えて侵入し、軒下の風鈴の一つを入れ替えたのではないか。
そして、その入れ替えた風鈴に、毒を塗っておいた。
その後、高島礼子は舅をうまく利用し、「風鈴の音がうるさい」と二人でクレームをつけて、稲森いずみが風鈴に触れる状況を作った。

しかも、都合のいいことに、稲森いずみには、指を舐めるという癖まであった。
それをなぜか、都合のいいことに、隣人の高島礼子が知っていたのである。
毒のついた風鈴を触った稲森いずみが、都合よくそのあと指を舐めたことにより、稲森いずみは、あっけなく死んだ。

殺害後、高島礼子が、深夜また塀を乗り越え、毒のついた風鈴と付いていない風鈴を入れ替えることで、捜査の目をくらまし、事件は迷宮入り寸前までいった。

しかし、名探偵は、都合のいいことに、高島礼子が風鈴を買った店を探し出し、証拠を突きつけて、高島礼子を追いつめたのである。

高島礼子は、あっさりと罪を認め、何の活躍もしなかった警察に手錠をかけられて、連行されていく。

最後に、高島礼子は、探偵に向かって、涙ながらに言うのだ。
「私は、ただ幸せな家庭を築きたかっただけなの!」

そんな鮮やかな推理を見せた探偵に、蒼井優は、熱い眼差しをそそぐ。
しかし、探偵は、そんな視線には気づかず、最後にもったいをつけるように、こう言った。

「今回は、悲惨な事件でした。こんな事件は、二度と起こしてはいけない」

去っていく探偵の背中を見つめる蒼井優の目からは、熱い涙が幾筋もこぼれ落ちていた。

そして、探偵は、それからも行く先々で悲惨な殺人事件に出くわし、都合よく犯罪者を作り上げるのだった。


悲惨なる「風鈴殺人事件」。




なお、私は、この妄想小説の著作権を放棄します。
誰かが、これを基にして、素晴らしい小説を書いたとしても、私は文句は言いません。

それが、たとえ江戸川乱歩賞を取ったとしても。





馬鹿。




2010/07/11 AM 08:19:25 | Comment(2) | TrackBack(0) | [怖い話]



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