Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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おろしハンバーグ弁当
今年初めて、神田の得意先に呼ばれたので、昨日行ってきた。

一時の約束だった。
もちろん私は、約束の時間に遅れたことはない(電車が止まった時、遅れた時は別だが)。
12時51分に会社に着き、Sさんをお願いします、と事務の女性に告げた。

すると、「Sは、仕事の打ち合わせで外出しております」と言われた。

え! また、ドタキャン!
と心の中で舌打ちした。
しかし、まだあと9分もあった。
結論づけるのはまだ早いと思いながら、「いつお戻りでしょうか」と冷静な声で聞いた。

女優の菊川怜を幸薄くしたような顔の事務員は、「連絡を取ってみます」と、すぐに対応してくれた。

待つこと5分30秒。
1時1分前に、事務員が戻ってきて、「撮影機材のトラブルがあって、帰社するまでにあと1時間近くかかるとのことです」と言った。

そして、「大変申し訳ございませんが、もしMさんに時間の余裕がおありなら、お待ちいただけないでしょうか、とSは言っておりますが」と幸薄い笑顔で、私を見上げた。

何度も神田に足を運ぶのは嫌なので、私は「待ちます」と答えた。

一人で占領するには広すぎる4畳半ほどの応接室に通された。
ここは、何度も通されたことがある。
時計もなく、部屋の隅には、小さなキャビネット。そして、小さなカレンダーが壁に張られただけの殺風景な部屋である。

まるで、テレビドラマで見る警察の取調室のようだ。

「いい加減吐いて、楽になったらどうだ?」
カツ丼をテーブルの前に置いて、「落としのチョウさん」が、顔を近づけて言う。

黙秘権。

チョウさんが、突然、テーブルを叩く。
井の頭線の車内で、スカシっ屁をしたのはおまえだろ! 証拠はあがっているんだ。車内にニオイが充満する前に、おまえが身をよじって屁を放出する体制を取った姿をAさん、Bさんが目撃しているんだ。二人は、裁判で証言すると言っているぞ。それでもおまえは、シラを切るのか!?」

身をよじったのは、ケツが痒かったからだ。
俺は、屁はしていない。
屁をしたのは、車内で騒音を撒き散らしてラップを聴いていたトレッドヘアの男だ。

俺は、無実だ!

それを聞いて、ため息を吐きながら、首を振るチョウさん。
目の前に置いたカツ丼を、おもむろに手に取り、突然かっ食らい、上目遣いで私を睨む目の力は、イチローのレーザービームより鋭かった。

カツ丼かぁ・・・・・・・。
そう言えば、今日は昼メシを食っていなかったな(朝は、ヨーグルトだけだった)。
打ち合わせが終わったら食う予定でいたが、この分では、昼メシはだいぶ遅くなりそうだ。

・・・・・・・腹が・・・・・減った。

Guuuuuuuuuu・・・・・・。

すきっ腹に、コーヒーが沁みるぜ。

バッグの中には、常時カロリーメートが忍ばせてあるが、いくら人がいないからと言って、応接室で食うわけにはいかないだろう。
突然、応接室のドアを開けられたとき、カロリーメートを食う間抜けな顔が目の前にあったら、ひとは私のことを何と思うだろうか。

「あの白髪のオッサン、応接室でカロリーメート食べていたわよ。非常識ねえ。下品だわねえ。汚い金を食べても平気な政治家よりも下品だわ(?)」

きっと、そんな噂が、またたく間に広まって、私の支持率は限りなくゼロに近くなるに違いない(噂をまき散らすのは、週刊新潮だろうか、週刊文春だろうか)。

それは、困る。

そんな妄想と闘っていたとき、本当にドアが突然開いた(ノックしてください)。

幸薄い菊川怜だった。

幸薄い菊川さんは、全身で申し訳なさそうな空気を作って、頭を下げた。
「申し訳ありません。ただいま、Sから一時間では終わらないという連絡がありまして、もう一度Mさんのご都合を伺ってこいと言われたのですが」

それを聞いている最中に、私のおなかが、Guuuuu・・・

密室ですから、腹の鳴る音は、思った以上に響きます。
こりゃ、困った。
バツが悪いぞ。

腹が、これだけはっきり空腹を主張したら、誤魔化すことはできない。
どうしようか・・・・・・・?

しかし、幸薄い菊川さんは、幸薄そうな顔で、自然な笑みを浮かべ、慈悲深い目で私を見た。
「私もさっき、おなかが鳴ったんですよ。この会社、お昼は交代制ですから、私まだお昼ご飯を食べていないんです。Mさんもお昼がまだなら、何かお弁当でも買ってきましょうか」

いや、いや、そんなご迷惑は・・・・・。

バツが悪い思いを抱えて固辞する私に、幸薄い菊川さんは、目を細めて、また微笑む。
「近くのお弁当屋さんのお弁当、210円なんですぅ!」

嘘ですよね。

「いえ、おろしハンバーグ弁当と唐揚げ弁当の2種類しかありませんが、間違いなく、その二つは、210円です。私はお弁当を作って持ってきていたんですが、このお弁当に出会ってから、お弁当を作るのをやめました。こっちの方が経済的ですから」
そして、幸薄い顔を幸せ顔に変形させ、口に手を当てて言った。

「私、今日で5日連続、おろしハンバーグ弁当なんです。でも、飽きないんですよ。おいっしいんですよ!」
「おいっしい」は、相当力が入っていた。

じゃあ、その「おいっしい」やつをお願いします。
熱意に負けて、思わず答えてしまった。

お言葉に甘えて買ってきてもらった「210円弁当」は、確かにおいっしかった。

私が作るハンバーグより味は落ちる(負けず嫌いなので)が、210円の味ではない。
これに、ご飯がつき、ポテトサラダまで付いているのだ。

いいのか、こんなに美味しくて? こんなに安くて?

いったい、世の中は、どうなってしまったんだろう?
菅ソーリは、このことをご存知なのだろうか。

新ソーリは違うようだが、自民党的な政治家さんは、料亭がお好きだと聞く。
ニュースで、昼食会議にカレーライスを食べている場面が放映される時があるが、ニュースは、その値段までは教えてくれない。

カレーライス自体は500円だが、容器が上げ底になっていて、底には一万円札が敷き詰められていたりして・・・・・。

おろしハンバーグ弁当を210円で作れる仕組みを、私は聞きたくない。
その裏には、夢のない話が隠されているような気がする。

美味かった。
それだけで、満足しておこう。

食い終わって、5分ほどしてから、Sさんが汗を拭きながら、応接室に駆け込んできた。
「すみません。お待たせしました。でも、Mさん。私に2分の時間をください。昼を食べていないので、死にそうです。すぐに腹に入れますから」
そう言って、弁当の入った袋を左手で持ち上げて、私に示した。

了解しました。どうぞ、ごゆっくり。

無地のレジ袋に入った弁当。
唐揚げ弁当っぽい気がする。
しかし、2分は無理だろう。5分はかかるんじゃないか?

そう思ったら、2分キッカリで、Sさんは応接室に姿を現した。
唇が油でテカテカと光っていた。
本当に食べたようである。

210円の唐揚げ弁当を2分で食う。

1分間105円。
それは、はたして、高いのか安いのか・・・・・?



それ以前に、体に悪い。




2010/06/11 AM 06:49:52 | Comment(5) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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