Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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行ってきました
日曜日朝8時に行ったアルバイト先には、シルバーの男のパートさんが、すでに2人来ていた。

ご老人は目覚めが早い、と言ったら、失礼か。

中学3年の娘の友だちミズキちゃんのお父さんに、「お年よりは我慢強いよ。それに比べて中年のオヤジはダメだな。プライドだけが高くってさ」と、挨拶もなしに言われた。

え? それって、俺のこと?
俺は、まだ何もしてませんよ。

ミズキちゃんの家は、花農家。

東京なのに、花農家?
まあ、一度、武蔵野市、三鷹市を自転車で回ってみたら、納得できます。

テニスコート一面が優に入る大きなビニールハウスが二つと20畳くらいの小さなビニールハウスがひとつ。
そして、10メートル以上の長さの木の棚が、20列以上置かれた広いスペースがひとつ。
その横に、小さなプレハブの事務所がある。

8時11分前に着いた私は、早速オーナーであるミズキちゃんのお父さんに挨拶をし、シルバー2人に自己紹介をしようとした。

しかし、80近いと思われるご老人に、いきなり野太い声で「ここは、煙草はダメだからね!」と怒鳴られた。

あのぉ・・・・・、私は煙草を吸う習慣はないんですけど・・・。

だが、ご老人にまた繰り返し怒鳴られた。
「とにかく、ダメ! 煙草は、ご法度!」

ご法度? ここは、江戸時代か。

しかし、何も怒鳴らなくてもいいだろうに。
やる気、なくすなぁ・・・。

と、気分が萎えたが、そんな私にはお構いなしに、ご老人たちは、8時ジャストに動き始めた。
オーナーに渡された紙を見ながら、ご老人たちは、ノソリノソリと鉢植えを手にして、トトトトトとそれを運ぶ作業に、すぐに没頭した。
ビニールハウスの隅に置かれた木のパレットに、運んだものを並べ、手描きの「○○様」という黄色いボードを突き刺していく。

とりあえず、ただそれだけの作業のようだ。

見ていると、実に単純である。

それを見ていた私の横で、私の気持ちを見透かしたように「単調だろ」とオーナーが、皮肉をまぶした声で言う。
「こんな単調な仕事だから、つまらないプライドを持った中高年は馬鹿にして、次の日からは来なくなるんだよ。ここの仕事は、確かに単調で物足りないかもしれない。つまらないかもしれない。でも、この花たちは、絶対に多くの人に安らぎを与えてくれると、俺は思っている。それが想像できないやつには、この単調さは苦痛だろうが、この花たちを買ってくれた人の心が少しでも温かくなる、その場面を想像できる人には、その単調さだって、ひとつの勲章なんだよ」

勲章、というのは大げさだろうが、オーナーがプライド高き人だというのは、よくわかった。

私もオーナーから伝票をもらった。
伝票には、一番上に客先の名前が書いてある。
下が、花の名と数量。
ここの鉢植えは、花屋さんに卸すよりも、雑貨屋や八百屋、本屋など、花以外を売る商売をしている店に卸す方が多いという。

本業のほかに、「花も売って彩りを」というタイプの店だ。
聞くと、お得意先は、100店舗以上あるという。
配達はせず、相手が車で引き取りに来てくれるというから、余計な労働力はいらない。

だから、「元気バリバリの若いやつは、いらねえ」んだそうである。

一時間ほど作業してみて、わかった。
こんなことを言ったら失礼になるのは重々承知であるが、この仕事量なら、俺一人でも、5時間もかからずにできる。
実際、一時間で、ご老人たちの4倍以上の仕事量をこなした。

「中年のオヤジは、プライドだけが高くて」という以前に、少なくとも私には、仕事量が物足りない。

いいのかな、このペースでやってしまって・・・・・。

そんな不満が、私の顔に出ていたのが見え見えだったようだ。
10時前に、様子をうかがいに顔を出したミズキちゃんが、私に耳打ちをしてきた。
顔を近づけてきたとき、若い子特有のあまい香りが、鼻先をくすぐった(変態?)。

「Kちゃんのパパ。花を見てないでしょ。ここは、仕事をするだけじゃダメなんだよ。おじいちゃんたちを見てみなよ。花を見て花を感じて花を楽しんで仕事をしてるでしょ。あの人たち、花を愛する達人だと思わない? 早く仕事が終わればいい、と思ってちゃダメだよ」

それを聞いたとき、私は、大げさではなく、全身が震えた。

花を愛する達人。

中学3年の女の子が放った言葉の優雅さに、私は打ちのめされたと言っていい。

確かに俺は、花を見ていなかった。

作業伝票だけを見ていた。

それは、この仕事を「ただのしごと」だと思っていたからだ。
時間内に、与えられた仕事だけををすればいいと思っていた。

そう言われて、あらためてご老人たちを見てみると、鉢植えを持つとき、運ぶとき、パレットの上に置くとき、確実に花を見ていた。
見ていただけでなく、からだ全体で愛でているように見えた。

好きなんだ、花たちが。

愛しいんだ、花たちのことを。

そう思ったら、花の色が、突然私の脳の入口に、唐突に入ってきた気がした。

視覚いっぱいに、花の色が広がる。

そのことに気づいた私の背中をミズキちゃんが、強く叩いた。
「まあ、頑張りなよ!」
そして、小さく両手を振って、花景色の前から消えた。

花農家の娘。
彼女も、花が好きなんだな。
そして、花に囲まれた娘は、自分の父親の仕事の本質を深いところまで理解しているように思えた。
私の娘は、本当に、いい友だちを持ったようだ。

作業、再開。

今度は、少し花を楽しむことができた。
作業のペースは半分に落ちたが、もちろん誰も文句は言わない。

作業をしている間中、花が身近にあるという実感があった。
満足感もあった。

午後4時、作業が終わったとき、そんな満足感に浸っていた私の目を、オーナーが鋭い目で覗き込んだ。
そして、言う。
「一日で、わかったような気にならないでくれよな」

どこまでも、辛口なお方・・・・・・・。

そんなことは、わかってますよ。
俺には、花の達人になる才能はない。

ただ、花を楽しむ才能は、少しはあるかもしれない。
それが、嬉しかっただけだ。
(今の言葉、多少キレイごとが入っているかもしれませんが)

作業が終わって、帰り際。
歪んで汚れきった心が、清く透明に変化した私は、オーナーに頭を下げ、ご老人たちに頭を下げて帰ろうとした。
しかしまたも、ご老人に、鋭い声で怒鳴られたのだ。

「煙草はダメ!」


だから、俺は、吸わないんだって!



・・・・・・・・・・まったく。




2010/06/01 AM 06:39:20 | Comment(3) | TrackBack(0) | [日記]



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