Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








世界で二番目
高橋尚子は、世界で二番目にすぐれたランナーである。

むかしシドニーオリンピックで高橋尚子が金メダルを取ったとき、得意先の部長にそんなことを言ったことがあった。
すると、骨の髄まで金メダルの余韻に浸っていた部長は、額に青筋を立てて怒ったのだ。

「高橋尚子は、世界で一番のランナーだろ! それが、今回証明されたじゃないか! 二番だなんて、あんたは何をひねくれたことを言っているんだ!」

それに対して、理をつくして反論するのは、た易い。

オリンピックだからと言って、世界最高のランナーが集まるわけではない。
世界最高記録を樹立できる能力を持った選手が、オリンピックに出られないことも有りうるのだ。

たとえば、オリンピックよりも遥かに多大な金儲けの機会を与えられたら、プロのランナーは、そちらを選ぶだろう。
名誉よりも金(マネー)。
それは、プロとして、かなり魅力的な選択肢だと思われる。

そんな人ばかりではないにしても、何らかのアクシデントがあって、オリンピックにエントリーできなかった優秀なアスリートは数多くいる。
彼らは、ただ機会を逃しただけなのだ。
だから、たまたまオリンピックで金メダルを取ったからといって、それが絶対的に世界一であるという証明にはならない。

そう言って、部長に反論してもよかったが、それでは、私の「本当に言いたいこと」からは、かなり逸脱してしまう。

私が「世界で二番目」と言うときは、相手に対して、相当な敬意をはらって言っているときだ。

高橋尚子は、世界最高記録保持者だったこともある優れたランナーである。
当時は、もっと大きな可能性を秘めた「伸びしろ」を持った世界有数のアスリートだった。
彼女にとって、頂点はまだまだ上にある。彼女は、こんな地点で立ち止まる人じゃない。

そう思って、私は「二番目」と言ったのである。
一番になったら終わりが見えるが、二番目には、まだ上がある。
そして、そうなって欲しいという願望も、その言葉には含まれている。

だが、金メダルの余韻にどっぷり使った人には、私の真意は届かない。
金メダルは世界一。
ただ、メダルの輝きだけで満足してしまうのである。
彼が、そのアスリートの将来に思いを馳せることはない。

でも、違うんだよ、俺は・・・・・。

他にも、たとえば私は、こんな言い方をする。

イチローは、世界で二番目にバットコントロールがうまい人だ。
東京事変は、世界で二番目に完成された音楽ユニットである。
MISIAは、世界で二番目に歌がうまい歌手だ。
宇多田ヒカルは、世界で二番目に優秀なコンポーザーである。
村上春樹は、世界で二番目に完成された作品を書く小説家である。
小澤征爾は、世界で二番目にエキサイティングな指揮者だ。
オノさんちの奥さんが作るキムチは世界で二番目に辛くて、世界で二番目にうまい。
クラタのうちのトイレは、世界で二番目に居心地がいい。
吉祥寺は、世界で二番目に美人に遭遇する確率が高い街である。

そして、同業者のニシダくんちのオーディオシステムで聞く椎名林檎の歌は、世界で二番目にリアルである。

ただ、ニシダくんは、このオーディオ装置を松浦亜矢の歌を聴くために揃えたというのだ。
高価なアンプと重量感のあるスピーカー。
安価なCDプレーヤーの5倍以上の容積がある立派なCD専用再生装置で、松浦亜矢を聴くことを私は否定しない。
松浦亜矢フアンを敵に回したくないし・・・・・(しかし、彼女はどこへ行った?)。

だが、これでは、まるでポルシェで、家から200メートル離れたコンビニに買い物に行くようなものではないだろうか。
はたして、往復400メートルの距離だけポルシェを走らせて、気高いポルシェは、満足するだろうか。

私は、椎名林檎の声が、こんなにも纏わりつくように、全身を絡まれるように迫ってくるとは、思ってもみなかった。
それは、私にとって初めての体験だった。

すごいよ! これは、世界で二番目の体験だよ!

まるで手を伸ばせば、椎名林檎サマに触れられる錯覚に陥るほどのリアル感!
密度の濃い音が、四方八方から舞い落りてきて、異次元の空間に放り投げられたような気がする。
これは、まるで魔法だな!

感動の極致。これは世界で二番目の恍惚だ!

「先生。世界で二番目の恍惚ってなんですか? 今ひとつ意味がわからないんですが」

う〜ん、そうだね。
恍惚も、一番になったら、死んじまうんじゃないか・・・・と。

「そんな大袈裟な。椎名林檎の歌なんかで、死ぬ人はいませんよ」

ちょっと待った!
ニシダくん。
いま、椎名林檎なんか、って言いましたよね。

言ったよね!(睨む)

「先生。先生の顔、いま・・・、世界で二番目に怖いですよ」

ん?
じゃあ、世界で一番は?

「もちろん、奥さんですよ」(小声で)

ああ・・・・・、ナットク。




2010/04/18 AM 07:35:46 | Comment(3) | TrackBack(0) | [日記]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.