Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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呼び捨て
子どもの名を呼ぶとき、息子には「クン」、娘には「チャン」をつける。
呼び捨てにしたことは、一度もない。

ヨメを呼ぶときは、「ユミコさん」だ。
友だちの場合は、苗字を呼び捨てにする。
名前を呼び捨てにする友だちは、ほとんどいない。

ただ、唯一例外がある。
ショウコだ。

ショウコが目の前にいる。
新宿駅近くの、くだけた雰囲気のカフェである。

ショウコが、友だちからバーボンを貰った。
それが「エヴァンウイリアムス23年」という逸品らしいのだ。
ショウコの旦那のマサが酒が飲めないので、私に押し付けることにしたらしい。

エヴァンウイリアムス23年?
なんじゃ、そりゃ!
聞いたことないぞ。

そう言ったら、「そうか、サトルさんにも知らないものがあったのか」と、妙な感心の仕方をされた。

俺なんか、知らないものだらけだよ。
AKBのメンバーの名前は、一人も知らないし。

「ハハハ、知ってたらすごかったのにね」と、笑いながらショウコは、そのエヴァンウイリアムス23年とやらをテーブルの上に置いた。

ショウコの膝には、生後9ヶ月の赤ん坊。
足をバタバタさせて、落ち着きがない。

その落ち着きのなさは、マサに似たのか?

「うん、多分。私は、いつも節度を保っていたよね」

いや、テニスで俺に負けると、「サトルめ! 今度こそリベンジしてやるぞ」と言って、地団太を踏んでいたような気がするが。

「ああ、テニス、またしたいねえ。マサは、運動神経が鈍いから話にならないんだよね。その点、サトルさんは、運動神経がいいのだけが取り得だからね」

ありがとうございます。
ほめていただいて。

「なんの、なんの」

ショウコの笑顔。
君は、友人のカネコの子ども(カネコとショウコには、血のつながりはないが)として、6歳で私の前に突然現れたときから、ヒマワリのような笑顔で、俺をいつも幸せにしてくれたね。

ショウコが中学一年の夏。
私の家族とショウコとで、裏磐梯に旅行に行ったっけ。
中学の部活でテニス部に入ったショウコは、とにかくすぐに上達したいと言って、テニスコートに丸一日俺を釘付けにした。

ほとんど勝負にはならなかったが、二度だけショウコにスマッシュを決められたことがあった。
「見たか! サトル。これが私の実力だ!」
仁王立ちして、私を挑発するショウコの笑顔。

それを見て、ヨメと私の子どもたちが、手を叩いて喜んでいた。
みんなが、ショウコを好きだった。

その笑顔が、変わらずに今ここにある。

母親になったショウコ。
そのショウコが、私の目を真っ直ぐに見て言う。

「いいですか、サトルさん。バーボンを差し上げますが、くれぐれも飲み過ぎないようにしてくださいよ。あなたの肩には、色々なものが背負われているんですよ」

そして、膝に抱えた自分の子どもを覗くように見ながら言うのだ。
「いいか、サトル。何もかも自分の中だけで解決しようと思うなよ。私にもこの子にも、あなたは必要なんですからね」

ショウコの目が、私の目の中に入ってくる。
それは、私にとって「大きな幸せ」と呼べるものだった。

私をときどき「サトル」 と呼び捨てにするショウコ。
その心地よさは、現実世界のすべての事象を凌駕しているように私には思えた。

俺は、長生きした方がいいのか?
私がそう言うと、「殴るぞ! サトル」と言われた。

「殺されても生きるのが、サトルさんに残された、唯一の役目です」

帰り道、その言葉を心の中で喜悦とともに反芻する俺は、変態なんだろうか。



2010/03/10 AM 06:47:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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