Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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たらは嫌いだ
「〜したらよかった」「〜していたら、今ごろは」

ヨメの会話の49パーセントは、「たら」がついている。
ヨメの愚痴。
いま大学一年の息子に対して、「中学のとき、もっと勉強させていたら、もっといい高校に入れた」「高校一年から本気で受験勉強していたら、もっといい大学に入れた」と何度も繰り返し言われる。

息子は、いま三流以下の大学に通っていますが、それもいいんじゃないですかね。
何を基準にして「一流大学」というのか、私にはわからない。
世間で言うところの一流大学に入れば、幸せなキャンパスライフ、幸せな人生が送れるというわけでもない。

それは、個人個人の心の持ちようではないだろうか。
私がそう言うと、ヨメは「一流大学に入っておけば、何とでもなるの」と力む。

何とでもなる?
いったい、どうなるというのだろうか。

「就職とか、将来設計とか・・・」

まあ、それは一般的な考え方でしょうね。
ようするに、それはブランド志向、ブランド信仰に近い考え方だ。

「いいえ! それが現実です!」

では、現実問題を一つ定義します。
10年前、息子の勉強嫌いを何とか克服しようと、学習教材の営業マンに言いくるめられて、数十万円もする最先端の教材を買ったことがある。
息子は、その教材を見向きもしなかった。活用しなかった。

もしも、あの教材費用にお金を費やさなかったら、我が家は困窮して車を売ることはなかったのではないだろうか(ヨメの息子を思う気持ちに免じて、私は今まで何も言わなかったが)。

「・・・・・・・」

その教材は、中学2年の娘の学習に役立てようと思ったが、娘は授業を聞いただけで理解できる優秀な頭脳を持っていた(えげつない娘自慢)ので、それはクローゼットの奥深く今も格納されている。

ヨメが黙ったので、勝ち誇った顔を作って、私は言った。

息子の通っている大学は、確かに偏差値は低い。
しかし、彼は、いつも微笑みを絶やさず、人に優しい。そして、嘘をつくことができず、他人を疑うことをしない。

その性格は、人間としての偏差値の高さを表してはいないだろうか。

たとえば「ライヤーゲーム」の主人公・神崎直ちゃんは、純粋な心を持っていて人を疑うことを知らない。
彼女は、最初は人々に馬鹿にされながらも、徐々に人の心に影響を植え付け、純粋な「人間力」でまわりを幸せにしていく。

我が息子も、直ちゃんと同じ性格を持っている、と私は思っている。
それは、誇るべきことだ。

しかし、ヨメは、強く否定する。
「あんなのドラマだから成り立つのよ! 現実は、ただ利用されて痛い思いをするだけだわ! きれいごとよ!」

でも、人間としての偏差値は、相当に・・・・・。

「誰がその偏差値を認めてくれるの? 証明書でも出してくれるの?」

あらあら、何と表層的なご意見・・・・・。

「〜だったら」「〜していたら」というのも、相当非現実的な話だが、それには目をつぶって、実の息子に対して凶器のような悲観論をぶつけるのですね。
テストの偏差値だけが大手をふるって、それが決定的な「人間価値」を測る尺度になるという社会は、どこか歪んでませんかね。

「だから、それが現実なの! 現実は厳しいのよ」

しかし、現実を直視するなら、「〜だったら」「〜していたら」という考えは、成り立たないと思うのですが・・・。
「たら」を何度言っても、現実は、現実方向にしか向かないものである。

「たら」なんて、ないんだ。
すべてのことは、「いま」が現実なのだ。
両手を握り締め、力説したが、ヨメは花の雑誌を開いていて、もうその話題には、触れようとしなかった。

哀しいことだが、それも現実・・・・・。


昨日、大学時代の友人・ノナカが仙台から埼玉に出てきた。

ノナカは、仙台で塾を経営している。
そして、彼はミニパソコン塾なるものを考え、仙台と東京で実験的に2店舗を展開するという挑戦の真っ只中にいた。

店舗を展開するに当たって、ノナカが資金を募ったので、激しく赤面しながら、私は5万円を差し出した。
この時点で、私の人間の小ささが露呈した。
たった5万円の資金提供など、普通は恥ずかしくて出せない。
明らかにケタが一つ違う。

これを書いている今も、私は激しく赤面している。

この程度の資金提供だったら、しない方がよかったのでは・・・・・。

しかし、「いやあ、お前のおかげだよ」とヘチマ顔のノナカが、最近出っ張ってきた腹を押し出しながら言う。
近所のガストで久しぶりに会ったノナカの顔は、膨張したCGのようなヘチマ顔になっていた。

俺は何もしてねえぞ! 嫌みか!

私が睨むと、ノナカは両手を顔の前で大きく振って、「いや、お前のアドバイスがあったから、事業がいいスタートを切れたんだよ」と口を尖らせて言った。

へっ! アドバイスだぁ! ようするに、俺には金のかからないアドバイスしかできないってことなのか!
悪かったな、金のかからないことしかできなくて!

「まあ、あれだ。まずビールを飲んで、お前の好きなピザでもつまもうじゃないか」
私の言いがかりを持て余し気味に、ノナカは、いつもより低い声で、私の顔を覗き込むようにして言った。

これも久しぶりに会った友だちとの儀式のようなものだ。
つまらない言葉のやり取りが、会えなかった時間を埋める役割をする。

「いきなりなんだけどさあ!」
とヘチマが、直視したくない不愉快な顔をクローズアップさせて言った。
そして、続ける。
「なんと!」
ここで、声を大きく張り上げた。

嫌な予感がした。
この声のトーンは、あまりいい内容ではない、と私は名探偵沢崎(知る人ぞ知る)ばりに推理して、ヘチマの話を遮ろうとした。
だが、ヘチマの顔が35センチ先に迫ってきたので、つい笑ってしまい、その機を私は逃した。

「クミコに会ったんだよ。2日前のホヤホヤだ」(クミコに関しては以前こんなことを書いた)
嫌な予感が当たって、私は横を向いた。
ここで席を立たないと、またつまらない話を蒸し返される。

舌打ちをして、立ち上がる準備をした。
しかし、ノナカは「逃げるのかよ」と、私を指さした。

逃げるよ。
どうせ、「たら」の話だろ?

「何だ? 『たらの話』って」

あの時、ああしていたら〜、こうしていたら〜、の「たら」だよ。

私がそう言うと、ノナカは訳知り顔でうなずいて、「まあ、俺にとっては楽しいかな」と、私をもう一度指さした。
さらに、「だって、お前をいじめられる材料は、それしかないからな」と、私に向けた人差し指を回しながら笑った。

そのノナカの態度に、私は大きく舌打ちを返したが、ノナカは悠然とした笑いをつくって、私を見つめた。
そして、言う。
「相手の弱点を攻めるのは、勝負の鉄則だ」

お前と勝負している気は、俺にはないよ。

「つまり、最初から逃げているわけだ」
しつこい男だ。

わかったよ。「たらの話」続けろよ。

勝ち誇ったような、ノナカの顔。
「お前のPCのアドレスに、クミコの近況写真を送っておくから、こっそり見てみるんだな。夜中に、こっそりと見てみな。泣きたくなるか、懐かしく思うかはお前の勝手だ」

その後、ノナカが仙台の塾の話をしたが、私はほとんど上の空だった。
心の中で、舌打ちを繰り返したが、20回数えたところでやめた。
ノナカが奢ってくれるビールの味は、ほろ苦くて、吐く息が重くなったような気がした。

「メールを楽しみに、な!」
得意気なノナカの顔に背を向けて、私は自転車にまたがった。

そして、昨日の夜、確かめてみたら、確かにノナカから5点の画像が送られてきていた。
しかし、私は躊躇することなく、その画像をゴミ箱に捨てた。(多少、マウスを持つ指が震えたことは、白状する)

ヘチマ。
言っただろう。
俺は「たら」は、嫌いなんだよ。

バーーーーーーカ!



2010/02/02 AM 07:06:29 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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