Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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からんでないが美味い
懇意にさせていただいている中古OA会社の社長から、久しぶりに電話があった。

その中古OA会社の社内のパソコンのメンテナンスをする代わりに、この会社の倉庫を隠れ家として使わせてもらっている。
つまり、私と社長は、貸し借りなしのヒフティヒフティの間柄である。
だから、好き勝手なことが言える。

前回、彼の弟が屋台のラーメン屋を始めたことを書いた(コチラ)。
彼の弟の作るラーメンは、商売として出すにはお粗末な味なので、私はそのことをはっきりと言った。
それ以来の、社長との会話である。

「Mさん、弟があれから味を工夫しましてね。頑張ったんですよ。俺は、そこそこいけるんじゃないかと思うんですが、時間があったら、ちょっと味見してもらってご意見を伺いたいんですが」
そして、「リベンジ、アゲイン!」という意味不明の単語を叫んだ。

まあ、暇なデザイナーですから、いいですよ。

弟さんは、すぐ近くまで来ていて、団地の通りの駐車可能な場所に屋台を停めてスタンバイしているというので、中学2年の娘と二人で顔を出した。
娘は、屋台のラーメンは見たことがあるが、食うのは初めてだ。

「おお、これが屋台ってもんか。なんか、いいな。日本文化を感じるな」
最近、日本の古い文化に興味を持ちだした娘は、軽トラックの屋台を360度ぐるりと回って、その佇まいを観察した。
そして、感嘆の声とともに言う。
「年季が入っていて、いいな。文化の香りがするな」

社長の弟と挨拶を交わした。
緊張した面持ちの弟は、しきりにまばたきを繰り返していた。

「しょうゆでいいですか」と聞かれたので、娘と二人「ショーユーこと」(by村上ショージ)と答えた。
弟は、笑ってくれなかった。
それどころではなかったのか、あるいは、ただ我々がスベっただけなのか。
それとも、村上ショージのギャグが根本的につまらないからか。

弟がラーメンを作る手つきは、半年前より格段に進歩していて、プロの技を感じさせた。
手際もいい。
白い鉢巻と白い前掛け、スープのいい香り、鮮やかな麺さばき。

屋台だねえ。文化だねえ。
娘と二人、心沸き立つ思いで、ラーメンが出来上がるのを待った。
この待つ時間も、食い物には重要なんですよね。

牛丼ください。ツユだくで。
「はい! どうぞ!」
わずか19秒でカウンターに出されても、ありがたみが感じられませんよ。
200メートル競走じゃないんですから。

4分59秒後。鼻腔をくすぐる湯気を伴った丼が、我々の前に置かれた。
海苔と葱、メンマ、チャーシュー。
娘は、豚をこよなく愛しているので、チャーシューは可哀想で食えない。
だから、娘のチャーシューを私の器に移動した。

チャーシューをひと口食べてみる。
悪くない。特別味付けがいいわけではないが、軽く噛んだだけで溶けていく感触がいい。

麺を箸でつまんでみる。
前より太い麺を使っているようだ。
歯ごたえは悪くない。茹で加減が丁度いいようだ。

スープを飲んでみる。
淡白な味だが、旨みが口の中に広がってくる。出汁の調和が取れているということだろう。

ただ、全体の味は、何か物足りない。
太い麺にスープが絡んでいないように思われた。

目線を上げると、裁判の審判を待つような深刻な顔で、社長の弟が私たちの顔を見つめていた。
そして、長椅子の一番端に座った社長が、「どうですか」と身を乗り出すようにして、私たちの顔を覗き込んだ。
その顔は、鼻の穴が大きく広がっていて、カバさんに見えた。

カバさんは、ラーメンを食っていない。
第三者の意見を冷静に聞こうということなのだろう。

ふた口、三口、四口。
麺をすすり、チャーシューを噛む。葱を絡め、スープを絡ませて五口目を食う。

見上げると、社長の弟の鼻の穴も広がっていて、カバさん2号になっていた。
焦らすわけではないが、全部食わなければ、採点はできない。
五口食っただけでリアクションできるほど、私は芸を磨いてはいない。

最初は淡白だったと思っていたスープが、後半は少し濃く感じてきた。
麺もふやけずに、コシを保っている。
チャーシューは、大きな自己主張をせず、自分のポジションをわきまえているようだ。

ただ、スープが麺に絡まない現象は続いている。
何故なんだろう、と思ったが、その答えを出すのは私の仕事ではない。
だから、すべて食べ終えた後で「スープが麺に絡んでいませんね」と、正直に言った。

その言葉を聞いて、カバさん2号は、「ああ」と天を見上げた。
そして、大きな鼻から激しく息を吐いた。

横からカバさん1号が、「やっぱりね」と言った。
「美味いとは思ったけど、何か足りないと思ってたんだよ。そうか、絡んでなかったか」
それを聞いて、カバさん2号は、おでこに右手を当てて上を向いたまま、また大きく鼻息を漏らした。

でも、前回に比べたら、格段の進歩だ。
これは、褒め言葉にはなっていないかもしれないが、もっと不味いラーメンを出す店は、たくさんある。
ラーメン屋としての偏差値は、確実に50を超えている。
ただ、偏差値60を求める人には、不満な味だということだ。

偏差値60を目指さなければ、別にこれでもいいんじゃないか。

何となく場の空気が固まりかけてきた時、時間差で食べ終わった娘が、声を張り上げて言った。
「ああ、美味かったよ。アタシは好きだな。このラーメン」

それを聞いて、カバさん2号が、「ウォッ!」と言って後ろにのけぞるリアクション芸を見せた。
次にカバさん1号が、急に立ち上がって、芸のないガッツポーズをした後で、両手で娘の肩を軽く掴んだ。
娘は、「何じゃ、このオヤジ、キモイな」という顔をして、私に助けを求めた。
私は、やんわりとカバさん1号の指を、娘の肩から剥がした。

美味かったか。そうか。絡んでないと思ったのは、パパの気のせいだったか。
まあ、偏差値50でも、いい大学はたくさんあるからな(?)。

「いや、スープは確かに絡んでなかった。でもな・・・、それでも、美味かったぞ」

ん? 絡んでいないが、美味かった?
そんなことがあるのか。

「ん? ????? え?」

カバさん1号と、カバさん2号が、難しい宿題を出された小学生のような顔で、お互い顔を見合わせていた。




2010/01/30 AM 07:56:39 | Comment(3) | TrackBack(0) | [日記]



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