Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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14年前から弁当男子
自分弁当、弁当男子。

独身男性が、自分で弁当を作って、会社に持っていって食べる。
その様が、「可愛い〜!」らしい。
以前、ニュースの特集で、そんな映像を見たことがある。

キャラ弁に近いものを作っている男性もいて、「あらあ、器用ですねえ」と、女性レポーターが大げさに驚く。
そして、「味見してもよろしいですか」。
弁当男子は、困りながらも、玉子焼きをレポーターに分け与えていた。

「まあ、美味しい! 私が作ったのより全然おいしい! お上手ですねえ」(全然の使い方が間違っているんですがね)
ちょっとはにかむ弁当男子の顔のアップ。

まったく、脚本どおりの演出だ。
こんなのは、ニュースとは言わない。
あらかじめ決められたストーリーをなぞっているだけの寸劇だ。

・・・・・などと、目くじらを立ててみても、仕方がないか。

狭い世界で、少しだけ目についた現象を取り上げて、「流行っている」と囃すのが、ニュースの根本原理だということは承知している。
広い世界で流行っているものは、終末が見えているから、大流行の時点で、もう現象が終わっている。
だから、むしろ小さい流行に目を向けるのは、健全な報道であると言える。

昨年末のことだが、池袋のハンバーガーショップの前を通りかかったら、いつもは閑散としている店内が、客で溢れかえっているのが見えた。
そういえば、このハンバーガーショップは、日本から撤退するというニュースをネットで見た記憶がある。

「申し訳ありません! 売り切れましたぁ!」
店員が、叫んでいるのが聞こえた。

「えー!」「うっそー」「なんだよ!」「ちっ!」
客が、口々に何かを言っているのが、耳に入ってくる。
ただ、ひねくれ者の私は、そんな反応も「筋書き通り」にしか聞こえない。

「くそ! 食べ損ねた」と言いながら店を出て行く人。
その人とすれ違いに、売り切れを知らずに店に入っていく人。
そんな小さな流れが続いていく様子を、私は少しの間、立ち止まって観察していた。

ああ、これも形を変えた流行なんだ。
流行は、こんな風にして瞬間風速で作られていく場合もあるんだ。

外国資本のハンバーガーショップが、不況の影響で、客足が極端に落ちた。
店舗閉鎖、そして日本からの撤退。
それを聞いて、客が店の存在を思い出し、大挙押し寄せる。
商品が売り切れる。
「最後に一度、食べたかったのにな」「オレ好きだったんだよ、ここのハンバーグ」「残念だよ、本当に残念だよ」
惜しまれながら、閉店。
終わりの決まった短い流行。

それまでは見向きもしなかったのに、閉店が決まった途端に惜しくなるって、どうなんだろう・・・、という意地悪な感想は、「客」という名の小さな役者にとっては、どうでもいいことだ。
彼らは「筋書き通り」を、わかりきって演じているに違いない。

つまり、自分から「筋書き」に乗るのが、流行ということ。

私の弁当男子歴・・・・・。

いま大学一年の息子が産まれた頃、私は、それまでほとんどヨメに任せきりだった料理を始めることにした。
まずは、息子の「離乳食作り」。
そして、幼稚園の「弁当作り」。

最初は、ひとつ作るのに30分以上かかったものだが、要領を覚えると10分程度で出来るようになった。
最初の「味が薄い」という文句も、三日もたつと「うまい」に変わった。

弁当作りの楽しさを覚えてからは、自分の食う弁当も自分で作るようになった。
ただ、恥ずかしいので、人には「家内が作ってくれまして」などと、聞かれもしないのに、そう言っていた。

弁当男子、いや、弁当おじさん歴、14年。

池袋の広告代理店から、4年ぶりにお声がかかった。
フリーペーパーの広告部分のデザインを2点、格安で・・・、というご依頼である。

格安で?

打ち合わせをし、相手の希望額を聞いて、聞き間違いかと思った。
いくらデフレだと言っても、そんなギャラで仕事をする人間はいないだろう・・・・・普通は。

すみません、もう一度おっしゃっていただけますか?
はい、そうですか。
聞き間違いでは、なかったようだ。

私のデザイン料は、確かに格安です。
しかし、いくら格安とはいえ、ここまで地を這うがごとく底辺まで価格を下げたことは、さすがにない。

東大宮から池袋まで電車で3往復して、立ち食いソバ屋で、かけソバを1杯食ったら、それで消える金額。
それなりに目立つ広告を2点デザインして、その金額ですか。
日本経済は、そこまで落ち込んでいるのか、という暗澹たる思いを込めて、32歳の担当者の顔を見つめた。

事務所内を見回してみた。
以前は、20人を超える社員がいたような気がしたのだが・・・・・。
みな営業に出ているのだろうか。
いや、壁にかかったホワイトボードに、名前の書いたマグネットが散らばって付いているが、その数、5個。
今、事務所内には、担当者と女子事務員ひとりがいるだけだ。

パソコンと電話機の数が、確実に半分以下に減っていた。
4年前は、電話の鳴る音が頻繁に聞こえたのに、今はシ〜〜ン。

ギャラも寒いが、事務所内の雰囲気は、もっと寒い。
女子事務員が、妙に厚着だと思ったら、暖房がついていなかった。
寒いわけですな。

そう言えば、お茶も出していただいていない。
まあ、私はお茶を飲むと、55パーセントの確率で腹を下すから、別にいいんですが・・・。

省エネ。
担当者の口も、省エネ。
仕事内容と金額を言い終えたら、黙ってしまった。

私の方も、あまりの金額の低さに、呆れて口を開く気にもならない。
女子事務員だけが、真剣な顔で、書類に目を通していた。

10分近く、二人して黙っていた。

そんなこんなで・・・・・、12時の時報。

担当者が、突然伸びをしながら言う。
「ああ、お昼かぁ。じゃあ、ボクお昼にしますから」

ん? 打ち合わせの最中なのに?
オレまだ、やるともやらないとも、答えていないのに?

あまりにも安いギャラを提示されて、抗議の意味も込めて黙っていたのに、まさかの展開。
担当者は、私の前で、本当に昼メシを広げだしたのである。

そして、黒いプラスティック製の2段重ねの弁当を、私に開いて見せながら、自慢げに言う。
「これ、自分弁当っていうやつ。いま、流行っているらしいですね、自分で弁当を作ってくる男。弁当男子って言うらしいですよ。知ってました」

ヨシダさん。
自慢じゃないが、私は14年前から、弁当男子です。

「ああ、流行の先取りですね」
いかにも冷凍というコロッケを口に運びつつ、ヨシダさんが、目を丸くしながら言った。

尊敬の目で見られた。
「14年前といったら、ボク、高校を出たばっかりですよ。Mさん、それ、威張れますよ」

そうは言っても、流行を先取りした覚えは、私にはないんですがね・・・・・。

で・・・・・どうしようかな、この仕事・・・。



2010/01/26 AM 06:46:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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