Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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酒飲みが仕事
3年ぶりの仕事? のはずだった。

大学の後輩に、業界紙をいくつも出している男がいる(それに関しては、コチラに書いた)。

一応、私のほうが先輩なので、気を使ってくれて、年に数回、仕事のオファーは出してくれる。
ただ、仕事の中心が取材と記事を書くことがほとんどなので、私の得意分野ではない。
だから、申し訳ないが、断ることのほうが多い。

2年前、ある月刊誌からミナミの会社に仕事の依頼があった。
それは、ネット難民の生態をレポートする仕事だった。
ミナミは、外部のライターに頼んで取材と文章を任せたが、依頼人からダメ出しをされた。
直して持っていった原稿も、突き返された。

そこで、私に文章を書き直してほしいと言ってきたのだ。
ダメ出しされた文章を読んで見ると、ほぼ完璧に思えた。
取材は、かなり細かいところまで行き渡っているし、文章の組み立ても申し分ない。

これは、格調高いプロの文章である。
シロウトの私が直していい文章ではない。
正直にそう言った。

すると、ミナミは、「格調高いからダメなんですよ」と言ったのだ。
さらに彼は、「文章は、公平性を保っていますが、どちらかと言えば、ネット難民に同情的な部分が見受けられます。できれば、批判的にまとめてほしいんですが」とも言うのである。

そうは言っても、百点に近い文章を直すのは無理がある。
取材をして、ライターの主観がネット難民に同情的なら、それはひとつの見解だから、それでまとめればいいのではないかと思う。
ネット難民に批判的な文章を書いてほしいなら、取材前の段階でそう告げるべきではないのか。

この文章は、直しようがない。
だから、俺の出番はない。
そう言って、ことわった。

それ以来の、ミナミとの本格的な仕事話だった。

先週末、「M先輩に是非、会わせたい人が」と、彼は珍しく力を込めて言ってきた。
毎回毎回断るのも悪いので、昨日足を運んだ。

2年ぶりに会うミナミは、相変わらずいいスーツを着ていた。
4紙出していたのが、広告不況で2紙に減って、「夜逃げしたいですよ」と泣きを入れていたが、左腕にはナンタラコウタラいう外国製の高級な腕時計をしていた。

なんだ、儲かっているんじゃないか?

先ずは、取材相手のご自宅に伺った。
新百合ヶ丘の高台にある豪邸である。
立派な門がある。

玄関へと続く道のまわりに芝が敷き詰められているのだが、その芝が不規則な波を打っていて、ところどころ山が盛り上がっている部分がある。
そのいくつかの山のてっぺんには、ブロンズの動物の彫刻がそれぞれ置かれていた。
変わったつくりの庭だ。
そして、玄関の近くには、噴水もある。

つまり、大金持ち?

取材相手は、玄関で待っていてくれて、私たちが近づくと深く頭を下げた。
長身で痩せているが、からだ全体から「金持ちオーラ」がにじみ出ていた。
しかし、柔和な目が心地よさを感じさせる社長さんだった。

輸入家具販売会社の社長。37歳。
スーツはきっと、イタリア製の高級なものに違いない。
スーツからもオーラが立ち上っていた。

「まあ、飲みましょうか」と、レミーマルタンを出された。
グラスも高そうだ。
「ご遠慮なさらずに」と言われたので、口に含み、ブランデーの香りが鼻まで上ってくるのを感じつつ、飲み下した。

高級なブランデーだということはわかった。
うまい、ということもわかった。
しかし、それだけだった。

私が、ブランデーを口の中でもてあそんでいる間、ミナミは社長を取材していた。
話の流れからすると、ミナミは2度目の取材だったようだ。
前回、聞き忘れたことを必死に聞いているという感じだ。
レミーマルタンには、手をつけていない。

豪邸での取材が終わって、我々は社長のロールスロイスに乗せられた。
我が人生初のロールスロイス!
乗り心地は、いいのか悪いのか、わからん。
ただ、かなり高い車だということだけは、我がケツが認識をした(下品?)。

車内で、ドイツ製のビールを出された。
うまかった。

午後12時半。
「お昼をご一緒に」と言われて、新宿のフランス料理の店に連れて行かれた。
個室ではなかったが、テーブルには「予約」というプレートが置かれていた。

わざわざ予約をしていただくなんて、何と気配りのある社長!
店内は、吐き気がしそうなほど気取った雰囲気だったが、社長の優しさに免じて、許す。

ナンタラコウタラという高いワインを社長がテイスティングして、それを振舞ってもらった。
「万札の香り」のする気品溢れるワインだった。

その後、ナンタラコウタラいうスープ、ナンタラコウタラいう前菜と、ナンタラコウタラいうメインディッシュを食った。
注文する時、下品だとは思ったが、値段を盗み見た。
それは、一時的に酸素不足になったほど非常識な額だった。
味の方は、ナイフとフォークを動かすのに気をとられて、よくわからなかった。
「これは三ツ星クラスの味ですね」と賞讃したが、確実にピントはずれのコメントだったと思う。

ただ、とにかく肩が凝った。

社長の会社に行くために、またロールスロイスに乗った。
ロールスロイスの中で、こっそりと凝った肩を揉んだ。
ロールスロイスのシートが、マッサージチェアだったら良かったのに。

車内では、またドイツ製のビール。
ミナミは、もったいなくも、そのビールを断った。

社長の会社は六本木にある。
会社は、7階建てのビルの1階から3階までを占めていた。

1階が輸入家具のショールーム。
2階が、事務所。
一般的な日本の会社なら、この広さには、30個以上のデスクが所狭しと配列されるのだろうが、数えてみたら、デスクは8つだけ。
それが、すべて背の高いパーテーションで区切られていて、一つ一つのブースの広さが、3畳以上はありそうだ。
こんな広いスペースで仕事ができる社員は幸せものだ。
仕事の能率も上がりそうな気がする。

そして、3階は、会議室、応接室、娯楽ルーム、社長室。
娯楽ルームを覗くと、ダーツとビリヤード、年代もののピンボールマシン、バーカウンターがあった。
バーカウンターのテーブルの端には、ビアサーバが置いてあって、何故か「ジョッキは、一人1日1杯まで」と、貼り紙が貼ってあった。
つまり、仕事中に飲んでもいいって言うこと?

社長室に入ってまた取材。
取材は、すべてミナミがした。
社長が、「『』を飲みませんか」と言った時、漫才コンビの「響」を思い出したが、あれは飲むものではない。
ああ、ウィスキーなんだなと思って、反射的にうなずいた。

大きな氷が浮いたウィスキーグラスが出された。
色が薄い。
麦茶みたいな色だな、と思って飲んだが、けっこう美味かった。
これも、「万札の香り」がした。
ミナミは、取材中も取材が終わってからも、グラスには手をつけなかった。
大酒飲みのミナミが何故?

「響」の水割りのお代わりを3回。
いい気分になった私の横で、ミナミが必死に取材を続ける。
社長も4杯飲んでいるはずだが、まったく顔に出ない。
相当、強いと見た。

取材を終了して、帰りのタクシーの中。
ミナミが「助かりましたよ」と言う。

ん? 俺、何か助けたっけ?
横で、酒を飲んでいただけだったような気がするんだが。

「ハハハ」とミナミが笑う。
そして、「それこそ、俺が望んでいたことなんです」と言う。

「前回、取材に行ったとき、今日みたいに色々な酒を飲まされて、俺、話を聞くどころじゃなかったんですよ。
インタビュアー失格ですね。その反省があったから、今回先輩に付いてきてもらったんです。
酒は、先輩にお任せしようと思って」

そうか、私は、社長の酒のお付き合いをさせられるためだけに、連れて行かれたのか。
ホストみたいな・・・。
何か複雑・・・・・。

で、俺、役に立った?

「はい、ものすごく!」

よかった。
で、ギャラは?

「もちろん、お支払いしますよ」

よかった。

酒を飲んだだけで3万円!

しかし、安上がりのホストですな。



2010/01/24 AM 08:22:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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