Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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10万円事件
少しの間、ブログを休んでおりました。

その間のことは、書かなくてもいいことだが、書かないと気持ちの整理がつかないので、書くことにする。

例によって、一昨年の11月から我が家で生活を共にする79歳のご老人のことである。

大きなトラブルが、二つあった。
どちらも書くのが恥ずかしい出来事だ。

一つは、ご老人が、病院の主治医に向かって、罵詈雑言、悪態をついたというもの。
これは、確実に言いがかりだし、病院の名誉もあるので、詳しくは書かない。
ただ、ヨメと私が、ひたすら平身低頭して謝ったということだけは、記しておく。

これで、丸二日、時間をロスした。

次は、金銭がからむ。
ご老人が、彼女の団地応援団から、10万円の借金を申し込まれたことから、事件は始まった。

ご老人は、お金の管理ができないので、年金はご老人の長男が管理している。
ご老人の場合、大金を持つと「浪費の虫」が騒ぎ出して、またたく間に使い切ってしまうか、全財産を満載した財布を落としてしまう確率が99パーセント。
我が家に来てから、財布を落としたことは数え切れない。
そして、信じられないことだが、長男が送ってきた現金書留を、その日のうちに現金の入ったまま、落としてしまうということもあった(もちろん、書留は永遠に行方不明)。

毎月、長男から送られてくる現金書留に、いくら入っているかを、私は知らない。
ただ、額が多かろうと少なかろうと、お金を大事にしないという生活態度は、感心できない。

そして、ご老人がいくら持っているかを私は把握していない。
おそらく、ヨメも把握していないだろう。

しかし、10万円は持っていなかったようである。
だから、ご老人は、長男に「10万円ちょうだい」と手紙を書いたという。
ご老人は、携帯電話を持っているが、その使い方を知らない。
覚える気がないのだ。

長男との数回の手紙のやり取りの後、長男からご老人の誕生日プレゼントが宅急便で送られてきた。
その中に、10万円が忍び込ませてあったという。

その日のうちに、ご老人は、団地応援団に、10万円を渡した。
相手は、借用証を書くと言ったらしいが、「いいのよ、アタシはそんなの嫌いだから」と言って、ご老人は受け取らなかった。

数日後、リビングのチェスト、クローゼットの中を、必死の形相で掻き乱すご老人の姿があった。
「何を探しているの?」とヨメが聞いても答えない。

リビングのまわりを唸りながら探し回るご老人。
探し物が見つからないとわかって、放心したようにソファに腰を落とし、うなだれるご老人の姿は、声をかけづらい雰囲気があった。

そして、困ったことに、ご老人はショックからか、ご飯を食べなくなったのである。
何度我々家族が促しても、ご飯に箸をつけない。薬も飲まない。
一日中うなだれて、ブツブツと独り言を言うだけだった。

次の日、ご老人は、朝8時に、突然家を飛び出したらしい。
そのとき、運の悪いことに、家族は、私を含めて全員出かけていた。
(話は違うが、ご老人は家の鍵を持っていない。持たせても、失くしてしまうからだ。ご老人が出かけるときは、我が家には鍵がかかっていない。だから、このときも家のドアはオープンだった(怖)。だからといって、泥棒さん。我が家を狙わないでください。貧乏人をいじめないでください)

その修羅場は、後で知らされた。

夕方、私が遠距離の得意先から帰ってくると、「大変!」と、いつもとは違う波長の「大変」を叫びながら、ヨメが私を迎えた。
私は、その「大変」の根源が何なのか、すぐに察することができた。

ご老人は、長男から10万円を送ってもらったが、それを自分がどうしたのか、忘れてしまったらしいのである。
10万円を送ってもらったのは間違いがない。しかし、自分の手元にはない。
なぜ、ないのだ!
そこで、パニックになった。

しかし、一晩寝て、10万円の行き先を思い出すことができた。
ただ、それを貸したという認識だけが、なかった。

「アタシの10万円を返しなさいよ」

そう言われても、相手は困るばかりだったろう。
お互い納得の上で貸し借りしたものだと思っていたからだ。
そこで、相手はご老人に最初の経緯から説明をした。

しかし、ご老人は、理解できない。
「それは、アタシの10万円だよ」
そう言い張るばかりだった。

詐欺だ、訴えてやる、警察に電話する。

団地応援団は、困りきって、我がヨメに助けを求めて来たという。
ヨメは、団地応援団の話を聞き、ご老人の長男にも事情聴取をした。

その間、ご老人は、一言も発せず、壁を見つめたまま、食事もとらず、薬も拒否するという最悪の状態だった。
誰の話も聞かない。

その姿を見て、ヨメは、「ボケている」のひと言で片付ける。

しかし、私はそうは思わない。
以前ヨメから、20年以上前のご老人の性向にまつわる「事件」を聞いたことがある。

ご老人の夫(つまり私の義父)が、定年退職をしたとき、多額の退職金を手にした。
そこで、長男が「家の改築をしたいので、2百万貸してくれないか」とお伺いを立てたという。
義父は、快くその申し出を受けた。
ご老人もそれを承諾した。

そして、改築が無事終わり、2ヶ月が経った。
しかし、突然、ご老人が「約束が違う! 金を返せ!」と騒ぎ出したと言う。
事情を聞いて見ると、ご老人は長男の家の改築は、自分たちと同居するためのものだと、思い込んだらしい。

しかし、長男はそんなことはひと言も言っていなかった。
義父も、そんな話は聞いていない。
つまり、ご老人だけが、そう思い込んで、頭の中で勝手にストーリーを作り上げていたのである。

それが叶わなかったご老人は、怒り狂い、長男夫婦を罵倒した。
その思いがけない、ご老人の怒りにみんな戸惑って、関係者一同なすすべがなかったという。

困り果てた義父が、ご老人を「秋の京都3泊4日の旅」に連れて行くことで、ご老人の怒りは、何とか終息した。

ご老人の中で、勝手にふくれ上がる妄想。
これは、ご老人の性格なのだ。

だから、おそらく今回のことも、ご老人が頭の中で異次元の妄想を膨らませた結果に違いないと、私は読んだ。
いまご老人は、妄想と現実の狭間で、もがき苦しんでいる。
その折り合いをつけるには、何かのきっかけと時間が必要だと思ったのだ。

「家出してやる! 死んでやる!」と叫ぶご老人。
長男の嫁が、「また10万円渡しましょうか」と申し出てくれたが、そんな好意は、ご老人をよけい甘やかすだけだ。
「入院させたら」という意見もあったが、我が家には、そんな経済的なゆとりはない。

今までも甘やかし放題にしてきたから、糖尿病が悪化し、我が家に転がり込み、回りまわって私に災厄をもたらしている。
今回だけは、ご老人を甘やかすわけにはいかない、と私は固く決心した。

そこで、私は一つのアイディアとして、大きな紙に箇条書きで今回の出来事を簡潔に書いてみることにした。
そして、それをご老人の生活の場であるリビングの壁に貼った。

団地応援団から借金の申し出があり、ご老人がそれを快く受けたこと。
長男にお金をもらい、それを相手に渡したこと。
そして、相手がお金を借りた理由。
借用証は受け取らず、相手は近日中に必ず返済すると言ったこと。

それらを書いて、子どもたちに毎日、お題目を唱えるように数回読ませることにしたのである。
私たち夫婦の言うことは聞かないが、孫の言うことなら、少しは聞く気配があったからだ。

これは、宗教家が経典を唱えて、無垢な信者を洗脳するようなものですな。

最初は無表情だったご老人が、二日目からは、お題目に反応するようになった。
洗脳は、徐々にご老人の脳細胞を侵食しているようだった。
時に「家出してやる! 死んでやる!」と叫ぶこともあったが、その声は、最初ほどは力を持っていなかった。

ご老人は、お題目を唱えて三日目の夕方に、大好きな焼き鳥に手をつけた。
そうなれば、正気になるのは近い。

頃合を見計らって、中学2年の娘が、「お金は、困っている人に貸したんだよね」と聞くと、ご老人は「そうだね」と答えた。
回路が正常に繋がってきたようである。

そのあと、団地応援団に、正式に借用証を書いてもらい、ご老人がそれを受け取る儀式があった。
それで、話が無事収まった。

しかし、私自身は、時間を多大にロスした。

昼はご老人が危ない行動を取らないか監視し、仕事は深夜することになった。
ご老人は、食事を拒否したが、かといって作らないわけにはいかない。
食べてもらえない食事を3食つくり、その間、ご老人の生態を寝不足のまま観察する。
そんな4日間。

気力が、萎えましたよ。

結局、4日間、私は余計な時間を過ごした。

ブログどころでは、ありません。
疲れ果てていても、発泡酒は飲めません。
ご老人が、どんな行動を取るか予測がつかないからだ

そんな私に、ヨメが言うのだ。
「バアちゃん、入院させた方がよかったんじゃない?」

冗談ではない!

俺のほうが、入院したい!



2010/01/20 AM 06:59:29 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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