Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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笑って力を抜く
城が笑ったのが、何故いけないのか?
それは、10年以上私の頭を悩ませてきた疑問だった。

1998年、ワールドカップ・フランス大会を終えて帰ってきた日本代表のストライカー・城選手に水をかけるという愚をおかした偽サッカーファンがいた。

アスリートは、というより、「人は困難に立ち向かったとき皆笑うべきだ」と考える私の持論は、仲間との居酒屋論議で、最近になってやっと理解されるようになった。

大学時代、同じ陸上部に熱血の男がいた。
後輩が倒れるまで走らせる手法を好んだ彼と、「力を抜けよ。笑えよ」と言う私。
そのとき、別々に後輩を指導して、いつも好成績を挙げたグループが、私の「力抜けグループ」だった(それに関しては、こちらに書いた)。

それを知っているから、居酒屋で当時の仲間と自慢話をしていても、彼らは、私の意見を苦笑を交えながらも認めてくれるのである。

しかし、スポーツに熱いものを求める人たちは、私の意見を肯定することは、決してない。

甲子園大会と箱根駅伝は、即刻やめるべきです。

私がそう言うと、「信じられない!」「非国民!」というような目で、彼らは私を睨むのだ。

高校野球と箱根駅伝。
私には、どちらも無駄に肩に力が入ったスポーツに見える。

肩に力が入ったら、力は出せないだろう、というのが私の持論。

みんな笑えよ。笑おうぜ。
スポーツは、笑ったときに、最大限の力が出せるんですよ。

数年前、甲子園という晴れ舞台に、「ハンカチ王子」というのがいたような気がする。
よく知らないのだが、彼は、試合の途中でハンカチを取り出して、汗を拭いたというのだ。

それは、いい。
理にかなっている。

人は、力を入れたままでは、能力が発揮できない。
緊張の合間に、力を抜くことによって、彼らの能力は最大限に生かされるのだ。

それは、空を見上げることでもいいし、深呼吸をすることでもいい。
笑うことでもいいし、ハンカチで顔を拭くことでも、いいのだ。

ハンカチ王子は、ルックスが、大衆(メディア?)好みだった。
それが受けた。
それを受け入れた人たちは、ただそのルックスだけに興味を持ったのだろう。
だから、それはルックスだけで、現象が終わっていた。

「ハンカチの効用」を彼らが、論ずることはなかった。
しかし、あれは、自分の能力を最大限に高めるという意識の中で、最高のパフォーマンスだった、と今でも私は思っているのだ。
彼は今も、ハンカチで汗を拭いているのだろうか。
もし拭いていたら、彼はきっと、今もいい成績を残しているに違いない。

それを、なぜ高校野球は踏襲しないのか?
あれほど自己の能力を高める行為はないのに・・・。
打ったあとの型にはまったガッツポーズより、三者三様の微笑を私は提案する。

相変わらず、汗と涙の甲子園、かよ。

そして、息も絶え絶えにタスキを渡す、大衆好みの駅伝ランナーたち。

彼らは、なぜ気を抜かないのだ。
走っている時に笑えば、もっといい記録が出せるのに。

「悲壮感」という大衆好みの自己演出。

駅伝ランナーに課せられた、その重い呪縛がある限り、彼らは「箱根駅伝を走ったランナー」だけで終わってしまうだろう。

そして、彼らにとって、「箱根駅伝が頂点」になって、世界が確実に遠くなるという現実が、日本の長距離界では繰り返されている。
箱根駅伝に限らず、「駅伝」は、確実に彼ら彼女らを日本国内でだけ「スター」にまつり上げるが、それは、「悲壮感」というアピールが大衆受けしているに過ぎない現象だ。

ニュースで、駅伝のダイジェストを見ると、外人の留学生は、力を抜いて悠々と走っているように見えるのは、私の偏見か。

スポーツに悲壮感は、いらない。
それは、「巨人の星」的世界で、アスリートの筋肉を萎縮させるだけである。

大リーグボール養成ギプスは、アスリートの筋肉を崩壊させるだけですよ。
もちろん、皆そんなことは百も承知だろうが、たとえどんなに賢明な人でも、高校野球と箱根駅伝だけには、なぜかそれを求めてしまうのである。

高校野球には、ドラマがあるねえ。
箱根駅伝にも、ドラマがあるねえ。

それは、「悲壮感」というドラマが見たいだけで、彼らにとって、アスリートの未来など、どうでもいいように思える。

メジャーリーグのイチローは、超一流のプロフェッショナルである。
試合中の笑顔こそないが、高校野球的根性論は、彼には似合わない。

私見だが、日本人メジャーリーガーのパイオニア・野茂英雄にも、根性は似合わない。

いまメジャーリーグで活躍しているレッドソックスの岡島や斉藤も、根性論は似合わない。
怪我を克服して、メジャーリーグ・ポストシーズンで大活躍した松井にも、それは言えることだ。

彼らは、プロフェッショナルとして、自分を昇華する能力を存分に発揮しながら、自己アピールを続けている。
それは、私に言わせれば、「筋肉がゆるんだ状態」を維持できているからだ。
特に松井は、怪我をしてから、程よく力が抜けているように感じられる。

今期不調の松坂大輔は、「高校野球的投げ込み」にこだわって、自己の能力を伸ばせずにいる。
「王貞治的忍耐論」の呪縛に囚われた城島にも、それは言える。
その違いは、私には鮮明に思えるのだが、人はなぜ「高校野球的」なものを求めたがるのか。

もっと笑えよ! 力を抜けよ!

1998年ワールドカップ・フランス大会。
ストライカーの城は、シュートを外しまくったが、「笑うこと」によって彼は、気持ちを切り替えようとしたのではないか。
笑うことによって、次のシュートこそ力を抜いて確実に蹴ろう、と狙ったのではないか。

それをなぜ「笑った」ことでしか判断できないのか。
感情論と結果論だけでは、世界に通用するアスリートを育てることはできない。

私は、そう思っているのだ。

失敗したとき、笑って次を目指すことは、いけないことなのか?

城が笑ったのは、悪くない。
今でも、私はそう思っている。


話は飛ぶが、石川遼。

石川遼の数々の実績に関して、私に異論はない。

ただ、ゴルフというゲーム(スポーツと言えるのかな?)に関して、ひとつだけ言いたいことがある。

プレーヤーがショットやパットを打つとき、携帯の電子音が聞こえたり、雑音が聞こえたりした場合、彼らは「マナー違反だ」と非難する、そのマナーに関してだ。

最高のプロフェッショナルが集うゲームで、たかが電子音ごときで心が乱されるプレーヤーを「本当のプロ」と言っていいのか、と私は思うのだ。

他の競技を考えてほしい。
サッカーの選手がシュートを打つとき、「歓声がうるさくて」などと言うだろうか。
野球の試合で、ピッチャーが投げるとき、バッターが打つとき、「静かにしろよ」と言うだろうか。
大相撲、柔道、バレーボール、テニスなどの大舞台で、「電子音が」と言って、言い訳をするプロは、いないだろう。

プロは、極限の集中力が求められる。
そして、その集中力は、自分の内に向かう集中力である。
本当のプロなら、集中していたら「電子音」など意に介さないはずである。

どんな状況でも対応するのが、本物のプロ。

なのになぜ、ゴルフというゲームは、それを言い訳にするのだろうか。

彼らは、集中する能力を身につける気がないのだろうか。
あれだけの高額の賞金を貰っていながら、なぜ彼らは、ショットやパットをミスした時、そんな言い訳をするのだろう。

そう思うことさえ、マナー違反?



2009/11/30 AM 07:00:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

日比谷公園でカキフライ
20年ぶりの日比谷公園。

そして、大学時代の友人と7年ぶりの再会。

ツツミと私は、高校2年のときと、大学4年間が同期だった。
ツツミは、高校では私と同じ陸上部だったが、上下関係の押し売りを嫌う彼は、大学では陸上部に入らず、他のクラブにも入らなかった。

「先輩ってのは、ただ早く生まれただけだろ。それは能力とは関係ない問題だ。俺はそんな理不尽な関係は認めねえよ」
ツツミは、そんな正論を吐いて、大学生活を彼なりに優雅に過ごした。
そして、中堅の商社に就職した。

ツツミは、会うたびに会社に対しての愚痴を私にこぼしたが、彼なりに必死に自分の職に没頭しているように見えた。
その結果、7年前、40代半ばという若さで、札幌支社の仮の支社長というかたちで赴任した。
そして、どういうわけか、彼はずっと「仮」のままで、「正」のつかない支社長のまま、今月、東京内幸町の本社に呼び戻された。

「7年間『仮』ってなんだよ? 俺は、そんなに信用されていないのかよ!」
ツツミから電話がかかってくるたびに、電話の中で、愚痴が放射状にばら撒かれたこともあるが、際どいところで湿っぽい愚痴にはならなかった。

そして、今日の日比谷公園での再会。

もっと他に場所はなかったのか。
陽気はいいが、ずっといると寒いぞ。

「久しぶりの東京だ。取引先に顔を繋いだり、歓迎会なんかも用意されている。日曜日はヘトヘトで、誰にも会いたくないんだ。
だから、こんなときにしか会えない」

どうせ、7年間会わなかったんだ。
俺は、8年会わなくたって、10年会わなくても、平気だが。

「そ、そ、そ、そ・・・・・」
涙目になるツツミ。

男二人で並んで座る公園のベンチ。
指先足先が、寒い。
腹が減っているせいだろう。
今日は、朝メシを食っていない。

公園のベンチでは、ほとんどの人が、口を動かしていた。
ランチを広げる女の人や、コンビニのおにぎりを頬張る中年の男の人たち。

ツツミが「これ」と言って、紙包みを私に手渡す。
中を覗くと、弁当が入っていた。
「おまえ、カキフライ好きだったよな。昼休みになると、会社のビルの前に弁当屋が陣取っているんだ。
今日のランチは、カキフライだった。いいタイミングだよな。カキフライがランチに当たる確率は低いんだ。
俺の強運に感謝しろ」

感謝します。

この一年間、色々なことがありすぎて、自分がカキが好物だということさえも、忘れていた。
今度は私が涙目になった。

そして、といって渡された缶の飲みもの。
サントリー白角水割。
こんなものがあったのか。

「俺は、これから仕事だから飲めないが、コーヒーと水割りで乾杯しようぜ」
乾杯のとき、ツツミの目が、少しだけ照れていた。
照れは伝染するので、私も照れた。

白角をグビ。
冷たい白角が、胃に到達して30秒ほどすると、粘膜を走る血管を温めて、指先足先が熱くなってきた。
ツツミの気遣いに、ふたたび感謝。

今年初めて食うカキフライは美味かった。
外側のサクサクと、噛んだとき出るカキ独特の旨みが、口の中で弾けて、何度も噛んでいたくなる旨さだ。

それからは、ツツミの愚痴を聞く役目。
「おまえは酒の席で聞く愚痴は、嫌いだろ。だから青空の下で、聞かせてやる」
可愛い言い訳だ。

本社に戻されたのはいいが、新しい仕事をあてがわれて、しかも肩書きが「部長待遇」。
支社では「仮」がつき、本社では「待遇」がつく俺は、いったい何なんだ。
暗黙のリストラか。
子ども二人の転校も、中途半端な時期だったから、大変だった。
札幌に永住するつもりだったから、4年前にマンションを買った。その処理もまだ済んでいない。
急なことだったから、引越し先を見つけるのが大変だった。和光市の2LDKのアパートに4人で住んでいるが、狭い!
子どもたちから毎日文句を言われる。

寒空に愚痴が、舞い上がる。

そして、弁当を食う箸を止めて、ツツミが私を見た。
言葉に、ため息が混じる。
「俺とおまえ、もし職場を交換したなら、どうなるかな?
おまえはきっと、軽々と俺の仕事をこなすだろうな。
でも、俺にはおまえの仕事は絶対にできない」

そして、空を見上げる。
「できないだろうなぁ。高校の時も大学の時も、おまえの方が成績がよかったもんなぁ〜」

学校の成績では、何も測れない。
おまえは、本社に戻ってきたばかりだ。
心が、お疲れなんだろう。
少し弱気になっているだけだ。

照れるから二度と同じことは言わない。
だから、よく聞け。

おまえは30年近く、同じ会社に勤めている。勤めて上げてきた。
それは、簡単なようで、できないことだ。
俺には、絶対にできない。
それは、つまり、すごいってことだ。

「そうか、すごいか。俺は、おまえに勝ったのか」
ツツミが、私の太ももを叩いて、頷いた。
そして、2度3度と、今度は大きく頷いた。

おまえの勝ちだ。
それは、間違いない。

ツツミが、右手で小さくガッツポーズ。

「ささやかなお礼だ」
そう言って、ツツミは私の弁当に、自分のカキフライを一つ乗っけてくれた。

そのカキフライもまた、美味かった。




2009/11/28 AM 07:40:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

怖い話
増えていく割り箸。

78歳のご老人は、一日おきに散歩に出る。

往復3キロを2時間近くかけて歩く。
途中百円ショップで休憩する。
そのとき必ず40膳入った割り箸のセットをひとつ買う。
そして、それを家に持ち帰る。

意味不明であるが、それをゴミ箱に捨てる。

中学2年のわが娘がそれを見咎め、拾い上げ、私に聞く。
「どうする、これ」

しばし思案した後で、大きめのレジ袋に格納したが、その後、増える増える。
増え続ける。
段ボール箱に入れることにした。

我が家では、割り箸は、まったく使わない。
お客様が来たときは、格調高い箸でお持て成しをする。
つまり、決して減ることのない割り箸が、一日おきに確実にダンボールの内部を圧迫する。

圧迫した結果、一つ目の段ボール箱は満杯となり、二つ目の段ボール箱も、割り箸が4センチほどの山をなしている。

「割り箸は、もういらないんですが」
そう注意したのは、私が一度。ヨメも一度。

しかし、ご老人は言う。
「私は、割り箸なんか買ってないよ。私は自分の箸を持っているからね」

そう言われたら、何も言えない。
ご本人は、無意識のうちに、割り箸を買い求めているようだ。
人が空気を吸うがごとく、ご老人は、一日おきの散歩の折に、割り箸を買い求める。
彼女にとって、それは息をするのと同じ行為。

言うだけ無駄。

だから、誰にも止められない。

増え続ける割り箸。

それが、怖い。


桶川の得意先のフクシマ氏。

ある日、葱を大量に抱えて、我が家にやってきた。
「田舎からたくさん送ってきたんで、Mさんに、おすそ分けぇ!」

まあまあ、あがって美味い珈琲など。

「いやいや、急いでますんでぇ」
葱を大量に置いて帰っていった。

新聞紙にくるんだ葱、泥つき二束。
数えてみたら、62本あった。

どうする、これ。

午後5時半ば。
ヨメと二人、首をかしげながら、顔を見合わせる。
「ご近所に、配るしかないかな」

そう結論付けて、私は仕事部屋で作業を始めた。
そして、午後7時前、夕飯の支度をしようと、キッチンへ。

そのとき、ピンポーン。

「葱をいただけると聞いてきたんですが」
ご老人のお知り合いの声が、玄関から聞こえた。

葱?
葱は、確かに大量にあるが、なぜ、それがわかった?

ヨメが聞いている。
「10本、差し上げましょうか」
それに対して、相手は「5本で」。

その20分後、また訪問客が言う。
「葱を」
ヨメが聞く。
「10本、どうですか」
「いや、5本で」

なぜ、5本なのか。
今ひとつ釈然としない。
しかし、10本減ったので、よしとしようか。

残りは、52本。
今夜のメニューは決まっているので、葱は、新聞紙にくるんだまま玄関に置いておこう。

さて、次の日。

私は、打ち合わせに出かけ、ヨメは花屋のパート。
娘は、中学へ、息子は大学へ。

午後5時過ぎ。
団地の駐輪場に自転車を置いていた時、ヨメが井戸端会議から帰ってくるところに遭遇。
揃って、玄関に入る。

しかし、その玄関が、異様に汚い。
葱を包んでおいた新聞紙が散乱し、泥が不規則な模様を作っている。
つまり、泥だらけ。

玄関は、家の顔である。
だから、いつも綺麗にしている。
しかし、この玄関の乱雑さ、汚さは!

目眩がする。

気がついて、あたりを見回す。

で・・・・・・・、葱は、どこへいった?

葱がない。

キッチンに足を運んだが、キッチンにもない。

葱が・・・・・・・、消えた?


午後6時前、またご老人のお知り合いが、ピンポーン。
60代半ばの女性が、ヨメに言う。
「お留守の間に、葱を30本いただきました。5本ずつ、知り合いに分けましたが、よろしかったでしょうか」

また、5本ずつか。
まあ、配る手間が省けたから、いいか。

あと、22本。
だが、ここに至って、私の心に居心地の悪い感情が、居付く。

ご老人は、外界と接触する手段は、散歩のときと、週に一度の宗教的な会合の時だけ。
我が家には固定電話はなく、ご老人は携帯電話を持っていても、活用する方法を知らない。

送信履歴ゼロ。
着信履歴はあるが、携帯が鳴ると、席を立ち逃げてしまうほど怖がっている。
対応の仕方を知らないから。

昨晩は散歩をしなかったし、会合もなかった。
では、ご老人のお知り合いは、どうやって我が家に葱が大量にあることを知ったのか。

超能力、あるいは、盗聴。

もちろん盗聴は冗談だ。
こんな冗談でさえも、団地では悪意の餌食になる。
口を慎まねばならない。

だが、不思議。
私が知らない通信手段が、彼らには存在するのだろうか。
糸電話だったりして。

そんなとき、大声。
ヨメが唸る声が、ベランダから聞こえた。

ベランダに駆けつけると、プランターで栽培していたサニーレタスが引きちぎられ、そこに葱が突き立っていた。
勘定してはいないが、おそらく、その数22本。

サニーレタス、無惨、無惨。

ヨメの顔が・・・・・・・怖い。




2009/11/26 AM 07:48:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | [怖い話]

ガストで美女
まさか、こんなに短期間のブランクで会えるとは思っていなかった。

松雪泰子似の美女のことだ(このお方に関しては、こちらに書いた)。
しかも、私のテリトリーのガストまで、その美しい足を運んでいただくなど。

この会社からは、不定期に仕事をいただいている。
1年あくこともあるし、2年近くあいたときもあった。
しかし、今年は、これで3回目。

長生きはするものである。

わざわざ来ていただくなんて。
しかも、祝日に。

「仕事を出す側、請ける側は対等ですから。急ぎの仕事のとき、こちらから伺うのは、当たり前のことですよね。
特に今回は、無理をお願いするんですから」

電話であらかじめ、概略は聞いていた。
この会社からの仕事は、納期まで2ヶ月くらいの余裕ある仕事をいただくことが多い。
しかし、今回は、2週間しかない。

かなり切羽詰った仕事である。

営業に持って歩かせるパソコンの中に、仕事の内容が一目瞭然でわかるようなプレゼン資料を、常時入れておきたい。
しかも、フラッシュで全体を作り、メモや日記の体裁も入ったものにしたい。

資料を見せてもらったが、細かくチャートになっているところや業績を丁寧に説明している箇所がある。
しかし、お客から要望を聞きだすインタラクティブな部分では、表現が曖昧である。

この表現では、曖昧すぎるのでは?

「ですから、そこはMさんのお知恵を拝借して、いいものを作っていただこうかと」
茶色の澄んだ眼が、私を見つめる。
美しい口元が、ニコリとゆるむ。

しかし、かなり専門的な内容で作り上げないと、プレゼン資料としては弱いのではないでしょうか。
私は、部外者ですよ。
部外者が作るには、これは荷が重過ぎます。

「資料は、すべて取り揃えました」
テーブルの上の分厚い資料。
A4で100枚はないが、50枚以上はある。
パラパラと、それをめくる。

おお! 文字だらけ!

これを読めと?

美しい顔が、コクリと縦に揺れる。
そして、言う。
「曖昧な部分に関しては、とりあえず作っていただいて、あとはクライアントのアイディアを待つということになります」

ようするに、見切り発車ということですね。

また美しいお顔が、縦にコクリ。
そして、少し身体を乗り出し気味に、テーブルの上の両手に力を込めて、美女が言った。
おお! 美女の顔が目の前に迫る。

「いつもの倍額以上を請求していただいて、けっこうです」

やりましょう!

交渉成立である。

お互い安堵の表情を浮かべて、眼を見交わすが、私がその目を見ることができたのは、一瞬である。
零コンマ6秒といったところか。

世の中には、正視できない美女というのがいる。
松雪泰子似は、その部類に入る。

だから、恐れ多くて、その美しいお顔を長い間、眺めることができない。
もったいないと思うが、できないものは、できない。

しかし、そんな私の思いを意に介さず、松雪泰子似は、優雅な口調で言うのである。
「Mさん。生ビール飲んでくださいよ。失礼とは思いますが、奢らせてください」

二人とも、ドリンクバーを頼んで、打ち合わせ中は、それを飲んでいた。
私の顔が、何か物足りない、というように見えたのだろうか。
美女には、すべてお見通しだったのかもしれない。

「Mさんのブログを読むと、みなさん生ビールを奢ってらっしゃるようなので、一度してみたかったんです」
こちらの心をとろかすような笑顔で、ニコリ。

いただいてもよろしいのでしょうか。

「私からお願いします」

オレは、幸せものだ。
こんな幸福な時間が、オレに訪れるなんて!
昨日まで私を悩ませていた不整脈も、今は影を潜めている。

病は気から、とは、まさにこのことである。

しかし、人生にいいことは続かない。

生ビールを運んできたウエイトレスさん。
同じ団地の住民ではないか。
しかも、3年前まで、娘がダンスを教わっていた先生だ。

目が合った。

み〜ちゃったぁ! 見ぃちゃったぁ!

脈が飛ぶ。
鼓動が、不規則にはねる。
喉元に、妙な違和感が。
そして、軽いめまい。

私には、これからの展開が、確実に目に浮かぶ。

「もやしオヤジが、松雪泰子似と密会!」

サブタイトルとして、
「もやしオヤジは、ケチだった。
美女に生ビールを奢られる現場を目撃!
そして、おつまみの『山盛りポテトフライ』も、美女の奢りだった!」



2009/11/24 AM 07:01:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

デマ
異星人ネタは、先月で封印しようと思っていた。
そのことは、10月31日のブログで書いた。
しかし、心苦しいのだが、その約束を、今回一度だけ破ることにした。

噂が、どのように人から人に伝聞するかという検証を、その言い訳として。

韓国釜山の射撃場で、大火災があって、11人の方々が亡くなった。
そのうちの7人が、日本人だった。
火災の原因については、21日現在わかっていない。
これは、正確な報道である。

我が家では、新聞を取っていないので、ネットとテレビだけでニュースの全体像を把握する。

そこに、一つの落とし穴があった、と今では思う。

テレビのニュース映像では、日本人犠牲者のことしか言わない。
亡くなった11人のうちの7人が、大きく扱われる。
それは、ここが日本だから、報道の優先度を考えたら、仕方がないことと言える。
私も、そのことは承知している。

ただ、軽はずみな私は、ニュース場面を見ながら、こう口走ってしまったのだ。
「韓国人の扱いが、小さいなぁ」

人間という生き物の中には、大事なことは聞き逃しても、どうでもいいことは聞き逃さない人種が存在する。
異星人が、まさに、その人だった。

私が漏らした感想に対して、すぐに異星人は、反応した。
「ここは、日本! 韓国じゃないよ!」

間違いなく、それはニュースの本質を捉えた「真実」と言えるものだった。
だから、その反応は、間違いではない。

しかし、異星人が振りまく伝聞は、場所を変えた途端、かたちを変えて「違う噂」に突然変異するというのも事実。

土曜日。
ジョギングをしている最中に、異星人の団地応援団のひとりに呼び止められた。
私だったら、よほど緊急の用がない限り、ジョギング中の人を呼び止めることはしない。
だから、緊急の用かと思い、足を止めた。
そして、体が冷えないように、軽く足踏み。

40代半ばの女性。
いつも穏やかな顔で、人と立ち話をしている姿をよく見かける。
声が女性にしては低いトーンのせいか、よけい穏やかな印象を受ける。

その穏やかな声で、話しかけられた。
「Mさん、日本人なんかどうでもいい、韓国人が一番だ、なんて言ってるんですって。
あまり、そんなことは大っぴらに言わない方がいいですよ。世の中には、血の気の多い人が、たくさんいますから。
うちの主人なんて、それを聞いて血圧が上がるくらい怒ってましたよ。
まあ、Mさんが韓国人なら仕方ありませんけど」

壊れたフィルターを使ったら、空気は確実に汚れる。
しかし、その空気清浄機のフィルターが壊れていないと信じていたら、汚れた空気を吸っていても、人は平気なのだ。
信じているから。

私は、女性の顔に、自分の顔を近づけて、目を覗き込みながら、言った。

私は、日本人ですよ。
ただ、命に、日本人も韓国人もないって、思ってます。

それだけで、通じたのかどうか。
突然無表情になった団地応援団を残して、私はジョギングを再会した。

この話も、突然変異したあと、違う噂となって、団地をさまようのだろうか。

「うわさ、噂・・・」
心の中に広がりつつある黒い雲を振り払うように、その後15キロ走った。
気がついたら、ハーフマラソンと同じ距離を走っていた。

右膝が痛い・・・。

ジョギングを終えて、セブンイレブンで金麦の500缶を2本買い、公園で急速に水分補給をした。

身体も心も、温まりませんな。

セブンイレブンで、「緑のたぬき」を買う。
備え付けの電子ポットで、お湯をドブドブドブ。

無人の寒々とした公園で、3分後、貪るように食った。
腹は膨れ、胃は熱くなったが、身体は、まだ寒い。
骨の髄まで、寒い。

思わずついた、ため息が、白い。


  ━━━━━━━━━━━━━━


痛む右足を引きずりながら我が家に帰ると、和室のテーブルの上に、「緑のたぬき」と「赤いきつね」が、山を作っていた。

「これ一個79円。お一人様4点限りって書いてあったから、子どもたちを連れて買ってきたの。得でしょ、ねっねっ!」
つまり、12個。
ヨメの顔が、得意気である。

「赤いきつねが食いたそうな顔してるな。ほらよ!」
中学2年の娘が、私に「赤いきつね」を放り投げた。

異星人の糖尿病には、カップ麺はよくないので、いつもは食べさせないようにしていた。
しかし、心やさしい大学1年の息子は、自分の分を茶碗に小分けにして、異星人に渡していた。
それを見ていた娘も、少しおすそ分け。

それを嬉しそうに食う異星人。

私は、これを「いい光景」だと思うのだが、断言してもいい。
こういった話は、決して「噂」として広まることはない。

「くちへん」に「尊い」と書くのが、噂である。

しかし、私はこれから、「噂」の文字を見たら「デマ」と読むことにする。


  ━━━━━━━━━━━━━━


11月1日から讀賣新聞が、入っていた。

誰も契約した覚えがない。
異星人も知らないといっている。

私は毎度のことながら、専売所まで足を運び、事情聴取をした。
やはりというべきか、契約の印を押す欄には、異星人の判が押してあった。

「知りませんよ! 誰かが勝手に押したんでしょうよ! 誰かが私を罠にかけたのよ!」

私たち家族以外の言うことは何でも聞く、素直で気立てのいいご老人(団地内の総評)は、「罠、罠、罠!」と叫び続ける。

しかし、私はもう一度専売所に足を運んで、深く頭を下げた。
「新聞の勧誘は、もうやめてくれませんか。我が家は、新聞を取る余裕はございませんから」

相手は険しい顔をしながらも、頷いてくれた。

「Mさんちは、新聞は取らないよ」
そんな噂なら、いくら流しても、構わない。
ブラックリストに入れてくれても、構わない。

ただ、それを「デマ」と取られても困るが。




2009/11/22 AM 07:59:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

娘に人生を教わる
不機嫌な顔は、子どもたちには、お見通しだったようである。

「なんかあったのか?」
「キッチンで音楽を流さないなんて、はじめてじゃないかな」

ちょっとした変化にも、身内というものは、敏感なものらしい。

外と家庭は別物だ、と思っている。
だから、家では、外で起きたことを引きずらないよう心がけていた。

我が家の家訓。
「自分が他人に気を使うのはいいが、他人には気を使わせるな」

子どもたちも、その言いつけを守っていて、彼らは「俺が、私が」と、相手を押しのけることはしない。
そんなこともあって、大学一年の息子などは、ひとから「あんなに軟弱で大丈夫か」というご忠告をいただく。
しかし、私はそれを軟弱だとは思っていない。
「心が豊か」だと思っている。

だから、ご忠告は、いつも無視することにしている。

だいぶ前から、私のブログのファンだという方から、「仕事をお願いしたい」というメールをいただいていた。
売れないデザイナーでも、仕事が立て込むことがある。
失礼ながら、「今すこしお待ちください」と答えていた。

相手の方には、1ヶ月以上待っていただいて、昨日、やっと打ち合わせができた。
冬本番を思わせる、寒い一日。
小雨も降っていて、最初から心はブルー。

すみません。
1ヶ月も待っていただいて。

「いや、こちらも別に緊急の仕事ではないですから」と、糸のように細くなった眼を持つ笑顔で言われた。
東京墨田区のマンションの一室。
新しくはないが、堂々とした外観のマンションだった。

仕事は、居住者用の自転車を分けるために、シールを作るというもの。
マンションの駐輪場は、自転車で溢れているが、居住者以外も利用しているので、居住者の自転車が弾き飛ばされることがある。
それを解消するために、居住者専用のシールを自転車に貼ろうという決議が、自治会でなされたという。

目の前にいるダザイさんは、自治会の会長さんだ。
「65歳。無職です」と、聞いてもいないのに、主張した。
そして、これから書くことは、「ありのままを書いてくれるなら」というダザイさんの承諾を受けて、ありのままを書きます。

ダザイ?

この名前を聞いたら、多くの人は「ああ、あのダザイとゆかりの人?」と、好奇心丸出しで聞くかもしれない。
しかし、私は逆に、こんな場合は「そんなことは、聞き飽きただろうから、もう俺は聞かなくてもいいだろう」と思ってしまうのだ。
きっとダザイさんは、「太宰治のご親戚?」という問いかけを何百回も聞いたことだろう。

それって、鬱陶しくないか。

昔、法律事務所に勤めていたとき、「カヤマユウゾウ」という男がいた。
漢字も、あの有名人と全く同じだった。

彼は、みんなから名前のことでいじられ、カラオケに行くと「あれを歌えよ」と強要されていた。
それは、いいときもあるが、苦痛のときもある。
私は、そんなとき、相手の「苦痛」を推測してしまうたちである。

だから、私は彼に対して、「その話題」を振らなかった。

私が、法律事務所を辞めるとき、カヤマ君は、「Mさん。助かりましたよ。俺、ウンザリだったんですよね、あの話題。Mさんだけが、言わなかったんで、助かりました」と、私の両手を強く握って、感謝の意を表した。

そんなこともあって、私はダザイさんの名前を聞いても、無反応で通した。
こんなときは、「太宰治」の名前を出すのが、精一杯のサービスなのかな、と後で思ったが、私には、それができないのだ。
面倒くさい性格だ、と自分でも思う。

請け負った仕事は、簡単だ。
自転車の後輪の泥除けに貼る、20ミリ×40ミリの大きさのシールを400枚作るだけである。
デザインは、おまかせ。

A4の透明フィルム紙に、レーザープリンタで印刷する。
A4一枚で、48枚できるから、プリントするのは、9枚。
あとは、それを断裁するだけ。

断裁は、近所の印刷会社の断裁機を借りて私がするから、コストはかからない。
今回は、デザイン料も取らない。

「最低限の金額を提示します」と言って、提示した。
1枚5円で計算して、2千円。

それは、相当に格安だと思う。
きっと、相場よりはるかに安いはずだ。
正直な感想を言わせてもらえば、さいたま市から墨田区まで行って、割りの合う仕事ではない。
他の業者を紹介した方が、私としては楽である(正直すぎるだろうか)。

面倒くさい駆け引きをしたくないので、最低の料金を提示した。
しかし、ダザイさんは、「もっと安くできない?」と言う。

駆け引きをしたくないから、私は最初から「最低の料金」を提示したのだ。
1ヶ月待っていただいたことへの感謝も込めての値段だ。

こんな時、プロは駆け引きをするのだろうが、私は、その時間がもったいないと思う人間である。

だから、「これが最低です」と、もう一度強く主張した。
ダザイさんは、少し考えてから、「わかった」と了承してくれた。

そして、その後の雑談。
心を突き刺す、鋭いお言葉の数々(正確に描写してみました)。

Mさんは、自分勝手ですよ。
Mさんのブログを読むと、仕事を出す側を近所のファミリーレストランに呼び出していますよね。
あれは、常識では考えられません。
普通は、どんなことがあっても、自分で相手先に出向くんじゃないですかね。
しかも、仕事を出してくれる相手に、ビールを奢らせるなんて、常識外ですよ。
Mさんは、他人に依存しすぎじゃないですかね。
それをまるで当たり前のように感じているように、私は思うんです。
ようするに、傲慢なんです。
自分では色々と細かい理屈をつけているようですが、受け取る側からしたら、甘えているとしか思えません。


それは、確かに、ごもっともなご意見です。

Mさんは、心が自立してないんじゃないですか。
他人が自分に奉仕するのが、当たり前だと思っている感じがします。
貧乏だから、何でも許される?
貧乏自慢ですか?
あれは、たまにならいいですけど、あまり続くと、嫌味ですよ。
うそ臭く思えます。


ああ、そうかもしれませんね。

奥さんのお母様に関しても書かれていますが、常識ある大人なら、あそこまでは書きません。
私の両親はもう亡くなってしまいましたが、もし私の家内が、自分の親をあそこまで「侮辱」されたと知ったら、私は離婚させられていますよ。
そのあたりの人間の機微を、失礼な言い方ですが、Mさんは、わかっていないような気がします。

はい、ごもっともです。

話をしているうちに、頭が深く垂れ下がってきて、「おっしゃるとおりです」としか、言えなくなった。
反論する気力もない。

そんな状態のまま、家に帰ってきた。
だから、顔に不機嫌さが残っていたのだろう。

「何があった? ホラホラ、白状してしまえよ」

中学2年の娘に、今日の出来事を言うと、娘は私の頭を強く叩いて、こう言ったのだ。
「まあ、色々な意見はあるだろう。でもな、おまえと友だちやお得意さんとの、本当の結びつきは、誰にもわからないんだよ。それはアタシにもわからない。
それは、おまえと友だちやお得意さんだけの関係だ。だから、他人にとやかく言われることじゃない。
お互いが、納得していればいいんじゃないか。気にすることはないぞ!」

そうなのか。
俺は、本当にそれでいいのか。

少しだが、納得。

中学2年の娘に、教えられた。



2009/11/20 AM 07:43:32 | Comment(3) | TrackBack(0) | [日記]

脈が飛ぶ毎日
「簡単に考えないで」と言われた。

実の姉。
昨年、盲腸ガンの手術をしたことは、こちらのブログに書いた。

自覚しているが、変な姉と弟である。
というより、姉に対して冷淡すぎる弟の私が、変だ。

1ヶ月に一度の定期健診では、姉のガンは、転移していないという結果が出ている。
しかし、姉と同居している母に言わせると、「具合が悪い」という。
ただ、それは具体的なものではないらしい。

2ヶ月前に、担当医が変わったらしいのだ。
男の医者から女医になった。
それが、姉の具合を悪くしているのかもしれない。

姉は、昔から女性が嫌いだった。

特に、頭のいい女性が大嫌いである。
女医は、世間一般の常識では、きっと頭のいい部類に入るだろう。
それが、姉の具合を悪くしている可能性がある。

昨年の入院時、私は手術後5日たってから見舞いに行った。
それ以来、姉とは会っていない。
一年以上も会っていない冷淡な弟。

その後の経過は、母親経由で入ってくる情報だから、よくわからない部分もある。

昨年の入院時、姉は医師、看護士さんの言うことをまったく聞かなかったという。
そこで、非常識なお願いながら、「男の看護士さんに変えていただけないでしょうか」と電話でお伺いを立てたら、病院側は、よほど姉の対応に苦慮していたのだろう。
士長さんは、こちらの非常識な要望に即座に対応してくれて、25日間の入院生活を、何とか終えることができた。

安堵。

姉の小学校時代の担任は、すべて女性だった。
中学に入ったら、男の先生の比率も増えるはずだが、不幸にも、姉の担任は、中学3年間、やはり女性だった。
高校に上がって、やっと男の先生に出会えたが、時すでに遅し。
すべてお年寄りだったという。
笑い話ですな。

姉がなぜ女性を嫌うのか、今もよくわかっていない。

嫉妬と劣等感。
表層的な見方をすると、そんな結論が出るかもしれないが、そればかりではない気もする。
しかし、そんなことは、冷淡な弟は、あまり深く考えないようにしていた。

「女医さんの問いかけにも、看護士さん(女性)の問いかけにも、まったく答えないのよ」と母親が嘆く。
「どうすれば、いいのかしら」

冷たい弟は、「さあ」としか、言いようがない。
新しい担当の女医さんは、前の担当医よりもキャリアが豊富だという。
その熟練の女医さんに対して「前の担当医に戻して」などという非常識なことは、私の口からは言えない。

女医さんとコミュニケーションが取れなくても、いま現在の医学的データが悪くなければいいのではないか、と冷たい弟は考えていた。

「でも、ものすごく不機嫌なの。毎日が不機嫌なの。毎日、女医さんを口汚く罵ってるのよ」
私には、それはまるで眼前の出来事のように想像がつくのだが、だからといって、誰も姉の機嫌をよくすることはできない。

姉の大好きなスマップ全員が姉を諭してくれたら、きっと言うことを聞くだろう。
あるいは、彼女が唯一信じている女性・細木数子大先生が言ったら聞くかもしれない。

しかし、ありえませんな。

そんなことを思っていたら、一週間前に、姉から電話があった。

そして、「簡単に考えないで」と、姉に言われたのだ。
要するに、医学的データがいくらよくても、私はガンの手術をしたのだ。身体の奥に爆弾を抱えているようなものなのだ。
不安で押しつぶされそうなのだ、ということを表現したかったのだろう。

不安は、わかる。
本質的なところでは、わかっていないかもしれないが、私は私にできる最大限のことはしているつもりだ(経済的な意味でだが)。
そして、今の私には、それ以上のことはできないというのも現実である。

冷たい言い方になるが、ガンが転移していなければ、いいではないか、と思ってしまうのだ。
俺ができるのは、そこまでだし、医者ができるのも、そこまでである。
あとは、本人が、闘うしかない。

50余年の人生で、どんな小さな壁さえも、いつも避けて、闘うことを放棄してきた姉。
しかし、今回は、自分の命がかかっている。
だから、自分で闘ってもらうしかない。

闘えよ。
そんな思いを込めながら、受話器を前にして、私は黙っていた。

しかし、姉は私の沈黙の意味を無視して、話を続けるのだ。
PETって知ってる」

私は、それを知らなかった。
ネットで調べて見ると、ガン検査としては、それはかなり画期的な方法であるようだ。
痛みもなく服を着たままできるので、患者にまったく負担がかからない検査だという。

「PETで診てもらいたいんだけど」

しかし、担当医は、ガンが転移していないと言っているんだから、あらためて検査する必要はないんじゃないかな。

「女の医者の言うことなんか、信じられないわよ! 偉そうにふんぞり返って、人を見下して! 何様のつもりよ!」

診断の現場を見たことがないので、私には判断ができない。
女の医者が、単純に信じられないのか。本当にふんぞり返っているのか。本当に見下しているのか。
どうなんだろう?

「あいつこそ、ガンで死んじまえばいいのよ!」

過激なご意見だ。

PETに関して調べてみたら、保険が適用されないという。
つまり、実費。
その金額は、我が家の半年分の食費に相当する。

情けないことに、足元から血の気が引いた。

昨年の姉の手術代・入院費・抗がん剤の費用は、友人のテクニカルイラストの達人・イナバに用立ててもらった。
125万円!

以前のブログで、イナバから「遠慮するなよ」という涙が出るほど有り難いお言葉をいただいたことは書いた。
だから、イナバにお願いすれば、おそらくまた用立ててくれるに違いない。

だが、借りた金額の3分の1しか、まだ返していない。
いくらなんでも、甘えすぎだろう。

もう、無理だ。
そんなに、友人に頼りっぱなしで、いいわけがない。
それは、人として、おかしいんじゃないか。

迷っている。

持病の不整脈に悩まされながら、今も悩んでいる。

姉から、毎日10回以上iPhoneに電話がかかってくるが、無視している。

脈が飛ぶ。
頻繁に脈が飛ぶ・・・・・。



2009/11/18 AM 07:01:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

面倒くさい2時間
ウィンドウズが壊れた、と泣きつかれた。

彼は、我が家の異星人の強力な団地応援団である。
70歳前後。男性。
そして、「パソコンおたくプー太郎伝説」の信奉者でもある。

自分が都合が悪くなると、ひとは何にでも頼りたがる。
「怠け者のパソコンおたく」と蔑んでいたことも忘れて・・・。

私のパソコン教室の弟子、69歳のキシさん経由でご連絡をいただいた。
さすがに、ご本人から修理を直接依頼する勇気はなかったようだ。

大人げない言い方だったかな。

修理は、本来はサポートセンターの仕事だ。

サポートセンターに電話した方がいいのでは?
「何度もしたけど、繋がらないんですって」と、キシさん。
まあ、そんなこともありうるか。

家にお邪魔して、パソコンを見せてもらった。
デル・コンピュータのノートパソコン。
OSは、VISTA。
今年の5月に購入したばかりだという。

電源を入れると、「スタートアップ修復しますか」というような表示が出る。
勝手にすれば。

何度かそんな画面が出た。
本当に修復してるのか、おまえ。

ご老人に、かなり時間がかかると思いますので、覚悟しておいてください、と最初に断りを入れた。

その間、お茶を出されたが、すみませんねえ、私は日本茶は飲まないんですよ。
10年以上飲んだことがございません。
日本茶と紅茶は、体質に合わないのでございます。
だから、手をつけなかった。

私だったら、出す前に「飲み物は何がいいですか」と聞きますがね。
嫌味?

コンピュータが、自力で修復を試みているとき、「直りますかね? 直りますかね!」と何度も聞かれた。
私が何もしていないのを責めるような口調である。
心配なのはわかりますが、コンピュータ君にも、それなりに事情はある。

コンピュータ君の治癒力も、信用してあげましょうよ。

しかし、私の横に張り付いて「え? ダメなの? やっぱり壊れたの? どうしたの?」と慌てふためくご老人。
私は最初に、時間がかかりますが、と申し上げたはずですが。

大丈夫ですよ、と言ったって、このひと、俺のこと、どうせ信用しないだろうし・・・。
言うだけ無駄だから、黙っていた。

その間も、コンピュータ君、VISTA君は、一生懸命修復に力を注いでいる。
少しくらい時間がかかっても、直ればいいじゃないか、と冷静な人間なら思うのだろうが、「え? ダメなの? ダメなのぉ!」の繰り返し。

非常にうるさい。
ただでさえ、嫌々来ているのに、さらに憂鬱になるオレ。

心が、折れそう。

「ダメ? ああ! ダメなのかい!」

数分後、コンピュータが告げる。
「修復は、できませんでした」
最悪の結果だ。

「なに? 壊れたの? 買ったばかりなのに、何で! 僕は、何もしてないよ!」
「何で壊れるの! 買ったばかりなのに!」
「直せないの! なんで直せないの! あなたには直せないの!」

文句は、デルに言ってくださいよ。
私は、あなたのパソコンを直す義理はないんですよ。
・・・と言ってみても、この人に通用するわけないか。

相手は赤い顔をして騒いだが、私は冷静に、ご老人の目を見て問いかけた。
OSの入ったDVDは、ありますか?

「OS? ん? ん?」
「DVDって、映画だろ?」

誰か、話のわかる人はいませんかぁ?
キシさんも来てくれればよかったのに・・・。

「こんなときに、何で映画を見るんだ! 僕を馬鹿にしてるのか!」

お願いですから、誰か話のわかる人を・・・。

DVDは、映画を見るためだけに存在するものではございません。
他にも、記憶媒体として、大変役に立っているのでございます。

説明したが、「僕の家にあるDVDは、映画だけですよ!」と、聞く耳を持たない強さで言われた。
真っ赤な顔をして、口をとがらせている。

ですから、どなたか話のわかる人を・・・。

ひとり暮らしですからね。いるわけないか。
じゃあ、勝手に探させてもらいますよ。

探すのは簡単だった。
部屋の隅に、デルのマークのダンボール箱があった。
そのなかに、OSの入ったDVDがひそやかに存在した。

「映画を見るのかい?」
「なんで、こんな時に映画を? 僕をバカに・・・」

申し訳ないが、無視した。
この人、私の説明を最初から聞く気がないようなので。

ユーティリティの入ったDVDをブートディスクに選んで、もう一度、修復を試みた。

それで、普通に起動できた。

「何? え? なに? 直ったの? 使えるの?」

使えます。
お邪魔しました。

逃げるように帰った。

面倒くさい2時間だった。




ボランティア。
そして、いつも人から利用されるだけのオレ・・・。




2009/11/16 AM 06:58:14 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]

待ちぼうけしたオレ
宴会場所に到着したのは、午後7時40分だった。

約束時間は、7時だったのだが・・・。

浦和の得意先で、延々と1時間20分待たされた。
その会社では、金曜日の昼は、昼食会を兼ねて全体会議が開かれる。
仕出し弁当を食べながら、仕事の目標や達成化率をそれぞれ検討していくらしい。

会議は、普段は2時間もかからないという。
3時に訪問の約束をしていた。
普通なら、会議はとっくに終わっているはずだった。

しかし、顔見知りの事務員から「会議が長引いているから、待つように」と言われた。
それを聞いて、相当込み入った話がされているのだろう、と思った。

2年近い付き合いの会社だが、はじめて応接室に案内されて、コーヒーを出された。
インスタントのようだ。
インスタントもお湯の加減でおいしくなるものだが、このコーヒーはお湯を入れただけの味がした。
当たり前か・・・。

天井に吊るされたRAMSAのスピーカーから、音楽が流れていた。
おそらく有線だろう。
流れていたのは、J-POPだ。

ラップっぽい曲や、ロックっぽい曲や、R&Bっぽい曲、レゲエっぽい曲が立て続けに流れていた。
しかし、なぜかどれも同じテイストに聞こえる。
みんな「〜ぽい曲」にしか聞こえない。
俺の耳が衰えたということだな。

椎名林檎の曲を流せよ。
東京事変の曲を流せよ。
detroit7でも、凛として時雨陰陽座でもいいぞ。

しかし、私の願いは、まったく通じなかった。

「〜ぽい曲」の音のシャワーは、けっこう苦痛だ。
だって、1時間以上も待たされたんですから。
その間、そんな曲ばっかり、聞かされるんですから。

その合間に入った「関ジャニ∞」の薄っぺらなノリに、妙に癒されたのは、なぜだろう?
それを聞いて思った。
ジャ○●ズ系の音楽は、食い物で言えば、「箸休め」なんだな。
食傷気味の音楽の中にまぶされると、心が無になれるような気がする。
そういう意味で、彼らの曲は意外と役に立つ、ということが、今回よくわかった。

1時間以上待ったが、コーヒーのおかわりはない。
その間、事務員が2度、申し訳なさそうに、「まだ会議が」と言って顔を出してくれたが、待つのは退屈だ。
「〜ぽい曲」を聞きながら、iPhoneでインターネットを閲覧することしか、やることがない。

両足の貧乏ゆすりが、止まらない。

午後4時21分、ジャージ姿の女性担当者が、「ああ、本当にごめんなさい」「待ちましたよねぇ〜」「一度顔を出したかったんですけどぉ〜」と、身体を折って、謝ってくれた。

いやいや、大丈夫ですから。
それにしても、かなり重要な会議だったようですね。
よほど難しい議案があったんでしょうね。

私のそんな問いかけに、緑の上下ジャージの担当者は、困ったような顔をして、下を向いた。

ん???

曖昧な担当者の中途半端な笑顔が、目の前にある。
オレ、何か変なこと言ったか?
いつもは説明能力抜群の担当者が、なんか困っているぞ。

そんなことを思っていると、ジャージ娘が、今度は土下座するようにテーブルに両手を付いて、「ごめんなさい!」と言うではないか。

?????

俺の長〜い人生で、若い娘に土下座されたのは、初めてだな。
なんか甘い快感が、背筋を貫いたような気がした。
クセになりそうだな・・・・・。

オレって、ヘンタイ・・・・・?

平井堅の、妙に思い入れたっぷりの曲が天井から流れていた。

その曲をBGMにして、困った顔のジャージ娘が、白状した。
「忘年会をかねた社員旅行の行き先を決めるのに、なかなか意見がまとまらなくて・・・」

平井堅が歌う。
「さよなら ありがとう 好きだよ 好きだよ」

うるせえよ!

「いつもは熱海なんですけど、今年は鬼怒川にしようか、水上温泉にしようか、草津にしようかって・・・」

マジでぇ!

本当に、そんなことで俺は、1時間20分も待たされたのか!
普通だったら、「会議が紛糾しまして」とか、もっともらしい嘘を言うんじゃないんですかね。
なんか、あまりにも正直すぎる話は、脱力感しか感じないんですが・・・。

で、どこに決まったんですか?

「結局、社長の鶴のひと声で『いつもどおり熱海で』ということに」

マジでぇ!

その話を5人の宴会仲間に披露したら、ウケるウケる。
みんな腹抱えて笑っていましたよ。

4分15秒間、笑いの渦でした。

私は、一瞬ムッとしたが、今回の幹事・出っ歯のこのひと言で、私は救われた。

「よし! 今回はマツの会費は無料(ただ)。異議はないな」

おお!

大幅に遅刻したにもかかわらず、私の会費は、ただということになった。

いつもの我々の取り決めで、「その日一番面白い話をした人間は、会費が無料」ということになっていたからだ。

1時間20分の待ちぼうけは、決して無駄ではなかった。



2009/11/14 AM 07:27:39 | Comment(2) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

泣いた日
恥ずかしながら、涙が止まらなかった。

友人に11歳年下のテクニカルイラストの達人がいる。
イナバと言う。

彼は、おバカである。
彼と道を歩いていたら、外人の男性に道を聞かれた。
金髪、長身、蒼い目。
ジス・イズ・ガイジン!

しかし、思いのほか流暢な日本語で話しかけられた。
馬車道の場所を教えた。
「グッドラック!」と言って別れた。

その後に、アホのイナバか言うのである。
「俺、いまイタリア語、完璧に理解したよ。全部わかったよ!」

相手は、日本語で話していました。
そして、彼がイタリア人かどうかは、見た目では判断できません。
アホか、おまえ!

彼は、本来はシマという姓だった。
しかし、引っ越した先で、隣に「シマ」という姓の人がいた。
さらに、奥さんが家庭菜園を趣味にしていて、引越し先の市民家庭菜園で、隣のスペースを借りていたのも、「シマ」という姓の人だった。

「俺は、今まで生きてきて、『シマ』という姓の人間に出会ったことがない。しかし、いま立て続けに出会った。なんか許せない! だから、俺は姓を変える」
そう言って、彼は奥さんの姓の「イナバ」を名乗ることにしたのである。

アホです!

得意先にイナバを伴っていこうとしたとき、イナバが「腹減った」とアピールした。
しかし、あまり時間がない。
だから、立ち食いそばで、間に合わすことにした。

信じられないことだが、イナバにとって、初めての立ち食いソバ屋だったという。
お互いかき揚げソバを頼んで、私は隅の椅子に座った。
しかし、イナバは立ったままである。

座ろうぜ。

「ヤダ!」

なんで?

「だって、座ったら、金を取られるだろ? ここは、立ち食いなんだから」

なんという、アホ!

11歳年下の、アホなイラストレーター。
彼は、最初に出会ったときから、アホだった。

最初からタメ口で、私に話しかけた。
「無理だよ! そんな短期間で描けるわけないじゃん!」

それを聞いて、最初はムッときたが、付き合っていくうちに、「こいつは世間を知らないだけなんだ」と思うようになった。
彼に、悪意はないのだ。
ただ、礼儀だけを知らない。

おまえは、アホだな。
「奥さんにも毎日言われてるよ」
そう言われると、返す言葉がなくなる。

そんなアホのイナバと、一昨日ガストで話をした。
ラーメン屋の外観イラストを頼むためである。

まだ、店舗デザイナーに、ひとつのアイディアとして、手描きのデッサンと間取り図を渡されただけだが、スポンサーであるスガ君の義父を納得させなければいけない。
そのためには、はっきりとしたイメージがあったほうが説得しやすい。
だから、プレゼン用に描いてもらうことにしたのだ。

私の説明に「ああ、わかった、わかった。要するに幸せな感じだね」と、見るからに軽い感じで頷かれた。
彼の実力は百パーセント認めているので、裏切られることはないであろう。

手描きでもデジタルでも、高度なイラストを、彼はこちらの要望どおり描き上げてくれるのである。
プロだから当然、ということもできるが、その精度の高さは、賞賛に値する。

しかし、彼は、そのほかの分野には、すべて疎い。
ホームページもブログも、意味がわかっていない。

ホームページを持ったらどうかな、という私の忠告に「ハハハ、無理無理」と笑うだけなのだ。
「ブログって漢字間違えたら、炎上するんだろ」と言うのである。

笑うしかない。

しかし、そんな彼に、昨日こんなことを言われた。
そして、泣いた。

「お姉さんの病状は、どうなんだ?」

私の姉の病状を気遣ってくれたのである(それに関しては、こちらに書いた)。

姉の手術費用と抗がん剤の治療費125万円を、彼の奥さんに用立ててもらった(高額!)。
有り得ないほどの好意を、私は、彼ら夫婦から受けているのである。

毎月3万円を返済しているが、絶えず「早く返したい」という観念に追い立てられている。
それが、私には負い目になっているのだが、イナバは、例によってアホ面をして、私の負担を軽くしようとしてくれている。

「一年経ったよね」
姉の手術から、一年という意味だ。

「マコ(イナバの奥さん)が言うんだよね。あれじゃ、抗がん剤の治療費は足りないんじゃないかって」

しかしな・・・、まだ全部返し終わってないんだし・・・。

「そんなの関係ないんじゃない? だって、お姉さんは、まだ闘ってるんだろ」

それを聞いて、視界が滲んだ。

他人がこんなにも気にしてくれているのに・・・。
姉に対して冷淡な私は、人間として最低だな。

「遠慮しないでよ。抗がん剤は高いんだってな。マコが、それをずっと気にしてるんだ。マコのおばあちゃんもガンで死んだから」

顔を上げることができなかった。
どんな顔をして、イナバの顔を見ればいいのか・・・。

これ以上、彼らに甘えていいものなのか。

しかし、イナバは、のん気な声で、こう続けるのだ。
「ガンは、治るんだよ。今は、治るんだ。最高の治療をすれば」
そして、私の目を覗き込んで、「遠慮なんか、すんなよ」。

アホのイナバに、私は頭を下げた。
下げることしかできなかった。

涙が、出続けた。



2009/11/12 AM 07:38:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

腹立ちの日
「別に」と言っただけで、非難された女優がいた。

世の中が、熱病に浮かされた時、異論を吐くと袋叩きにあう。
だから、そのとき、異論は胸の奥にしまっておいた。

しかし、少し不機嫌な応対をしたからといって、非難されるのなら、もっとひどい人は過去にいたし、今もいる。

高圧的な態度で相手を見下し、記者の質問を抑え、自己の意見に反論を許さない都知事。
自分への批判や不満をことごとく不機嫌な顔をして封じ込める、政権党の幹事長。

権力者には、みんな寛大なんだね。

他にも、ビッグマウスのタレントや文化人は、態度の悪い品のない言動をもてはやされて「キャラ扱い」されている。

なぜ彼女だけが許されないのか、という疑問は、ずっと持っていた。

あれが、そんなに非常識だった?
巷には非常識が溢れているのに、なぜたった一回の非常識が今も許されないのか。
私には、その意味が、よくわからないでいる。

ソフトな語り口で「友愛」を説くひとがいる。

多額の献金を手にしていながら、その不透明さを正直に説明することができない「友愛人」。

有権者に対する説明責任というのは、政治家にとって、一番重要なことなのに、ずっとずっと先送り。

民主党が、政権をとることは、悪くない。
むしろ歓迎する。
ただ、自民党的な政治家が総理大臣になってしまっては、政権移行の意味がない。

キレイごとの意見ですがね。


なぜ、こんな話をしたかというと、不動産会社の社長の態度に腹が立ったからだ(関係ない?)。

友人のスガ君が東京でラーメン屋を開業するというので、そのサポートを頼まれた。
まず、物件探しをすることになった。
彼の義父の紹介で、スガくんに同伴して、港区の不動産会社に行ったのである。

場所は、日比谷線神谷町駅から徒歩数分。
小ぎれいなビルの1階に、4つの事務所があって、その中の右端が不動産会社だった。
ウィンドウの一面に、お勧め物件が掲示されている、当たり前の不動産屋。
まさか、10数分後に、喧嘩して事務所を後にするとは、思わなかった。

スガ君の義父は、静岡で優良な会社を経営している立派な人だ。
その人の紹介だから、我々は、普通以上の扱いを受けるものだと思っていた。

受付で、スガ君の義父の名前を出して取り次いでもらった。
出てきたのは、不動産会社の社長である。
年は、40歳代前半だろうか。
顔の作りは福々としていて、布袋様を思わせる安心感がある。

やや胸を反らし気味で、動作がゆったりとしている(カスガ?)が、偉そうな感じはしない。
第一印象は、「友愛」を説きそうな人格者に思えた。
親身になって物件を紹介してくれそうな予感がした。

だが・・・・・。

事務所の隅の豪華そうに見える応接セットに案内された。
初めてだから、スガ君も私も名刺を出した。
しかし、そこから彼に対する印象がガラッと変わる。

相手は、我々の差し出した名刺を受け取りもしないのだ。

無言だ。
こちらが、「よろしくお願いします」と言っても、ソファの背にもたれて、顎を少し動かすだけ。
それどころか、その傲慢な態度に、私がムッとして睨みつけると、ソファにもたれた姿勢で睨み返すのである。

布袋様が睨んでも、あまり怖くはないのだが。

こちらは普通に客として来ているわけだから、媚びる必要はない。
スガ君が、何か言い出そうとしたが、私は彼の膨張した横っ腹をつついて、それを抑えた。

頭のてっぺんからつま先まで善良に出来上がっているスガ君は、相手の機嫌を良くするために、懸命に努力するだろう。
この場合は、その方が良かったのかもしれないが、私は我慢できなかったのだ。

だって、このオヤジ、ずっと俺のことを睨んでるんだもん!
(沢尻エリカに睨まれるのなら、まだ許す)

冷静に振り返ってみましょう。
私は、友人に付き添って、彼の義父が紹介した不動産会社に来ただけである。
そして、義父に紹介された不動産会社社長を呼んでもらい、その人に、名刺を渡して挨拶しただけなのだ。
そこまでの過程に、何か間違いがあっただろうか。

我々は、柳原可奈子似の受付の女性を口説いたわけでもなく、会社の備品を盗んだわけでもない。
ただ、女子事務員に導かれ応接セットに座っているだけで、なぜ無礼にも睨まれなければいけないのか。

睨み返しながら、そこまでの工程を頭の中で反芻してみたが、私に落ち度はないと判断した。

だから、にらみ合いは続く。

私の横に座っているスガ君の体温が上がって、呼吸が荒くなるのを、痛いほど肌で感じた。
モワモワモワ(体温が上がる様子)、ガホッ、ガホッ、ガホッ(荒い呼吸)。

ちょっと、鬱陶しい。

もっと睨み合いを続けてもよかったが、スガ君の体力が持ちそうにないので、私のほうから声をかけた。

先週の金曜日、ご訪問の確認を電話でとったのですが、お話は通じていませんか。

それに対して、布袋オヤジ。
「ご要望に合いそうな物件はないね」
私を上目づかいで睨んだまま、早口で切り捨てるように言ったのである。

その態度を見て、都知事様を思い出した。
そして、仏頂面をして私を睨む、膨らんだ顔を見て、幹事長様を思い出した。

話にならないね。

捨て台詞を残して、私の体重の2倍以上あるスガ君を追い立てるように、私は席を立った。

わざわざ神谷町までやってきて、まるで「ガキの使いだな」とは思ったが、これ以上布袋オヤジの顔を見ていたくはない。

帰り道。
「Mさん、本当にごめんなさい」と、何度も私に向かって頭を下げるスガ君。

その姿を見て、「友愛」という言葉は、彼のためにある言葉だと、私は確信した。

不動産会社を紹介してくれたスガ君の義父・N氏には、このことは黙っていようと、二人で約束した。
不動産会社は親身になって探してくれたが、いい物件がなかったということにしよう、とスガ君に言い含めた。

しかし、嘘のつけないスガ君に、その大役が務まるかどうか。
それが、少し心配・・・・・。




そういうことで・・・、オレ、まだ、腹立ってます。

そして、ひそかに、沢尻エリカを応援します(小声で)。


2009/11/10 AM 06:50:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

プロはゼニです
以前も書いたが、友人スガ君のラーメン店開業の責任者は、なぜか私ということになった。

京橋のイベントプロデューサー・ウチダ氏に、「プロデューサーは、役柄から言ったら、おまえだろ」と抗議したが、ウチダ氏に、「俺はサブだよ」と、涼しい顔で言われた。

俺は、食い物屋のプロデュースなんて、やったことないぞ。

それに対して、ウチダ氏。
「誰にでも、初めてはある」
それは、当たり前すぎるほど、当たり前なご意見だった。

抵抗は、空しかったようだ。
ただ、他人のラーメン屋だとしても、新しいものを考え出す作業というのは、楽しいものだと、改めて気付かされた。

おいしいラーメンを作って、できるだけ多くの人に幸せになってもらいたい。
そんなことを思いながら、仕事の合間に、色々なアイディアを出す作業は、とても楽しいものだった。

たとえば、ラーメン屋の看板を出さずに、営業してみたらどうだろうか、と考えた。
ホームページの告知と、フリーペーパーなどでの告知だけで、とりあえず営業をしてみる。
開店のときに大々的に客を集め、にぎやかに開業するより、少しずつ浸透していく方が、長続きするのではないかと思ったのだ。

しかし、これは、スガ君に却下された。
誰でも入れるような気軽なラーメン屋を目指したい。
隠れ家的な店にしてしまったら、一部の人だけの自己満足の店になってしまうのではないか。
それに、ラーメン屋に、隠れ家的要素は似合わない。

ごもっともです。

次に出したアイディアは・・・。
腹5分目ラーメン、腹7分目ラーメン。
誰もが、同じ量のラーメンが食べたいわけではない。
ラーメンが、ものすごく食べたいが、量はそんなにいらない(たとえば、ご老人やお子さまなど)。
そんな人のために、分量を調節したラーメンを提供したら、どうだろうか。

しかし、これも却下された。
いちいち量を調整していたら、かえって一つ一つのコストがかかる。
全体のラーメンの単価が上がってしまったら、お客様のためにならない。
発想はいいが、現実的ではない。

ごもっともです。

そのほかにも、マイ丼、チャーシュー・ブロックのキープなどのアイディアを、5つ6つ出したが、ことごとく却下された。
ただ却下されはしたが、アイディアを出すというのは、楽しいものだ。

それに、店のプロデュースというのは、こればかりではない。
あらゆるコストの計算もしなければいけない。

今はすべてが玉砕というのが現実だが、八方ふさがりという感じはしない。
いつかは、このトンネルを抜けるだろうという予感は絶えず持っている。
それは、想像し、創造する楽しさが私に高揚感を与えているからだろう。

そんなことを思ったとき、2年前倒産したハウスメーカーのことを思い出した。

打ち合わせで、毎回のように「Mさんは、アイディアを出さないねえ。やる気があるようには見えないよ」と言われた。

このハウスメーカーのチラシを作る工程を説明しよう。
まずは、最初の打ち合わせで、私が社長の取り留めのない話を聞く。
基本的には、販売価格とそれに付随する住宅設備に関してである。

社長は、どれを売り物にするかは、まったく提示しない。
いつも心が、揺れた状態のままだ。
こちらが意見を言っても、いつもアイディアの揺れ戻しにあって話が進まない。

だから、まず私は、社長の話を家に持って帰って、とりあえずチラシとしての体裁を整える。
もちろん、キャッチコピー、文章、画像は、私がすべて整える。
社長の話の断片を拾い集めて、B3チラシの両面をデザインする。
毎回が、手探りである。
コンセプトを提示されない仕事ほど、やりにくいものはない。

次回それを持っていくと、社長は、それを見ながら、その段階ではじめてアイディアを出すのである。
だから、「Mさんは、アイディアを出さないねえ」という批判は、当たっていない。

社長の取り留めのない話をまとめるのは、私にとっては、プロデュースのひとつだと思っていたが、社長はそうは思わなかった。
要するに、見解の相違である。

「もっともっとアイディアを出せよ」

しかし、ここで現実的な話をするが、プロは、報酬がすべてである。
私は、レイアウト料はいただいているが、「プロデュース料」はいただいていない。
そのささやかな報酬の中で、プロデュースを要求されても困る。

数回、報酬の上乗せを申し出たが、社長は首を縦に振らなかった。
私の記憶では、7年間の仕事で、友人のコピーライター・ススキダにキャッチコピーを頼んだ時の一度、外注費を認めてくれただけだった。

だから、尊大な言い方をすることをお許し願いたい。

出すものも出さないで、要求だけしないでほしい!

しかし、スガ君のラーメン屋のあれこれを考えていて、思ったことがある。
あの時のハウスメーカーの社長は、今の私のように、楽しく色々な角度からアイディアを出すことを望んでいたのだな、と。

もう少し話し合えばよかったのかな。
報酬に関しては、かなりシビアな人だったが、私が今のように意欲を前面に出してアピールすれば、もしかしたら通じたかもしれない。
ただ、そこまで、当時の私は、この会社に対して熱くなれなかった。
要するに、その会社に対して、私の方に意欲と思い入れが、なかったということだ。

報酬も低いし・・・。

「Mさんよ。今回は、大きく儲けるチャンスだぜ」
京橋のウチダ氏は、さわやかなイケメン顔を私に近づけながら、私の肩を揺すぶった。

儲けるチャンス。
長い間フリーランスをやっていて、毎回逃していたチャンスが、いま目の前にある。

やる気が、さらに出てきた。

プロはやっぱり、銭、銭、銭・・・。

下品?



2009/11/08 AM 07:24:17 | Comment(2) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

99パーセント不完全な親そして夫
最初は、中学2年の娘だった。

水曜日、部活を休んで帰ってきた。
熱を測ると、38.1度あったという。
インフルエンザか、と緊張した。

しかし、たとえインフルエンザだったとしても、今回の新型は普段の季節性と比べて、かなり弱毒性であるらしい。
安静にしていれば問題なし、とヨメからiPhoneにかかってきた緊急電話を聞いて、私は判断した。

しかし、その20分後の午後4時45分。
またiPhoneに緊急電話が。

「お兄ちゃんが、『熱、熱』と言って、帰ってきたの。測ったら、38.1度あったわよ」
おお、何たる偶然!
兄妹そろって、同じ体温。
もしかして、これは一大事か!

「間違いなくインフルエンザだわ!」と、すべての流行に弱いヨメが、断定口調で語った。

それに対して、「根拠なし」と諭す冷静なオレ。
仕事の打ち合わせ中だった。
しかし、打ち合わせ先のリフォーム会社の社長が、「おいおい、インフルエンザかよ。子どものことを第一に考えろよ! つらいのは、子どもだろ」とタメ口でお節介を焼いた。

あんたは、おれより10歳以上年下なんだよ。
たとえお得意さんだとしても、言葉には気をつけな!

しかし、インフルエンザに過敏な大衆の意見は馬鹿にならないので、A学院大2年のマルヤマ君に電話をした。
マルヤマ君は、私がボランティアでパソコン全般を教えている「弟子」である。

申し訳ないけど、我が家の子ども二人を医者に連れていっていただけないだろうか。
ただ、38度以上の高熱があるので、インフルエンザの場合もあるから、君にもうつる可能性があるかもしれない。
だから、無理にとは言いません。

はるか年下の男にも気を使う、人格者の私。
その誠意は、相手に確実に通じて、マルヤマ君は、私の懇請を快諾してくれた。

そして、リフォーム会社の社長の自慢話が延々と続いていた午後6時35分。
マルヤマ君から、iPhoneに経過報告があった。

「インフルエンザではないそうです。安静にしていれば治りますと言われました。薬も貰ってきました。いま、おうちにお届けしましたので、ご安心ください」
マルヤマ君は、いい人だ。
「彼は、近来稀に見る好青年である」という噂を団地中に振りまくことにしよう。

「バンカーに入ったんだけど、リカバリーが最高だったね。俺は、リフォーム屋よりもゴルファーになるべきだったな」
タメ口のリフォーム会社社長の自慢話が続いている。
本日、8回目の自慢話だ。

はいはい。
ゴルファーにでもサーファーにでも、好きなものになってください。

自慢話から開放されたのが、午後6時55分。
仕事の話、15分。自慢話、約2時間半。
ホストになった気分ですな。

午後7時20分。
家に帰った。

最初に甘えてきたのは、大学1年の息子だった。
私の顔を見るなり、「肩が痛いよう! 膝から下がダルいよう!」と訴え始めたのだ。

それを見てヨメが、「さっきまで大人しく寝ていたのに、パパが帰ってきたら、何そのアピール?」と 呆れた声を出した。

そして、息子が言う。
「腹減った。お粥が食べたい!」

「何か食べるって私が聞いても、『食欲ない』って言ったのは誰?」とヨメがキレる。

そして、普段は決して泣き言を言わない娘。
「腹減ったゾ。たまご粥を作れ。さっさと作れ!」
私が、娘の額に手を当てると、「触るな! ヘンタイ!」と罵られた。

それを見て、ヨメが言う。
「私が聞いても、つらそうに黙っていたのに、パパが帰ってきたら二人とも、なんか元気じゃない?」

そんな光景を見て、異星人が、しみじみとした口調で言う。
「この子たちにとっては、パパが一番のクスリなんだねえ・・・」

こんなダメ親でも、彼らにとっては、親なのである。
人として99パーセント不完全でも、彼らにとっては、私は親なのだ。

俺は、親なんだ。

そう思うと、ちょっと泣けた。

私が作った、たまご粥をおかわりする子どもたち。
それほど美味いわけでもないのに、赤い顔をしてズズズズとすすり込む子どもたちの姿を見て、また泣けた。

親であることを実感した。

アイスノンを2団重ねにして枕を作り、クスリを飲ませてから、子どもたちを寝かせた。
寝る前の体温は、娘が37.2度。息子が、37.9度。
明日、熱が下がっていることを祈る。

彼らが寝たのを確認した午後11時5分。
リフォーム会社のチラシのデザインを始めた。

慣れた仕事なので、25時過ぎに、出来上がった。
「長々と自慢話ばっかりしやがって」と悪態をついていたとき、ヨメが顔を出した。

「なんか、熱っぽいのよね。身体もダルいし」
確かに、目が潤んで熱っぽそうな顔をしていた。
額に手をやると、確実に熱さを感じた。

3人目か・・・。

蜂蜜とレモン汁の入った生姜湯を作って飲ませた。
「ああ、おいしい・・・」
ヨメが、目を閉じて、ゆっくりと生姜湯を喉に流し込んでいた。

ヨメにも2段重ねのアイスノン枕を作った。
「ありがとう」と言われた。

それを聞いて、俺は、夫でもあるんだな、と思った。
99パーセント、ダメな夫なのに・・・。

午前1時55分。
もらいもののシーバースリーガルを飲んで眠った。

木曜日朝。
習性なので、午前5時過ぎに目覚めた。
今日は、ヨメが花屋のパートに行くのは、無理だろうと思ったが、律儀なヨメは、5時半に起きてきた。

熱は? と聞くと、「まだちょっと」と言った。
休む? と聞くと、「休んだら、ダメでしょ」とキッパリと言った。

熱を測ったら、37度。
大丈夫かな?

野菜の形が崩れるまで煮込んだシチューと、生姜湯。
「おいしい!」と、満足げな顔のヨメ。

ヨメがパートに出かける前に、私に向かって、赤い顔で「ありがとう」と言った。

それを聞いて、俺は、夫なんだなと、また実感した。

次に起きたのが、娘だった。
熱を測ると、37.5度。
「行くぞ! 絶対に行くぞ」と言うので、シチューを飲ませたあと、クスリを飲ませた。

「シチュー、美味かったぞ!」
敬礼しながら言って、娘は登校していった。

「頑張れよ」と、心の中で声をかけた。

俺は親なんだ、とまた実感した。

息子は、まだ寝ている。
額に手を当てると、かなり熱い。
病気に対して必要以上に敏感な息子は、今日は大学を休むだろう。

赤く上気した息子の寝顔を見て、「負けるなよ」と声をかけた。

俺は親なんだ。

親であるオレ。
夫であるオレ。

そして、99パーセント不完全なオレ。

このままで、いいんだろうか?
自問してみるが、答えなど、ない。

あるがままに生きるしか、俺には、道がない。
未熟でも、今まで生きてきたのだし、家族も、それなりに認めてくれているようだし。
そして、オレを頼ってくれているし・・・。

ただ、「いいのかな、このままで」という思いは 、絶えずある。

首をかしげるような思いで、異星人の朝メシを作ろうとしていたとき、異星人の声が、リビングから聞こえた。

「ムコさんよう! 何か熱っぽいんだけどぉ〜。風邪ひいちまったのかねえ」

はいはい。
朝メシ食ったら、病院に行きましょうねぇ〜。


4人目。



2009/11/06 AM 07:21:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

チャーシュー feat.イベリコデブ
チャーシューデブ、スガ君の話を以前書いた(コチラ)。

スガ君は、東京でラーメン屋を開業する、と義父に宣言したらしい。

それに対して、義父は、「逃げ出すなよ」とだけ言ったという。
スガ君の性格をよく知っている、いい義父さんのようである。

開業するに当たって、まずすることは、物件探し。
なるべく立地条件のよい場所を探し出すことが、成功への第一歩だといえる。
そして、同時に店の規模を決める。
集客力、従業員の数、営業時間、メニューの品数、価格、そして、さらに大事なのは、店のコンセプト。

スガ君とガストで向かい合って問題点を箇条書きにしていった。
しかし、スガ君の丸まったノンビリした顔を見ているうちに、眠くなってきた。

そして、面倒くさくなってきた。
お叱りを受けるかもしれないが、当たり前のことを言わせてもらいましょう。

「昼間からジョッキを2杯も飲むと、世の中のことが、どうでもよくなる」

どうせ、俺の店じゃないんだし・・・・・。

「豚肉ともやしのあんかけ焼きそば」を食い終わり、「クリームあんみつ」を一気食いしているスガ君が、私に大きな目を向けた。
そして、アンを飲み込んだあとで言った。
「ああ、Mさん、顔の歪みがなおりましたね」

やっと、気づいてくれたのかい。
でも、性格の歪みは、そのままだけどな。

「アハハハハ、性格の真っ直ぐなMさんは、Mさんじゃありませんから」
これって、どういう意味?
褒められたの・・・・・か。

まあ・・・どうでもいいか。

どうだろうね、スガ君。
俺の友だちに、イベントプロデュースをしている男がいるんだが、そいつに丸投げするってのは、ダメかな?
そいつは、俺の友だちの中では、一番まともな仕事をするやつだ。
損はしないと思うよ。

私がやる気がないのを感じとったスガ君は、両手で握りこぶしを作って、「それは、ぜひ!」と叫んだ。

京橋のウチダ氏に電話をかけると、出先だったが、2時間後には事務所に戻るというので、スガ君の運転する車で京橋まで出向いた。
私は、京橋まで車中で、ぐっすりと眠った。

ウチダ氏は、いた。
130キロのチャーシューデブを見て、目だけで驚いたが、顔は営業用の爽やかな笑顔を作っていた。
さすが、仕事のできる男は違う。

「Mさんは、スーパードライだろ」と言われたから、「もう2杯ジョッキを飲んできたから、1本だけでいいよ」と答えた。
ヘッ。
ウチダ氏に、鼻で笑われた。

冷蔵庫から勝手にカマンベールチーズを取り出し、それをつまみにした。

仕事の説明は、スガ君がしたが、彼の説明は、要領を得ない。
だから、95パーセントを私が補足した。
スガ君が大きな赤いタオルで、吹き出た汗を拭くと、ウチダ氏の目がまた驚きの色を浮かべたが、顔は笑っていた。
ウチダ氏は、役者だね。

私が、冷蔵庫から新しいスーパードライを取り出すと、「ヘッ」、ウチダ氏にまた鼻で笑われた。
俺には、気を遣わないってことだな。
しかし、俺は君よりも5歳年上なんだが。

「スガさん。これは、やりがいのある仕事ですね。本当に僕にやらせていただけるんですか。光栄ですよ。こんな仕事にめぐりあうなんて」

うまいねえ、ウチダ氏。
体全体から、誠意がにじみ出ているじゃないですか。
そのイケメン顔で、そんな風に真剣に言われたら、男だってイチコロですよ。
いいなあ、うまいなあ。

2時間近く、仕事の方向性を話し合った。
その間、言っては悪いが、スガ君は、ほとんど役に立たなかった。
話を煮詰めたのは、ウチダ氏と私の二人だった。
スガ君は、私の横で、赤いタオルを顔の上下に動かしていただけである。

スガ君の新しいラーメン屋のコンセプトは、「幸せなラーメン」。
私が、99パーセント冗談で言ったコンセプトが、採用されてしまったのである。
店のカラーを決めろ、とウチダ氏が言うので、私は「色というよりも、全体を古民家風でまとめたい」と提案した。
金がかかるぞ、とウチダ氏が脅したが、「俺が出すわけじゃない」と、私は偉そうに答えた。

ほとんどスガ君を蚊帳の外において、話が進められていった。
ウチダ氏が、室内装飾を担当するデザイナーを選び出し、携帯で連絡を取った。
私は、専門用語が飛び交う話を聞きながら、冷蔵庫を漁った。

そして、見つけた。
イベリコ豚の生ハムがあるよ、スガ君!」
それを聞いたときのスガ君の反応は、早かった。

冷蔵庫までダッシュしてきて、まるで憧れの金髪美女を見るように、目が生ハムの塊に釘付けになった。
こんなに輝いているスガ君の目を見るのは、初めてのことだ。
イベリコ豚の威力は、すごいな。

生ハム、食っちまうか。
「でも、ひと様のものを勝手に食べるなんて」
君は育ちがいいねえ。
こんなものは、食べたい人が食べるのが、一番いいんだよ。イベリコさんも、きっとわかってくれる。

「いや、Mさん、それは、違うんじゃないかと」
130キロの体に、常識をたくさん詰め込んだスガ君は、首を大きく横に振った。

そうか、ダメなのか。
俺にとっては当たり前のことが、世間では通用しないのだな。
俺は、やはり非常識な男なのだな。

そんな会話をしていると、電話での打ち合わせが終わったウチダ氏が、冷蔵庫前にやってきて、また鼻で笑った。
「この人とまともに会話しちゃいけませんよ。この人、決して図々しくはないんだが、どこか浮世離れしてるんですよ。生き方自体が、軟体動物みたいなもんですね」

褒めてくれた。

軟体動物は、生ハムを食う趣味はないが、このチャーシューデブは、イベリコさんに憧れているらしい。
私がそう言うと、ウチダ氏は、器用に生ハムを薄く切って、それを紙皿に盛り付けた。

スガ君は、ウチダ氏の「どうぞ」の声と同時に、生ハムを口に放り込み、満足の吐息を漏らした。
それは、チャーシューの内部に、イベリコが入り込んだ歴史的な瞬間だった。

恍惚状態のスガ君に、ウチダ氏が、これからのスケジュールを説明したが、スガ君の恍惚は解けなかった。
イベリコに、身も心も囚われていると言ってよかった。
だから結局、私がすべてを聞くことになり、責任者は私ということになった。

なんで、そうなる?

チャーシュー、フィーチャリング、イベリコデブ君。
あんたの店が、どうなっても俺は知らない。



2009/11/04 AM 06:56:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

男に口説かれた日
日曜日。
普段なら、子どもたちと濃密な時間を過ごすことが多いのだが、家族の朝メシを作ってから、湘南ライナーに乗った。

いつもなら絶対にやらないことだが、グリーン車に乗った。
最寄り駅から横浜まで。
そして、いつもなら発泡酒を飲むところだが、この日は飲まなかった。
飲みたくなかった。

平日なら混んでいる湘南ライナーが、日曜日の朝のせいか、空いていた。
しかし、開放的な気分にはならず、心の底で重い感情がわだかまったままで、窓の外を通り過ぎる景色が、どこか色褪せて見えた。

横浜駅に着いた。
慣れ親しんだ横浜の景色と人並みは居心地のいいものだった。
その風景は、確実に私の脳の隙間を満たそうとしたが、私はどこか頑なに俯いて地下街を通り抜けた。

そして、階段を上って、ススキダの事務所がある方角に、重い足取りで足を動かした。
南風が、生暖かい風を運んできて、11月の空気ではなかった。

ススキダに連絡はしていない。
日曜日だから、事務所にいるかどうかもわからない。
いなくても、いいか、と思って、横浜まで来た。

気持ちが投げやりだった。

事務所のインターフォンを押す。
「はい」と言って出たのは、ススキダ夫人だった。
小柄で愛らしいススキダ夫人の戸惑うような顔があった。

しかし、それはすぐに笑顔に変わった。
「あら、Mさん。アポなしですかぁ。珍しいですね」
身体全体で笑顔を振りまくススキダ夫人。
この笑顔を見て、私は思った。
俺は、この笑顔を見たかったのかもしれない、と。

「ススキダは、美容院に行ってるんですよ」
あの極道顔が、美容院?
聞き間違いかと思った。

美容院?
「はい、月に1度の美容院です」
ススキダ夫人が、何故かVサインをして、体を捻じ曲げるようにして笑った。

私も笑った。
自然に笑いが出た。

小泉今日子をどこか思わせるススキダ夫人が、私の顔を見て、3度4度うなずいた。
私もうなずきながら、笑った。

「ススキダには連絡しておきますから、ちょっと出かけませんか」
ススキダ夫人に腕を軽くつかまれて、駐車場まで連れて行かれた。
そして、エスティマに乗って、東横線大倉山駅近くのバッティングセンターに連れて行かれた。

「好きなだけ、打ってください」
私の顔を見上げて、悪戯っぽい笑顔で言った。
10ゲーム打った。200球だ。
芯に当たったのは、20パーセントほどだろう。
つまり、俺は、2割バッター。

その後、ススキダ夫人に「お腹すきましたね」と言われて、みなとみらいのカフェに連れて行かれた。
ペットも同伴できるカフェ。
店内店外は、ペット同伴の客で入り乱れていた。

お犬様は、完全に市民権を得たように思える。

我々は、もちろんペットなしだ。
ペットなしは、我々だけだったようである。
構わずに、店の外のテラスでランチを食うことにした。

「Mさんは、ビールでしょ」と言われたが、「コーヒーで」と私は答えた。
ススキダ夫人は、意外な素振りもせずに、「じゃあ、サンドイッチにしましょ」と、メニューを覗き込んだ。
二人して、ツナサラダをフランスパンで挟んだものを頼んだ。

我々がランチを取っている時、フレンチブルドッグの集団が、隣のテーブルに陣取った。
飼い主は一人だが、犬は5匹いた。
もしかして、ブリーダー? と思ったが、飼い主に聞いて見ると、「好きで好きでどうしようもなかったんですよ。気がついたら、5匹になっていました」ということだ。

そのうちの2匹が私の足にまとわりついて、鼻をジーパンの裾にこすり付けていた。
フレンチブルドッグの身体を撫で、幼児言葉で話しかけた。
膝の上に乗ってきて、顔を舐められた。

舐められまくった。

心が、空っぽになった気がした。
そんな私を、ススキダ夫人は手を叩きながら、見守っていた。

世の中には、笑顔が眩しい人がいる。
ススキダ夫人は、そんな人だ。

フレンチブルドッグに弄ばれている時、ススキダが姿を見せた。
そして、言った。

「おい! 裸の付き合いをしようぜ。俺のおごりだ!」

今度は、みなとみらいのスパに連れて行かれた。
ススキダ夫人は、事務所に用があると言って、帰っていった。
男二人だけに、したかったようである。

男二人で、温泉につかる。
照れくさいので、別行動を取った。
お互い好きな風呂に適当につかることにした。

始めて岩盤浴というものに浸かってみたが、「へえぇ」としか、思わなかった。
いろいろ試したが、結局大浴場が一番落ち着いた。

ヒーリングルームで、ススキダと落ち合った。
天井を見上げながらススキダが言う。

「バッティングセンター、オープンカフェ、スパ、盛りだくさんだったが、たいして楽しくもなかったろ」

それなりに楽しかったが、断片を切り取ってみると、当たり前すぎて、両肩は重いままだよ。

ススキダは、リクライニングチェアに身体を沈み込ませながら、私を見て、笑った。
それは、軽い笑いだったが、蔑んだ笑いではなかった。
親が子どもの未熟さを愛しむような、包み込むような笑いだった。

そして、私の目を見て、唐突に言葉を放り投げた。
「おまえに、夢や目標はあるか?」

それは、唐突過ぎて、私の耳には、呪文のように聞こえた。

夢? 目標?
あるといえばあるが、それは、つかみづらいものだった。

天井を見上げて、言葉を探した。
しかし、すぐに答えは、出てこなかった。

そんな私に対して、ススキダは身体を斜めに起こしながら、なおも私を見つめるのだ。
「俺はな、あるんだよ。夢ってやつがな」
極道顔が、上気して、細い目が少しだけ見開かれていた。
その目には、「誠実」という光が宿っているような気がした。

一度肩に力を入れたススキダは、今度はそれを恥じるように身体全体の力を抜いて、遠くを見るような目をした。
「年とったら、レイコと二人でペンションをやろうと思ってるんだ」

ペンション? いまどき、流行らないだろう。
「流行らなくってもいいんだよ。俺が客を選ぶんだ。選んだ客だけに来てもらう寂れたペンションでいいんだ」

しかし、商売だろ?
「いや、道楽だ」

そして、幼児が楽しいことを想像するときのような目をして、身体をソファにあずけた。
ススキダが、「道楽だからこそ、楽しいんだ」と、独り言のように言った。

いい身分だな。

「ああ、いい身分だ。しかし・・・な」
ススキダはそう言って、もう一度、身体を起こして、私を見た。

「そのペンションには、すごいシェフがいるんだぜ。少しひねくれたシェフだが、面白いやつだ」

シェフを雇うとしたら、経費が大変だろ。

「まあ、それは仕方がないな。しかし、そいつは雇うんじゃないんだ。俺の信頼できるパートナーなんだ」
ススキダが、私の目の奥を射るように、視線を固定した。

何かが、通じた。

まさか、と思った。
嘘だろ、と呟いた。

ススキダが、うなずく。
私は、混乱して、目を泳がせた。
「しかしな」と、私の口から呟きが漏れた。

そんな私に、ススキダが言う。
「もしそうなったら、俺はおまえに苦労はさせないつもりだ」

天井の明かりが、急に輝度を増した気がした。
口元が、自然にゆるんでいた。

まるで、女を口説いてるみたいだぞ。

私がそう言うと、ススキダが、甲高い笑い声を立てて、私を見た。
「そう言えば、レイコに求愛行動を取った時も、そんな言い方をしたっけ」

笑うしかなかった。
お互い照れ笑いだ。

しかし、おまえに口説かれるとはな。

「一度、男を口説いてみたかったんだよ」

それで、口説いた今の心境はどうだ。

「いいな。おまえはどうだ」

悪くない。
しかし、もっとイケメンに口説かれてみたかったが。

二人の笑いが、天井に反響して、私の心にその粒が入り込んできた。

目を閉じた。
その粒を大きく吸ってみた。

そして、目を閉じたまま、言った。
おまえ、美容院に行ったんだってな。

「ああ、身だしなみは大事だからな」

ちっとも、変化はないんだがな。

「行くことに意義があるんだよ」
「そしてな」と言って、ススキダが、ささやくように、しかし力を込めて言葉を吐き出した。

「おまえのこの一年も、絶対に意義はあったんだ。それは俺が認める」

俺が、おまえに認められたのか。

「ああ、俺が認めてやる」

この日はじめて、ビールが飲みたくなった。



2009/11/02 AM 06:47:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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