Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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そして、田端事件
少しばかり、愕然とした出来事。

昨年の12月に7年ぶりに、ある工務店から仕事をいただいた(それに関してはコチラ)。

7年前は、冴えない会社だったが、久しぶりに行ってみたら景気のいい会社になっていた。
北区田端にある、その会社からは、今までに昨年の12月、今年の2月、5月の3回仕事をいただいた。
B4のチラシの仕事だ。

その会社では、ほぼ毎月B3のチラシを出しているが、そちらの方は、他の企画会社が請け負っていた。
工務店のチラシにしては珍しく、淡い色調のチラシだった。

だから、私が作るチラシも、イメージを損なわないように淡いトーンでデザインした。
反響は、それなりにあったという。

「Mさん、効果ありましたよ。やっぱり色んな形で告知しないと、弱小企業は世間に認知されませんね」
喜んでいただいたようだ。

それなら、B3のチラシの方も、私にやらせてくれませんかね。
今度お呼びがかかったら、さりげなくそう提案してみようかと思った。

しかし、なかなかそのお呼びが、かかってこなかった。
7月にお中元を贈ったのだが、何の反応もなかった(下心見え見え)。
8月のお盆前に電話をしたときは、社長の奥さんに「いま、それどころじゃなくて」と、慌しく電話を切られた。

何があったのか、と思った。

久々にその会社の社長から電話がかかってきたのは、一昨日の朝だった。
「明日、来られますか?」と聞かれたので、「はい」と即答した。

そして、台風が去った昨日の午後3時、乱れに乱れたJRのダイヤにヘトヘトになりながらも、行ってきたのである。

会社内に一歩足を踏み込んだだけで、空気の違いを感じた。
新築のビルのワンフロアを借り切って、机とキャビネットを整然と配置しているのは、以前とまったく変わっていない。

しかし、見通しが良すぎるのだ。
5個ずつ2列に並んだ机の上には、まばらにパソコンが置いてあるだけ。
営業も事務もいない。

午前11時。
普通の会社なら、昼飯前の一番活気がある時間ではないのか。

私が、無人の事務所を見渡し、戸惑いながら声をかけると、社長は窓際の応接セットから立ち上がって、「こっちこっち」と手招きした。

応接セットに座って、社長の顔を真正面から見ると、その憔悴した様子に、愕然とした。
5ヶ月前と比べて、明らかに10キロ近く体重が減っているのではないだろうか。

社長は、以前「『80キロを超えないように』って、女房から釘を刺されてるんですよね」と、苦笑いしながら言っていた。
つまりは、80キロ近い体重があったということだろう。背は、165センチくらいか。
しかし、目の前の社長は、確実にしぼんで、顔にも精気が感じられなかった。

5ヶ月前、「世の中、まだまだ不況ですが、うちは上期、何とか前年並みの実績でいけそうですよ」と誇らしげに言っていた面影は、どこにもない。

壁にかけられているゴッホの自画像のレプリカも、淋しげで、表情が戸惑っているように見えるのは、気のせいか。

「Mさんは、温かい珈琲しか飲まないっていうんで、缶コーヒーを買ってきましたよ。自動販売機で、もうホットを売っているんだねえ。季節は、早いわ」
そう言う社長の目の周りには、隠しようのない疲れが浮いていた。

いくら鈍感な私でも、事態の深刻さは察したが、「しかし、なぜ」という疑問も浮かぶ。
5ヶ月前の、あの活気はどこへいったのか。

穏やかだが、自信に満ちた顔の息子の姿も見えない。
いかにも気配り上手という、好感の持てる社長の奥さんもいない。

それに・・・・・・・、
この状況で、私に仕事を出せるはずもないだろう。
だったら、なぜ私を呼んだのか。

私の訝しげな視線に気づいた社長は、一度大きくため息をついて、首を2、3度小さく振った。
そして、俯いたまま話し始めた。

4月に請け負った3棟の施工で、立て続けにミスをして、想定外の損害を出したらしい。
それまでの業績は、決して悪くはなかった。
だが、今回の損害は、その業績を吐き出すものだったらしい。
収支の穴を埋めるためには、銀行からの融資というのが、当然の選択。

ただ、それなりに健全経営をしていても、銀行は、最低限の融資しかしてくれないものだ。
そして、間が悪いことに、営業が請け負い代金を着服するという事件も起きた。
5年以上勤めていた営業だから、完全に信用していたというのだ。
おそらく倒産してしまっては、給料も退職金ももらえなくなるので、不正な手段に出たのだろう。

坂道を転がり落ちる時は、早い。
まだ、倒産というところまではいっていないが、「もう、時間の問題ですな」と、社長は肩を落とした。

そして、未練のこもった表情で、「5千万、融資してくれれば」と言って、身体をソファに沈み込ませながら、小さく唸った。

5千万。
気の遠くなるような額である。
想像もつかない。

ただ、素人考えであるが、健全な会社なら、条件を満たせば融資を受けられる範囲の額である、とも言える。
最終的には銀行からの融資になるとしても、プロセスの中で他の機関を使えば、道はあるのではないか、と。

しかし、社長は力なく首を振る。
「息子が毎日あっちこっち駆けずり回っているが、ダメだね。俺は、ここまで信用がないのかと、絶望的な気分だよ」

そこまで絶望的なら、私が言うことは何もない。
で、私に何のご用でしょうか?

「パソコンの中に、CADデータが入っているんだが、それぞれのパソコンに入ったデータをひとつにまとめたいんだ。できるよね?」

要するに、パソコンを独立して使っていて、それぞれの連携がなかったらしい。
一応LANは組んであるのだが、サーバがなかった。
つまり、データがバラバラに散った状態だった。
それをまとめて欲しいということだ。

「万が一倒産しても、データは財産として残しておきたい。息子がそう言うんでね」
ミネラルウォーターを喉に流し込みながら、社長は力なく笑った。

了解した。
外付けハードディスク1台あれば足りる問題だが、便利なネットワーク接続型HDを導入した方が、柔軟な対応ができるだろう。

その場で、私が、かなり割り引いた見積り(ほとんどボランティア)を書いて見せると、「やっぱり、前払いの方が安心だろ」と、社長は少し卑屈な目になって、私を見た。
それは、私の心を重くする、「大きな負」を感じさせる目だった。

しかし、私は負のエネルギーを振り払うように、こう言った。

当然です。
それが、商売というものですから。

それに対して、「2割引いてくれる? お願い!」と、少し下卑た自嘲気味の表情を作って、社長は片手で拝む仕草をした。

その姿を見て、今度は悲しくなった。
人間は、弱いな。
ベクトルがマイナスに向かったとき、人は本性を出すものなのか。

なんか・・・・・、ヤダな・・・・・。

意地悪く「ダメ!」と言ってみてもよかったが、私の顔は、善人の笑い顔を作っていた。
そして、善人顔のまま、頷いた。

そんな自分の善人顔に、落ち込んだ一日だった。


2009/10/09 AM 07:04:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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